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1章 温故知新

5話 笹団子

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 結局、あの後3人で集まり名前が笹団子団に決定した。



 うん、分かってた。



 一応だけど俺が出した候補ね、【嶺上開花】なかなかよくない?

 名前って難しいね。



「ジグさん本当にこれで良いですか?」



 ジグさんというのはプレイヤーネームで今回新たに仲間になった人だ。

 優しい人で、アバターは特にいじってないらしく現実の外見と同じらしい。

 そうだとすると相当な好青年だ。俺より若く見える。

 髪型は短髪で、メガネをかけている細身で長身、けんとは違ったイケメンだ。



「はい、いいと思いますよ。可愛いじゃないですか」



 ジグさんはにこやかに答える。

 あ、ジグさんもけんに通ずるところがあるな。これを理解できるとはなかなかの逸材ではないか。



「分かりました、では結社設立しますね」



 俺は結社設立時にいるメンバーを登録していき、結社名、結社アイコン(シンボルマークみたいなもん)、どの国の勢力につくかなどいろいろやり最後に設立のボタンをタップする。



 そして、俺達3人に結社アイコンが追加され移動してみる。



 結社を設立した事によってやることがまた増える。



 やれ、結社のレベル上げたり、施設充実させたり、3人それぞれの部屋作ったりとまぁ忙しいがめちゃくちゃ楽しみだ。





 いやガーデニングとかあるんだよ面白いでしょ絶対(食物や花、いろんな作物を作ることが可能だ)

 運営に申し込めばないものを追加してもくれるらしい。



 

 これでまた課金要素が増えてしまったか。まぁ楽しいから良いけどね。



 ジグさんもかなり課金する人で、ジグさん曰く薬剤師として働いていて他に趣味もなくお金を使うのがこのゲームだけらしい。





 なんだかんだで、結社のランキングも20位弱になった3人で。



 個人戦闘力も俺たち3人はトップ20以内につけている。



 OOPARTSにはいろんなランキングがある、例えば装備力とか魅力度とか貢献度やら様々なほんとうに様々なランキングがある。



 ランキングを見るだけでも面白いのだ。





 **







 結社設立から1年程経った、高校2年の冬。



 課金の総額は2人で合計約5000万に登っていた(たぶん)、いやぁぐんぐん登るよどこまでも。



 ジグさんともいい感じに打ち解け、かなり仲良くなった。(ゲーム内でだけだが)



 冬の旧校舎はとてつもなく寒い、暖房はなく古いストーブを持ってきて暖を取っている。



 それに、扉の建てつけが悪く隙間風が常に体の体温を奪っていく状態の中昼ごはんを食べている。



「今日も寒いねぇ」



 何気ないいつものように会話に入る俺だったがけんは一点を見つめながらぼーっとしていた。



「どうした?大丈夫か?」



 けんは俺に急に呼びかけられたか慌てて何か隠すように顔を背ける。

 嘘を見抜くのはうまいが嘘をつくのは下手だ。



「また、宝くじが当たったなんて言うんじゃないだろうなぁ」



 俺はおちょくるように、調子を覗くように言ってみた。



「いやいや、あんなこともうあるわけないよ」



 けんはいつも通りの雰囲気で答える。



 ここまで一緒の時間を過ごしていると、相手の何気ない仕草や会話の口調、トーンでいつもと違う感じがわかるようになる。



「何かあった?」



 少しいつもよりトーンを低くし、冗談ではない会話だと言う事を認識させる。

 え?いつもこんな感じですよ、すごいでしょ。



「いや、実はね」



 けんも俺のトーンの変化に気づき、切り替える。



 真剣になったけんは久しぶりだ。いやだっていつもふわふわポワポワしてるからね。



「大した事じゃないんだけどさ」



「ジグさんに3人でオフ会しないかって提案されたんだよね」



 オフ会か・・・確かに今のオンラインゲームなどでは昔と違いメジャーになった、CRが

出てからはよりオフ会をする人が増えたのも事実だ。



 今ではほとんどの人が抵抗なくやるだろう。だがしかし、俺たちはコミュ障を笹でつつんだ笹団子だぞいけるのか。



 1人だからまだなんとかいけそうだが。けんもいるし……



 いろいろと思案しているとけんが苦笑いしながら。



「一応日付は僕たちに合わせてくれるって」



「どうする?」



 と、提案してくる。



「質問を質問で返して悪いが、けんはどっちなんだ?」



「うーん」



 一瞬考えるそぶりをするが多分答えは決まっていたのだろう、多分こう返される事も予想していたのかもしれない。



「僕は行こうかと思ってる」



「けんが行くならいくよ」



 ま、俺も決まってたようなものだけどね。よくあるよな誰かがいくなら行くパターンの人。1人じゃ絶対にいけない人の典型。



「OK、日付いつにする?」



 日付か、無難なとこだと冬休みだろうな、てかそれ以外ないか。どうせもうすぐテストだし、テスト終わったら冬休みだからちょうどいい。



「じゃあ12月23日で」



 12月23日は冬休み入って3日目だ、まぁちょうど良いだろう。





「了解、ジグさんに伝えておく」



 ていうか、いつの間にこんな連絡を取る間柄になったんだ?

 さすがけんというか、俺がへなちょこすぎるだけなのか、うん絶対後者。





 あれからテストが終わり冬休みに入った。



 1日かけ俺は、冬休みに出た宿題を8割方終わらせOOPARTSオンライン≪ゲーム≫に没頭していた。



 クリスマスイベントや正月イベントと冬休みはイベントがたんまりあるからな、いちいち宿題なんかに邪魔されてたまるものか。







12月22日 



 俺はOOPARTSにログインしたが2人こなかった。



 2人同時に来ないのは初めてだった。



 大抵どちらか片方は1日の内のどっかでログインしているのだが、今日はそのログが一切なかった。



 ゲーム内だけではなくメールやその他連絡できる手段を取ったが返事が一切なかった。



 けんの家に行こうかとも思ったが流石にそこまでやっては気持ち悪いのでやめた。(ただのストーカーではないか)



「明日のこと相談し合ってるのかなぁ」



 と、ゲームを終えベットの上で考える……





**





 やっべ寝ちまった、朝早くに俺は目が覚めた。



 あのまま寝落ちしたらしい。



「今日どうすんだろ」



 俺はメッセージ欄を見ると、1件の連絡が入っていた。



 恐らくけんだろう。



 メッセージを開くとそこには、「ごめん」の3文字。



 どういうことだろうと疑問にはなったが、今日聞いてみれば良い話だ。



 俺はまたけんに今日どうするかを伝えるメッセージを送った。



 てかまだ朝の5時だぞ、2度寝しようかなと思った時。







 俺の部屋のドアがノックされた。



「入っていいか?」



 母さんの声だ、母さんと俺がこの時間に起きてるなんて今日は雨でも降りそうだな。



「いいよ」



 そう言うと、母さんは入ってきて俺の部屋にある椅子に腰掛ける。



「いやいや、私たちがこの時間に起きてるなんて雪でも降るんじゃないか?」



 母さんも同じことを思っていたらしい、にやにやしている。

 基本いつも一葉が一番に起きて、ご飯とか朝起こしに来るとかいろいろやってくれる。



 こんなこと中々ない、後で一葉起こしに行くかな。



「で、何の用?」



 と、なぜ部屋にきたのか問うと、さっきの冗談めかした様子ではなくかなり真剣な顔になる。



「そうだなぁ、なんと言えばいいのか」



「なんなのさ」



 何だろうこの感じ、出し渋らされてるとすごいストレスを感じるよね。

 知りたいけど、教えてくれない気になるって感じでね。



「心して聞きなさい」



 心して聞く報告なんてそうそうないからな、貴重な体験だ。



 母さんは目をつぶりそして数泊後目を開けこちらを見据える。



 言葉を整理し、何をどう言うのか固めたのだろう。











「けんくんがね、亡くなった。しかも殺人だ」



 母さんは苦虫を歯で噛んで潰したような表情でそう語った。

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