魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第三十話 盗賊集団、鷹の爪!?

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「あ、あの……」
「なんだ?」
 眠気で意識が飛びそうになっていた時、眼鏡と杖が特徴的なシェーミが話しかけてきた。
 彼女は見た目と同じで少し気が弱い。物腰が低いとも言えるけど。だけどこの中じゃ一番魔法が使えて知識も豊富だと聞いている。ま、見た目からして文学少女だよな。正直この見た目で俺より年上ってのが一番の驚きだが。いや、この世界で見た目と年齢は一緒じゃないって知ったじゃないか。それにそれは実力も一緒だ。見た目で判断したら痛い目に遭うのは俺だ。

「ジンさんは……」
「ジンで良いぜ。俺の方が年齢も冒険者歴も下だからな」
「で、では、何でジンは冒険者試験を受けたんですか?以前はスヴェルニ王国にいたようですけど」
 その口ぶりだとニュースの記事でも見たんだろうな。
 だけどなんでそんな事を聞いて来るんだ?

「へぇ~ジンは以前スヴェルニ王国にいたのか。それで何してたんだ?」
 そんな俺とシェーミの話に興味を持ったのかカクルが話しに入ってくる。良く見るとロットたちも興味を引かれたのか聞き耳を立てていた。ま、誰だって気になるよな。

「学生だよ。スヴェルニ学園の冒険科に通っていた」
「スヴェルニ学園って王国内でも優秀な生徒が多いって有名な名門学園じゃないのよ!どうしてそんな学園を辞めたのよ」
「辞めたって言うか、退学になったんだよ」
『え?』
 俺の言葉にシェーミ以外全員が驚きの生返事をしてくる。まさかこいつら知らないのか?結構ニュースにもなってた筈なんだが。あのエリックですら知ってた事だぞ。
 俺はシェーミに視線を向けると申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開いた。

「ジンは王族を殴って国外追放になったんです。だから自動的に学園も退学になったんです」
「お、お前ってそんな悪者だったのか……」
 ま、何も知らない奴なら普通はそう言う反応だよな。

「ち、違います!ジンは確かに王族を殴った犯罪者ですが、けして悪者ではありません!」
 そんなカクルの言葉を必死に否定する。
 その姿に誰もが驚いた表情をしていた。きっと仲間であるロットたちでも初めて見た言動なんだろう。

「あ、すいません。ですがジンは悪者じゃないんです。スヴェルニ王国建国から続く由緒正しい名門貴族ルーベンハイト家の令嬢を麻薬で自分の物にしようとしたり、暗殺を企てたりしたスヴェルニ王国第三王子の悪行を止めたのがジンなんです。その報道で知った国民は国外追放と言う判決でも不当判決だと抗議があったほどです。そしてこの事件は悲劇の騎士事件と呼ばれているとネットのニュースで見ました」
「マジかよ……」
「ジンって有名人だったのね」
「逆に私からしてみればどうして知らなかったのか不思議でなりません。私なんて最初彼の名前を聞いた時にどうして帝都で冒険者として活動しているのか不思議でなりませんでしたから」
「いや、それはほら!他国の事だし」
「なにより私たちにとって衝撃だったのは密輸をしていた政治家が他国で暴れまわった事の方だったから」
 なんて誤魔化してはいるが、確かに冒険者にとってどちらが自分たちに利益を齎すかと言えば後者のニュースだろう。
 悲劇の騎士なんてまるで女性が好きそうな話題だが、冒険者にとっては政治家が密輸していた方が問題だ。なんせ密輸ルートが一つ潰れた。そうなればこれまで利用していた犯罪者たちが何らかの行動をするかもしれない。そうなれば冒険者たちが討伐に向かって動くだろうからだ。
 ましてや他国にとって他の国の問題なんてさほど興味はないだろう。ましてや女性向けの内容なんて暇つぶし程度にしか興味を持たない筈だ。そんな話題は金や名誉を求める冒険者たちからしてみればどうでも良いことだ。

「だけど今の話を聞いてスカッとしたわ。王族とは言え、女性に対してそんな事するなんて許せないわ!」
 なんてルーチェも言っているがやはり女性からしてみれば、やっぱり最低なんだろうな。ま、同じ同姓ならあたりまえか。

「だけどシェーミ、一つ間違えがあるぞ」
「なんですか?」
「確かにあの屑野郎を殴ったのは本当だが、最初に出したのは手じゃなくて足だ」
「足?」
 俺の言葉に首を傾げるシェーミだが他の奴らは分かったらしく笑いを堪えていた。

「ああ。女を性欲処理の道具としか思ってないような屑野郎の大事な股間を思いっきり蹴り上げて機能不能にしてやったぜ」
『あははははははははははっ!』
 俺の言葉に我慢できなくなったのか車内に爆笑の声が一瞬にして広がった。

「くふふっ、もうジン最高!」
 隣に座るルーチェに至っては腹を抱えて笑っていた。

「まるで蟹みたいに泡を吹いて気絶してた姿を見せてやりたかったぜ」
「や、やめて!想像出来ちゃうから。これ以上笑ったら死んじゃう。笑い死んじゃう!」
 まるでピクニックでもしているかのような雰囲気の車内だが、今は依頼の真っ最中である事はお忘れなきよう。
 だけど疑問が残る。

「どうしてそんな事を急に聞いてきたんだ?」
「いえ。私もその事を知った時不当判決だと思いましたが、どんな理由があれ王族を殴る行為が重罪である事は分かっています。そしてそんな経歴を持っている人物に冒険者試験の推薦状を書いてくれる人が居るとは思えなくて。それに……」
「それに?」
「ジンは魔力がありませんよね?」
『え!?』
 シェーミの言葉に黄色い笑い声が一瞬にして驚愕へと変わる。

「お、おい、シェーミ。それは流石に冗談だよな。10億人に1人と言われている魔力無しの能無しがジンの筈がないだろ……」
 カクルが変な汗を流しながら聞いていた。まるで信じたくない現実から目を背けようとするが好奇心が抑えられずに聞いてしまっているかのように。

「いえ、本当です。皆も知ってるでしょ。私が魔力操作が得意な事は。そして優れた魔法使いでも少しは魔力が身体から漏れるものです。ですがジンからは一切の魔力を感じないんです」
「確かに隣に座っているのに何も感じないわね……」
 ルーチェも気づいたのか納得したような表情を浮かべていた。

「さっき言ったように経歴に犯罪履歴。それも王族を殴った経歴がある人間に推薦状を書く人なんていません。ですが内容を知っている人物なら私みたいい同情で書いてくれる人が居るかもしれません。ですが魔力が無い人間に推薦状を書こうとは思わないと思います」
 なるほどそう言うことか。
 だけど少し残念だ。
 実力主義と言われる帝国のDランク冒険者ですら、魔力量+魔法属性の数=実力と思い込んでいるんだからな。

「それでどうなんですか?」
 やはり本人の口から聞きたいのか。好奇心が強いと不謹慎な事でも平然と聞けるんだな。ま、俺は気にしてないから不謹慎だとは思わないが。

「ああ、そうだよ。俺は魔力がない」
「やはり。ではどうやって推薦状を?」
「それは運が良かったとしか言えないな。生憎と推薦状を書いてくれた人物の名前は言えないが、偶然であった少女を助けたらその親が恩返しにと推薦状を書いてくれたんだ」
「なるほど、そう言うことでしたか。ですがまだ疑問が残ります」
「なんだ?」
「冒険者試験はどうやって合格したんですか?筆記試験はスヴェルニ学園で身に着けた知識があるからなんとかなるとしても、実技試験はどうにもならない筈です」
 いや、俺にとって一番厳しかったのは筆記試験なんだが。
 まったく意味が分からない。なんで一問目から冒険者の好きな飲み物はなんだ?ってあれこそなんだって感じだよ。

「シェーミは俺の記事を読んだんだよな」
「はい」
「なら、スヴぇルニ学園に居た時の記事とか読まなかったのか?」
「スヴェルニ学園の記事ですか?いえ、読んでませんが」
「なら、読んでみたら分かるさ」
 俺の言葉に怪訝の視線を向けてくるが、読めば分かることだろう。
 それよりも問題なのは。

「どうやらお客様が来たみたいだぜ」
 そんな発言に全員の表情が鋭いモノへと変わっていく。ようやく冒険者らしいドライブになってきたな。

「50メートル後方から3台の車が物凄いスピードで来ています!」
「どうやら敵さんは俺たちがアイテムボックス持ちに依頼した事を嗅ぎつけたみたいだな」
 シェーミの言葉にロットがアクセルを踏み込む。
 物凄いスピードで景色が流れていく。それよりも問題なのは……。

「チッ!待ち伏せかよ」
 数台の車が道路を塞ぐ形で待ち伏せていた。
 ロットは慌ててブレーキをかける。
 いよいよ戦闘か。楽しみだ。
 少しして後ろから3台の車も到着する。

「ロットこれからどうするの?完全に道を塞がれちゃったわよ」
「分かっている。こんな所で戦闘になるなんてな」
 敵さんはいつでも蜂の巣に出来るよう銃を構えていた。だけど殺さない所を見る限り敵さんの目的は俺のアイテムボックスの中にあるレメント鉱石の強奪なんだろう。

「全員車から降りて投降しろ!」
「仕方が無い一旦降りるぞ」
 ロットの指示で俺たちは両手を挙げて車を降りた。なんだ降りるのか。車で逃走するものかと思ったけど、ロケットランチャーを向ける奴も居るし仕方がないか。

「よし、良いぞ」
「ゲヘヘッ、何気に上玉もいるな。リーダーあいつ等も連れて帰りましょうぜ」
「うるせぇ!そんな事分かってるっての!」
 なんてゲス野郎集団なんだ。まるで盗賊にでも襲われている気分だ。いや、盗賊なのか?てっきり闇ギルドの人間だと思ってたんだが。

「それよりもお前がアイテムボックス持ちの餓鬼だな」
「餓鬼って一応成人してるんだが」
「口答えするな!お前らは俺が質問した事を答えていれば良いんだよ!」
 はいはい。

「それでどうなんだお前がアイテムボックス持ちの餓鬼なんだよな」
「ああ、そうだよ」
「よし。ならその男と女以外は殺せ。勿論金目の物は全て回収だ」
 まさに現代の盗賊だな。強盗集団と言った方が正しいかもしれない。まったくこんな奴らを雇うなんていったいどこのゲス野郎だよ。

「(それよりも、アイツらの事知っている奴は居るか?)」
 どう見ても表立った活動が出来るような連中じゃない。なら間違いなく手配書が張り出されていてもおかしくはないはずだ。

「(ああ、知っている。あいつ等は鷹の爪だ)」
「(鷹の爪?香辛料のか)」
「(別に今はそんな事どうでも良いだろ)」
 確かに。だけど誰だって鷹の爪って聞いたら香辛料を思いつくだろ。いや、もしかしたら秘密結社の方が思いつくかもしれないが。

「(鷹の爪は強盗、誘拐、殺人、強姦となんでも行う盗賊ギルドだ。ギルドに60万RK懸賞金が掛けられている。それに顔に傷のある男。あれは盗賊ギルドのリーダーで名前はギブス。奴には別で30万RKの懸賞金が掛けられている)」
 つまりは盗賊ギルドのボスってわけね。
 冷や汗を流すロット。シェーミに至っては恐怖で身体が震えていた。ま、この状況なら誰だってそうなるか。

「(それにしても最悪だ。まさか俺たちを狙ってきたのがあいつ等だったとは)」
「(どうしてだ?)」
「(悪行の方が有名な男だからそこまで知られてはないが実力はBランク冒険者とそん色ない。Dランクの俺たちじゃ全員で掛かっても倒すのは厳しい)」
「(なによそれ。つまり依頼の難易度がDランクからBランクに上がったってこと)」
「(そう言うことだ)」
 確かにそれは厳しいかもな。ましてや人数もこちらが不利。そして状況も最悪。ほぼチェックメイトと言えるだろうな。
 だけど30万RKか。悪くない金額だ。それにこのギルドを壊滅させれば合計で90万RKのお金が手元に入るわけだ。6人で山分けしたとしても1人当たり15万RK。ちょっとした小遣い稼ぎどころの数字じゃない。この依頼よりも遥かに破格の報酬が手に入る。ギルド結成のために是非とも手に入れたい!

「(おいジン、息が荒くなってるがどうしたんだ?)」
 カクルがそんな事を聞いてくる。だって仕方が無いだろ。目の前にお金が転がってるんだぞ。
 お金が大好きな奴、夢のために資金が必要な奴、そんな奴らが目の前にお金が転がっていたら誰だって飛びつくだろうよ。今だって飛びつくのを抑えてるんだからな。
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