風紀副委員長はギリギリモブなはず…

そう

文字の大きさ
6 / 11

野良猫がなつくまで

しおりを挟む
凰学園に来てまだ数週間ほどだったころだ。
俺は“外部生”というだけで、校内では珍獣扱いされていた。

名家の子息しかいない学園の中に、ぽっと入ってきた一般家庭の子供。
しかも華奢で、背も平均より少し小さくて、よく“中性的”“綺麗”だのなんだの言われていた。

(いや、俺は普通の男子高校生なんだけど……!)
(勝手に珍しく扱わないでくれ……!)

そんなわけで、目立ちたくない俺は授業が終わるとそっと中庭で人混みを避けていた。

その日の夕暮れ、ベンチに腰掛けてぼんやり空を眺めていると――

「……にゃあ」

足元から小さな声が聞こえた。

「え?」

植え込みの間から、小さな黒猫が顔を出していた。
まだ子猫に近いサイズで、痩せていて、毛並みがやや荒れている。

「……お前、どうしてこんな名門学園に……?」

鳳凰学園は山奥にあって、学園周囲は完全に管理されている。
野良猫なんて、普通入り込めないはずだ。

ゆっくりしゃがんで手を伸ばすと、猫はびくっと後ずさった。
けれど、逃げる様子はない。
警戒しながらも、どこか人恋しそうにこちらを見てくる。

(……なんか分かる気がする。俺も今そんな顔してるわ)

慣れない環境、周りの“お坊ちゃま”への距離感、外部生としての居心地の悪さ。
猫の様子が、自分自身みたいに思えて胸がちくっとした。

「……腹、減ってるのか?」

鞄に残っていたパンを小さくちぎり、猫の前に差し出す。
猫は少しだけ迷った後、そろりと近寄ってきてパンを食べ始めた。

「……かわ……」
気づいたら声が漏れた。

その時だ。



◆ 突然の怒声

「そこの君! 校内で動物への餌付けは禁止だ!」

「うわぁ!?」

反射的に変な声が出た。
振り返ると、長身で制服の着こなしが完璧な男が立っていた。
しかも風紀委員の腕章。

(あ……やばい……!!)
(外部生が初手で怒られたら、確実に悪目立ちするやつ!!)

必死に立ち上がり、深々と頭を下げる。

「す、すみません! ちょっと目が合って……その……!」

「目が合って餌付けするな!」

「で、ですよね……!」

委員長は俺を睨んでいたが、ふと猫を見ると表情が変わった。
驚くほど優しい目でしゃがみ込む。

「……随分痩せているな。このままでは弱ってしまう」

俺はぽかんとした。

(あれ? この人……怖いだけじゃないの?)

学校一真面目と言われている風紀委員長が、痩せた子猫にそっと手を伸ばす。
猫は警戒しつつも、俺の足にぴとっと寄り添った。

「みゃ……」

「あ、あの……また餌付けじゃないですよ!?これは事故で……!」

「分かっている。佐倉君、君は優しいな」

「えっ……」

初対面で、名前まで把握しているらしい。
外部生は珍しいから……覚えられてたのか?

委員長は真剣な声で言った。

「この猫は追い出すより保護すべきだ。弱っている命は優先だ」

「……そうなんですね」

「だが、校内の動物管理は本来風紀委員の仕事だ」

そこで、俺の肩に手を置き、

「佐倉君。君も協力してくれ」

「え? なんで俺……?」

「猫が君になついている。自然な相性というやつだ」

確かに猫は、俺の足元で喉を鳴らしている。

「……にゃ」

(え、なにこれ。もしかしなくても、俺……スカウトされた?)

「猫の保護は人手がいる。風紀に入る意思はあるか?」

「いやいやいや、俺、目立つの嫌なんですけど!?」

委員長は微笑んだ。
普段厳しい人ほど、この笑顔の破壊力がでかい。

「大丈夫だ。風紀は裏方だ。モブのままでいられる」

「モブ……?」

「目立たず真面目に働く。君に向いている」

(あ、こいつ俺の性格見抜いてる!!)

猫はまた俺にすり寄ってくる。

「……にゃぁ」

「………………じゃあ、その……手伝いだけ、します」

「よし。今日から君は風紀だ」

「えっ、今ので即決!?書類とかは!?」

委員長は胸を張って答えた。

「書類は後でいい」

(バカ真面目に見えて、案外雑なんだよなこの人……!)

こうして俺は、
野良猫と、やたら真面目で不器用な委員長に巻き込まれ、
気づけば風紀委員になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

天使な坊っちゃんの護衛中なのに、運命の相手がしつこすぎる。

濃子
BL
はじめて会ったやつに「運命の相手だ」、って言われたら?あんたならどうするーー? ーーおれは吉備川 翠(すい)、明(あかる)坊っちゃんの護衛兼屋敷の使用人だ。坊っちゃんが男子校に行くことになり、心配した旦那様に一緒に通わされることになったんだけど、おれ、2つ上なんだよね。 その上、運命の相手だ、なんていう不審者にもからまれて、おれは坊っちゃんを守ることに、生命をかけてるんだよ、邪魔はしないでくれーー! おまけに坊っちゃま高校は、庶民には何もかもがついていけない世界だし……。負けるな〜!おれッ! ※天使な坊っちゃんの護衛をがんばる、ギャグ多め、たまにシリアスな作品です。 ※AI挿絵を使用していますが、あくまでイメージです。指のおかしさや、制服の違いなどありますが、お許しください。 ※青春BLカップに参加させていただきます。ギャグ大好きな方、応援よろしくお願いします🙇

処理中です...