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第一章
四幕『相克する二輪は雌雄を決す(?)』
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──時刻は午後一時を回る頃。
セレナード城の敷地内にある開放的な大広間は中心に巨大な噴水が設置されており、この場所は城内で随一の優雅さを誇る。よって本来は騎士や給仕達に憩いの場として使用されている大広間、しかし現在は二人の騎士によって剣呑な雰囲気に取り巻かれていた。
「──っしゃあ、いつでもいいぜ、ウェスタ。今日こそ俺が上だってことを示してやる!」
東に立つ少年は片手で荘厳な大剣の剣先を西に立つ少女に向けていた。その顔は戦いを目前に控えているためか、猛虎のように睨みを利かせている。
「ふふ。モードレッド、そんな構えで大丈夫ですか?」
西に立つ少女は装飾の施された宝剣を地面に突き刺し、その柄に手をかけたままくすりと微笑んだ。それは余裕の表れ、仮に今模擬試合を始めてしまえば少年は二合ももつまいと踏んでいる。
それぞれの名はウェスタ・アイテール、モードレッド・テトラ。近衛騎士団副団長と四星騎士の模擬試合を間近で見物できるため、大広間を囲むように騎士や給仕が大勢押しかけていた。
「あの、四星騎士と精鋭って何が違うんですか?」
見物に来ていた若騎士が尋ねる。その疑問に答えたのは隣で見ていた年嵩の男だ。
「そうか、お前は今年入団した新人だったな。精鋭ってのは上位一パーセントの人間しかなれない選りすぐりの人間だってのは知ってるよな?」
「それくらいなら……」
「四星騎士はその上位互換、別格だ。個々が特殊な魔力を体内に秘めていて、普通の人間とは比較にならない破格の強さを持っている。四星騎士は王に忠誠を示すために家名を捧げ、『テトラ』の姓をもらい受ける。王が認めた精鋭の精鋭……まあ、まず普通の人間じゃあなれねえな」
乾いた笑いをする男は、いまいちしっくりきていない若騎士に「とりあえず見ればわかる」とだけ伝えた。若騎士はその情報を頭の片隅に留めておき、視線を噴水前で向かい合う二人へ向けた。そして、すぐに目を瞠ることとなる。
──一瞬にして、その場にいた全身の視界からウェスタの姿が消え去った。
「──そこか!」
騎士団随一の俊敏さを誇るウェスタが刹那にしてモードレッドの背後へ回り込む。手加減が一切ない、ウェスタは殺気を纏わせた宝剣を振りかぶる。しかし、唯一ウェスタの移動を目で捉えていたモードレッドは獰猛な笑みを浮かべ、身を翻して迎え撃つ。
鋼同士がぶつかり合い、弾ける。轟音が響き渡り、発生した風圧に多くの見物人が仰け反った。
「成長しましたね、モードレッド!」
「あたりめーだろ! 何度もその速度にまかれてたまるか!」
ウェスタは空中で身を捻り、立て続けに二合目が弾ける。モードレッドはとても細見の少女のそれとは思えないほどの重い一撃を自身の腕力のみを駆使して耐えてみせるが、やはり顔が歪んだ。地面が沈み、モードレッドは体勢を崩す。
「うぁらああっ!」
「──⁉」
追いつめられたモードレッドが取った想定外の反撃にウェスタは瞠目した。大剣を手放し、モードレッドは肉薄したウェスタの首を引っ摑もうと手を伸ばしたのだ。次の一手に向けて剣を振りかざしていたウェスタは為すすべなく、その手中に首をおさめてしまう。
直後、モードレッドはけたたしい咆哮と共に力任せにウェスタを放り投げる。飛ばされたウェスタは中央の噴水に激突し、全身に水を浴びながら見物する騎士達の手前まで転がった。
「いったたぁああ~」
だが、ほとんど無傷のウェスタは噴水に直撃した頭を擦りながら立ち上がった。しかしそれを見たモードレッドが驚愕することはない。彼は態勢が崩された故に距離を取ろうとウェスタを投げただけであって、あれでダウンが取れるなどとは端から考えていない。
「……行くぜ」
転がっていた大剣を拾って握りしめ、モードレッドは凶悪な笑みで地を強く踏みしめる。対峙するウェスタもまた微笑み、宝剣を正眼に構える。今度は受け身に徹し、間隙を狙おうと企てたところで。
『緊急連絡。四星騎士及びアルカヌム近衛騎士団副団長ウェスタ殿に勅令。至急、玉座の間に集合せよ』
短い放送が流れると、二人は途端に殺気を雲散させる。モードレッドは鼻白んでいたが、ウェスタは嫌な予感を覚えていた。両者は共に剣を鞘に収め、鎧についた埃を払う。
「ほら、聞いたろてめーら! とっとと鍛錬やら給仕やらに戻りやがれ!」
モードレッドの声がかかると、見物していた者達は蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻っていった。
「もう、モードレッド。そんな言い方ばかりしてるから元老院に敵視されるのですよ?」
「けっ。あんな形骸化したじじい共にいくら嫌われよーが関係ないね。それより、早く行くぞ遅刻魔」
「あー! それは流石にひどい! ひどすぎます! 元老院には何言ってもいいけど、私のコンプレックスだけはいじるの禁止ですー!」
べーっと舌を出して挑発するモードレッドを追いかけるウェスタ。傍から見れば仲のいい姉弟のようだ。
破壊された噴水や、捲れ上がった地面。セレナード城きっての憩いの場であるはずの大広間は二人の騎士によって見るも無残になっていた。そしてそれを見かけたアルトリウスがどうするのかは皆まで言わずともよいだろう。
セレナード城の敷地内にある開放的な大広間は中心に巨大な噴水が設置されており、この場所は城内で随一の優雅さを誇る。よって本来は騎士や給仕達に憩いの場として使用されている大広間、しかし現在は二人の騎士によって剣呑な雰囲気に取り巻かれていた。
「──っしゃあ、いつでもいいぜ、ウェスタ。今日こそ俺が上だってことを示してやる!」
東に立つ少年は片手で荘厳な大剣の剣先を西に立つ少女に向けていた。その顔は戦いを目前に控えているためか、猛虎のように睨みを利かせている。
「ふふ。モードレッド、そんな構えで大丈夫ですか?」
西に立つ少女は装飾の施された宝剣を地面に突き刺し、その柄に手をかけたままくすりと微笑んだ。それは余裕の表れ、仮に今模擬試合を始めてしまえば少年は二合ももつまいと踏んでいる。
それぞれの名はウェスタ・アイテール、モードレッド・テトラ。近衛騎士団副団長と四星騎士の模擬試合を間近で見物できるため、大広間を囲むように騎士や給仕が大勢押しかけていた。
「あの、四星騎士と精鋭って何が違うんですか?」
見物に来ていた若騎士が尋ねる。その疑問に答えたのは隣で見ていた年嵩の男だ。
「そうか、お前は今年入団した新人だったな。精鋭ってのは上位一パーセントの人間しかなれない選りすぐりの人間だってのは知ってるよな?」
「それくらいなら……」
「四星騎士はその上位互換、別格だ。個々が特殊な魔力を体内に秘めていて、普通の人間とは比較にならない破格の強さを持っている。四星騎士は王に忠誠を示すために家名を捧げ、『テトラ』の姓をもらい受ける。王が認めた精鋭の精鋭……まあ、まず普通の人間じゃあなれねえな」
乾いた笑いをする男は、いまいちしっくりきていない若騎士に「とりあえず見ればわかる」とだけ伝えた。若騎士はその情報を頭の片隅に留めておき、視線を噴水前で向かい合う二人へ向けた。そして、すぐに目を瞠ることとなる。
──一瞬にして、その場にいた全身の視界からウェスタの姿が消え去った。
「──そこか!」
騎士団随一の俊敏さを誇るウェスタが刹那にしてモードレッドの背後へ回り込む。手加減が一切ない、ウェスタは殺気を纏わせた宝剣を振りかぶる。しかし、唯一ウェスタの移動を目で捉えていたモードレッドは獰猛な笑みを浮かべ、身を翻して迎え撃つ。
鋼同士がぶつかり合い、弾ける。轟音が響き渡り、発生した風圧に多くの見物人が仰け反った。
「成長しましたね、モードレッド!」
「あたりめーだろ! 何度もその速度にまかれてたまるか!」
ウェスタは空中で身を捻り、立て続けに二合目が弾ける。モードレッドはとても細見の少女のそれとは思えないほどの重い一撃を自身の腕力のみを駆使して耐えてみせるが、やはり顔が歪んだ。地面が沈み、モードレッドは体勢を崩す。
「うぁらああっ!」
「──⁉」
追いつめられたモードレッドが取った想定外の反撃にウェスタは瞠目した。大剣を手放し、モードレッドは肉薄したウェスタの首を引っ摑もうと手を伸ばしたのだ。次の一手に向けて剣を振りかざしていたウェスタは為すすべなく、その手中に首をおさめてしまう。
直後、モードレッドはけたたしい咆哮と共に力任せにウェスタを放り投げる。飛ばされたウェスタは中央の噴水に激突し、全身に水を浴びながら見物する騎士達の手前まで転がった。
「いったたぁああ~」
だが、ほとんど無傷のウェスタは噴水に直撃した頭を擦りながら立ち上がった。しかしそれを見たモードレッドが驚愕することはない。彼は態勢が崩された故に距離を取ろうとウェスタを投げただけであって、あれでダウンが取れるなどとは端から考えていない。
「……行くぜ」
転がっていた大剣を拾って握りしめ、モードレッドは凶悪な笑みで地を強く踏みしめる。対峙するウェスタもまた微笑み、宝剣を正眼に構える。今度は受け身に徹し、間隙を狙おうと企てたところで。
『緊急連絡。四星騎士及びアルカヌム近衛騎士団副団長ウェスタ殿に勅令。至急、玉座の間に集合せよ』
短い放送が流れると、二人は途端に殺気を雲散させる。モードレッドは鼻白んでいたが、ウェスタは嫌な予感を覚えていた。両者は共に剣を鞘に収め、鎧についた埃を払う。
「ほら、聞いたろてめーら! とっとと鍛錬やら給仕やらに戻りやがれ!」
モードレッドの声がかかると、見物していた者達は蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻っていった。
「もう、モードレッド。そんな言い方ばかりしてるから元老院に敵視されるのですよ?」
「けっ。あんな形骸化したじじい共にいくら嫌われよーが関係ないね。それより、早く行くぞ遅刻魔」
「あー! それは流石にひどい! ひどすぎます! 元老院には何言ってもいいけど、私のコンプレックスだけはいじるの禁止ですー!」
べーっと舌を出して挑発するモードレッドを追いかけるウェスタ。傍から見れば仲のいい姉弟のようだ。
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