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冬は総括
戻る日常と落とし穴
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この間の結衣のLSDの試乗会は面白かったねぇ。
バキバキいわないから……って言っても、結構しっかり効くからさ、凄く振り回しやすかったんだよね。
元々は坂道対策で始めたシム増しだったけど、ここまで面白い仕上がりになるんだったら、冬だけじゃなくて、夏の道でも試してみたいよね。
兄貴の言う通り、ドリフト大会で優勝も狙えちゃうレベルらしいからね。しかも、私ら機械組と違ってバキバキ言わないからさ、ある意味新世代のLSDなのかもしれないね。
「ちなみに、お爺ちゃんのクルーには、純正の機械式LSDが入ってるんだよ」
そうなの優子? 純正で機械式なんてあるんだ。
大昔はビスカス式なんて無かったから、LSDって言うと、純正でも機械式だったんだって。
だから、部のサファリの後輪にも機械式が入ってるって? そういうものなんだね。
「ええっ!? あのサファリ、機械式LSD入ってたのか?」
だから、結衣のおマヌケが、2WD状態にして走ってきても、スリップしないでここまで山を上って来れたんだと思うよ。
「おマヌケって言うな」
「や~い、ユイのおマヌケ~、サファリを2WDで走らせて来て、安定感がないってドヤ顔して言ったおマヌケ~」
いつの間にか、背後にいた柚月が結衣を茶化すと
「柚月めー! 調子に乗るなよ!」
結衣が言うと同時に、柚月が廊下へと逃げ出し、結衣が追って行った。
ホントにあの2人は飽きもせずにやってるねぇ……まったく、まるでトムとジェリー見てるみたいだわ。
「言えてる」
悠梨もそう思うでしょ。
でもって優子、クルーってR32より後に発売されてるよね。
なんで機械式なんか入れたんだろ? 整備が面倒じゃね?
「クルーって、FRしかない上に、基本的にタクシーやパトカーの需要に向けてて、雪国での冬道走行や悪路走行用って意味合いで装着されてたから、効き重視の機械式だったんだと思うよ」
なるほどね。
ちなみに、この辺に配備されてたクルーのパトカーには、機械式LSDが装着されてたんだって?
「昔撮った写真の中に、クルーのパトカーと私が写ってるのがあるんだけど、リアの窓に『LSD』ってステッカーが貼ってあったんだよ」
そうなんだね。
まぁ、この辺に配備されるんだったら、LSDくらい付いてた方が良いとは思うけどね。
それじゃぁ、優子の家にあるクルーも、バキバキなの?
「いや、そんな事無いよ。雪道とかでたまに“ゴッゴッゴッ”っていうくらいだよ」
優子曰く、純正の機械式は、効き過ぎでバキバキいって、クレームになったり、オーバーホールの頻度を減らしたりするために、スポーツ走行用の社外品みたいにバッキバキに効いたりしないように、シムの数が少なくしてあるんだってさ。
っていう事は、優子の家のクルーも、今回みたいにシム増ししてやれば、バッキバキになるって訳だね。
「そうだけど、今、あの車はお婆ちゃんが乗ってるから、そんな事するわけにいかないよ」
そうなの? なに? お爺ちゃんは施設から戻って来たんだけど、足を悪くしてて、もう車には乗れないから、お婆ちゃんが乗ってるんだって?
そうか、だから最近優子のお婆ちゃんのミニキャブを見かけないんだね。
優子のお爺ちゃんっていえば、ウチの爺ちゃんが言ってたんだけど、若い頃からいい車を乗り回してたって、この辺じゃ評判になってたそうだよ。
「そんなこと、無いよ」
いーや、そんな事あるみたいだよ。
ウチの爺ちゃんが、サニー1000の中古車を買った頃、新車でローレルSGXを買って乗り回してたし、爺ちゃんがローンでカローラレビンを買った頃、アルファロメオ・ジュリエッタとかいうやつを乗り回してたそうだからね。
「さっすが、地元の金持ちは違うね~。ひゅーひゅー」
悠梨が茶化すと、優子は顔を真っ赤にしながら
「お爺ちゃんの話は、いいでしょ!」
と必死になって言っていた。
まぁ、住む世界の違いってやつなんだけどさ、爺ちゃんが言ってたよ、この辺でアルファなんて乗ってたのは、後にも先にも優子のお爺ちゃんだけだって。
「結局、故障するたびに、この辺じゃ診てくれるところが無くて、県庁の街まで持っていく事になって凄く大変だったから、もう外車は懲り懲りだって言ってた」
なるほどね、優子のお爺ちゃんには、そういう苦労もあったんだね。
そんな話をしているところに、結衣が柚月を捕まえて戻って来た。
「痛いよ~! ユイに殴られたんだよぉ~!」
「当たり前だ! くだらない事ばかり言って、お仕置きはまだまだこれからだからな!」
結衣が、ヘッドロックで押さえた柚月の頭に鉄拳を次々叩きこんでいる姿を眺めながら、平和な日常を感じていた。
あっという間に放課後だねぇ……。
私らもう受験終わっちゃったから、この時期からも慌ただしい事もなく過ごせるのがメリットだよねぇ……でもって1、2年の前半は、結構死に物狂いで勉強してたってのもあっての今だからさ、妬まれる筋合いは無いんだよぉ。
今日は部活に行く日でもないし、バイトもないし、帰りにどこか寄ってから帰ろうよ。
「甘味屋さんのメニューがリニューアルしたらしいよ」
「マックが良い~」
優子の案の方が良いかな?
マックはポテトが小さいのしか頼めないらしいじゃん。それに、限定メニューも食べちゃったし。そうすると新鮮味が無いんだよね。
あとの2人は特に何かない?
「別に~」
「私も特にないな」
よしっ、そうしたら甘味屋さんに決まりね。
あそこはちょっと学校から遠いけど、車のウォーミングアップの距離としてはちょうどいいくらいじゃね?
各自が自分の車に乗って出発しようとした時、柚月が出てきて手を振ってるよ。
どうしたの柚月、手を振って見送りなんてしなくても大丈夫だよ。どうせまたすぐ会うじゃん。
「違うよ~!」
じゃぁ何?
募る話は向こうですればいいじゃん。寒いから早く行こうよ。
「エンジンがかからないんだよ~」
えっ!? エンジンがかからないの?
弱ったねぇ、仕方ないなぁ、まずは様子を見てみようよ。
みんなにも声をかけて、柚月の車を囲んで、トラブルシューティングしてみる事にした。
なんかさ、いつも思うんだけど、私らって、こういう事態に対する耐性が付いてきたよねぇ……前だったらさ、こんな事になったらオロオロしながら、ロードサービスに電話してたと思うんだよね。
それが、まずはトラブルシューティングして、対処しようとするんだからさ、以前とは全然違うって感じだよね。
「そう言ってくれるなよ」
悠梨が、自分でもそう思っていたようで、下を向きながら言った。
「でも、良い傾向だと思わない? 自分で出来るスキルが増えたって事だよ」
優子の前向きな発想は、さすがおばあちゃんの知恵袋を自称するだけあるな……え? 自称なんてしてない? 私らが勝手に吹聴してるんだって?
とにかく、柚月の車がどうなってるのか、早速様子を見てみようじゃない。
寒いしさ、早く甘味屋さんに行きたいからさ、ちゃっちゃと終わらせちゃおうよ。
「マイさ、自分で気づいてないんだろうけど、もう直せると思ってる段階で、マイも結構毒されてるんだぞ。普通のJKはただ驚いてオタつくだけだからな」
結衣に言われて、嫌な現実を見たような気分になったが、とにかく寒いし、甘味屋さんに行きたいという意識に集中した。
柚月、早速キー捻ってみてよ。
“カチ、カチッ”
もう一回
“カチッ”
なぁんだ、ただのバッテリー上がりじゃん!
ケラケラ笑いながら安堵の表情でそう言う私の姿を見る一般生徒の視線が、ちょっと痛いものを見るようなものだった事に、私は気付いていないふりをする事にした。
バキバキいわないから……って言っても、結構しっかり効くからさ、凄く振り回しやすかったんだよね。
元々は坂道対策で始めたシム増しだったけど、ここまで面白い仕上がりになるんだったら、冬だけじゃなくて、夏の道でも試してみたいよね。
兄貴の言う通り、ドリフト大会で優勝も狙えちゃうレベルらしいからね。しかも、私ら機械組と違ってバキバキ言わないからさ、ある意味新世代のLSDなのかもしれないね。
「ちなみに、お爺ちゃんのクルーには、純正の機械式LSDが入ってるんだよ」
そうなの優子? 純正で機械式なんてあるんだ。
大昔はビスカス式なんて無かったから、LSDって言うと、純正でも機械式だったんだって。
だから、部のサファリの後輪にも機械式が入ってるって? そういうものなんだね。
「ええっ!? あのサファリ、機械式LSD入ってたのか?」
だから、結衣のおマヌケが、2WD状態にして走ってきても、スリップしないでここまで山を上って来れたんだと思うよ。
「おマヌケって言うな」
「や~い、ユイのおマヌケ~、サファリを2WDで走らせて来て、安定感がないってドヤ顔して言ったおマヌケ~」
いつの間にか、背後にいた柚月が結衣を茶化すと
「柚月めー! 調子に乗るなよ!」
結衣が言うと同時に、柚月が廊下へと逃げ出し、結衣が追って行った。
ホントにあの2人は飽きもせずにやってるねぇ……まったく、まるでトムとジェリー見てるみたいだわ。
「言えてる」
悠梨もそう思うでしょ。
でもって優子、クルーってR32より後に発売されてるよね。
なんで機械式なんか入れたんだろ? 整備が面倒じゃね?
「クルーって、FRしかない上に、基本的にタクシーやパトカーの需要に向けてて、雪国での冬道走行や悪路走行用って意味合いで装着されてたから、効き重視の機械式だったんだと思うよ」
なるほどね。
ちなみに、この辺に配備されてたクルーのパトカーには、機械式LSDが装着されてたんだって?
「昔撮った写真の中に、クルーのパトカーと私が写ってるのがあるんだけど、リアの窓に『LSD』ってステッカーが貼ってあったんだよ」
そうなんだね。
まぁ、この辺に配備されるんだったら、LSDくらい付いてた方が良いとは思うけどね。
それじゃぁ、優子の家にあるクルーも、バキバキなの?
「いや、そんな事無いよ。雪道とかでたまに“ゴッゴッゴッ”っていうくらいだよ」
優子曰く、純正の機械式は、効き過ぎでバキバキいって、クレームになったり、オーバーホールの頻度を減らしたりするために、スポーツ走行用の社外品みたいにバッキバキに効いたりしないように、シムの数が少なくしてあるんだってさ。
っていう事は、優子の家のクルーも、今回みたいにシム増ししてやれば、バッキバキになるって訳だね。
「そうだけど、今、あの車はお婆ちゃんが乗ってるから、そんな事するわけにいかないよ」
そうなの? なに? お爺ちゃんは施設から戻って来たんだけど、足を悪くしてて、もう車には乗れないから、お婆ちゃんが乗ってるんだって?
そうか、だから最近優子のお婆ちゃんのミニキャブを見かけないんだね。
優子のお爺ちゃんっていえば、ウチの爺ちゃんが言ってたんだけど、若い頃からいい車を乗り回してたって、この辺じゃ評判になってたそうだよ。
「そんなこと、無いよ」
いーや、そんな事あるみたいだよ。
ウチの爺ちゃんが、サニー1000の中古車を買った頃、新車でローレルSGXを買って乗り回してたし、爺ちゃんがローンでカローラレビンを買った頃、アルファロメオ・ジュリエッタとかいうやつを乗り回してたそうだからね。
「さっすが、地元の金持ちは違うね~。ひゅーひゅー」
悠梨が茶化すと、優子は顔を真っ赤にしながら
「お爺ちゃんの話は、いいでしょ!」
と必死になって言っていた。
まぁ、住む世界の違いってやつなんだけどさ、爺ちゃんが言ってたよ、この辺でアルファなんて乗ってたのは、後にも先にも優子のお爺ちゃんだけだって。
「結局、故障するたびに、この辺じゃ診てくれるところが無くて、県庁の街まで持っていく事になって凄く大変だったから、もう外車は懲り懲りだって言ってた」
なるほどね、優子のお爺ちゃんには、そういう苦労もあったんだね。
そんな話をしているところに、結衣が柚月を捕まえて戻って来た。
「痛いよ~! ユイに殴られたんだよぉ~!」
「当たり前だ! くだらない事ばかり言って、お仕置きはまだまだこれからだからな!」
結衣が、ヘッドロックで押さえた柚月の頭に鉄拳を次々叩きこんでいる姿を眺めながら、平和な日常を感じていた。
あっという間に放課後だねぇ……。
私らもう受験終わっちゃったから、この時期からも慌ただしい事もなく過ごせるのがメリットだよねぇ……でもって1、2年の前半は、結構死に物狂いで勉強してたってのもあっての今だからさ、妬まれる筋合いは無いんだよぉ。
今日は部活に行く日でもないし、バイトもないし、帰りにどこか寄ってから帰ろうよ。
「甘味屋さんのメニューがリニューアルしたらしいよ」
「マックが良い~」
優子の案の方が良いかな?
マックはポテトが小さいのしか頼めないらしいじゃん。それに、限定メニューも食べちゃったし。そうすると新鮮味が無いんだよね。
あとの2人は特に何かない?
「別に~」
「私も特にないな」
よしっ、そうしたら甘味屋さんに決まりね。
あそこはちょっと学校から遠いけど、車のウォーミングアップの距離としてはちょうどいいくらいじゃね?
各自が自分の車に乗って出発しようとした時、柚月が出てきて手を振ってるよ。
どうしたの柚月、手を振って見送りなんてしなくても大丈夫だよ。どうせまたすぐ会うじゃん。
「違うよ~!」
じゃぁ何?
募る話は向こうですればいいじゃん。寒いから早く行こうよ。
「エンジンがかからないんだよ~」
えっ!? エンジンがかからないの?
弱ったねぇ、仕方ないなぁ、まずは様子を見てみようよ。
みんなにも声をかけて、柚月の車を囲んで、トラブルシューティングしてみる事にした。
なんかさ、いつも思うんだけど、私らって、こういう事態に対する耐性が付いてきたよねぇ……前だったらさ、こんな事になったらオロオロしながら、ロードサービスに電話してたと思うんだよね。
それが、まずはトラブルシューティングして、対処しようとするんだからさ、以前とは全然違うって感じだよね。
「そう言ってくれるなよ」
悠梨が、自分でもそう思っていたようで、下を向きながら言った。
「でも、良い傾向だと思わない? 自分で出来るスキルが増えたって事だよ」
優子の前向きな発想は、さすがおばあちゃんの知恵袋を自称するだけあるな……え? 自称なんてしてない? 私らが勝手に吹聴してるんだって?
とにかく、柚月の車がどうなってるのか、早速様子を見てみようじゃない。
寒いしさ、早く甘味屋さんに行きたいからさ、ちゃっちゃと終わらせちゃおうよ。
「マイさ、自分で気づいてないんだろうけど、もう直せると思ってる段階で、マイも結構毒されてるんだぞ。普通のJKはただ驚いてオタつくだけだからな」
結衣に言われて、嫌な現実を見たような気分になったが、とにかく寒いし、甘味屋さんに行きたいという意識に集中した。
柚月、早速キー捻ってみてよ。
“カチ、カチッ”
もう一回
“カチッ”
なぁんだ、ただのバッテリー上がりじゃん!
ケラケラ笑いながら安堵の表情でそう言う私の姿を見る一般生徒の視線が、ちょっと痛いものを見るようなものだった事に、私は気付いていないふりをする事にした。
応援ありがとうございます!
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是非再開をお願いします。
125話まで面白くて一気読みしました。次の話が早く読みたいです。