上 下
31 / 97
4章 入学試験編 1次試験

30話 火VS炎

しおりを挟む

 俺達3人は目の前の赤髪の少女と対峙していた。



「死ぬ気で戦ったら合格って事でいいのか?」



 俺は自分で言っててよくわからない事を口にする。いや、だっていないでしょ死ぬ気なら合格ねって言われた事……



「ああ、その通り。ま、要は本気でこいってことよ」



 ウタゲ先生は上に羽織っていたジャージを脱ぎ、体操服姿になる。





「アキト、俺にやらせてくれないか?」



 バルトも着ていた上着を脱ぎ、半袖シャツ一枚になる。火属性系って熱い人多いよなぁ……俺はそうふけっていると後ろからユイが話しかけてくる。



「いいの?あのアホに任せて……」





 今バルトがウタゲ先生と戦い疲弊し、俺とユイの二人になる事を指摘しているのだろう。だけど、ああいうの止める方が勢いを殺すことになる、やりたいならやらせるべきだろう……まあやめろっていっても絶対にやるだろうしな。



「大丈夫だ、やばくなったら仲裁する。ユイも油断せず戦闘から目をそらすなよ」



「わかってる」



 そう言うと弓を地面に縦に突き刺し固定する。空いた手で魔法を発動する。



「自然魔法『治癒衣/リジェネレイト』」



 ユイが魔法を発動すると、緑色のオーラがバルトの体の表面に付着し、優しい光が放たれる。

 『治癒衣/リジェネレイト』は魔法をかけられた本人の体力の3%を徐々に回復していく魔法で、継続時間は1日続く。初期ではかなり役に立つ魔法だ。これがあると無いとではかなりの差がある。高位の魔法になってくるともっと%が上がる。



 意外とバルトに対してはあの態度だったがしっかりやるときは私情を持ち出さない、いい動きだ。



「おー!ユイサンキュな!!」





 ユイはふいっと顔を叛ける。いや、そんなことは無かったようだ……



「ほーう私と一対一とはいい度胸をしているな!!」





 そう言うと前戦った時同様、アイテムボックスから木刀を取り出す。ウタゲ先生の炎が木刀に浸透していき木刀と一体化する。あの木刀は受験生用に貸し出ししているのと同じやつだが、あの炎を纏ってしまえば関係ない。



 木刀からは禍々しいほどの炎が発せられている。あれに触れただけで大火傷確定だ…



 バルトはそれを見ると、同様にアイテムボックスから貸出用の剣を取り出す。少し長めで細い作りになっている。





 バルトは剣を構え集中する。すると、バルトもウタゲ先生同様剣に火を纏わせる。ウタゲ先生ほどではないが、かなり上出来な剣に仕上がっている。



 二人が対峙するだけでこの辺り一帯の温度が上昇するのを俺たちは肌で感じていた。





「お前も火属性系統とは……面白いじゃないか」



 ウタゲ先生はニヤリと笑いながら体勢を低く木刀を構える。木刀を持つ方の腕を後ろにしクラウチングスタートのような体勢になる。



「うぉららああああ!!!!」





 バルトも己に言い聞かせるように大声で叫ぶ。





 先にバルトが動く。真っ直ぐにウタゲ先生の方へ走り出す。剣を腰の位置に構えながらの疾走は綺麗で無駄がない。少し前のめりになりウタゲ先生との距離が約10mになった時。





「穿て斬撃!!!」



 バルトは剣を下段から上段へ斬りあげると斬撃と共に火斬撃が追随してウタゲ先生へ放たれる。地面を焦がし空気すらも焦がす斬撃は一瞬でウタゲ先生の元まで飛んでいく。



 これは、スキル『火流斬痕/ファイヤカイン』か、このスキルは片手剣と火属性の合わせ技で片手剣スキルの斬撃に火属性を織り交ぜたものだ、ただ斬撃とまぜるのではなく2段階の攻撃とすることで威力は少しばかり落ちるが防ぐのが難しくなる。



 まぁ威力が落ちるのはゲーム上システム的に言っているだけで実際見ると威力が落ちているのか分からないなくらい差がほとんど無かった。





 相当な練習量とバルトの野生じみた才能、この二つがうまく合わさりこれだけの技となったのだろう。





「いいねぇ~これぐらいじゃないとやりがいがない!!!」





 ウタゲ先生は予め用意していたスキル『炎斬/フレイムキラー』を超下段から木刀を振り上げる。巨大な炎の斬撃がバルトの2回分の斬撃と衝突し火柱が空まで上がる。辺りに火の粉が飛び散り斬撃同士の衝突で爆発のような衝撃、衝撃音がこの場にいる全員に降りかかる。



 森の木々に火が燃え移り燃え盛る。辺りに木の葉や木が燃えた焦げ臭い匂いが立ちこむ。



「ユイ煙を吸い過ぎないよう注意しろ」



「うん」





 そう、このままだと一酸化中毒や煙の中に含まれる噴霧など、別の意味でやられる。火属性もちの人らはこういった影響を受けない。そらこんな影響受けていたら火使えん……



 だから火属性同士の戦いでは火傷によるダメージはない。



 もっとこちらのことも考えてほしいものだ。



 そこら中が燃えていてあっちにいる二人を認識できなくなってしまった。



 くそっーーどうなっているか、戦況が分からないんじゃ仲裁、万が一の場合助けることができなくなってしまった。





ーーー





 俺は対峙している、ウタゲ先公を見据えていた。辺りは真っ赤に燃えており、アキトやユイの姿が見えなくなってしまった。



 しまったつい癖でやりすぎてしまった。自重しろと自分に言い聞かせてもこう熱い戦いに

なるとどうしても箍が外れちまう。



 今もウタゲ先公の思惑どうりだ、あっちにしちゃ3対1よりちゃんとした1対1にしとけるんだからな。



 すると、ウタゲ先公は頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。



「すまん、ちとやりすぎちまった」





 俺は心の中でほくそ笑む。



 なんだよこの人も俺と同じ人種かよ、無駄に頭使って損したぜ。こういうタイプは後先考えない、だが直感、野生の勘が鋭いやつが多いってナナミが言ってたっけ。



「へぇ戦い中に相手の心配とは余裕ですね先公」



 俺はわざとわかり易い挑発をする。まぁこんなの普通のやつにはなんの効果もないが……



 ウタゲ先公は腹を抱えて笑い出す。な、なんだよ逆に怖えぇ……





 笑いで溢れた涙をぬぐいウタゲ先公はこちらを直視する。



 今にも押しつぶされそうな緊張感が俺を襲い、とっさに剣を構えてしまう。



「確かに、死ぬ気で来いと言って相手の心配なんてはなはだおかしい話だ。私も丸くなってしまったものだ」





「すまんかったな。ここからはお前を殺さない程度で相手をしてやる」



 今度は逆にこちらが挑発を受ける。



 ふんっ



 脳では分かっていても体言うことを聞かなそうだ。



 そう思っていた時には体は動き出しており、ウタゲ先公に向けて目に見えぬ速さで剣を振り抜き二発の斬撃を飛ばす。その何発も素振りしてきた一糸乱れぬ動きでの片手剣スキル『斬撃』。



 このスキルは片手剣を使っていたら誰でも使えるようになる技、基本中の基本の技だ。だが、俺が放ったのは基本とは言い難い威力の斬撃。しかも二発放った中に魔法『発火装置/フライングデバイス』を混ぜ込んである。





 『発火装置/フライングデバイス』は約1cmの火の玉である。一定時間(自分で設定できる)が経つと勝手に爆発し、その後、中から基本火属性魔法『火/ファイヤ』がその玉の周りを燃やす。



 斬撃の中にこの『発火装置/フライングデバイス』を入れて置くことで、もしその斬撃をスキルで防ごうとした瞬間、魔法『火/ファイヤ』がその相手を燃やし、尚且つ斬撃に火が浸透し、火の斬撃と化す。





 初見では防ぐことは不可能の技だ。





 案の定、ウタゲ先公はさっきと同様スキル『炎斬/フレイムキラー』を放ってくる。



 俺は心の中でガッツポーズを取り、これで勝ちと思った瞬間ーー



 火の玉により火の斬撃と化した一撃は『炎斬/フレイムキラー』のさっきよりも巨大な炎により包み込まれてしまう。俺が放った魔法『火/ファイヤ』も同様に飲み込まれてしまったのだ。





「温いねぇえええ!!」



 ウタゲ先公も全ての『火/ファイヤ』を飲み込むことは出来ず少し被弾していたが、ほぼ無傷と同様だった。



 というかこの人わざと飲み込まず受けることで力を誇示したのだ。相手への威圧のためだけに。



 どんだけ圧倒的に勝利したいんだろうかこの人は……





 圧倒的に相手の方が強いのは分かっているがーーそれぐらいじゃなきゃ戦いじゃねぇ。





 もう俺は考えるのを止め、ウタゲ先公に迫る。



「うらぁああああああ!!」





 片手剣の突きから入った攻撃は首元を通り抜ける、その勢いのまま俺は片手剣を手放し、俺の突きを避け斬りかかろうとしてくるウタゲ先公の炎を纏った木刀を素手で受け流す、そのわずかに出来た隙を痛みをこらえながら俺は片手剣を手放した手から一緒に握っていた『発火装置/フライングデバイス』をウタゲ先公の顔の横に俺の手が到達した瞬間発動する。



 玉砕覚悟の自爆行為と誰もがそう思うが、『発火装置/フライングデバイス』は発動者には効果がなくダメージがない。



 そのままウタゲ先公の顔の横で爆発する。その攻撃を受けたウタゲ先公は俺を蹴飛ばし距離を取る。





「いい攻撃じゃねぇか!!」 



 ウタゲ先公はこれでも意外に冷静だった。耳からは血を流しており、鼓膜を破ったようだ。



 てか、あの間近の攻撃で鼓膜だけってどんな防御力してんだよ。





 俺はさっき受け流した時に受けた傷を見る。木刀で斬られたはずなのに血だらけで、傷から肉、骨まで見えておりもう利き手で剣を持つことは不可能な状態だ。

 火傷はないがこれなら火傷しておいてくれた方がよかったくらいだ。止血できるからな。



 俺は自分の意志で手を焼き止血する。



 痛ってぇえ!!!!



 鉄板で肉を焼いているような音がなり、生々しくあたりに響く。血が止まるまで30秒ほどかかった。





 さぁてどうするか……もう手を使う武器は装備出来ないし、手を握るのことも出来ないことはないが力が全く入らない。これでは殴ることもままならない。

 左手でやることもできるが恐らくウタゲ先公にやったら今度は左手まで斬られちまう。







「おいおいお陰で片耳聞こえねぇじゃんか」



「あの攻撃で鼓膜だけってバケモノすぎやしませんかね」





 こりゃあれ使うしかないな。まさかここまでの相手とは思いもしなかったそのせいで二人とも分断されるしこんな傷受けちまうし……





「まだ何かあるって顔に書いてあるぞ」





 ニヤリとウタゲ先公は無邪気な子供のように笑う。俺は普通に顔に出していたらしい。



 俺もそれを返すように笑う。





「………」





 二人の中に静寂が生まれる、周りの木々が灰になり崩れれる音や、火花が散る音だけがあたりを包み込む。





 やってやる。



 その瞬間俺は動き出していたーー

しおりを挟む

処理中です...