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秋は変化……
粛清と死のドライブ
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えーーい、柚月、うるさい!!
邪魔するなら、窓から叩き落すか、手巻き寿司にして、後ろの席に転がすからね!
「マイがぶつかりそうだからだろ~!」
やかましいわ! ここでの運転の仕方も知らない柚月風情が、偉そうなこと言うない!
ここでは、正確無比なハンドルさばきと、アクセルのオンオフによる速度と、後輪のスライドの調整、更には、早めのハンドル操作が、何より重要なんだよ。
ここで、今までみたいに、カーブの中ごろに来てからハンドル切ってたら、外側の土手に脇腹からぶつかっちゃうだろ!
ここでの正しい車の走らせ方は、アクセルを緩めながらの減速をしつつ、ハンドルを小刻みに切り足していきながら、しっかりグリップをしてカーブの外周を走る方法と、今の私みたいに、早め早めの操作で、曲がる方向を定めて、車をちょっとスライドさせながらカーブをクリアしていく方法だよ。
そして、なんで水野がこの車を持ってきたのかも理解できたよ。
ここのコース状況的に、この車のパワーが一番バランスが取れてるからだ。
「どういう意味~?」
路面の状況的に、パワーが伝わり辛く、ハイパワー車でもパワーを発揮できないけど、このGTEなら、パワーやトルクの出方も穏やかで扱いやすく、走らせやすいんだよ。
しかも、LSDがついていない事も、初心者にとっては安心材料になるかな?
「なんで~? LSDは入ってた方が良いに決まってるじゃん~」
一概にそうとも言い切れないよ。
このコースで、更に初心者が走ることを考えたら、挙動はダルな方が良いんだよ。アクセルのオンオフの加減や、ちょっとしたハンドル操作で、あっという間にスピン状態に陥るここでは、クイックに切れ込んで、バッチリとグリップしてくれるような車じゃなくて、ある程度のパワーとトルクでお尻を振り出しつつ、ダラダラとお尻を流せるような車の方が、挙動が掴みやすくて、運転しやすいんだよ。
その走らせ方をするのに、LSDが入ってると、お尻の流れを抑制して、前へと押し出しちゃおうとするでしょ。
ゆくゆくは、その挙動に慣れていって貰うんだけどさ、最初はみんなにその低μ路? とかいうやつにおける車の動きを学んで貰って、更には慣れて貰うのが目的だからさ、徐々にハードルを上げていくので良いと思う。
そして、LSDが入ってると、初心者だと事故多発で、下手すると、車がお亡くなりになっちゃうよ。
「ええ~~!?」
ええーい、うるさいな柚月、オーバーアクションに反応するなっ!
LSDが入ってると、早めにハンドルを切り込んでいった時、アクセルの開度によっては、結構強烈にLSDが効くことによって、カーブの遥か手前でグリップが回復して内側の土手に衝突しちゃうよ。
もしくは、LSDの働きによって巻き込み現象が起こって、立て直せなかったらスピンするか、下手したら横転しちゃうよね。
それに、タイプMのパワーは不要だし、あの車の特性である、ターボの急激なパワー感の炸裂が、ここでは不安定な挙動となって現れて、初心者を軒並み成敗しちゃうから、危険なんだよ。
だから、このくらいのパワー感が、凄く扱いやすいんだよ。無理がなくて、癖もないし。
「だったら~、1、2年生の練習車でも良くない~?」
あれはダメだよ。
パワーに対して、シャーシの性能が勝ちすぎていて、敢えてお尻のスライドや、不安定な挙動をある程度起こしての練習をさせているのに、それが出来ないんだよ。
良い? この練習場では、安全な速度で、不安定な挙動を起こすことによって、その不安定な挙動をいかに立て直して前に進む力にしていくかと、どんな動きが予想されるのかの危険予測をするのが主目的なんだよ。
これって、本当は駆動方式によって違いがあるから、本当は色々な駆動方式で試したいところだけど、ノートとエッセは、競技車両で、こんな危険と隣り合わせの練習であの世送りにしたくないし、後輪駆動の挙動を覚えておけば、FFに関しては、応用がきくしね。
そう、確か、昔兄貴がそんなことを言ってたよ。『FRこそが、テクニック上達のための基本道場だ』って。
「なんだぁ~、受け売りかぁ~」
なんだ、柚月その言い草は。
よぉ~し、その減らず口を叩けないように、後半は、物凄い事をしてやるからな。この歳になって、漏らしたりしないよぉにねぇ~。
私は、ギアをバックに入れると、直線路のギリギリ壁際までバックした。
このコース上で、一番長い直線だけど、その長さもたかが知れているし、GTEのパワーでは、それをやるのにちょっと心許ない気もした。
今度はギアを1速に入れた状態で、クラッチを切って回転数を上げた状態を維持して、3500rpmになったところで、一気にミートさせた。
後輪が一瞬地面を掘って、後ろが下がったが、次の瞬間、地面を蹴って勢いよくスタートした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーー!! なにするんだよぉーー!!」
え? 死のドライブだよ。
このまま柚月がOBとして、この部に暴力を背景にして睨みをきかせないように、今のうちに粛清しちゃうんだよ。
「そんな事が、許されるもんかー!」
何言ってるの? だから水野と、ななみんと燈梨がいるんじゃん。
筋書きはこうだよ。練習場の下見に無理矢理私を連れて乱入した柚月は、みんなが止める中で、割り込んだ最初の練習中に起こった事故で死亡って訳よ。
「くぅぅぅぅ~~!」
直線路の3分の1でちょっと不足だけど、ある程度のスピードが乗ったところで、私はコースの左端に車を寄せた。
「なにするんだよぉーー!」
え? 左側だけ土手にぶつけて、柚月はあえなくお陀仏……っていう感じでも良いかなって?
「やめろーー!」
次の瞬間、私は右に大きめに舵角を与えると、同時にちょっと強めにブレーキをかけ、前に車の荷重が移動したのを体で確認してから、今度はアクセルを半分近くまで開けた。
すると、直線コースを横切るようにGTEはスライドしながら今度はコースの右端に向かって行ったので、すかさず私はさっきと逆の行動で、逆向きに車をスライドさせた。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!」
柚月は、次から次に逆転するスライド走行に、完全にパニックになって必死に掴まる場所を探していた。
フフフ、R32の助手席って、何故か天井のハンドグリップが無いんだよね。だから、こういうハードな走りをする時に、掴まる場所がドアの手摺しかないから、兄貴とかが結構不便がってたねぇ。
左手でハンドグリップ握って、右手でドアの手摺握って体を支える体勢。兄貴はこれを『盆踊りの構え』って呼んでたけど、この盆踊りの構えが出来ないから、兄貴は凄く不便だって言ってたね。
右、左、右、左……と、振り子のように、直線路で左右に車を振って、直線路の終盤で、右に向いたところで、私はアクセルを緩めてスライドを止め、ハンドルを両手で掴むと、その手応えが回復したのを確認の上で、右カーブの内側に向けて照準を合わせると、アクセルを開けて、カーブの内壁を掠めるように飛び出して行った。
ここの走らせ方、分かったよ。
この練習場って、マジ楽しいよ……私の気分は何故か高揚していた。
なんか、バスケの時の試合でシュート決めた後とか、バンドの時の、ライブでの演奏が上手くいった時の、サビの部分とかで感じるような、そんなスッキリした感じなんだよね。
次から次に現れるカーブを、ガンガンとスライドさせながらクリアしていって、広いコースを遂に走り切ってスタート地点へと戻った。
ななみんと燈梨が、運転席から降りた私を迎えてくれた。
「凄かったよ~、舞華」
「マイ先輩、向こうの直線での走りが、神ががってましたよ!」
そう? 私ったらさ、ちょっとこのコースの走らせ方に、自信が出てきちゃったってのかな? なんか、そんな感じでさ、コツを掴んじゃったんだよね。
極めたって言っても良いのかな? みんな、もっと褒めても良いよ。
「よっ! 日本一!!」
燈梨ぃ、褒め方が結構雑だぞぉ……。
あれ? ななみん、どうしたの?
「ズッキー先輩が降りてきませんよ」
え? そう言えば、結構ヒーヒー言って怖がってたな。柚月って、ああ見えて結構ビビりなんだよ。昔、遊園地のコースターに乗ったら、漏らしちゃったしね。
オイ、柚月降りて来いよぉ、ななみん達と交代するのに、邪魔だろぉ!
私らはドアを開けると、そこには、泡を吹いて、この世とおさらばした表情の柚月が横たわっていたんだよ。
邪魔するなら、窓から叩き落すか、手巻き寿司にして、後ろの席に転がすからね!
「マイがぶつかりそうだからだろ~!」
やかましいわ! ここでの運転の仕方も知らない柚月風情が、偉そうなこと言うない!
ここでは、正確無比なハンドルさばきと、アクセルのオンオフによる速度と、後輪のスライドの調整、更には、早めのハンドル操作が、何より重要なんだよ。
ここで、今までみたいに、カーブの中ごろに来てからハンドル切ってたら、外側の土手に脇腹からぶつかっちゃうだろ!
ここでの正しい車の走らせ方は、アクセルを緩めながらの減速をしつつ、ハンドルを小刻みに切り足していきながら、しっかりグリップをしてカーブの外周を走る方法と、今の私みたいに、早め早めの操作で、曲がる方向を定めて、車をちょっとスライドさせながらカーブをクリアしていく方法だよ。
そして、なんで水野がこの車を持ってきたのかも理解できたよ。
ここのコース状況的に、この車のパワーが一番バランスが取れてるからだ。
「どういう意味~?」
路面の状況的に、パワーが伝わり辛く、ハイパワー車でもパワーを発揮できないけど、このGTEなら、パワーやトルクの出方も穏やかで扱いやすく、走らせやすいんだよ。
しかも、LSDがついていない事も、初心者にとっては安心材料になるかな?
「なんで~? LSDは入ってた方が良いに決まってるじゃん~」
一概にそうとも言い切れないよ。
このコースで、更に初心者が走ることを考えたら、挙動はダルな方が良いんだよ。アクセルのオンオフの加減や、ちょっとしたハンドル操作で、あっという間にスピン状態に陥るここでは、クイックに切れ込んで、バッチリとグリップしてくれるような車じゃなくて、ある程度のパワーとトルクでお尻を振り出しつつ、ダラダラとお尻を流せるような車の方が、挙動が掴みやすくて、運転しやすいんだよ。
その走らせ方をするのに、LSDが入ってると、お尻の流れを抑制して、前へと押し出しちゃおうとするでしょ。
ゆくゆくは、その挙動に慣れていって貰うんだけどさ、最初はみんなにその低μ路? とかいうやつにおける車の動きを学んで貰って、更には慣れて貰うのが目的だからさ、徐々にハードルを上げていくので良いと思う。
そして、LSDが入ってると、初心者だと事故多発で、下手すると、車がお亡くなりになっちゃうよ。
「ええ~~!?」
ええーい、うるさいな柚月、オーバーアクションに反応するなっ!
LSDが入ってると、早めにハンドルを切り込んでいった時、アクセルの開度によっては、結構強烈にLSDが効くことによって、カーブの遥か手前でグリップが回復して内側の土手に衝突しちゃうよ。
もしくは、LSDの働きによって巻き込み現象が起こって、立て直せなかったらスピンするか、下手したら横転しちゃうよね。
それに、タイプMのパワーは不要だし、あの車の特性である、ターボの急激なパワー感の炸裂が、ここでは不安定な挙動となって現れて、初心者を軒並み成敗しちゃうから、危険なんだよ。
だから、このくらいのパワー感が、凄く扱いやすいんだよ。無理がなくて、癖もないし。
「だったら~、1、2年生の練習車でも良くない~?」
あれはダメだよ。
パワーに対して、シャーシの性能が勝ちすぎていて、敢えてお尻のスライドや、不安定な挙動をある程度起こしての練習をさせているのに、それが出来ないんだよ。
良い? この練習場では、安全な速度で、不安定な挙動を起こすことによって、その不安定な挙動をいかに立て直して前に進む力にしていくかと、どんな動きが予想されるのかの危険予測をするのが主目的なんだよ。
これって、本当は駆動方式によって違いがあるから、本当は色々な駆動方式で試したいところだけど、ノートとエッセは、競技車両で、こんな危険と隣り合わせの練習であの世送りにしたくないし、後輪駆動の挙動を覚えておけば、FFに関しては、応用がきくしね。
そう、確か、昔兄貴がそんなことを言ってたよ。『FRこそが、テクニック上達のための基本道場だ』って。
「なんだぁ~、受け売りかぁ~」
なんだ、柚月その言い草は。
よぉ~し、その減らず口を叩けないように、後半は、物凄い事をしてやるからな。この歳になって、漏らしたりしないよぉにねぇ~。
私は、ギアをバックに入れると、直線路のギリギリ壁際までバックした。
このコース上で、一番長い直線だけど、その長さもたかが知れているし、GTEのパワーでは、それをやるのにちょっと心許ない気もした。
今度はギアを1速に入れた状態で、クラッチを切って回転数を上げた状態を維持して、3500rpmになったところで、一気にミートさせた。
後輪が一瞬地面を掘って、後ろが下がったが、次の瞬間、地面を蹴って勢いよくスタートした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーー!! なにするんだよぉーー!!」
え? 死のドライブだよ。
このまま柚月がOBとして、この部に暴力を背景にして睨みをきかせないように、今のうちに粛清しちゃうんだよ。
「そんな事が、許されるもんかー!」
何言ってるの? だから水野と、ななみんと燈梨がいるんじゃん。
筋書きはこうだよ。練習場の下見に無理矢理私を連れて乱入した柚月は、みんなが止める中で、割り込んだ最初の練習中に起こった事故で死亡って訳よ。
「くぅぅぅぅ~~!」
直線路の3分の1でちょっと不足だけど、ある程度のスピードが乗ったところで、私はコースの左端に車を寄せた。
「なにするんだよぉーー!」
え? 左側だけ土手にぶつけて、柚月はあえなくお陀仏……っていう感じでも良いかなって?
「やめろーー!」
次の瞬間、私は右に大きめに舵角を与えると、同時にちょっと強めにブレーキをかけ、前に車の荷重が移動したのを体で確認してから、今度はアクセルを半分近くまで開けた。
すると、直線コースを横切るようにGTEはスライドしながら今度はコースの右端に向かって行ったので、すかさず私はさっきと逆の行動で、逆向きに車をスライドさせた。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!」
柚月は、次から次に逆転するスライド走行に、完全にパニックになって必死に掴まる場所を探していた。
フフフ、R32の助手席って、何故か天井のハンドグリップが無いんだよね。だから、こういうハードな走りをする時に、掴まる場所がドアの手摺しかないから、兄貴とかが結構不便がってたねぇ。
左手でハンドグリップ握って、右手でドアの手摺握って体を支える体勢。兄貴はこれを『盆踊りの構え』って呼んでたけど、この盆踊りの構えが出来ないから、兄貴は凄く不便だって言ってたね。
右、左、右、左……と、振り子のように、直線路で左右に車を振って、直線路の終盤で、右に向いたところで、私はアクセルを緩めてスライドを止め、ハンドルを両手で掴むと、その手応えが回復したのを確認の上で、右カーブの内側に向けて照準を合わせると、アクセルを開けて、カーブの内壁を掠めるように飛び出して行った。
ここの走らせ方、分かったよ。
この練習場って、マジ楽しいよ……私の気分は何故か高揚していた。
なんか、バスケの時の試合でシュート決めた後とか、バンドの時の、ライブでの演奏が上手くいった時の、サビの部分とかで感じるような、そんなスッキリした感じなんだよね。
次から次に現れるカーブを、ガンガンとスライドさせながらクリアしていって、広いコースを遂に走り切ってスタート地点へと戻った。
ななみんと燈梨が、運転席から降りた私を迎えてくれた。
「凄かったよ~、舞華」
「マイ先輩、向こうの直線での走りが、神ががってましたよ!」
そう? 私ったらさ、ちょっとこのコースの走らせ方に、自信が出てきちゃったってのかな? なんか、そんな感じでさ、コツを掴んじゃったんだよね。
極めたって言っても良いのかな? みんな、もっと褒めても良いよ。
「よっ! 日本一!!」
燈梨ぃ、褒め方が結構雑だぞぉ……。
あれ? ななみん、どうしたの?
「ズッキー先輩が降りてきませんよ」
え? そう言えば、結構ヒーヒー言って怖がってたな。柚月って、ああ見えて結構ビビりなんだよ。昔、遊園地のコースターに乗ったら、漏らしちゃったしね。
オイ、柚月降りて来いよぉ、ななみん達と交代するのに、邪魔だろぉ!
私らはドアを開けると、そこには、泡を吹いて、この世とおさらばした表情の柚月が横たわっていたんだよ。
応援ありがとうございます!
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