風紀副委員長はギリギリモブなはず…

季節外れの転校生2

翌朝、鳳凰学園の廊下はいつになくざわついていた。
「今日、転校生が来るらしいぞ」
「噂だと、めっちゃ美少年らしい」
「副委員長、気をつけろよ……」

俺、佐倉伊織は、胸の奥で妙な緊張を感じながらも、普段通りの優等生モードで寮を出る。
（平常心……平常心を保つんだ……まだ会ってもいないのに、心臓バクバクとかやめろ……！）

廊下の角を曲がると、ざわつく生徒たちの群れの奥で、異様な光景が目に入った。

――生徒会長が、転校生らしき人物に囲まれている。

「悠人くんは生徒会長なんだね」
転校生は、生徒会長に向かって、なんだか妙に馴れ馴れしい口調で話しかけている。
声は柔らかく、笑顔を浮かべているのに――周囲の男子たちは顔を真っ赤にして、拳を握り締めている。

「こ、こいつ……何様だ……？」
「馴れ馴れしい……！」
「生徒会長にタメ口とか……許せない……！」

（ひぃぃ……まだ名前も分かってない相手に、周囲が殴りかかろうとしてる……！？）
俺は思わず後ろに下がり、心の中で絶叫した。
「やめろぉおお！！　これはBL王道展開以前に、暴力沙汰だ！！」

転校生は無邪気に笑っている。生徒会長も苦笑しつつ、なんとかその場をやり過ごそうとしている。
しかし、周囲の生徒たちは我慢の限界に近い。
（やばい……これは、明日この子が正式に学園に来たら、俺のモブ生活は確実に終了だ……）

俺は深呼吸をして、平常心を装いながらも、視界の端で転校生を確認する。
――まだ名前は知らない。話しかけられる前に、まず状況を整理しなければ。

「ふぅ……とりあえず、事務手続きのために先に職員室に行くんだ……！」
そう自分に言い聞かせ、俺は人混みを縫うように歩き出す。
しかし心臓はまだバクバクで、目の前の“BL王道予備軍”たちの熱視線を避けることができずにいる。