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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第七十二話 恐ろしき別腹

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 一時間程して到着した空港は初めて見る空港だった。王都にある屋敷に行くときは別の空港に着陸するんだな。
 プライベートジェットを降りるとリムジンとその前に立つ一人の男性が出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、イザベラお嬢様。それとご友人の皆様。私はレイモンド・スミスと申します」
 年齢にすれば三十代後半だろうか。どこか誰かさんに似ているような気もするが。

「レイモンドはセバスの甥っ子なの」
 マジか。息子でもないのにDNAすげぇ。

「いつも叔父がお世話になっております」
「そんな事ないわ。いつもお父様や私たちの為によく仕えてくれているわ」
「その言葉、叔父が聞けば大変喜びます」
 なんて綺麗な姿勢なんだ。俺には一生無理だ。

「それではお屋敷までお送りいたしますので、ご乗車下さいませ」
 リムジンに乗った俺たちはレイモンドの運転で屋敷へと向かう。王都の屋敷は初めてだからな。少し興味がある。
 それから車に揺られること30分。
 目の前にはこれまた立派な屋敷が建っていた。
 なに、この家。いつも暮らしている屋敷よりかは確かに少し小さい気もしないではないけど、どうみてもこの屋敷だけでも他人に自慢できるレベルだぞ。

「どうぞお入り下さいませ」
 俺の驚きなど気にする様子もなくイザベラたちは普通に屋敷の中に入っていく。そうだった。俺以外全員が貴族の令嬢か息子だった。おっと忘れるところだった。

「レイモンド」
「なんでございましょう」
 初対面で呼び捨てなのに気にしないとか流石は執事。器の大きさが違う。

「セバスから渡すように頼まれた物だ」
「これはこれは、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。それで俺の部屋はどこだ?」
「はい。二階に上がっていただいて、右に進んで頂きますと名前の入った標識がございますので、お分かりになるかと」
「そうか。ありがとうな」
「いえ」
 二階に上がって部屋を探す。お、ここだな。
 扉をあけるとこれまた豪華な部屋が広がっていた。ビジネスホテルなんか比べ物にならないほど豪華で綺麗な部屋だな。この部屋に一泊するだけで数十万RKは要るんじゃないのか?
 ベッドもふかふかだ。雲に乗っているようだ。ま、実際に雲に乗ろうとすれば貫通してそのまま地面に激突して御臨終だけど。
 だけどこうも豪華すぎると逆にすることがない。暇だ。セバスに頼まれたわけだし屋敷を出るわけには行かないしな。

「よし、寝るか」
 せっかくこんなにふかふかなんだし寝ないと損だよな。

「と、その前にジュリアスたちに王都に居る事を伝えておくか。もしかしたら会えるかもしれないしな」
 こういう時グループ作っておいて良かった。全員に送る必要がないからな。

「これよし。さぁ寝るか」
 ピコーン。
 もう、返信が来たのか。誰だ?

「エミリアか。で、『明日にでも家のご飯食べに来てね』か。分かった。これで良いな」
 ピコーン。
 もう返信来たよ。
 楽しみにしてるね。か。元気なようでなりよりだが、アイツ何してるんだ?こんなに早く返信するなんて暇なのか?
 ピコーン。

「今度はフェリシティーからか」
 なら、どこかで合流して一緒に行きませんか?か。それでも良いかもな、と。ってもう既読付いたよ。って思っている間に返信が来た。どこにしますか?か。正直王都の事はあんまり分からないんだよな。出かけたのも数回だし、前はジュリアスたちが居たからなんとかなったが。

「王都の事はよく分からないから、そっちに任せる。っと」
 任せてください、か。既読と返信がほぼ同じって女子のタイピング速度パネェ。
 お、今度はレオリオから返事が来た。なになに、なら中央公園で待ち合わせでどうだ?か。ってどこだそこ?あとで調べるか。
 結局、俺、レオリオ、フェリシティー、ジュリアスは中央公園で待ち合わせして、エミリアの両親が経営しているお店に行くことになった。時間は11時から。それぐらいの時間帯ならハロルドのおっさんたちも来てるから大丈夫だろう。
 結局、メールのやりとりで一時間も時間を費やしてしまった。時間つぶしにはなったが、暇なのかって思ってしまう。これが当たり前だと思うと凄いな。俺なんて用件だけ伝えて終わりだぞ。返信見て分かったって返信して終わりだぞ。
 そんな事を思いながら俺はふかふかのベッドで夕方まで寝た。やはりベッドが違うと眠りの深さが違うな。


 次の日マップを見ながら中央公園に向かっていた。あと少しだな。
 ちゃんとハロルドさのおっさんたちが来てから外出したので問題ない。セバスにも伝えたしな。お、ここだな。
 ジュリアスたちを探していると既にベンチに座って待っていた。

「よ」
「ジン、時間厳守だとあれほど言っただろ」
「悪いな。ハロ……公爵様を出迎えないと行けなかったからな」
「そう言うことなら仕方がないが、遅れるときは連絡ぐらいするものだ」
「分かってるよ」
 元社会人としてはあるまじき失態なのかもしれないが、俺としてはどうでもいい。ま、次からは連絡しよう。ジュリアスの説教もイザベラと一緒で長いからな。

「ジンさんお久しぶりです」
「フェリシティーも久しぶりだな」
 清楚漂う服装。同世代の女子では珍しいともいえるな。

「レオリオも元気そうだな」
「おう、俺はいつも通りだぜ」
 それはなによりだ。

「それじゃ、エミリアの店に向かうか。つっても場所が分からないので道案内よろしくな」
「まったくお前という奴は」
「ジンさんはこの国の方では無いんですし、仕方がありません」
 俺の言葉に呆れ嘆息するジュリアスに対してフェリシティーがフォローを入れる。
 俺たちは電車に乗って2つ隣駅の街にあるエミリアのお店に向かった。

「それでみんなはこの二週間弱はなにしてたんだ?」
 目的地の駅に到着するまでの暇つぶしにと俺は皆に話掛ける。

「私はお父様たちと一緒に挨拶回りしてましたわ。そのせいで表情筋が痛くて」
 そう言いながらフェリシティーは可愛らしくほっぺたを揉む。って挨拶回りが必要な家ってどんな家だよ。

「俺は稽古したり、遊んだりだな。宿題がないから楽で良い」
「確かに宿題が無いのは良いよな」
 レオリオの言葉の一部に同意する言葉を口にしているとジュリアスが訊いてくる。

「そう言うジンは何をして過ごしていたんだ?」
「俺か?俺は銀を鍛えたり遊んだりだな。あとは魔物討伐に参加したりしたけどな」
「「「魔物討伐!」」」
 驚愕だったのかジュリアスたちは聞き返してくるが、他の乗客に迷惑だから静かにな。

「そうだ。詳しくは言えないがイザベラたちと一緒に禁止区域で魔物討伐だ」
「一番怠けている思っていたジンが一番経験を増やしているとは」
 あまりにも予想外だったのかジュリアスが呟く。おい、それは失礼じゃないのか?

「で、ジュリアスはどうなんだ?」
 失礼な事を呟いたジュリアスに俺は質問を投げかけた。

「私はお父様たちに頼んで稽古をつけてもらっていた」
「二週間弱ずっとか?」
「そうだ」
「学園生活最後の夏休みだってのに悲しい時を過ごしたんだな」
「うるさい!それに私たちは最終学年だ!就職するのに稽古を怠る理由が分からない」
 それもそうだな。
 内心納得していると隣に座るジュリアスが「あっ!」と何かを思い出したような表情を見せるとすぐさま俺に視線を向けて口を開いた。

「就職で思い出したが、貴族の間でお前の事が持ちきりだぞ」
 なんだその事か。

「ああ、そうみたいだな」
「知っていたのか?」
 一般常識や情報不足に関して俺は劣っていると認識しているジュリアスは知っていた事に意外そうな表情を浮かべて言った。

「イザベラから教えて貰った」
「なるほど」
 俺の言葉に納得したイザベラはすぐさま軽い笑みを浮かべた。
「おいおい、なんの話だよ」
「私たちにも教えて下さい」
 そんな俺とジュリアスの会話を聞いていたレオリオとフェリシティーが興味津々に訊いて来た。どうやら知らなかったのはレオリオとフェリシティーの方だったらしい。

「こないだのジンの決闘が貴族の間で持ちきりなんだ。で、裏ではジンについて調べまわっていると言う話だ。中には既に勧誘しようとしている者も居ると聞く。ギルドの中にもその話は既に伝わっているだろうから二学期の武闘大会で活躍すれば間違いなく色んなところからスカウトされるだろう」
 ジュリアスはきっと父親辺りから聞いていたんだろう。冒険者として活動もしている家系だがその実態はこの国に使える貴族だからな。
 
「マジかよ……」
「羨ましいです」
 驚愕の表情を浮かべたかと思えば、レオリオとフェリシティーから羨望の言葉が呟かれた。
 しかし俺には理由が分からず、なんでだ?と問い返す。

「それって就職先が用意されたようなものじゃないですか」
 そういう考えも出来るのか。俺はてっきり俺の正体を暴こうとしているのかと思ったぞ。
 でもアンドレアに勧誘されたんだったな。つまりは勧誘が一番の目的って事か。俺は勧誘の方がレアケースだと思っていたんだが。

「で、勧誘はされたのか?」
 内側に意識を向けているとジュリアスが質問してきた。

「ああ、されたぞ」
「マジで!で、どこだ?」
「アンドレアの両親が経営する会社にだよ」
「それってCWM!」
「そうだ。もしもそこで働くとなればCWMの中にある冒険者の部署で働くことになるってアンドレア本人から、そう言われたからな」
「そんな大きな会社から勧誘されたのかよ」
「凄いですね」
「ま、保留にさせてもらってるけどな」
「「「なんで!?」」」
 そ、そんなに迫らなくても良いだろう。

「他にもギルドはあるんだ。他のギルドを知ってからでも遅くはないだろ?」
「確かにその通りですね」
「ジンにあったギルドがあるかもしれないしな。さっさと決めるのは焦燥と言えるか」
 納得したようでなによりだ。お、どうやら離してる間に到着したみたいだな。
 駅から歩くこと10分目的地に到着した。

「ここか?」
「そうだ」
 大きなステーキの看板が飾られたお店の前に到着した。
 扉を開けて中に入ると美味しそうな肉の香りが鼻腔を襲う。

「いらっしゃいませ。あ、みんなお久しぶり!」
 ちょうどウェイトレスをしていたエミリアが出迎えてくれた。

「みんな元気だった?」
「ああ、それで丁度お昼ごろだから食べに来た」
「本当にありがとうね!それじゃあっちの席にお座り下さい」
 窓際の席に座った俺たちにコップがテーブルに置かれる。

「それで何にする?」
「俺は、この特大ステーキを手で食べられるようにしてもらえるか?」
「なら、サンドイッチするね」
「それを三人前頼む」
「おい、私はそんなに食べられないぞ」
「俺が一人で食べるんだよ」
「大食いめ」
 うるさい。

「あ、それと銀にもステーキを頼む」
「分かったよ。それで三人は何にするの?」
「俺はハンバーグ」
「私はこのサーロインステーキで、サイズはSサイズを」
「私もフェリシティーと同じもので頼む」
「ドリンクバーとサラダバーはどうしますか」
「全部つけてくれ」
「分かりました。それでは確認しますね。特大ステーキが四人前、その内三人前はサンドイッチに。ハンバーグランチが一人前、サーロインステーキSサイズが二人前とドリンクバー、サラダバーが四人前ずつ。以上ですね?」
「そうだ」
「では、少々お待ち下さい」
 元気に挨拶したエミリアは厨房のほうに向かっていった。

「楽しそうですね」
「そうだな」
「私飲み物を取り行くがどうする」
「なら俺も一緒に行こう。二人は荷物を見張っておいてくれ」
「なら、俺はコーラを頼む」
「私はアイスティーを」
「分かった」
 俺とジュリアスは一緒に席を立った。
 そのあと交代でレオリオとフェリシティーがサラダを取ってきてくれた。
 それから数分して俺たちの料理が運ばれてきた。

「めっちゃ美味そう!」
 駄目だ、涎がでそうだ。

「どうぞ、召し上がれ」
 では、遠慮なく。

「「「「いただきます」」」」
 合掌して肉を口にする。
 なんだこの肉は柔らかくて簡単に噛み切れる。そして噛めば噛むほど肉汁があふれ出てくる。ブラックペッパーの刺激がこれまた食欲を引き立てる。

「美味い!」
「それはよかった」
 炎龍の肉に比べれば劣るがそれでも美味い。なんて美味さだ!
 銀も俺と同じ気持ちなのか嬉しそうに噛み付いている。
 会話をしながら俺たちは食事を堪能した。ああ、美味かった。三人前があった言う間になくなっちまったぜ。

「美味しかったとはいえ、よく食べられたな」
「美味いものは正義だ」
「全部食べたんだ。ありがとうね」
「いや、本当に美味しかったぜ」
「それは聞けばお父さんたちも喜ぶよ」
 嬉しそうに答える。それだけこのお店の事がすきなんだろうな。

「私の手伝いもあと少しで終わるから待ってて」
 エミリアの仕事が終わるまで食後のティータイムを楽しみながら雑談して待った。

「おまたせ。それでどこに遊びに行こうか?」
「どこと言われてもな。ここらへんの事はよく知らないしな」
「なら、私が案内してあげるよ」
 久々に会えて遊べることが嬉しいのか、元気いっぱいのエミリア。あれだけ働いたのに元気だな。さすがは若者。体力が違う。あ、俺も今は若者か。

「それじゃ、エミリーに任せます。皆さんも良いですね?」
 断る理由も無い俺たちは満場一致で了承した。
 駄弁りながら歩くこと数分そこは大きなカフェだった。

「ここのパフェがとても美味しいんだよ」
「あ、あのエミリアさんや」
「なに?」
「俺たち食べたばかりなんだが」
「入るでしょ?」
 当たりまえみたいに言わないで欲しい。食べるのは好きだし甘いもの嫌いじゃないが、やはり俺は肉が良い。

「でも、フェリシティーやジュリアス君は嬉しそうに入って行ったけど?」
 既に椅子に座って注文する二人。

「仕方ないな、レオ」
「そうだな」
 女子の甘いものは別腹には男の考えなど通用しない。それだけが分かっただけでも成果と言えるだろう。
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