みらい食堂

メリー

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1.不思議なお客さん

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私は平塚 康介。35歳で食堂を開いている。父がこのみらい食堂を作って、そのままなにも考えず生きていたらいつの間にかこの厨房に立つようになっていた。
父はガンで何ヶ月も入院している。体もそんなに激しく動かせないらしい。だからこの食堂は私と嫁の京子、バイトの子たちに手伝ってもらっている。

「そろそろ10時。閉店時間だ。」
バイトは9時までしか居れない独自のルールがある。京子も家事をするために9時に2階の家に戻る。

ガラガラガラ....。
客が入ってきたようだ。
「お客さん、申し訳ないですがもう閉店時間なのでお帰りください。」
「何言っているんだい。まだ9時だ。1時間ある」
何を言っているんだこの客は?
「あの時計も確かに10....あれ?9時になってる。スマホも9時だ」
「店長さん、お疲れですか?」
「いやー、本当にすみません。どうぞこちらの席へ」
ちょっとモヤモヤするが、客に文句も言えない。こっちのミスとしよう。
「店長さん。唐揚げ定食頂けますか。」
「私はラーメンで」
「分かりましたー!」
唐揚げ定食を作りながら客の会話を盗み聞きする。ちょっとした習慣だ。
「ついに明日は大晦日だなぁ。」
「そうですねー、1年って本当に早いですね。」
この2人は何を言っているんだ。今は12月20日のはずだ。
唐揚げが揚がるのを待っている間に、スマホをチラりと確認する。12月30日....大晦日の1日前だ。一体どうなっている。
また会話を聞いてみる。
「昨日の浜西のボクシングの関東大会すごかったな。わずか決勝でわずか15秒でKOだ。」
「ほんとに凄かったですよね。」
なるほど、今のは29日の話か。それにしても、元の時間に戻るのだろうか。唐揚げが揚がったのでお皿に持って、客に届ける。そのあとはめぼしい話は聞けなかった。
「ご馳走様でした」
「ありがとうございました~」
また時計に目を戻す。
「10時5分。あのお客が来た時間だ。」
またスマホを見てみる。
「なぜだ、20日に戻っている。」
スマホでボクシングの浜西を調べる。
「若くして関東大会出場決定。期待の若手、浜西圭吾。か。」
あの15秒でKOの話は見当たらない。あの客がてきとうに言ったことか、それとも、未来から来た客なのか...
こうして、未来と現実を繋ぐ不思議な食堂の話が始まった。
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