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第41話

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 さて、本気になったダンマスはどれほど強いんだ?

「行くよ」

 そう呟いたダンマスは俺に突っ込んでくる。その速さは、さっきまでのそれとは違う。なんとか目で動きを追える程度だ。ただ目で動きを追えるのだから、体も動く。距離を詰めたダンマスは右拳で俺を殴ろうとするけど、なんとか避ける事ができた。
 というか、握り潰した筈の右拳が回復してるし…。
 俺も一矢報いるために左拳でダンマスの頭を打つ。ダンマスは避ける事をせず、俺の拳は直撃した。

「無駄だよ。その程度の力じゃあね」

 そう言うと、ダンマスは右手で俺の左肘を押さえるようにして左手で左前腕を右方向に押す。結果、俺の左肘は折れた。ゼルスがそれを見てダンマスに斬りかかる。ダンマスは避けて距離をとった。

「大丈夫か?!キーサに回復魔法をかけてもらうか?」
「いや、この骨折程度なら自然治癒力を強化すれば治る………ほらな?」

 気の流れを活性化させ、自然治癒力を高める。すると俺の左肘の骨折は完全に治った。

「きみも人外じゃないのか?」
「まだ人の内に入るぞ。いつかは人外の強さを手に入れたいけどな」

 俺の自然治癒力を見たダンマスに突っ込まれてしまう。人外のものに、きみは人外?、なんて突っ込まれるとは…。

「とにかく、この程度の傷は平気だって事だ」
「そうみたいだね。でもキミの攻撃は本気の僕に傷すらつける事ができなかったよ?それで大丈夫かな?」
「俺の攻撃はどうだ?」

 ダンマスとの距離を一気に詰めたゼルスが、剣をダンマスの首めがけて振りながら聞く。

「無駄だよ」

 ダンマスは魔法で作った剣でゼルスの剣を防ぎ、弾いた。それだけの動きでゼルスは体勢を崩される。そこにダンマスが追撃しようとしたけど、ゼルスは距離をとった。

「これがダンジョンマスターの本気か。どうする?」
「奥の手を使う」
「へぇ、お前も奥の手を持っていたのか」
「ああ」
「奥の手なんて持ってるのなら、出し惜しみしないでよ。そんなんじゃ、僕には勝てないよ?」
「その通りだな。それなら、奥の手を使わせてもらう」

 俺は龍人化を発動する。

「へぇ!龍人化か!」

 ダンマスは龍人化を知っているのか。

「でも、それだけじゃないぞ?」

 俺は身体能力強化の魔法を発動する。副作用のない方だ。

「お、それはキーサにかけてもらったような魔法だな!」
「ああ」

 ゼルスは気づいたな。まあ、前に一緒にかけてもらったから分かるか。

「俺の準備は万端だ」
「じゃあ、次は俺だな」

 そう言うとゼルスは剣を見て精神統一を始める。数秒後、ゼルスの体と剣に気が纏っていた。

「なんだい?それは」

 ダンマスも気づいた。これは凄い。他人に自分の気を可視化させるというのは、とても難しい。他人に見せるほどに自分の気の質が良く、大量になくてはならないからだ。それに自分の体だけではなく、武器の剣にも気を纏わせている。

「…ふぅ…」

 ゼルスはゆっくりと剣を振り上げる。次の瞬間、ゼルスは剣を振り下ろした姿勢でいた。
 嘘だろ…ゼルスの振り上げた腕と剣がまだ残像として残っている。どれだけ速いんだ。

「言っておくが、速いだけじゃない。油断するなよ?」
「いや、油断してくれた方が助かるんだけどな」

 ゼルスの言葉に俺は苦笑いしてしまう。でもダンマスは油断しないだろうなあ。

「それじゃあ始めようか」
「「ああ!」」

 ダンマスの言葉に答えて、俺とゼルスは一緒にダンマスとの距離を詰めて行く。
 まず、俺は右拳でダンマスの顔を打つ。ダンマスは左に避けたけど、その動きはバッチリ見えた。身体能力強化の魔法のお陰で、動体視力も良くなっているのだ。俺は左足でダンマスの腹を蹴ろうとする。ダンマスは最初、驚いたけど、俺の右蹴りを後ろに跳んで避ける。しかしそこにはゼルスがいる。ゼルスが真上から剣を下に振り抜くと、ダンマスは急いで右に跳んで避けた。

「ふぅ、なかなか強いね」

 距離をとったダンマスが言う。でも、ダンマスの右上腕は切断されていた。右手が地面に落ちている。

「さすがだな、ゼルス」
「お前が追い込んでくれたからな」
「でも、こんな傷はすぐに治るよ?………あれ?」

 ダンマスの右腕は言葉通りに、すぐ回復はしなかった。でも回復しなかったわけではなく、徐々にだけど回復した。

「回復が遅くなっている。魔素が少なくなってきているのか?いや、でもそんな事は…」
「ふふふ」

 後方でキーサが笑った。なんだ?

「まさか、キミの仕業なのか?」
「ええ。この空間の魔素を少なくしているの。そうすれば、あなたも回復しなくなるんじゃないかと思ってね」
「…やってくれるね」

 ダンマスの口調は普通だけど、怒っているように感じるのは気のせいかな?
 それにしてもキーサ、さすがだな。

「これで俺達の攻撃は効果のあるものになったな」
「そうだな!」
「でも魔素を少なくしたら、キミは魔法が使えなくなるんじゃないのかい?」
「それはないわ。私を守る結界の中には魔素が充満してるもの。そしてあなたは私の結界に入る事はできない」
「なるほど。でも、それなら僕はキミ達の攻撃を避け続ければ良いだけだ」
「そう簡単にいくと思うなよ?」

 そう言って俺はダンマスとの距離を詰めると、右拳でダンマスの顔を打つ。ダンマスは後ろに避けるけど、俺はさらに一歩踏み込み、伸ばした右手でダンマスの左肩を掴むと、そこから内壊波を放った。
 さっき拳を握り潰した時に感じた感触が人間のそれと似ていたから、人体内部にダメージを与える内壊波も通じると考えたんだ。
 その考えが的中していたのか、俺の前方に距離をとったダンマスは右手で左肩を押さえる。

「感覚がない…回復もしない…」

 ダンマスは呟くように言う。

「やってくれたな!」

 そう怒鳴ると、ダンマスは俺に向かって突っ込んでくる。ん?冷静さをなくしたのか?それなら良い傾向だ。
 俺の前方に来たダンマスは右拳で俺の顔を殴ろうとする。俺は左に避けながらダンマスの右前腕を掴み、右膝蹴りをダンマスの腹に放った。膝蹴りは腕を掴んでいるから避けられないダンマスの腹部に命中し、ダメージを与える。さらに俺は膝から内壊波をダンマスの腹に放つ。
 そして俺がダンマスを離した直後、ゼルスがダンマスに斬りかかる。ゼルスの剣速は異常で、一瞬でダンマスの両腕を斬った。
 ダンマスは俺達から距離をとる。

「この状況は予想してなかったなぁ…」

 ダンマスは呟くように言う。内壊波を喰らって、まだ立てるのか。

「なんだ!?」

 驚くダンマス。ダンマスの足元には魔法陣が広がっている。

「2人共、離れて」
「おう」
「分かった」

 後ろから聞こえたキーサの言葉に従って、俺とゼルスはキーサの方に向かう。
 ダンマスは驚いているけど、動こうとはしない。

「動けない?」

 ダンマスが驚いたように言う。どうやら、あの魔法陣の効果は動けなくするためのものらしい。
 キーサを見ると、キーサの目の前に虹色の玉が現れていた。大きさは小さく、直径10センチほど。

「それはなんだ?」
「これで終わらせるの」

 そう言うと、虹色の玉がゆっくりとダンマスに向かう。

「これの欠点は威力が強すぎる代わりに、発動と速度が遅いという事ね」

 その為に相手を動けなくする魔法陣を使ったのか。
 やがて虹色の玉はダンマスの目の前まで来る。

「…あぁ、これは強いね」

 そう呟いたダンマスの胸に虹色の玉が入る。突き抜けるというより、体内に入っていく感じだ。体内に入るのに、何の抵抗もない。

「予想以上の強さだったよ。キミ達を侮っていたかな」

 ダンマスが言った次の瞬間、ダンマスの体が内側から破裂した。でも肉片が散乱するという事態にはならず、バラバラになったダンマスの肉体は光の玉になって消えていった。

「どんな魔法だったんだ?」
「それは秘密。今度は私達が闘うんでしょ?相手に自分の魔法をバラさないわよ」
「それもそうか。でも俺にその魔法は使わないでくれよ?死んでしまう」

 俺は苦笑いしながら言う。あの魔法を受けたダンマスの姿を俺に当てはめた想像をすると怖くなってしまう。あの技を喰らえば俺は死ぬだろう。

「その通りだね」

 そんな言葉が聞こえた。声のした方を見ると、そこには無傷のダンマスが立っている。
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