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-はじまりの陰謀-編
アイテムボックスが欲しい:前編
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「えぇ~っ!? お一人でキングゴブリンを倒されたんですか!??!」
建物内に響き渡る声で、ルビーは目を見開きながら言った。
いつも淡々と仕事をこなすイメージの彼女が大声で騒いでいるのだ、そりゃ注目も集まる。ましてやその話の中心にいるのが、あのエイトなのだから。
「あいつって確かタラサんとこの居酒屋でバイトしてるヤツだよな?」
「あれ、でもスキルが弱いんじゃなかったっけ」
「でもあいつが持ってる槍ってキングゴブリンのものじゃないか?」
「どうせ、他の冒険者のおこぼれでも貰ったんだろ」
ヒソヒソと勝手な憶測で会話を繰り広げているが、全部聞こえてるからな。
「注目されるのは好きじゃないんだけどな......はあ、最悪だ」
「すいません! 驚いてつい大きな声で私......すいませんでした......」
ルビーがしゅんとして小さくなる。やばい、かわいい。
「いえ、驚かれるのは当然です。ルビーさんに言ったわけじゃないので、気にしないでください。こちらこそすいません」
ペコペコと頭を下げて弁明するエイト。
しかし、ギルド内のざわめきは止まらないため、ルビーは落ち込んだまま。
この前まで一般ランクだった俺がゴールド案件のキングゴブリンをソロで倒すというのも無理があるか。しかも雑魚スキルで。
あっ、そうだ!
俺はみんなに聞こえるボリュームでルビーに向かって説明した。
「実のところ、キングゴブリンを倒せたのはたまたまなんです。たまたま特殊効果のついた短剣を拾って、たまたま弱っていたキングゴブリンに出くわしたので、なんとか生き延びられたって感じで......ハハッ」
さすがに無理があるか......?
「なんだたまたまか~」
「そりゃそうだよな、他の冒険者が致命傷でも与えていたんだろう」
「でも特殊効果のついた武器だってよ。それだけでもかなり強いんじゃないか?」
「売ったらすげえ金になるだろうな。運いいな、あいつ」
よし、みんな納得したみたいだ。 ※冒険者たちはみな脳筋です。
「それ、嘘ですよね......?」
ルビーが眉を潜めてじとっと見つめる。騒ぎが収まったためか、いつもの調子に戻ってきたようだ。
「そんなそんな。たまたまですよ、本当に。神には誓えないけど」
「はあ。今回は私も悪いので、そういうことにしておきます。ですが、ご迷惑をおかけしたので何かお詫びをさせていただけませんか?」
「そこまでじゃないですよ、もう大丈夫ですから」
こういうところはほんと真面目なので、「私の気が済まないんです!」と言って、彼女は引き下がろうとしない。
うーん、困ったなあ。どうしよう。
「なんでもいいんですか......?」
「はい! なんでも仰ってください!」
しばらく沈黙が流れて、ルビーが気づいたように慌て出す。
「あっ、なんでもいいとは言いましたがそういうことは別ですよ? まだ早いというかそういうのはちゃんと手順を踏んでですね......もうエッチですよ、エイトさん!」
顔を赤くしながら、何やらごにょごにょと早口で話している。
こんなルビーを見るのは初めてだ。しかし、なにやら勘違いしているっぽい。
俺にそんなゲスな企みなど、微塵も......ないよ? ないに決まってるだろ。なんだ、その目は。
「あのー、ルビーさん?」
「はいっ!」
ルビーはもやしのようにシャキッとして、声が裏返った。何を考えているのか。
「もし知ってたらでいいんですけど、たとえばアイテムボックスみたいなものってあったりします?」
ルビーは目をパチパチさせて、俺の言葉をしっかりと噛み砕く。そして3トーンくらい声を落として真顔で説明し始めた。
「アイテムボックスは貴族やベテラン冒険者の間で高額取引されているため、エイトさんの経済力じゃ無理ですよ?」
なんか言い方にトゲがあるな。
「そうなんですね~。あのー、言いにくいかもしれませんが、裏ルート的なものがあったり......?」
「そんなの言えるわけないじゃないですか」
呆れた表情でため息をつく。
「ですよね~」
この槍とかこっそり拾ってきたミノタウロスの斧とか(部屋に置いてある)収納したかったんだけど。
明らかに落ちたテンションが伝わったのか、ルビーが周りの目を伺ってから重い口を開き出す。
「......ここだけの話ですが、骨董市にたまに紛れて売っているそうです。使い方がわからないですし、鑑定でもなければ見分けることすら難しいらしいですが」
なんと! つまり格安で手に入るチャンスがあるということか! 俺には魔眼があるから何の問題もない。
「ほんとですか! ありがとうございます! 早速これから......あっ」
「どうされました?」
エイトは普段バイトしかしておらず、出掛けることは滅多にない。出歩いたとしても近所のみ。
なので絶望的に土地勘がないのだ。骨董市の場所など知らない。
「ルビーさんって今日は何時までお仕事なんですか?」
「私ですか? 今日はお昼までですけど......」
「よかったら一緒に行きませんか? 嫌ならいいんですけど」
「ーーえっ、はい! 行きます!!」
さっきまで死んでいたルビーの顔が満開の花で覆われたように変わる。
よし、道案内は確保したぞ。
「では、13時に広場の噴水前に集合でいいですか?」
「大丈夫です。オシャレしていきますね!」
ルビーは鼻歌混じりで仕事に戻っていった。
いや待て、なぜオシャレする必要が?
あ、もしかしてデートと勘違いしてるんじゃ......ま、いいか。なんか喜んでるし。
この後に起こる修羅場をエイトは想像もしていなかったーー。
建物内に響き渡る声で、ルビーは目を見開きながら言った。
いつも淡々と仕事をこなすイメージの彼女が大声で騒いでいるのだ、そりゃ注目も集まる。ましてやその話の中心にいるのが、あのエイトなのだから。
「あいつって確かタラサんとこの居酒屋でバイトしてるヤツだよな?」
「あれ、でもスキルが弱いんじゃなかったっけ」
「でもあいつが持ってる槍ってキングゴブリンのものじゃないか?」
「どうせ、他の冒険者のおこぼれでも貰ったんだろ」
ヒソヒソと勝手な憶測で会話を繰り広げているが、全部聞こえてるからな。
「注目されるのは好きじゃないんだけどな......はあ、最悪だ」
「すいません! 驚いてつい大きな声で私......すいませんでした......」
ルビーがしゅんとして小さくなる。やばい、かわいい。
「いえ、驚かれるのは当然です。ルビーさんに言ったわけじゃないので、気にしないでください。こちらこそすいません」
ペコペコと頭を下げて弁明するエイト。
しかし、ギルド内のざわめきは止まらないため、ルビーは落ち込んだまま。
この前まで一般ランクだった俺がゴールド案件のキングゴブリンをソロで倒すというのも無理があるか。しかも雑魚スキルで。
あっ、そうだ!
俺はみんなに聞こえるボリュームでルビーに向かって説明した。
「実のところ、キングゴブリンを倒せたのはたまたまなんです。たまたま特殊効果のついた短剣を拾って、たまたま弱っていたキングゴブリンに出くわしたので、なんとか生き延びられたって感じで......ハハッ」
さすがに無理があるか......?
「なんだたまたまか~」
「そりゃそうだよな、他の冒険者が致命傷でも与えていたんだろう」
「でも特殊効果のついた武器だってよ。それだけでもかなり強いんじゃないか?」
「売ったらすげえ金になるだろうな。運いいな、あいつ」
よし、みんな納得したみたいだ。 ※冒険者たちはみな脳筋です。
「それ、嘘ですよね......?」
ルビーが眉を潜めてじとっと見つめる。騒ぎが収まったためか、いつもの調子に戻ってきたようだ。
「そんなそんな。たまたまですよ、本当に。神には誓えないけど」
「はあ。今回は私も悪いので、そういうことにしておきます。ですが、ご迷惑をおかけしたので何かお詫びをさせていただけませんか?」
「そこまでじゃないですよ、もう大丈夫ですから」
こういうところはほんと真面目なので、「私の気が済まないんです!」と言って、彼女は引き下がろうとしない。
うーん、困ったなあ。どうしよう。
「なんでもいいんですか......?」
「はい! なんでも仰ってください!」
しばらく沈黙が流れて、ルビーが気づいたように慌て出す。
「あっ、なんでもいいとは言いましたがそういうことは別ですよ? まだ早いというかそういうのはちゃんと手順を踏んでですね......もうエッチですよ、エイトさん!」
顔を赤くしながら、何やらごにょごにょと早口で話している。
こんなルビーを見るのは初めてだ。しかし、なにやら勘違いしているっぽい。
俺にそんなゲスな企みなど、微塵も......ないよ? ないに決まってるだろ。なんだ、その目は。
「あのー、ルビーさん?」
「はいっ!」
ルビーはもやしのようにシャキッとして、声が裏返った。何を考えているのか。
「もし知ってたらでいいんですけど、たとえばアイテムボックスみたいなものってあったりします?」
ルビーは目をパチパチさせて、俺の言葉をしっかりと噛み砕く。そして3トーンくらい声を落として真顔で説明し始めた。
「アイテムボックスは貴族やベテラン冒険者の間で高額取引されているため、エイトさんの経済力じゃ無理ですよ?」
なんか言い方にトゲがあるな。
「そうなんですね~。あのー、言いにくいかもしれませんが、裏ルート的なものがあったり......?」
「そんなの言えるわけないじゃないですか」
呆れた表情でため息をつく。
「ですよね~」
この槍とかこっそり拾ってきたミノタウロスの斧とか(部屋に置いてある)収納したかったんだけど。
明らかに落ちたテンションが伝わったのか、ルビーが周りの目を伺ってから重い口を開き出す。
「......ここだけの話ですが、骨董市にたまに紛れて売っているそうです。使い方がわからないですし、鑑定でもなければ見分けることすら難しいらしいですが」
なんと! つまり格安で手に入るチャンスがあるということか! 俺には魔眼があるから何の問題もない。
「ほんとですか! ありがとうございます! 早速これから......あっ」
「どうされました?」
エイトは普段バイトしかしておらず、出掛けることは滅多にない。出歩いたとしても近所のみ。
なので絶望的に土地勘がないのだ。骨董市の場所など知らない。
「ルビーさんって今日は何時までお仕事なんですか?」
「私ですか? 今日はお昼までですけど......」
「よかったら一緒に行きませんか? 嫌ならいいんですけど」
「ーーえっ、はい! 行きます!!」
さっきまで死んでいたルビーの顔が満開の花で覆われたように変わる。
よし、道案内は確保したぞ。
「では、13時に広場の噴水前に集合でいいですか?」
「大丈夫です。オシャレしていきますね!」
ルビーは鼻歌混じりで仕事に戻っていった。
いや待て、なぜオシャレする必要が?
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