40 / 58
第四章 修学旅行
第四話 言い訳をさせて下さい
しおりを挟む
やっと修学旅行のテンションが出てきたのか、そりで滑ると同時に奇声に似た叫び声が自然と出てきた。学校でこんなことをしていたら白い目を向けられそうだけど、今はみんな俺のことを面白そうにけたけたと笑っていた。
正直そんなに盛り上がれるほど距離も角度もないけれど、こういうのは本人の気持ちと周りの空気次第である。というわけで俺は我を忘れて楽しむことにするぜひゃっはー!
俺みたいに過度にははしゃいでいないが、千堂も楽しそうに滑っていて、存分に修学旅行を謳歌しているようだった。
「ねえ、武野―! 一緒に滑ろー!」
「ああ、いいぞ!」
そりで滑り終わると、女友達から声を掛けられた。この雪ぞりを狙っていたのは俺たちだけじゃなかったらしく、来たころにはすでに何人かの女子が遊んでいた。
言われるがまま、俺は女子たちと共にそりを引きずりながら、そのてっぺんへと登って行った。
「武野、うつ伏せで滑ってみてよ」
「いや…それはちょっと怖いんだけど」
「そんなに高くないし急でもないじゃん! 情けないねー男子なのに」
「ほんとだよねー」
自分たちはそうやって滑らないくせに、女子どもはひそひそとああだこうだ言っていた。
どうせなにを言っても聞きやしないだろう。俺は半ば投げやりになった。
「わかった、わかったよ! やればいいんだろやれば!」
「さっすが! それじゃあ、レッツゴー!」
「ちょ、押すなって、おい!」
楽しいものを早く見たいのかなんなのか、女子たちはうきうきとして俺の背中をぐいぐい押してくる。急かされた俺はてきぱきと動きうつ伏せになってそりの上に乗ると、少し気合を入れた。実際見てみても大した高さではないが、それでも怖いものは怖いのである。
そして、覚悟を「よし!」と決めたと同時くらいに、
「ゴー!」
「は?」
後ろから押された。弾んだような声だったが、冗談ではない。俺はわけのわからぬまま、突然、雪でできた坂道に放りだされたのである。
「うおおおおお!?」
先ほどとは違った色を帯びた、心からの叫び声。全体重がかけられ、速度と勢いを増した俺は、終着点である雪で築かれた小さな塀に頭っから激突した。
「うぷっ」
「あははははは!」
遠くから女子たちが声を張り上げて笑っているのが聞こえる。雪に突っ込んで冷えているのにもかかわらず、俺は顔が羞恥によって火照っていくのがわかった。
俺はそりをどかして雪を払い、女子たちに怒りをぶつける。
「おい、ふざけんなよお前ら! なんで急に押すんだ――」
しかし、その言葉は途中でどこかへと吹っ飛んでいった。俺は、言葉を失ってしまった。
雪の坂へと続く道から他の三人も連れて、双葉がいつの間にかこちらを無表情で見つめてきていたのだ。
ごくりとのどの音が鳴る。こんなに寒いというのに、冷たい汗がだらだらと流れてくる。
これはもしかして、マズい状況なのではないだろうか。
女子たちに笑いものにされたことへの怒りは、あまりの衝撃で雪の上に落っことしてしまった。
足早に双葉のもとへと歩いていき、慌てて弁解をした。
「いや、その、ただ遊んでただけだから…っていうのもおかしいか、えっと…」
「?」
俺が誰に言われたわけでもなく、たどたどしい口調で言い訳じみたことを言ったが、双葉はきょとんとした様子だった。
「なにをそんなに焦ってるの?」
双葉のその言葉には暗さは全くなく、本気でなにを言っているかわからないようだった。俺の独り相撲だったのかと思い、恥ずかしさでどこかに身を隠してしまいたい気分になった。
俺は不思議そうな顔をしている双葉に、正直に自分が思っていたことを話した。
「え、だって、その…他の女子と盛り上がってたから気を悪くしたかなって…」
「ああ、そんなこと?」
「そんなことって…」
「別にいいんじゃない? オレは全然かまわないけど」
きっと本心からの言葉なのだろう。双葉の挙動は驚くほど平素なものだった。
一瞬焦ったけど、大事に至らなくて本当に良かった…次からは気をつけよう…。
でも、嫉妬してくれないっていうのも、ちょっと残念だな…。
正直そんなに盛り上がれるほど距離も角度もないけれど、こういうのは本人の気持ちと周りの空気次第である。というわけで俺は我を忘れて楽しむことにするぜひゃっはー!
俺みたいに過度にははしゃいでいないが、千堂も楽しそうに滑っていて、存分に修学旅行を謳歌しているようだった。
「ねえ、武野―! 一緒に滑ろー!」
「ああ、いいぞ!」
そりで滑り終わると、女友達から声を掛けられた。この雪ぞりを狙っていたのは俺たちだけじゃなかったらしく、来たころにはすでに何人かの女子が遊んでいた。
言われるがまま、俺は女子たちと共にそりを引きずりながら、そのてっぺんへと登って行った。
「武野、うつ伏せで滑ってみてよ」
「いや…それはちょっと怖いんだけど」
「そんなに高くないし急でもないじゃん! 情けないねー男子なのに」
「ほんとだよねー」
自分たちはそうやって滑らないくせに、女子どもはひそひそとああだこうだ言っていた。
どうせなにを言っても聞きやしないだろう。俺は半ば投げやりになった。
「わかった、わかったよ! やればいいんだろやれば!」
「さっすが! それじゃあ、レッツゴー!」
「ちょ、押すなって、おい!」
楽しいものを早く見たいのかなんなのか、女子たちはうきうきとして俺の背中をぐいぐい押してくる。急かされた俺はてきぱきと動きうつ伏せになってそりの上に乗ると、少し気合を入れた。実際見てみても大した高さではないが、それでも怖いものは怖いのである。
そして、覚悟を「よし!」と決めたと同時くらいに、
「ゴー!」
「は?」
後ろから押された。弾んだような声だったが、冗談ではない。俺はわけのわからぬまま、突然、雪でできた坂道に放りだされたのである。
「うおおおおお!?」
先ほどとは違った色を帯びた、心からの叫び声。全体重がかけられ、速度と勢いを増した俺は、終着点である雪で築かれた小さな塀に頭っから激突した。
「うぷっ」
「あははははは!」
遠くから女子たちが声を張り上げて笑っているのが聞こえる。雪に突っ込んで冷えているのにもかかわらず、俺は顔が羞恥によって火照っていくのがわかった。
俺はそりをどかして雪を払い、女子たちに怒りをぶつける。
「おい、ふざけんなよお前ら! なんで急に押すんだ――」
しかし、その言葉は途中でどこかへと吹っ飛んでいった。俺は、言葉を失ってしまった。
雪の坂へと続く道から他の三人も連れて、双葉がいつの間にかこちらを無表情で見つめてきていたのだ。
ごくりとのどの音が鳴る。こんなに寒いというのに、冷たい汗がだらだらと流れてくる。
これはもしかして、マズい状況なのではないだろうか。
女子たちに笑いものにされたことへの怒りは、あまりの衝撃で雪の上に落っことしてしまった。
足早に双葉のもとへと歩いていき、慌てて弁解をした。
「いや、その、ただ遊んでただけだから…っていうのもおかしいか、えっと…」
「?」
俺が誰に言われたわけでもなく、たどたどしい口調で言い訳じみたことを言ったが、双葉はきょとんとした様子だった。
「なにをそんなに焦ってるの?」
双葉のその言葉には暗さは全くなく、本気でなにを言っているかわからないようだった。俺の独り相撲だったのかと思い、恥ずかしさでどこかに身を隠してしまいたい気分になった。
俺は不思議そうな顔をしている双葉に、正直に自分が思っていたことを話した。
「え、だって、その…他の女子と盛り上がってたから気を悪くしたかなって…」
「ああ、そんなこと?」
「そんなことって…」
「別にいいんじゃない? オレは全然かまわないけど」
きっと本心からの言葉なのだろう。双葉の挙動は驚くほど平素なものだった。
一瞬焦ったけど、大事に至らなくて本当に良かった…次からは気をつけよう…。
でも、嫉妬してくれないっていうのも、ちょっと残念だな…。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる