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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第七十話 屋敷に帰宅したけど
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さて、次はどこに行くとするか。食べ終わったばかりだし、急激な運動はやめた方がいいよな。ま、適当に見て回るか。
「一つ聞きたいことがありますわ」
「なんだ?」
「どうして、昼食をあのお店にしたのですの?」
「理由はそこまでないな。ただイザベラの家でもそうだったが、洋食を食べる事が多いと感じたからな。たまにはあまり食べない物でも出した方が目新しさがあって良いかもって思っただけだ」
「では、どうしておにぎりの具をあれにしましたの?」
「嫌だったか?」
「いえ、どうしてなのかと思いまして」
「別にたいした理由じゃないぞ?」
「それでも構いませんわ」
「食べるなら美味しく食べたいだろ?で、今日イザベラたちと体を動かしたって言ってたからな。塩分が摂れるものが良いんじゃないかって思ってな。で尚且つ満足してもらうにはって考えた結果、あの三品になっただけだ」
「そ、そうですか」
(私が話した内容から私の状態を考えて具を選び、尚且つ楽しめるようにと……この人は私が思っている以上に他人の事を気遣っているのですわ)
満足して貰えたのは本当によかった。社会人の時に何度も接待をした甲斐があったと言う物だ。
「それで、次はどこに――あ」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
アンドレアの視線の先を追いかけるとゲームセンターがあった。
「入ってみたいのか?」
「そ、そんなわけありませんわ!カピストラーノ家の跡継ぎであるこの私があのような……」
めっちゃ入りたいんだな。
「誰かが見てるわけでもないし、別に良いんじゃないのか?」
「ですから私は入りたいわけでは……」
言葉に迫力を感じないんだが。
素直かと思ったがこういう事だと素直になれないのか。なら、
「貴族として平民の暮らしを知るのも勉強の一つだ。それに跡継ぎなら色々な事を経験した方が良いんじゃないのか?意外な事で新たな発見やアイディアが生まれるかもしれないぞ」
「た、確かにその通りですわね」
「社会見学だ。入ってみようぜ」
「あっ!引っ張らないでくださいませ!」
(殿方と手を握るなんてお父様以外では初めてですのに)
ここで立ち止まっていても始まらないからな。
「ほい、入店っと」
「もう、なんて身勝手な人ですの!」
「今日は俺に全て任せるんだろ?だったら俺が行きたい場所に連れて行くだけだ」
「むぅ……仕方がありませんわね。全て任せると言ったのは私ですし。それにこれは興味があったからではなく社会勉強です。分かっていますね!」
「勿論ですとも、お嬢様」
「絶対に馬鹿にしていますわね!」
「ほら、怒ってないで何からしたい?」
「え?そ、そうですわね……あれはなんですの?」
「シューティングゲームだな。やってみるか?」
「そ、そうですわね。勿論分かっていると思いますけどこれはすべて社会見学ですわよ!」
「はいはい」
「ちゃんと聞いていますの!」
まったく見た目は美人なのに中身は子供だな。
そんな事を思いながら俺はお金を入れる。
「ほら、始まるぞ」
「ど、どうやってしますの!」
「その銃を画面のゾンビを向けてトリガーを引くだけだ」
「分かりましたわ」
ゲームを始めて30分。
『GAME CLEAR!』
一度も敵の攻撃を食らう事無く最後までクリアしてしまった。なにこの子。本当に初めてかよ。
「案外簡単でしたわね」
最後に表示されたこのお店のランキングでナンバー1になっていた。ほんと意味が分からない。チートの友人はチートなわけ?
気がつけば俺たちを囲むように人が集まっていた。
「な、なんですの。これは!」
「お前のプレイが凄くて全員が見入ってたんだよ」
「そ、そうなのですの?」
「ああ」
すると店員が大きな何かのマスコットのぬいぐるみを渡そうとする。
「おめでとうございます」
「あ、あの……」
「受け取っとけ。それはお前への賞賛と褒賞みたいなものだ」
「そういうことなら……」
パチパチパチパチ!
嬉しそうに抱きかかえるアンドレア。それにしても変なマスコットだな。
その後俺たちは色んなゲームをして遊んだ。クレーンゲーム、音ゲー、コインゲームと大半のゲームは遊んだ。結果だけ言うなら、驚きを超えて呆れた。500RKで10個のぬいぐるみをゲットし、音ゲーでは鬼モードをパーフェクトするし、コインゲームに至ってはドル箱をいったい何箱積み上げるんだってツッコミしたくなる思いだった。絶対にアンドレアがカジノのお店に入ったら一日で出禁だろうな。正直ここがゲームセンターで良かったと思うぐらいだ。
気がつけば時間は過ぎ、空は茜色になっていた。
「そろそろ屋敷に戻るか」
「あ、あの……最後にあれがやりたいのですが……」
指差した方向に置かれていたのはプリクラだった。
「別に良いぞ」
「本当ですの!」
そんなに喜ばなくても。それにしてもプリクラか。俺が学生時代はあんなキラキラしてなかったぞ。
中に入り写真を撮る。
「これで終わりですの?」
「俺もよくは知らないけど、あとはこのペンで好きな文字やマークなんかを書き込んだり、選択すればいいみたいだな」
「凄いですわね」
まったくだ。社会人になってからプリクラをする時間も考えもなかったからな。
出来上がったプリクラをアンドレアに渡す。
「ほら」
「貰って良いのですの?」
「したかったのはアンドレアだろ。なら記念に貰っとけよ」
「そ、そうしますわ」
その後はモール前でバスに乗って帰宅した。それにしても今日は随分と遊んだな。学生らしい遊びだったけどな。前世で遊びって言ったら接待麻雀かパチンコかスロットだったし。あんまりしなかったけど。
「今日はとても楽しかったですわ」
「それは良かった」
その言葉だけで安堵だぜ。全然楽しくないってだけで死刑にされたらたまったものじゃないからな。
「またの機会があればエスコートして下さいますわよね?」
「あ、ああ。機会があればな」
これで終わりじゃないのか。なんだか自分でハードルを上げた気分だ。
少し憂鬱な気分になりながら俺とアンドレアは屋敷の扉を潜ると、ちょうどイザベラたちと出くわした。
「よ」
「イ、イザベラ様……」
「アンドレアお帰りなさい」
俺は無視ですか。
「それで今まで何してたの?」
「そ、それは………」
イザベラには知られたくない理由でもあるのか?
「ちょうど屋敷前で出くわしたからな。俺が頼み込んで遊ぶのに付き合ってくれたんだ」
「え?」
「お父様の客人の貴方にとやかく言うつもりはないわ。でもね、私の大切な友人の邪魔だけはしないで頂戴」
「分かってるよ」
「アンドレア、悪いけど陣形について少し話したいの荷物を置いたら中庭に来てくれる?」
「わ、分かりましたわ!」
それだけ言うとイザベラたちは中庭の方へと向かっていった。俺が原因とは言え、頑固というか子供だよな。
「悪いな。俺のせいで巻き込んで」
「いえ、別に貴方せいでは。それよりも私のせいでまた悪者に」
「あの程度悪者になりゃしねぇよ。それに生憎と俺はこの程度で落ち込むほどメンタルは弱くないんでな。気にしなくて良いぜ」
「ですが……」
「それより早く荷物を置いて向かった方が良いんじゃないのか?」
「そ、そうですわね!」
そう言ってアンドレアは二階にある客室に向かった。
たった一つの出来事が友人関係を破壊することはあるだろうとは思っていたが、これほどとはな。原因の渦中の俺が言えた義理じゃないか。
「遊んだし一緒に風呂入るか、銀」
「ガウッ」
銀を抱きかかえて俺たちも寝室へと向かった。
この状況になってから俺は食堂で食事をしていない。理由は勿論俺が食堂に居ると食堂の空気が異様に重たくなるからだ。それを避けて俺は自分から食堂に行くのをやめた。勿論あとでセバスが食事を持ってきてくれるから別にきにしたりはしない。俺にとって大事なのは食事があるかどうかだからな。
トントン。
お、夕食を持ってきてくれたみたいだな。
「どう――」
「入ります」
この声と傲慢な態度。
「何しに来たアスル」
「貴方に餌を持った来たに決まってるでしょ」
「俺はペットか!」
「由緒正しいルーベンハイト家で貴方のようなペットを飼うわけないでしょ」
「なら、なんだ?」
「家畜です」
「ペット以下かよ!」
ほんと、コイツと話すと無駄に疲れる。
「さっさと夕飯をおいて出て行けよ」
「言われるまでもありません」
テーブルに夕食を置く。うん、どうやら普通のサンドイッチだな。毒は入ってなさそうだ。
床にステーキを置いて俺と銀は夕食を堪能する。美味しい。相変わらず料理長のご飯は美味しいな。
「………」
「で、なんで出て行ってないんだ?」
「正直、不服極まりないないですが、私は貴方にお礼を言わなければなりません」
コイツどんだけ俺の事が嫌いなんだよ。だけど、
「お礼ってなんのことだ?」
「お嬢様を助けてくれた件です」
「知っていたのか」
「私たちカーラ姉妹はルーベンハイト家に仕える影ですので」
「なるほど。つまりは諜報活動もする暗殺者ってわけか」
「その通りです」
「で、なにか分かったのか?」
「分かっているのは、依頼主が男であるぐらいです。ただ年齢や背格好までは特定出来ていません。なにせ闇ギルドに関する情報は中々漏れませんから」
「そうなのか?」
「そう言えば貴方は無知でしたね」
心の底からの悪意を感じるのは俺だけだろうか。
「闇ギルドなる組織があること確実ですが、そのギルドがどこにあるのかまでは未だに特定出来ていないのです。またどうやって依頼を申請し、受けるのかもです」
それはもう見つけようがないだろ。前世と同じでインターネットがあるこの世界で見つけることが出来ない。それはもう亡霊としか言いようが無い。そんな組織を見つけるのは無理だ。逆に言えばイザベラの暗殺を依頼した者の性別が男であると言う事だけでも調べ上げたこいつらは影としてとても優秀だと言える。
「情報は分かった。だけど一つだけ言えることは間違いなく首謀者はまたイザベラを狙うぞ」
「それぐらい理解しています。蛆虫の貴方に言われたくはありません」
お前、俺にお礼を言いに来たんじゃないのか?
「それでは失礼します。あ、言い忘れるところでした。お嬢様を助けて頂きありがとうございました」
そう言って出て行く。全然お礼を言われた気がしないが、あいつの口から感謝の言葉が出ただけでも良しとするか。
食事を終えた俺はベッドに横になる。が、
「暇だ」
直ぐにでも寝れると思ったが全然意識が飛ぶ気配がない。
日中は結構遊んだ筈なんだがな。きっとアスルの話が気になっているせいだ。
「首謀者は男か」
イザベラを殺したいほどの憎しみを感じているとすれば考えられるのは才能の差。ぐらいだろう。どうみても時代錯誤だが、女の癖にって考えを未だに持っている奴の犯行とも考えられる。
他に考えられるとしたら学園を卒業した後だな。つまりイザベラに軍人になってもらっては困る奴の犯行。俺が知る限りアイツほど才能に恵まれた奴は居ない。銀を除いてだけど。つまりは軍人になって出世させるのが困る。となると軍の上層部の人間とも考えられるが、それなら軍に入隊したあとに事故に見せかけて殺せば良い筈。いや、イザベラ程の有名人が死んだとなれば軍の影響力が下がる危険性を考えて今殺そうとしているのか?考えられなくもないが、分かり易過ぎる気もするしな。
と、なると冒険者か?いや、一番関係が遠い職業だ。それはないか。いや、一度イザベラと手合わせをしたことのある冒険者って線もあるか。だとしてもそんな奴が闇ギルドに依頼を出してまで殺しをするとは思えないんだが。それに魔煙香の事もある。それを考えるならやはり冒険者はないな。となるとやはり軍?いや、軍でも手に入れるのは難しい筈だ。なら貴族か。だが貴族がどうしてイザベラを狙う。狙うなら普通ライオネルじゃないのか?でも最初の考えならありえるが、有名な女性の冒険者や軍人は沢山いる。イザベラを殺す理由にはならないよな。
「ああ、駄目だ!考えても答えが出てこない!」
だいたいこんな事考えるのは俺らしくないぞ!
そうだ!久々に妖精の楽園にでも行くか。この数ヶ月でもしかしたら新しい子が入っているかもしれないしな。
「一つ聞きたいことがありますわ」
「なんだ?」
「どうして、昼食をあのお店にしたのですの?」
「理由はそこまでないな。ただイザベラの家でもそうだったが、洋食を食べる事が多いと感じたからな。たまにはあまり食べない物でも出した方が目新しさがあって良いかもって思っただけだ」
「では、どうしておにぎりの具をあれにしましたの?」
「嫌だったか?」
「いえ、どうしてなのかと思いまして」
「別にたいした理由じゃないぞ?」
「それでも構いませんわ」
「食べるなら美味しく食べたいだろ?で、今日イザベラたちと体を動かしたって言ってたからな。塩分が摂れるものが良いんじゃないかって思ってな。で尚且つ満足してもらうにはって考えた結果、あの三品になっただけだ」
「そ、そうですか」
(私が話した内容から私の状態を考えて具を選び、尚且つ楽しめるようにと……この人は私が思っている以上に他人の事を気遣っているのですわ)
満足して貰えたのは本当によかった。社会人の時に何度も接待をした甲斐があったと言う物だ。
「それで、次はどこに――あ」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
アンドレアの視線の先を追いかけるとゲームセンターがあった。
「入ってみたいのか?」
「そ、そんなわけありませんわ!カピストラーノ家の跡継ぎであるこの私があのような……」
めっちゃ入りたいんだな。
「誰かが見てるわけでもないし、別に良いんじゃないのか?」
「ですから私は入りたいわけでは……」
言葉に迫力を感じないんだが。
素直かと思ったがこういう事だと素直になれないのか。なら、
「貴族として平民の暮らしを知るのも勉強の一つだ。それに跡継ぎなら色々な事を経験した方が良いんじゃないのか?意外な事で新たな発見やアイディアが生まれるかもしれないぞ」
「た、確かにその通りですわね」
「社会見学だ。入ってみようぜ」
「あっ!引っ張らないでくださいませ!」
(殿方と手を握るなんてお父様以外では初めてですのに)
ここで立ち止まっていても始まらないからな。
「ほい、入店っと」
「もう、なんて身勝手な人ですの!」
「今日は俺に全て任せるんだろ?だったら俺が行きたい場所に連れて行くだけだ」
「むぅ……仕方がありませんわね。全て任せると言ったのは私ですし。それにこれは興味があったからではなく社会勉強です。分かっていますね!」
「勿論ですとも、お嬢様」
「絶対に馬鹿にしていますわね!」
「ほら、怒ってないで何からしたい?」
「え?そ、そうですわね……あれはなんですの?」
「シューティングゲームだな。やってみるか?」
「そ、そうですわね。勿論分かっていると思いますけどこれはすべて社会見学ですわよ!」
「はいはい」
「ちゃんと聞いていますの!」
まったく見た目は美人なのに中身は子供だな。
そんな事を思いながら俺はお金を入れる。
「ほら、始まるぞ」
「ど、どうやってしますの!」
「その銃を画面のゾンビを向けてトリガーを引くだけだ」
「分かりましたわ」
ゲームを始めて30分。
『GAME CLEAR!』
一度も敵の攻撃を食らう事無く最後までクリアしてしまった。なにこの子。本当に初めてかよ。
「案外簡単でしたわね」
最後に表示されたこのお店のランキングでナンバー1になっていた。ほんと意味が分からない。チートの友人はチートなわけ?
気がつけば俺たちを囲むように人が集まっていた。
「な、なんですの。これは!」
「お前のプレイが凄くて全員が見入ってたんだよ」
「そ、そうなのですの?」
「ああ」
すると店員が大きな何かのマスコットのぬいぐるみを渡そうとする。
「おめでとうございます」
「あ、あの……」
「受け取っとけ。それはお前への賞賛と褒賞みたいなものだ」
「そういうことなら……」
パチパチパチパチ!
嬉しそうに抱きかかえるアンドレア。それにしても変なマスコットだな。
その後俺たちは色んなゲームをして遊んだ。クレーンゲーム、音ゲー、コインゲームと大半のゲームは遊んだ。結果だけ言うなら、驚きを超えて呆れた。500RKで10個のぬいぐるみをゲットし、音ゲーでは鬼モードをパーフェクトするし、コインゲームに至ってはドル箱をいったい何箱積み上げるんだってツッコミしたくなる思いだった。絶対にアンドレアがカジノのお店に入ったら一日で出禁だろうな。正直ここがゲームセンターで良かったと思うぐらいだ。
気がつけば時間は過ぎ、空は茜色になっていた。
「そろそろ屋敷に戻るか」
「あ、あの……最後にあれがやりたいのですが……」
指差した方向に置かれていたのはプリクラだった。
「別に良いぞ」
「本当ですの!」
そんなに喜ばなくても。それにしてもプリクラか。俺が学生時代はあんなキラキラしてなかったぞ。
中に入り写真を撮る。
「これで終わりですの?」
「俺もよくは知らないけど、あとはこのペンで好きな文字やマークなんかを書き込んだり、選択すればいいみたいだな」
「凄いですわね」
まったくだ。社会人になってからプリクラをする時間も考えもなかったからな。
出来上がったプリクラをアンドレアに渡す。
「ほら」
「貰って良いのですの?」
「したかったのはアンドレアだろ。なら記念に貰っとけよ」
「そ、そうしますわ」
その後はモール前でバスに乗って帰宅した。それにしても今日は随分と遊んだな。学生らしい遊びだったけどな。前世で遊びって言ったら接待麻雀かパチンコかスロットだったし。あんまりしなかったけど。
「今日はとても楽しかったですわ」
「それは良かった」
その言葉だけで安堵だぜ。全然楽しくないってだけで死刑にされたらたまったものじゃないからな。
「またの機会があればエスコートして下さいますわよね?」
「あ、ああ。機会があればな」
これで終わりじゃないのか。なんだか自分でハードルを上げた気分だ。
少し憂鬱な気分になりながら俺とアンドレアは屋敷の扉を潜ると、ちょうどイザベラたちと出くわした。
「よ」
「イ、イザベラ様……」
「アンドレアお帰りなさい」
俺は無視ですか。
「それで今まで何してたの?」
「そ、それは………」
イザベラには知られたくない理由でもあるのか?
「ちょうど屋敷前で出くわしたからな。俺が頼み込んで遊ぶのに付き合ってくれたんだ」
「え?」
「お父様の客人の貴方にとやかく言うつもりはないわ。でもね、私の大切な友人の邪魔だけはしないで頂戴」
「分かってるよ」
「アンドレア、悪いけど陣形について少し話したいの荷物を置いたら中庭に来てくれる?」
「わ、分かりましたわ!」
それだけ言うとイザベラたちは中庭の方へと向かっていった。俺が原因とは言え、頑固というか子供だよな。
「悪いな。俺のせいで巻き込んで」
「いえ、別に貴方せいでは。それよりも私のせいでまた悪者に」
「あの程度悪者になりゃしねぇよ。それに生憎と俺はこの程度で落ち込むほどメンタルは弱くないんでな。気にしなくて良いぜ」
「ですが……」
「それより早く荷物を置いて向かった方が良いんじゃないのか?」
「そ、そうですわね!」
そう言ってアンドレアは二階にある客室に向かった。
たった一つの出来事が友人関係を破壊することはあるだろうとは思っていたが、これほどとはな。原因の渦中の俺が言えた義理じゃないか。
「遊んだし一緒に風呂入るか、銀」
「ガウッ」
銀を抱きかかえて俺たちも寝室へと向かった。
この状況になってから俺は食堂で食事をしていない。理由は勿論俺が食堂に居ると食堂の空気が異様に重たくなるからだ。それを避けて俺は自分から食堂に行くのをやめた。勿論あとでセバスが食事を持ってきてくれるから別にきにしたりはしない。俺にとって大事なのは食事があるかどうかだからな。
トントン。
お、夕食を持ってきてくれたみたいだな。
「どう――」
「入ります」
この声と傲慢な態度。
「何しに来たアスル」
「貴方に餌を持った来たに決まってるでしょ」
「俺はペットか!」
「由緒正しいルーベンハイト家で貴方のようなペットを飼うわけないでしょ」
「なら、なんだ?」
「家畜です」
「ペット以下かよ!」
ほんと、コイツと話すと無駄に疲れる。
「さっさと夕飯をおいて出て行けよ」
「言われるまでもありません」
テーブルに夕食を置く。うん、どうやら普通のサンドイッチだな。毒は入ってなさそうだ。
床にステーキを置いて俺と銀は夕食を堪能する。美味しい。相変わらず料理長のご飯は美味しいな。
「………」
「で、なんで出て行ってないんだ?」
「正直、不服極まりないないですが、私は貴方にお礼を言わなければなりません」
コイツどんだけ俺の事が嫌いなんだよ。だけど、
「お礼ってなんのことだ?」
「お嬢様を助けてくれた件です」
「知っていたのか」
「私たちカーラ姉妹はルーベンハイト家に仕える影ですので」
「なるほど。つまりは諜報活動もする暗殺者ってわけか」
「その通りです」
「で、なにか分かったのか?」
「分かっているのは、依頼主が男であるぐらいです。ただ年齢や背格好までは特定出来ていません。なにせ闇ギルドに関する情報は中々漏れませんから」
「そうなのか?」
「そう言えば貴方は無知でしたね」
心の底からの悪意を感じるのは俺だけだろうか。
「闇ギルドなる組織があること確実ですが、そのギルドがどこにあるのかまでは未だに特定出来ていないのです。またどうやって依頼を申請し、受けるのかもです」
それはもう見つけようがないだろ。前世と同じでインターネットがあるこの世界で見つけることが出来ない。それはもう亡霊としか言いようが無い。そんな組織を見つけるのは無理だ。逆に言えばイザベラの暗殺を依頼した者の性別が男であると言う事だけでも調べ上げたこいつらは影としてとても優秀だと言える。
「情報は分かった。だけど一つだけ言えることは間違いなく首謀者はまたイザベラを狙うぞ」
「それぐらい理解しています。蛆虫の貴方に言われたくはありません」
お前、俺にお礼を言いに来たんじゃないのか?
「それでは失礼します。あ、言い忘れるところでした。お嬢様を助けて頂きありがとうございました」
そう言って出て行く。全然お礼を言われた気がしないが、あいつの口から感謝の言葉が出ただけでも良しとするか。
食事を終えた俺はベッドに横になる。が、
「暇だ」
直ぐにでも寝れると思ったが全然意識が飛ぶ気配がない。
日中は結構遊んだ筈なんだがな。きっとアスルの話が気になっているせいだ。
「首謀者は男か」
イザベラを殺したいほどの憎しみを感じているとすれば考えられるのは才能の差。ぐらいだろう。どうみても時代錯誤だが、女の癖にって考えを未だに持っている奴の犯行とも考えられる。
他に考えられるとしたら学園を卒業した後だな。つまりイザベラに軍人になってもらっては困る奴の犯行。俺が知る限りアイツほど才能に恵まれた奴は居ない。銀を除いてだけど。つまりは軍人になって出世させるのが困る。となると軍の上層部の人間とも考えられるが、それなら軍に入隊したあとに事故に見せかけて殺せば良い筈。いや、イザベラ程の有名人が死んだとなれば軍の影響力が下がる危険性を考えて今殺そうとしているのか?考えられなくもないが、分かり易過ぎる気もするしな。
と、なると冒険者か?いや、一番関係が遠い職業だ。それはないか。いや、一度イザベラと手合わせをしたことのある冒険者って線もあるか。だとしてもそんな奴が闇ギルドに依頼を出してまで殺しをするとは思えないんだが。それに魔煙香の事もある。それを考えるならやはり冒険者はないな。となるとやはり軍?いや、軍でも手に入れるのは難しい筈だ。なら貴族か。だが貴族がどうしてイザベラを狙う。狙うなら普通ライオネルじゃないのか?でも最初の考えならありえるが、有名な女性の冒険者や軍人は沢山いる。イザベラを殺す理由にはならないよな。
「ああ、駄目だ!考えても答えが出てこない!」
だいたいこんな事考えるのは俺らしくないぞ!
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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