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飾り過ぎラブレター、さようなら3
しおりを挟む「よし……書くぞ!」
今宵、このおれは生まれて初めてラブレターを書こうと思っている。あの店員……あの女の子への想いを熱く綴ってやろうと意気込む。
「ん……」
しかしいきなりつまづいた。出だしからして難しいやんけ! と思った。そして他の人はいったいどうやってラブレターを書いているんだ? と、ネット検索へと脱線する。
「なんせラブレターだからな、しかもこっちが年上……かっこう悪い文なんか書くわけにはいかない。ここは大人のラブレターとして飾らないと」
おれは立派な事をつぶやきながら書き出してみるのだけれど、なぜこんなに難しいのだ! と思った。そしてもうひとつ……なぜ書いているとわざとらしいような感じがするのだろうと不思議に思ったりもする。
「あぁ、くっそなんでこんなにむずかしいんだ」
おれは文才がない自分を呪いたくなる。こんな事なら学生時代に国語を一生懸命やって、文芸部に身を置いて毎日文章を綴りまくればよかったと後悔が沸く。
「待てよ……こんなに難しいのであれば……いっそのこと……究極の一文ラブレターにしたらどうだ? あなたが好きです! とだけ書いて渡すとか……もしかして意外といいかも……」
奮闘して疲れたとき、おれはそうつぶやき試しにやってみる事とした。紙のど真ん中に巨石みたいなデカイ文字で書いてみた。
―あなたが好きですー
書いて思った……ほんの一瞬だけれど、もしかしてこれイケる? なんて思った。しかし次の瞬間にはゾッとして顔をブンブン横に振った。
「これがイケるわけあるか。あなた好きですとしか書いていないラブレターなんぞ小学生みたいじゃんかよ」
そこでおれはネットに転がっている恋愛小説というのを見まくる事にした。参考にならないだろうか、ステキな恋文を綴るのに役立つ何かは転がっていないだろうか? と思いながらあれこれ見まくった。
「なるほど……こういう表現もあるのか。おれにはまったく思いつかないな」
おれはいいと思った表現を切り抜き並べ、それらを使わせてもらう事にした。それはなんとなくコラージュみたいって気もしたが、とにかく飾りのない無能な手紙なんかを書いてはいけないと言い聞かせ、これならどうよ? と何度も思いながらラブレターを綴る。
「おぉ!」
おれは3時間もかけてラブレターを完成させた。それはあきらかにおれが書いたとは思えないモノだった。他でもないおれが思うのだからまちがいない。おおよそ自分の言葉でまとめたとは言えない。まるで自分が他人になって書いた文みたいだ。
「でも……これって非常に大人の文って気がする。これなら恥ずかしくないはず、さしずめ100万円するブランドのバッグみたいな感じじゃないかな」
おれはこの手紙を渡そうと決心した。自分らしさは欠けていると思ったけれど、好きだって事はちゃんと書いてある。そして人に見せてもだいじょうぶな、それこそ一級の恋愛ポエムみたいな完成度を誇っているのだから、これなら渡しても恥ずかしい事にはなるまいだ。
「えっと、今日は何曜日だったっけ?」
おれはカレンダーを見て日曜日に行こうと決心した。もしあの子に会えないとかいうのであれば、会えるのはいつですか? と他店員に聞くとも決めた。たとえ怪しまれても通報されてもいいと、けっこう攻めなキモチになっていた。
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