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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第七十八話 国外追放
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30分ほど廃工場前でイザベラと駄弁りながら待っていると、大量の車がやってきた。
警察の車だけかと思えば誰かの護衛かって思うほどの黒い車が大量にやってきた。
「イザベラ、お前ってやっぱり凄い奴だったんだ」
「何か凄い誤解をされている気がするわ」
あと救急車まで大量にやってきた。
「なんで救急車がこんなにくるんだ?」
「きっとジンの容赦無さをジュリアス君あたりがお父様に伝えたんでしょ」
まるで俺が暴力が好きみたいな言い方だな。
車の中からロイドやアンドレアたち、それにハロルドのおっさんまでもが急いで降りてきた。
「イザベラ!」
「お、お父様、く、苦しい」
相当心配していたからな。抱きしめられるぐらい我慢してやってくれ。
「ジン君、また君に娘を助けられたね。ありがとう」
「別にお礼を言われるようなことじゃないさ。それに今回は俺が原因だしな」
「私からもお礼を言わせてください。娘を助けて頂きありがとうございます」
「別にそこまでしなくても良いんだがな」
正直、頭を下げてお礼を言われると照れくさいな。
「どうやら無事に終わったようだね」
「ルアル殿下!」
「お辞儀は構わないよ。それよりも早く救急車で手当てをしてもらうと良いよ」
「お言葉に感謝いたします」
ルアルの言葉でイザベラはハロルドのおっさんに連れられて救急車に向かった。
「さてジン君、私の愚弟はどこかな?」
「工場の中で瀕死状態だ。体中の骨を折ったあと何度も殴ったからな」
「兄の前で、それも王族である私の前で平然と言えるね」
表情にも言葉にも目でも怒気は含まれていないな。相当イディオには手を焼かされていたようだな。
「事実だからな」
「自分の不利になると分かっていてもかい?」
「どうせ、この場には俺とイザベラしかいなかった。で、怪我の状況を考えれば誰がやったかなんて直ぐに分かることだ。なのに嘘をつく理由がどこにある?」
「それもそうだね」
「ま、誰も殺してはいないから安心して良いぜ。それに土産もあるしな」
「土産?」
「このスマホの中にさっきまでイディオとの会話が入っている。それを聞けば少しは手柄になると俺は思うがね」
「なるほど……あとでゆっくり聞かせて貰うよ」
俺はスマホを渡す。え?データ消去されるんじゃないのかって?その時はその時さ。それにこの男からは悪意は感じられないからな。
「ルアル中佐、全員を救急車に乗せ終わりました。イディオ殿下に至っては緊急を要するとのことです。それとイディオ殿下の近くこのようなものが」
「これは?」
「調べてみないことには分かりませんが、おそらく麻薬かと思われます」
「そうか。なら鑑識に回しておいてくれ」
「ハッ!」
「あんたって、王族じゃないのか?」
「確かに第一王子で将来は国王になる予定だけど、今はただの軍人だよ」
第一王子が軍人って何気にこの国ってアバウトだな。
「それじゃ、僕も仕事させて貰うよ」
「ああ、良いぜ」
「オニガワラ・ジン、脱走の容疑で逮捕する」
『なっ!』
ルアルの言葉にイザベラたちは驚きの表情を浮かべていた。理解しているのはハロルドのおっさんにライラさん、ライオネルぐらいだろう。
「ルアル殿下、愚考と承知でお願い申し上げます。どうか――」
「イザベラ、どんな理由があれ脱走は脱走だ。お前を助けるためであろうが、犯罪者を捕まえるためであろうがだ。俺は法を犯したんだ。一度でもそれを許せば間違いなく次も同じような事が起きることになる。だからその頼みはなんの意味もない。分かってくれ」
「イザベラ君。君が言いたいことは分かっている。一人の人間としてなら僕も君と同じだ。だけど逮捕しなければならない。それは今ジン君が言った通りなんだ」
「はい、分かりました……」
俺は再び手錠される事になった。
「ジン……」
「じゃあな」
俺は搬送用の車に乗せられて留置所に送られた。
その日の夜。ルアルがやってきてイディオの緊急手術はどうにか一命を取り留めたと教えられた。あのまま死ねばよかったのに。
8月18日土曜日。
いよいよこの日がやって来た。
「オニガワラ・ジン、出ろ」
「へいへい」
留置所から出た俺は処刑のため搬送される。もう直ぐ死ぬのかと思うとまるで走馬灯のようにこれまでの記憶が蘇ってくる。島での生活はまさに地獄だった。楽しいことや辛いこともあったけど。
この国に来てからは毎日が楽しかった。勿論面倒なことも沢山あった。まさか勉強させらるなんて思ってもなかたしな。ま、それでも悪くない人生だったな。
「降りろ」
もう着いたのか。早いな。
降りた先にはこれまた見たことがある場所だった。
「裁判所?」
まさか処刑する場所が裁判所の中にあるのか?そんなわけないよな。
疑問に思いながら俺は警察官に挟まれて歩く。もう少し離れて歩いて欲しい。男に離れる趣味はないんだ。
ドアを開け中に入るとそこは裁判所だった。どういうことだ?
「それでは被告、オニガワラ・ジン。証言台へ」
いや、まったく理解出来ないんだが。
傍聴席にはイザベラたちがまた座ってるし、記者も居る。お前らまた俺の話を聞いて楽しいか。
イディオの奴も車椅子で居る。でもなんでお前は傍聴席じゃなくて被告がすわる席にいるんだ?まったく理解できないんだが。
「それではこれより裁判を開廷する」
「その前にどうして俺がまた証言台に立っているのか教えて貰って良いか?」
俺は初めて会う白ひげの裁判官に問う。
「ふむ、そうだったな。ではまずは名乗ろうか。私の名前はロバート・ウェルソン・スヴェルニ。スヴェルニ現国王だ」
「そうなのかって現国王が裁判官!」
いったいどうなればこんな状況になるのか、マジで分からん。
「安心しろ、私は司法試験に合格しておる。国王になるまえは裁判官をしておったほどじゃ」
なんなの王族の家系は軍人かと思ったら裁判官ってまったく理解出来ないんだが。
「それでは裁判を始める。被告人オニガワラ・ジン。そなたには王族であるイディオ・フェル・スヴェルニを蹴り飛ばしたと言う国家反逆罪と脱走の容疑が掛けられておるが、これに対して反論はあるか?」
「ない」
「では、何故イディオを蹴り飛ばしたのだ?」
「ムカついたから」
「何故ムカついた?」
「イディオが王族であることを利用して、俺の友達であるイザベラを無理やり犯そうとしたからだ」
俺の証言に場内が騒がしくなる。その原因は記者たちからによるものだったが、国王は気にするようすもなく話を続ける。てか、そう言った尋問等は検察官や弁護士がするもんじゃないのか?
「では、次の質問だ。なぜ脱走した?」
「友人からイザベラが消えたと聞き、嫌な予感がして脱走した。で見つけた時イザベラはイディオとその手下のチンピラどもによって拘束されていた」
「つまりはイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトを助けるためであったというわけだな」
「そうだ」
「よろしい。では、下がりたまえ。次に被告人イディオ・フェル・スヴェルニの尋問を始める」
いったいどうなってるんだ?なんで俺はまた裁判を受けているのか説明して欲しいんだが。
「被告人イディオ・フェル・スヴェルニ、被告人オニガワラ・ジンの証言に偽りはあるか?お前には黙秘権がある。ただし嘘や狂言はお前の身にならないと思え」
「事実です……」
「そうか。では、イザベラ・レイジュ・ルーベンハイトに麻薬を投与しようとしたこと、また二度も暗殺未遂を行ったことも事実か?」
「そんなの嘘に決まって――」
「先に言っておくが、事件現場には注射器が回収され指紋も検出され判明している。また他にも証拠が提出されているが、どうなんだ?」
「事実です……」
これまでに無いほどのざわめきが起こる。それはそうだろう。王族が平然と犯罪行為を行っていたのだ。誰だって驚く。ましてや国に仕える貴族の娘を暗殺や麻薬で自分の物にしようとしたなんて恥と言っても過言ではない。
「それではこれより判決を言い渡す。まずはイディオ・フェル・スヴェルニ。お前は王族としての身分を剥奪。また暗殺未遂、麻薬所持と使用、フレンジパウダーの使用及び窃盗罪。よって有罪とし懲役110年を言い渡す!」
「なっ!父さん、それはあんまりだろ!」
「お前など私の息子などではないわ。連れて行け!」
「ハッ!」
うわぁ、裁判所で凄いことを言うなこの国王は。
「父さん、父さん、パパ、パパアアアアァァ!!」
イディオは叫びながらもつれて行かれてしまった。ま、自業自得だな。
「それでは次に被告人オニガワラ・ジンに判決を言い渡す」
すっかり忘れていた。
「どんな理由があれ、王族に手を出す行為も脱走も法律で禁止されている。その事は分かっておるな」
「勿論だ。それでも俺はイザベラを助けたかった。それだけのことだ」
「そうか……判決、オニガワラ・ジンを有罪とし、期限付きの国外追放処分とする!これにて閉廷!」
「え?それってつまり死刑は免れたってこと?」
「不正だらけの裁判などあってはならぬ。あの裁判に関った裁判官、検察官、弁護士にも処分を言い渡すつもりだ」
それだけじゃない。期限付きの国外追放処分ってことは実質的に無罪放免と変わりはない。まさかこんな結果になるなんてな。凄い人だったな。あれこそまさに正義って感じがするな。
後ろではイザベラたちが大いに喜んではいるが、俺としてはなんで俺がここに呼ばれたのか理由を聞いてないんだが。
再び搬送されて留置所に戻ってきた俺。
国外追放されるのは一週間後になった。それまではこの留置所で過ごすことになりそうだ。
そう言えば、イディオは二度もイザベラを暗殺しようとした。二回とも失敗したけど。一回は闇ギルドに依頼して暗殺者たちによる暗殺。ま、俺が防いだから未遂だが。
で、もう一度が炎龍による暗殺だ。それも俺が倒して防いだわけだが。だが問題なのはそこじゃない。いったいどうやって炎龍に俺たちを襲わせたのかが問題なんだ。炎龍を強制的に従わせるだけの力があるならイザベラとの決闘だって勝てたはずだ。そうでないならなにか物を使ったって可能性もあるが、あの度胸の無いイディオに炎龍に近づくなんて無理だ。となると、誰かにやらせた。誰に?イディオに従うような奴は同じチンピラだけだ。だがあいつ等にもそれは無理だ。つまり他にもイディオに従う奴がいたって事になる。そう言えば最初イディオに会った時に見つけた注射器が消えていたな。まさか王宮内に居るのか?
「おい、食事だ」
「ようやくか」
ま、考えても分からないしな。今は死刑じゃなくなった事だけ喜ぶとするか。あんまり美味しくない飯を食べながら。
************************
バーガートリー地下刑務所。
ここには重罪を犯した犯罪者たちが収容されている。
その一室にイディオは収監されていた。
「どうしてこうなった……」
貧乏揺すりをしながら爪を噛み思い出を振り返っていた。
どうしてこうなった。俺はスヴェルニ王国第三王子、イディオ・フェル・スヴェルニだぞ。そんな俺がどうしてこんな気味の悪い場所に入らなければならない!どこで間違えたんだ。最初は上手く行ってたんだ。あの女を俺の物に出来るところまで行ったんだ。そうだ。全てあの生意気な男のせいだ!平民風情の癖にこの俺に逆らった挙句俺がこんな所に入る羽目になった疫病神。
「オニガワラ・ジン……」
あの男だけは許さない……絶対に、絶対に許さない。あらゆる苦痛を与えて殺してやる!
「お久しぶりです、イディオ殿下」
「お、お前は!」
薄暗く顔まではハッキリと見えないが声音でそれが女と言う事だけは分かる。
「そうか、助けに来てくれたのか。なら、この手錠をさっさと外せ」
「ええ、今すぐ開放してあげますよ」
「そう――かはっ!」
イディオは一瞬にして女に首を絞められ絶命した。
「生からの開放をね」
その言葉に喜びも悲しみも感じられない。無感情に呟かれた。
「それにしても王族の中でも相当の馬鹿だから使えると思ったのに全然駄目ね。所詮は役立たずの虫けらだったわね。ま、良いわ。まだ時間はあるもの。それもたっぷりとね」
言葉の通り一切の悲しみも無いどころかゴミを見るような目でイディオの死体を見下ろしていた。
「それにしてもオニガワラ・ジンか。彼は危険ね。でも少し楽しみだわ」
非常用のグリーンライトで照らされた口元は不気味な笑みを浮かべていた。しかし気がつく時にはそこには誰も居なかった。
************************
警察の車だけかと思えば誰かの護衛かって思うほどの黒い車が大量にやってきた。
「イザベラ、お前ってやっぱり凄い奴だったんだ」
「何か凄い誤解をされている気がするわ」
あと救急車まで大量にやってきた。
「なんで救急車がこんなにくるんだ?」
「きっとジンの容赦無さをジュリアス君あたりがお父様に伝えたんでしょ」
まるで俺が暴力が好きみたいな言い方だな。
車の中からロイドやアンドレアたち、それにハロルドのおっさんまでもが急いで降りてきた。
「イザベラ!」
「お、お父様、く、苦しい」
相当心配していたからな。抱きしめられるぐらい我慢してやってくれ。
「ジン君、また君に娘を助けられたね。ありがとう」
「別にお礼を言われるようなことじゃないさ。それに今回は俺が原因だしな」
「私からもお礼を言わせてください。娘を助けて頂きありがとうございます」
「別にそこまでしなくても良いんだがな」
正直、頭を下げてお礼を言われると照れくさいな。
「どうやら無事に終わったようだね」
「ルアル殿下!」
「お辞儀は構わないよ。それよりも早く救急車で手当てをしてもらうと良いよ」
「お言葉に感謝いたします」
ルアルの言葉でイザベラはハロルドのおっさんに連れられて救急車に向かった。
「さてジン君、私の愚弟はどこかな?」
「工場の中で瀕死状態だ。体中の骨を折ったあと何度も殴ったからな」
「兄の前で、それも王族である私の前で平然と言えるね」
表情にも言葉にも目でも怒気は含まれていないな。相当イディオには手を焼かされていたようだな。
「事実だからな」
「自分の不利になると分かっていてもかい?」
「どうせ、この場には俺とイザベラしかいなかった。で、怪我の状況を考えれば誰がやったかなんて直ぐに分かることだ。なのに嘘をつく理由がどこにある?」
「それもそうだね」
「ま、誰も殺してはいないから安心して良いぜ。それに土産もあるしな」
「土産?」
「このスマホの中にさっきまでイディオとの会話が入っている。それを聞けば少しは手柄になると俺は思うがね」
「なるほど……あとでゆっくり聞かせて貰うよ」
俺はスマホを渡す。え?データ消去されるんじゃないのかって?その時はその時さ。それにこの男からは悪意は感じられないからな。
「ルアル中佐、全員を救急車に乗せ終わりました。イディオ殿下に至っては緊急を要するとのことです。それとイディオ殿下の近くこのようなものが」
「これは?」
「調べてみないことには分かりませんが、おそらく麻薬かと思われます」
「そうか。なら鑑識に回しておいてくれ」
「ハッ!」
「あんたって、王族じゃないのか?」
「確かに第一王子で将来は国王になる予定だけど、今はただの軍人だよ」
第一王子が軍人って何気にこの国ってアバウトだな。
「それじゃ、僕も仕事させて貰うよ」
「ああ、良いぜ」
「オニガワラ・ジン、脱走の容疑で逮捕する」
『なっ!』
ルアルの言葉にイザベラたちは驚きの表情を浮かべていた。理解しているのはハロルドのおっさんにライラさん、ライオネルぐらいだろう。
「ルアル殿下、愚考と承知でお願い申し上げます。どうか――」
「イザベラ、どんな理由があれ脱走は脱走だ。お前を助けるためであろうが、犯罪者を捕まえるためであろうがだ。俺は法を犯したんだ。一度でもそれを許せば間違いなく次も同じような事が起きることになる。だからその頼みはなんの意味もない。分かってくれ」
「イザベラ君。君が言いたいことは分かっている。一人の人間としてなら僕も君と同じだ。だけど逮捕しなければならない。それは今ジン君が言った通りなんだ」
「はい、分かりました……」
俺は再び手錠される事になった。
「ジン……」
「じゃあな」
俺は搬送用の車に乗せられて留置所に送られた。
その日の夜。ルアルがやってきてイディオの緊急手術はどうにか一命を取り留めたと教えられた。あのまま死ねばよかったのに。
8月18日土曜日。
いよいよこの日がやって来た。
「オニガワラ・ジン、出ろ」
「へいへい」
留置所から出た俺は処刑のため搬送される。もう直ぐ死ぬのかと思うとまるで走馬灯のようにこれまでの記憶が蘇ってくる。島での生活はまさに地獄だった。楽しいことや辛いこともあったけど。
この国に来てからは毎日が楽しかった。勿論面倒なことも沢山あった。まさか勉強させらるなんて思ってもなかたしな。ま、それでも悪くない人生だったな。
「降りろ」
もう着いたのか。早いな。
降りた先にはこれまた見たことがある場所だった。
「裁判所?」
まさか処刑する場所が裁判所の中にあるのか?そんなわけないよな。
疑問に思いながら俺は警察官に挟まれて歩く。もう少し離れて歩いて欲しい。男に離れる趣味はないんだ。
ドアを開け中に入るとそこは裁判所だった。どういうことだ?
「それでは被告、オニガワラ・ジン。証言台へ」
いや、まったく理解出来ないんだが。
傍聴席にはイザベラたちがまた座ってるし、記者も居る。お前らまた俺の話を聞いて楽しいか。
イディオの奴も車椅子で居る。でもなんでお前は傍聴席じゃなくて被告がすわる席にいるんだ?まったく理解できないんだが。
「それではこれより裁判を開廷する」
「その前にどうして俺がまた証言台に立っているのか教えて貰って良いか?」
俺は初めて会う白ひげの裁判官に問う。
「ふむ、そうだったな。ではまずは名乗ろうか。私の名前はロバート・ウェルソン・スヴェルニ。スヴェルニ現国王だ」
「そうなのかって現国王が裁判官!」
いったいどうなればこんな状況になるのか、マジで分からん。
「安心しろ、私は司法試験に合格しておる。国王になるまえは裁判官をしておったほどじゃ」
なんなの王族の家系は軍人かと思ったら裁判官ってまったく理解出来ないんだが。
「それでは裁判を始める。被告人オニガワラ・ジン。そなたには王族であるイディオ・フェル・スヴェルニを蹴り飛ばしたと言う国家反逆罪と脱走の容疑が掛けられておるが、これに対して反論はあるか?」
「ない」
「では、何故イディオを蹴り飛ばしたのだ?」
「ムカついたから」
「何故ムカついた?」
「イディオが王族であることを利用して、俺の友達であるイザベラを無理やり犯そうとしたからだ」
俺の証言に場内が騒がしくなる。その原因は記者たちからによるものだったが、国王は気にするようすもなく話を続ける。てか、そう言った尋問等は検察官や弁護士がするもんじゃないのか?
「では、次の質問だ。なぜ脱走した?」
「友人からイザベラが消えたと聞き、嫌な予感がして脱走した。で見つけた時イザベラはイディオとその手下のチンピラどもによって拘束されていた」
「つまりはイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトを助けるためであったというわけだな」
「そうだ」
「よろしい。では、下がりたまえ。次に被告人イディオ・フェル・スヴェルニの尋問を始める」
いったいどうなってるんだ?なんで俺はまた裁判を受けているのか説明して欲しいんだが。
「被告人イディオ・フェル・スヴェルニ、被告人オニガワラ・ジンの証言に偽りはあるか?お前には黙秘権がある。ただし嘘や狂言はお前の身にならないと思え」
「事実です……」
「そうか。では、イザベラ・レイジュ・ルーベンハイトに麻薬を投与しようとしたこと、また二度も暗殺未遂を行ったことも事実か?」
「そんなの嘘に決まって――」
「先に言っておくが、事件現場には注射器が回収され指紋も検出され判明している。また他にも証拠が提出されているが、どうなんだ?」
「事実です……」
これまでに無いほどのざわめきが起こる。それはそうだろう。王族が平然と犯罪行為を行っていたのだ。誰だって驚く。ましてや国に仕える貴族の娘を暗殺や麻薬で自分の物にしようとしたなんて恥と言っても過言ではない。
「それではこれより判決を言い渡す。まずはイディオ・フェル・スヴェルニ。お前は王族としての身分を剥奪。また暗殺未遂、麻薬所持と使用、フレンジパウダーの使用及び窃盗罪。よって有罪とし懲役110年を言い渡す!」
「なっ!父さん、それはあんまりだろ!」
「お前など私の息子などではないわ。連れて行け!」
「ハッ!」
うわぁ、裁判所で凄いことを言うなこの国王は。
「父さん、父さん、パパ、パパアアアアァァ!!」
イディオは叫びながらもつれて行かれてしまった。ま、自業自得だな。
「それでは次に被告人オニガワラ・ジンに判決を言い渡す」
すっかり忘れていた。
「どんな理由があれ、王族に手を出す行為も脱走も法律で禁止されている。その事は分かっておるな」
「勿論だ。それでも俺はイザベラを助けたかった。それだけのことだ」
「そうか……判決、オニガワラ・ジンを有罪とし、期限付きの国外追放処分とする!これにて閉廷!」
「え?それってつまり死刑は免れたってこと?」
「不正だらけの裁判などあってはならぬ。あの裁判に関った裁判官、検察官、弁護士にも処分を言い渡すつもりだ」
それだけじゃない。期限付きの国外追放処分ってことは実質的に無罪放免と変わりはない。まさかこんな結果になるなんてな。凄い人だったな。あれこそまさに正義って感じがするな。
後ろではイザベラたちが大いに喜んではいるが、俺としてはなんで俺がここに呼ばれたのか理由を聞いてないんだが。
再び搬送されて留置所に戻ってきた俺。
国外追放されるのは一週間後になった。それまではこの留置所で過ごすことになりそうだ。
そう言えば、イディオは二度もイザベラを暗殺しようとした。二回とも失敗したけど。一回は闇ギルドに依頼して暗殺者たちによる暗殺。ま、俺が防いだから未遂だが。
で、もう一度が炎龍による暗殺だ。それも俺が倒して防いだわけだが。だが問題なのはそこじゃない。いったいどうやって炎龍に俺たちを襲わせたのかが問題なんだ。炎龍を強制的に従わせるだけの力があるならイザベラとの決闘だって勝てたはずだ。そうでないならなにか物を使ったって可能性もあるが、あの度胸の無いイディオに炎龍に近づくなんて無理だ。となると、誰かにやらせた。誰に?イディオに従うような奴は同じチンピラだけだ。だがあいつ等にもそれは無理だ。つまり他にもイディオに従う奴がいたって事になる。そう言えば最初イディオに会った時に見つけた注射器が消えていたな。まさか王宮内に居るのか?
「おい、食事だ」
「ようやくか」
ま、考えても分からないしな。今は死刑じゃなくなった事だけ喜ぶとするか。あんまり美味しくない飯を食べながら。
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バーガートリー地下刑務所。
ここには重罪を犯した犯罪者たちが収容されている。
その一室にイディオは収監されていた。
「どうしてこうなった……」
貧乏揺すりをしながら爪を噛み思い出を振り返っていた。
どうしてこうなった。俺はスヴェルニ王国第三王子、イディオ・フェル・スヴェルニだぞ。そんな俺がどうしてこんな気味の悪い場所に入らなければならない!どこで間違えたんだ。最初は上手く行ってたんだ。あの女を俺の物に出来るところまで行ったんだ。そうだ。全てあの生意気な男のせいだ!平民風情の癖にこの俺に逆らった挙句俺がこんな所に入る羽目になった疫病神。
「オニガワラ・ジン……」
あの男だけは許さない……絶対に、絶対に許さない。あらゆる苦痛を与えて殺してやる!
「お久しぶりです、イディオ殿下」
「お、お前は!」
薄暗く顔まではハッキリと見えないが声音でそれが女と言う事だけは分かる。
「そうか、助けに来てくれたのか。なら、この手錠をさっさと外せ」
「ええ、今すぐ開放してあげますよ」
「そう――かはっ!」
イディオは一瞬にして女に首を絞められ絶命した。
「生からの開放をね」
その言葉に喜びも悲しみも感じられない。無感情に呟かれた。
「それにしても王族の中でも相当の馬鹿だから使えると思ったのに全然駄目ね。所詮は役立たずの虫けらだったわね。ま、良いわ。まだ時間はあるもの。それもたっぷりとね」
言葉の通り一切の悲しみも無いどころかゴミを見るような目でイディオの死体を見下ろしていた。
「それにしてもオニガワラ・ジンか。彼は危険ね。でも少し楽しみだわ」
非常用のグリーンライトで照らされた口元は不気味な笑みを浮かべていた。しかし気がつく時にはそこには誰も居なかった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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