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魔法のTシャツ(巨乳・貧乳どっちにも味方してくれる!)・後編

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 魔法のTシャツ(巨乳・貧乳どっちにも味方してくれる!)・後編


ー誰も優子を気にしないー

 びし! っと伝わるのはそういう空気だった。誰もまな板の優子を見ようとしない。まるで道端の石ころという感じで知らんぷり。

 男子とか男性なんて、優子の乳をチラ見するのがお約束だった。でもまな板になってみると、見る気ねぇよ! っていじわるなオーラが漂っている。そんなこと、優子にとっては久しぶりすぎて衝撃だった。

「ね? 誰も優子なんか見ないでしょう?」

「ぅ……」

 見られてもうれしくない! と言いたいところだが、誰も見ないと言われたら、それはそれでさみしさとか物悲しさをおぼえる。

「それに比べてわたしの胸は見られまくりだよ」

 オホホと笑う香苗だった。事実、行き交う人間の多くが、特に男子や男性は香苗の乳具合を一瞥する。チラ! っと抜け目なく職人のように見る。それは本当なら優子が独占するはずのモノだった。

ーおぉ、小学生だけど巨乳気味かー

 そういう心の声が聞こえる。むろんそれは香苗に対する賛辞であり、横にいる優子はどうでもよい存在。

「ま、まぁ……見られないから気が楽でいい」

「今だったら誰も優子の胸を触りたいとか思わないだろうねぇ」

「べ、べつに思われたくないし」

「優子、声がふるえてるよ。もしかしてくやしいの? あるいはさみしいの?」

「ち、ちがうし!」

 そんな会話をやっているとき、ひとりの中学生らしき男子が後ろから駆けてきた。急ぎの用事でもあるのかな? と思いきや、フッと優子の方を見た。そして露骨なまでに顔と声で示したのである。

「なんだ……全然胸がないじゃん、期待ハズレかよ……」

 つまりこのスケベ野郎というのは、後方から優子を見た時、こいつは乳のデカい女! と勝手にコーフンした。その期待がうらぎられてしまい、よっぽどがっかりしたのか、やや大きめの声で言うのだった。

「期待をうらぎるようなまな板は家に引っ込んでりゃいいんだよ」

 そういってケケっと笑いサッサと立ち去って行った。

「むかつくぅ!」

 ぐぎぎ! っと怒りをにじませる優子だった。

「まぁまぁ、内側にはデカくてやわらかいのがあるんだからさ、ああいう奴はバカにして笑ってやればいいじゃん」

「で、でもまな板とかって……」

「あぁ、優子はまな板と言われた事がないからねぇ」

 一応気づかう香苗だった。でもその目は自己満足の方にひたっている。行き交う人間がチラッとふくらみを見れば、デザートを勝ち取ったかのようによろこぶ。

「ったく……どいつもこいつも」

 香苗の真横を歩きながら優子は腹が立った。誰も自分を見ない。今まで散々に豊満バストを見入っていたくせに、手のひらを返したように見ない。お前なんかに興味はないという、アウト・オブ・眼中って感じだ。

 そのくせ香苗の方をチラ見するやつは多い。お! もしかして巨乳か!? って目を一瞬向けたりする。

「香苗、胸ばっかり見られてイヤにならない?」

「全然。むしろめっちゃくちゃ快感。これだけでイキそうだよ」

 香苗に浮かぶ大満足の顔。特大の余裕を持ったという顔だ。いかなる苦悩も乗り越えられるという笑みである。

「でも香苗、そろそろ着替え直した方がよくない?」

 優子はちょっと不安気な声を出す。このまま家に帰ると家族に見られる。どっちの家族もびっくりすることは確実。

「大丈夫、うちのお母さんはユーモアーが備わってるから」

「ユーモアーの問題なの?」

「優子のお母さんはダメなの?」

「絶対につっこまれると思う」

「だったらさ、これくらいいいじゃん! とか言い返すんだよ。それが小6の乙女ってもんだよ、ちがう?」
 香苗のかっこうよい言いっぷりに優子はシビレた。その気になりやすいって特徴のど真ん中に硬球がヒットした。

「うん、このまま帰るよ」

 2割くらいのドキドキと8割ほどの勇気。その融合体を胸のふくらみに入れ込んで、優子は自宅に戻った。

「ただいま」

「おかえり」

 母の声というのはトイレから聞こえた。あぁ、今なら間に合う、さっさと手洗いして二階の部屋に入ろう! と、早くも乙女心は弱っちいモードに降格していた。でもそれを神さまがダメだと叱咤する。

 洗面所から出たとき、母もトイレから出た。めでたくご対面というメロディーが空気中に流れる。母は特に気にせず居間へ行きかけた。でもすぐにビリっと反応を示して、慌てて体の向きを変える。

「は? ゆ、優子?」

 大げさなほど両目をパチクリさせる母。

「な、なに?」

 ドッキン・ドッキンと心臓が緊張で固くなる優子。

「優子でしょう? 優子だよね?」

 得体のしれない魔物でも見るような目をして、母はそっと左手を伸ばした。ドキ! っとしたが動けない優子、冷や汗しながら制止。

 母の手は娘の頬にふれた。あぁ、このふっくらと色白の融合。これはまちがいなく優子だと思うのだが、それならこれは? という風に目線を下げていく。

「な、なに?」

「優子、どうしたの? なにこれ? おっぱいは?」

「あ、あるよ……」

「どこに? なんで母より大きいおっぱいがまな板になるわけ? 朝はあったじゃん、あれどこにやったの?」

 少々コーフン状態の母は、真っ赤な顔の優子をつよく揺さぶる。ローマは一日にならず! とはいうが、地球崩壊も一日ではあらず! とか力説している。

「こ、これはその魔法のTシャツで……」

「魔法だぁ?」

 母の顔にイラっと感がうかぶ。魔法なんて聞いて、あ、そうなんだ? とは言えないらしく、ふざけんなよ! という目つきになってきた。
 
 そこで娘は仕方なく、ちょっと触ってみてよと訴えた。もちろん母はすぐに行動する。相手の恥じらいなど無関係に、サッと手を動かしピタ! っと平面Tシャツの胸へとあてたのだった。

 ぼわん! ムニュ! っと豊かでやわらかい弾力が、すごい手触りとか揉み応えというモノが、母の手に当たる。外見からは想像できなかったモノに対して、母の脳内はブシューっと軽快な音を鳴らした。

「え? こ、この大きさとかやわらかい弾力とか……」

「ちょ、ちょっとお母さん」

 優子の慌てる反応なんぞに興味はない! とばかり、母は攻撃するかのようにTシャツをまくり上げた。

 プルン! ゆれ動いた白いフルカップ、そして優子の第二フェイスともいえる魅惑の谷間などが姿を現す。

「えぇ? 優子……こ、このおっぱい、どうやって隠してた?」

「だからその、これは魔法のTシャツなんだよ」

 優子はTシャツをまくり上げられたまま、ブラのふくらみや谷間を見つめられたまま、本日の出来事をわかりやすく語った。それを聞く母の顔っていうのは、どうしたの? なんて思うくらい真剣だった。

「さ、300円? このTシャツが?」

「うん、だからさっくり買えたんだよ」

 ここで数秒ほどの間が生じる。スワーっと薬品みたいな感覚が家中に満ちあふれる。そうして母は突然に、買い物を忘れていたと口にする。今からでも行ってくるわ! と、いきなり忙しいみたいに変貌した。

 買い物かぁと小さな声でつぶやく娘。なんとなく母のやりたいことが分かった。でも止めるっていうのはできそうにないとも感じた。

「なんかつかれた……」

 ほんのり疲労を精神に抱え、ゆっくり階段を上がっていこうとする優子。すると母と入れ替わるようにして、中野家のおっぱい星人こと真治が帰宅。

「ただいま」

 小4ボーイの声を聞いたとき、小6の姉は足を止めた。ここはぜひとも弟の反応を見たいと思った。いや、見るべき! という気さえした。

 真治は手洗いを済ませると、ノドの渇きを解決しようと居間でジュースを飲むことにする。トクトクと音を立てるオレンジ色の液体が、透明グラスに注がれていく。それを左手に持ち、クッと顔を傾ける。

「真治、ちょっと」

 ここで姉が居間にやってきた。

「うん?」

 深くかんがえる事もなく、クイっと姉の方を見る弟。するとオレンジジュースを気前よくテーブルに吹き出してしまう。

「ゴホゴホ……ぅ」

 慌ててティッシュをつかむ。ズワーっとテーブルを拭いた後、もう一枚でおのれの口を拭く。そして先ほどの母みたいな目をやる。

「なに? どうした?」

 フン! っと冷静に立つ姉。

「な、何って……」

「だから言いたいことがあるなら言えって」

「ほ、ほんとうにお姉ちゃんなの?」

「どういう意味?」

「だ、だって……お、お、おっぱいが……」

「はぁ? おっぱいがなんだって?」

「おっぱいが消えてる?」

 そういうとゴクリ生唾を飲んだ。今の姉から見えるのは、着痩せでもなければ乳隠しでもない。もはや別体への移動という感じそのもの。中野優子の弟して、これほど驚くことは他にない。

 対する優子はたのしみたいので、まぁ仕方ない! みたいな表情をして言うのだった。これからはずっとこうなんだよねぇと。

「ず、ずっと?」

「実はさ、おっぱい小さくする手術したんだ」

「うそ!、マジで?」

「だってさ小6で巨乳とか女神過ぎるじゃん? これからは平凡な女になろうと思ったんだ」

 通常ならこんなウソは通じない。でも魔法Tシャツを着ていれば、このようなウソもリアルとして人を信じさせる。

「じゃぁ、もう巨乳じゃないの?」

「うん、もう終わったんだ」

「あ、あのおっぱいはもうないの?」

「ないよ。でもさ、今の方がよくない?」

 そう言って軽く両腕を広げる。その内側にはフルっと揺れるふくらみがあっても、表向きは真っ平ら。それは真治の顔つきを、ずいぶんさえないモノに切り替えさせていった。

「べつに……いいんじゃないの」

 まったくやる気のない声と顔。真治の変わりっぷりは電流のように速く、もうすでに優子を見ようとしはない。興味の対象外、見る価値なし、横にいたってチラ見さえする気なしと顔に書いてある。

「真治、こっち見なさいよ」

 誘ってみれば従いはするが、つまらなそうな目が印象的だ。そこには優子を見るとき専用の、ドキドキしながらチラチラ! って色合いが皆無。まるっきりつめたい人って目線そのもの。

「じゃぁぼく宿題してくるから」

 さようなら! と別れを告げるような声色。

「まったくなんてやつ!」

 うぐぐ! とご立腹な優子だった。豊かなふくらみばかり見られると、それはそれでイライラさせられる。弟が姉の心をイラつかせた回数はもはや天文学的数字。しかしまったく興味がないって豹変されると、別のイラつきが発生してしまう。

「こうなったら……ひたすらこのTシャツで生活してやる」

 優子があつい決意を固めた。ほんとうに消えてしまうわけじゃないから、内側にはふっくらやわらかい弾力はちゃんとあるから、外側が貧しくなっても関係ない。むしろ見た目に反するお金持ちって考えればよいとした。

「ただいま」

 ここで母の帰ってきた声と音がする。ついで優子の名前を呼ぶ声もする。

「なに?」

 魔法Tシャツを買ったのかな? なんて思っていたら、クイクイっと応接間に手招きされた。

「優子、これあんたにあげる」

 そう口にする母は、買い物袋からすっきり感のあるパープルTシャツを取り出す。それはたしかに優子に合いそうだった。

「あ、でもね、魔法Tシャツと交換よ」

「へ? こ、交換?」

「そ、小学生が偽りの人生送っちゃダメ。女は正直に生きないとダメ、だからそれはわたしがもらうわ」

「えぇ、そんな急に言われても……」

「大丈夫、それMサイズでしょう? わたしでも着れる」

「そういう問題じゃないよ」

 ここは突っ込ませてもらおうと優子が口を開く。女は正直にとかいうが、魔法Tシャツを欲しがる時点で、母もまた正直にあらず。言ってみれば不誠実というモノ。

「大人はいいのよ、子どもはダメって事なのよ」

「えぇ、それってワガママっぽくない?」

「いいから! あとで魔法Tシャツ持ってきなさいよ?」

「お母さん、一応Cカップあるじゃん、わざわざこのTシャツ着なくてもいいじゃん。まだ欲望とかあるわけ?」

 やれやれと小6の娘があきれると、母はバカ正直な声で反論した。娘を超えた巨乳になって優越感を味わいたいんだよと。

 母の強烈な押しに優子は負けてしまった。仕方ないねと言った後、この魔法Tシャツはすごいよと室内の空気を切り替える。

「さっき買いに行ったら売り切れてた」

 素直に自分の行動をうちあける母。すべての女のキモチに寄り添うこのTシャツは、一生の宝物にしなきゃいけないよねと、まるで女子高生みたいなノリで語ったりするのだった。

「そうよ、優子には巨乳が似合ってる。大きくてやわらかいおっぱい、それでこそ中野優子よ」

 魔法Tシャツをゲットできるとあって母は浮かれている。でもそれ以上にウキウキしているのが、ドアの外で盗み聞ぎしていた真治だった。

(そうか……やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんなんだ!)

 母娘の会話を聞いていた真治はホッとした。大切なモノを失わくて済んだって、そんな感じで深呼吸をかます。それから居間に入ると、応接間から出てきた優子と、バッタリ出くわしたという演出をこさえた。

「お姉ちゃん」

 ニコニコ顔で優子に声をかける。

「なによ」

 ブルーデーを思わせるほど不機嫌な優子。

「ぼくさぁ、お姉ちゃんはやっぱり魅力的だと思うんだ」

「は?」

「うん、お姉ちゃんは魅力的な女の子。そう思う」

「急になに?」

「なんでもないよ、ただ大切なキモチを言っておきたかっただけ」

 純真ボーイって印象的な笑顔で、真治は手を振ると先に階段を上がっていった。なんだあいつ? と首をかしげたものの、悪い気はしない優子だった。魔法Tシャツが母の手に渡っても、別にいいかと大きな心で思うことができていた。
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