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秋は変化……

少数精鋭とダムカレー

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 目の前に止まった車のドアが開き、勢いよく飛び出してきたのは柚月だった。

 「いたぁ! 裏切り者めぇ~!」

 と言うと、私に飛び掛かってきたので、ツッコミの要領で払い除けて言った。
 おはよ、柚月いい天気だね。

 「今は午後だよ~!」

 まぁ、そんな細かい事、こだわらなくても、よろしくなくて?
 それじゃぁ、私ら上級国民は、お買い物があるので、ご機嫌よう。

 「待てぇ~い! 行かすかぁ~!」

 柚月は、アパートの入口の、車で塞がれてないスペースに立ちはだかって、行く手を遮った。
 邪魔だよ柚月、アパートの他の住民の迷惑だろ。

 「ズッキー先輩、なんか、お怒りモードですね」

 七海ちゃん、アレだよ。柚月は上級国民の仲間に入れなかったから、僻んでひがんでるんだよ。よくある逆恨みってやつだよね。

 「マイ~、デタラメ言うな~! よくも私を騙したな~!」

 あら柚月、大変、どうしたの? 誰かに騙されたの? お金取られたの? 
 私が言うと、柚月はぷるぷると震えながら

 「マイが騙したんだろ~! 今日、解体屋さん、やってないじゃないか~!」

 と、私の肩を掴んでガクガク揺らしながら叫んだ。
 私は、柚月を引き剥がすと、ちょっと鋭い目つきになって言った。
 知らないよ。私が帰った後で、おじさんが閉めちゃったんでしょ。あそこ、定休日なんて、あってないようなものだし、引き取りとかになって、おじさんがいないと、閉めちゃったりするじゃん!

 「ウソばっかり~、どうせ、GTS-4だって、無いに決まってるもん~!」

 あそ、そんなに言うんだったら、あとで解体屋さんに行って、もし、GTS-4があったら、柚月はそれなりの覚悟があるって事だよね。私の事をそこまで嘘つき呼ばわりした以上はさ。

 「ううっ……」

 噓つきは、閻魔大王に舌を抜かれるんだから、私の事を嘘つきだなんて、嘘をついた柚月には、その場で舌抜いて貰おうかな?

 「イヤだい!」

 舌が嫌だってんなら、小指で責任取る? 私は、どっちでもいいよ。
 私は、優子の方をチラッと見ると、優子はニヤリとしながら

 「私も、解体屋さんでGTS-4の2ドアが入ってるの、見たんだよね。昨日だけど」

 と言い放った。
 すると、柚月の顔が見る見る青ざめていき、後ろを向いて逃げようとした柚月を私と七海ちゃんで、ガッチリと捕まえた。

 「はなせ~!」
 「ズッキー先輩、いざとなったら逃げるなんて、格闘家の恥っすよ!」

 ジタバタ暴れる柚月に、顔をピッタリとつけて訊いた。
 さぁ、柚月、指詰めと舌抜き、どっちが良いの? 選ばせてあげるよ~。

 「イヤだイヤだイヤだ~~!」

 すると、優子が刺すような静かな声で

 「ここで暴れてると近所迷惑だよ、だから、後でゆっくり、やっちゃおうよ」

 聞いてる私ですら、ぞおっとするようなトーンで言われて、柚月はすっかり消沈してしまった。

 さて、コイツが来ちゃったら、車1台じゃダメだね、どうしようか?

 「柚月は、燈梨ちゃんの部屋で待たせたら?」

 優子、そんなことしたら、柚月の事だから、燈梨の下着盗んだり、部屋のHDDレコーダーの中に、えっちなDVDとか入れておくかもしれないよ。

 「そんな事しないやい!」

 いーや、コイツならやりかねないね。
 柚月は中学2年の時、優子の家のリビングにあるレコーダーにえっちなDVDを入れたおかげで、優子の家のおじさんとおばさんが、ケンカになったことがあるんだから。

 「そんな事、してたんですね~」

 七海ちゃん達が、感心して聞いちゃってるよ。
 すっかり、柚月の本性が露わあらわになって、七海ちゃんの柚月を見る目が変わってきたね。

 え? すぐそこにあるから、もう1台は柚月の車で良くね? だって?

◇◆◇◆◇

 スーパー3軒をはしごして、色々買い込んじゃったよ。
 土曜日が楽しみだね。
 え? 柚月どうしたの? なんで燈梨が、こんなに食材を買い込んでるのかって? 柚月には教えられないな~、なにせ、神聖な行事だからさ、柚月みたいに汚れ切った人間は、知らなくていい事だよ。

 あ、燈梨、言っちゃったよ。
 燈梨ぃ、良かったのに、コイツになんて話さなくて。コイツに知られると、何されるか分からないからね。
 朝起きたら、車のタイヤがパンクさせられてたり、玄関の外が、汚物まみれになってたりするかもだよ。

 「そんなこと、しないやい!」

 まぁ、なんにしても良かったね、柚月。本来なら、知らない世界の事が知れたんだからさ。

 「私も行く~!」

 来なくていいよ。
 柚月が来ると、3人分厄介だからさ、その日はホラ、解体屋さんでGTS-4をバラさないとさ、脂ぎった人に、フンスーって言われながら、根こそぎ持ってかれちゃうよ。

 「行くんだ~!」

 だから、来なくていいよ!
 柚月、その日って、マゾヒスト部の県大会じゃなかったっけ?
 今回が、最後の大会なんだから、3年間の集大成を、こんな行事のために棒に振る必要なんて無いよ。

 「そんな大会、無いもん~!」

 ふーん、でも、マゾヒスト部員であることは認めるんだね、柚月。

 「認めない~!」

 まぁ、そういう事だから、柚月も土曜日は、プラモデル作るなり、ミニ四駆で遊ぶなり、充実した1日を過ごしてね~。
 私らは、秋の爽やかな空気を満喫してくるからさ。

 「私も行くんだもん~!」

 だから、来るなって言ってるでしょ!
 それに、少数精鋭で、車も2台で行くんだから、もう柚月が乗るスペースなんて無いよ。

 「5人しかいないんだから~、2台あれば余裕だろ~!」

 そんな事ないよ、1人で2人分のスペースとして見てるんだよ。私ら、上級国民だからさ。
 それに、柚月は、出先で騒ぎを起こすからダメだよ。
 地元の不良と揉めたり、宿の部屋の中からロケット花火を発射したり、借りたトイレ詰まらせたり、優子のバイクのメットインスペースに、ヘビ入れたりしただろーが!
 
 「ええっ!」

 燈梨と七海ちゃんが、驚きの声を上げたので言った。
 そうなんだよ、コイツは前科にしたら軽く10を超えるとんでもない所業の持ち主でね、他にも電車止めちゃったりとか、ダムカレーでパイ投げして、出禁になったりとか、とんでもない奴なんだから。

 「そうなんだ……」

 燈梨が口を押さえて言った。
 そうなんだよ、だから、連れて行ったらとんでもないことになるから、ここで英断なんだって。

 「もうしません~!」

 信用できませ~ん!
 柚月、その台詞、何回言ったんだよ! その言葉を信用したら、ダムの食堂でバイカーと揉めて、カレーでパイ投げして、ダムの職員の人からメチャクチャ怒られたじゃないか!

 「参りました~!」

 ダメ~!
 いいか、今回は秋の爽やかな空気と、景色を燈梨に楽しんでもらうのが、目的なの。柚月の出入り禁止場所を増やすためのツアーじゃないんだよ!
 ホラ見ろ! 優子だって言ってるだろ、柚月なんか一緒に連れてっちゃダメって。

 「お願いします~!」

 ダメったら、ダメなの!
 柚月の過去の行いからこうなってるんだから、柚月は街に残って反省文でも書いてなさい。
 無理矢理ついてきたりしないように、おじさんとおばさんに電話しとくからね。

 「ううう~~~~~~!!」

 泣いたって無駄だからね。
 やーい、泣き虫柚月~。そこで一生泣いてろ!
 燈梨たちは、焦ってるけど、私と優子は慣れてるから、柚月を放っておいて、車の方へと向かって歩いた。
 すると

 「可哀想だから、連れて行ってあげようよ」

 と、あやかんと燈梨が同時に言ってきた。
 良い? コイツを甘やかすと、あとで本当に後悔することになるよ。
 私と優子が同時に反論した。

 ……あぁ、頭が痛くなってきちゃった。

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