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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第四十三話 新しい仲間と大宴会
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全力で振り上げた拳と刀が激突する。
バチバチっと静電気の様な音を発しながら互いの一撃が拮抗する。が、ヤバイ!負ける!
徐々に押され始める。
なんてパワーだ。いったいこいつのどこにこんな力が!いや、そんな事考えてる場合じゃない!
ここで押し負けたら完全に負ける。
それに影光だって技を見せてくれたんだ。俺だって見せないのは不公平だよな。
「影光見せてやるよ。俺の必殺技の一つを!」
「なにっ!?」
「十八番其の壱、+2%殴り!」
現在の俺の力は8%。それに+2%。合計10%の力で俺は拳を振り上げた。
押し負けていたが2%の上乗せで一気に押し勝ちそのまま俺は影光の顎を打ち抜く。
バク宙のように舞う影光はそのまま地面に叩きつけられた。
徐々に力を解放して行って勝つなんて卑怯と思うかもしれないが、そうしなければ影光の力を知る事は出来ないし勝てなかった。そして何よりこんな最高の闘い。直ぐに終わらせたらつまらないだろ?
気絶した影光を見下ろしたあと俺はアインに視線を向けた。
「勝者、虫けら!」
ガクッ!
「お前はまともに俺の名前を呼ぶ気があるのか?」
「まったくありません」
だろうよ。ったくいつか絶対に名前を呼ばせてやるからな。
それよりも問題は、影光が気の使い手だったとは知らなかった。
気。それは魔力とは似て非なるもの。
魔力とは魔法を使う原動力であり、使い過ぎれば気を失うが死ぬ事は無い。それに魔力は生命体だけでなく、石にだって魔力が宿る事がある。この場合保有していると言った方が良いだろう。つまり生命体が生きる上で必ずしも必要と言うわけではない。ただ力として生活するうえで効率よくする力と言ったところだ。
しかし気は生命体にしかやどらない。だから石やアインのようなサイボーグは持っていないのだ。
簡単に言えば命そのモノである。だから使い方を間違えたり、使い過ぎれば命を落とす危険性だってある。ま、魔力同様に寝たりしていれば回復するので寿命が縮んだりはしないが。それでも使いすぎるのは危険だ。
そして俺がよく魔物を発見したりしているのがこれだ。
魔力が無くても気配。つまり生気が漏れていればそれだけで見つける事が出来ると言う訳だ。どうやらこの世界は魔法があるため知っている奴等は少ないようだが。
その理由としては気の多様性が魔力よりも低いからだ。
魔力は使い方によっては肉体強化や基本属性となる火や水を出現させる事が出来るが気は出来ない。
出来るのは気に怒りや殺意を乗せて相手を怯ませたり、一箇所に集めて体を頑丈にするぐらいだろう。後は戦闘中でも相手の動きを目や耳で確認するよりも早く探知する事が出来る。
影光みたいに魔法の斬撃に纏わせて強固にすると言う手もあるが。
だが気をマスターすればさっきみたいに影光の刀を真正面からでも受け止められるってわけだ。え?なんでそんな力があるのに最初から使わなかったのかって?そんなの決まってる。面白くないからだ。気の事を知らないイザベラやロイドたちに使っても面白くない。それに使ったら完全に無敵状態じゃんか。それにさっきも言ったが気を知る者は少ない。そんな相手にホイホイ使うなって師匠にも言われたからな。
あ、でも相手を脅したり怯ませたりする時には使ったぞ。
闘いが終わり30分ぐらいして影光は目を覚ます。
「痛てててて」
「よ、元気か?」
「元気そうに見えるのか?」
「入院するほどじゃないな」
皮肉に皮肉で返した俺を影光は一瞬睨むがすぐに普通の表情になって立ち上がる。やっぱり大丈夫じゃねぇか。
「この俺が一撃も入れられずに負けるとわな。この世界は広いな」
「そうだな。それよりも約束は守って貰うぞ」
「ああ。俺は仁のギルドに入ろう」
「よし、これで設立に必要なメンバーが揃ったぜ!」
「まさか俺と仁とアインだけなのか?」
「それと銀な。でも銀は数には入れられないから結果的に今のところ3人だな」
「拙者はとんでもないギルドに入る事になったものだ」
そこまで呆れる事ないだろうに。
でもこれでようやくギルドが設立できる。あとは自己資金だがそれは朧さんからの報酬でどうにかなるだろう。と言うか自己資金の規定金額を知らないから幾らあれば良いのかまったく分からない。
「それよりも怪我は大丈夫か?」
「別に骨は折れてはいない。軽く口の中を切っただけだ。それに気絶している間に休めたからな問題ない」
「そうか」
あの攻撃を受けてその程度で済んでいる事に安堵と驚きを覚える。
今回は良かったが、生憎ギルドメンバーに治癒魔法が仕える奴がいない。俺が持つ傷や病気を治せる不思議な水を使えば一発なんだろうが、量もそこまで多いわけじゃないから出来るならあまり使いたくは無い。
「それじゃ朧さんのところに向かうか」
「朧のところって何かあるのか?」
「あるも何も、今日はお前の退院祝いと俺の依頼達成祝賀会だ」
ま、一番の理由は前者だろうが。
アインも紅茶を飲み終え銀も目を覚ましたようだ。
「それじゃ行くか」
新たなギルドメンバー(ギルドはまだ出来てないから仲間か)と共に俺は朧さんのギルドに向かった。
朧さんのギルドまではかなり遠いので電車に乗って移動する。
走っても良かったが汗をかいて行くわけにもいかないし、なにより影光が完全に回復したとは言い切れないからな。
電車に揺られる事20分。そこから徒歩で10分ほどで目的地の旅館のような建物の前に到着する。
門の前にはギルド夜霧の月のメンバーと思われる冒険者が見張りをしていた。別に襲撃なんてするつもりはないが、やはりSランクのギルドともなれば必要なのかもしれない。
「ちょっと良いか?」
「なんだお前らは?」
あれ?俺たちの事聞いてないのか?それとも新しく入った新人か?
ま、どっちでも良いか。
「悪いが朧さんに呼ばれて来たんだ。入っても良いか?」
「名前と身分証明書を出せ」
今日宴をするから来てくれって言ったのはそっちなのに失礼だろと言いたくはなるが、仕事の邪魔をするわけにはいかないか。朧さんちゃんと下の連中にまで伝えておいて欲しかったよ。
「ほら」
俺はギルドカード、正確には冒険者免許書を見せる。
「あ、あなたがオニガワラ・ジン!で、こっちがトウドウ・カゲミツ様!大変失礼しました!」
なんで俺には様がないんだ?ま、良いか。
もめる事も無く入ることが出来た俺たちが扉を開けると、
『お待ちしてました!』
スーツ姿の男性女性たちが両脇に並んで出迎えてくれた。
俺たちは組長の友人かよ!ってツッコミたくなる光景だが気にする事なく靴を脱いで朧さんの許まで向かう。
俺たちを案内してくれるのは依然案内してくれたゲンジだった。
「ゲンジも元気そうだな」
「まあな」
タメ口でも気にしないのは俺がゲンジよりも強いと身を以って知っているからだろう。それ以外に理由があるのか、もしくは気にしないのかのどれかだ。
「ここだ」
案内されたのはこれまた豪華な料理が並べられた大広間。
周りの襖も牡丹や菊の花模様が描かれていた。きっと名前は違うんだろうが。
「藤堂はん、それに仁はん、そしてえっと……」
「アインと言います。お見知りおきを」
「わっちは東雲朧。このギルドのギルマスを勤めさせて貰ってる者じゃ」
うん、美人が相対しただけでも絵になるな。ま、片方は性格ドブスだけど。
「なにか失礼な事でも考えていましたね」
「いや、別に」
この世界は人間だけじゃなくてサイボーグまでも鋭いんだな。
鋭い視線をどうにか回避していると朧さんが助け舟を出してくれる。
「せっかくの宴なんじゃ、そんな怖い顔したら飯が不味くなりんす。ほら、座った座った」
俺たちは朧さんに言われるがままに上座に座らされる。俺は社長じゃないんだが。
カタカナのコの字のようなテーブルの並べ方の上座に座った俺たちだが正確に言うなら一番右にアイン、その隣が俺、その隣が影光、その隣が朧さんと言う形だ。因みに銀はアインの膝の上である。
「ほな、そろそろ宴を始めるとするのじゃ」
そう言うと手を数回叩くとゾロゾロと夜霧の月のギルドメンバーと思われる人たちが大広間に入ってくる。な、なんて数だ。
まるで前から座る場所が決まっていたかのように直ぐに全員が席に座る。
その数約50人。大宴会と言えるレベルだ。
「僭越ながら音頭はわっちがさして貰うのじゃ」
そう言うとグラスを片手に立ち上がる。
ま、男なら立ち上がった瞬間に揺れる胸に目がいくだろうが、勿論紳士の俺は視線なんか向けてはいない。断じて無いからな!
「今日はとても良き日じゃ。行方が分からなくなっていた兄弟子の藤堂はんがこうして見つかり、問題も解決した。それも全て仁はんのお陰じゃ。ありがとうなのじゃ」
別にお礼を言われる事じゃない。俺は依頼を受けてそれを完遂しただけだからな。
ま、こんな美人にお礼を言われるのは嫌じゃないが。
「今宵は無礼講じゃ!皆、好きなだけ酒を飲むと良い!乾杯!」
『乾杯!』
それぞれビールや酒、ジュースが入ったグラスを高らかに天に掲げる。
こうして始まった宴は黄色い笑い声が一気に大広間を支配した。
俺もそれに習ってグイッ!酒を飲み干す。
「プハアアアァァ!」
美味い!体を動かした後のビールはやっぱり格別だ!
ま、それよりも俺の目当ては酒ではない。
俺の目当ては目の前に並んだ寿司だ!
日本人なら誰もが好きな寿司。日本のソウルフードとまで呼ばれている1つ!
この大広間に入った時から早く食べたくてしかたがなかった。
「それじゃ、さっそく」
俺はトロの寿司を醤油に付けて口に放り込む。
「美味い!」
油が乗った魚と醤油の塩気にほんの僅か甘みを含んだシャリが絶妙に絡み合って最高に美味しい!なによりツーと鼻を抜けるワサビが食欲を引き立てる。
ワサビ入りの寿司屋が減りつつある現代の日本ではやはり最初からワサビが入っているのは俺としてはとても嬉しい!
なにより影光と戦った後で食欲もかなりある。これなら幾らだって食べられるぜ!
俺は無我夢中で寿司を食べていく。
トロ、ハマチ、鯛、ホタテ、ウニ、ビール。イクラ、トロ、イカ、玉子、ビール。トロ、トロ、ビール。アナゴ、サーモン、味噌汁、鯛、ハマチ、ビール、イカ、トロ、ビール。
の順に俺は食べていく。
気がつけば30貫入りの皿が全て空になっていた。
「俺としたことがあまりの美味しさに全部食べてしまった」
「うふふ、仁はんは寿司が大好きなんじゃのぉ」
「寿司は俺のソウルフードの一つだ!」
「それは良かった。まだ沢山あるから食べるの良いのじゃ」
「それはありがたい!」
俺は無我夢中で食べ続けた。美味い!もうその一言だ。
イカの歯ごたえも、玉子の甘さも、イクラのプチと弾ける旨みも最高だ!
満足した俺はお口直しにと肉を食べる。え?寿司の次に肉。だって肉は美味しいだろ。
俺はどちらかと言えば質より量を取るタイプだからな美味しければ文句は無い。今回の寿司は久々と言うこともあって格別だったけど。
あれから何時間が経過したんだろうか。すでに酔いつぶれた奴等がそこら中で転がっている。
外を見れば暗く月が綺麗な庭園を照らしていた。
確か宴会を始めたのが午後の4時ごろだったから、もう4時間は経過しているだろうか?ま、どうでも良いか。
ビールから少し強い焼酎に変えた俺は一升瓶とグラスを持って縁側に座る。うん、やっぱり月を見ながら飲むのは風流があって良いな。
アインはお酒を飲まないので始まった時から水を飲んでいた。
銀は久々のご馳走に肉や魚を存分に食べていた。と言うか未だに食べている。子犬サイズのアイツの腹のどこに入っているのか不思議でしかないが、楽しいのならそれで良いか。
空になったグラスに焼酎を注ぎ込む。
正直焼酎程度では酔う事は出来ない。ビールもあの味が好きだから最初飲んでいただけだしな。
前世の時から大学や会社の接待で大量に飲まされていたから鍛えられてはいるが、やはり無病息災の効果は絶大だが、こういう時ぐらいは軽く酔いたい気分だ。
バチバチっと静電気の様な音を発しながら互いの一撃が拮抗する。が、ヤバイ!負ける!
徐々に押され始める。
なんてパワーだ。いったいこいつのどこにこんな力が!いや、そんな事考えてる場合じゃない!
ここで押し負けたら完全に負ける。
それに影光だって技を見せてくれたんだ。俺だって見せないのは不公平だよな。
「影光見せてやるよ。俺の必殺技の一つを!」
「なにっ!?」
「十八番其の壱、+2%殴り!」
現在の俺の力は8%。それに+2%。合計10%の力で俺は拳を振り上げた。
押し負けていたが2%の上乗せで一気に押し勝ちそのまま俺は影光の顎を打ち抜く。
バク宙のように舞う影光はそのまま地面に叩きつけられた。
徐々に力を解放して行って勝つなんて卑怯と思うかもしれないが、そうしなければ影光の力を知る事は出来ないし勝てなかった。そして何よりこんな最高の闘い。直ぐに終わらせたらつまらないだろ?
気絶した影光を見下ろしたあと俺はアインに視線を向けた。
「勝者、虫けら!」
ガクッ!
「お前はまともに俺の名前を呼ぶ気があるのか?」
「まったくありません」
だろうよ。ったくいつか絶対に名前を呼ばせてやるからな。
それよりも問題は、影光が気の使い手だったとは知らなかった。
気。それは魔力とは似て非なるもの。
魔力とは魔法を使う原動力であり、使い過ぎれば気を失うが死ぬ事は無い。それに魔力は生命体だけでなく、石にだって魔力が宿る事がある。この場合保有していると言った方が良いだろう。つまり生命体が生きる上で必ずしも必要と言うわけではない。ただ力として生活するうえで効率よくする力と言ったところだ。
しかし気は生命体にしかやどらない。だから石やアインのようなサイボーグは持っていないのだ。
簡単に言えば命そのモノである。だから使い方を間違えたり、使い過ぎれば命を落とす危険性だってある。ま、魔力同様に寝たりしていれば回復するので寿命が縮んだりはしないが。それでも使いすぎるのは危険だ。
そして俺がよく魔物を発見したりしているのがこれだ。
魔力が無くても気配。つまり生気が漏れていればそれだけで見つける事が出来ると言う訳だ。どうやらこの世界は魔法があるため知っている奴等は少ないようだが。
その理由としては気の多様性が魔力よりも低いからだ。
魔力は使い方によっては肉体強化や基本属性となる火や水を出現させる事が出来るが気は出来ない。
出来るのは気に怒りや殺意を乗せて相手を怯ませたり、一箇所に集めて体を頑丈にするぐらいだろう。後は戦闘中でも相手の動きを目や耳で確認するよりも早く探知する事が出来る。
影光みたいに魔法の斬撃に纏わせて強固にすると言う手もあるが。
だが気をマスターすればさっきみたいに影光の刀を真正面からでも受け止められるってわけだ。え?なんでそんな力があるのに最初から使わなかったのかって?そんなの決まってる。面白くないからだ。気の事を知らないイザベラやロイドたちに使っても面白くない。それに使ったら完全に無敵状態じゃんか。それにさっきも言ったが気を知る者は少ない。そんな相手にホイホイ使うなって師匠にも言われたからな。
あ、でも相手を脅したり怯ませたりする時には使ったぞ。
闘いが終わり30分ぐらいして影光は目を覚ます。
「痛てててて」
「よ、元気か?」
「元気そうに見えるのか?」
「入院するほどじゃないな」
皮肉に皮肉で返した俺を影光は一瞬睨むがすぐに普通の表情になって立ち上がる。やっぱり大丈夫じゃねぇか。
「この俺が一撃も入れられずに負けるとわな。この世界は広いな」
「そうだな。それよりも約束は守って貰うぞ」
「ああ。俺は仁のギルドに入ろう」
「よし、これで設立に必要なメンバーが揃ったぜ!」
「まさか俺と仁とアインだけなのか?」
「それと銀な。でも銀は数には入れられないから結果的に今のところ3人だな」
「拙者はとんでもないギルドに入る事になったものだ」
そこまで呆れる事ないだろうに。
でもこれでようやくギルドが設立できる。あとは自己資金だがそれは朧さんからの報酬でどうにかなるだろう。と言うか自己資金の規定金額を知らないから幾らあれば良いのかまったく分からない。
「それよりも怪我は大丈夫か?」
「別に骨は折れてはいない。軽く口の中を切っただけだ。それに気絶している間に休めたからな問題ない」
「そうか」
あの攻撃を受けてその程度で済んでいる事に安堵と驚きを覚える。
今回は良かったが、生憎ギルドメンバーに治癒魔法が仕える奴がいない。俺が持つ傷や病気を治せる不思議な水を使えば一発なんだろうが、量もそこまで多いわけじゃないから出来るならあまり使いたくは無い。
「それじゃ朧さんのところに向かうか」
「朧のところって何かあるのか?」
「あるも何も、今日はお前の退院祝いと俺の依頼達成祝賀会だ」
ま、一番の理由は前者だろうが。
アインも紅茶を飲み終え銀も目を覚ましたようだ。
「それじゃ行くか」
新たなギルドメンバー(ギルドはまだ出来てないから仲間か)と共に俺は朧さんのギルドに向かった。
朧さんのギルドまではかなり遠いので電車に乗って移動する。
走っても良かったが汗をかいて行くわけにもいかないし、なにより影光が完全に回復したとは言い切れないからな。
電車に揺られる事20分。そこから徒歩で10分ほどで目的地の旅館のような建物の前に到着する。
門の前にはギルド夜霧の月のメンバーと思われる冒険者が見張りをしていた。別に襲撃なんてするつもりはないが、やはりSランクのギルドともなれば必要なのかもしれない。
「ちょっと良いか?」
「なんだお前らは?」
あれ?俺たちの事聞いてないのか?それとも新しく入った新人か?
ま、どっちでも良いか。
「悪いが朧さんに呼ばれて来たんだ。入っても良いか?」
「名前と身分証明書を出せ」
今日宴をするから来てくれって言ったのはそっちなのに失礼だろと言いたくはなるが、仕事の邪魔をするわけにはいかないか。朧さんちゃんと下の連中にまで伝えておいて欲しかったよ。
「ほら」
俺はギルドカード、正確には冒険者免許書を見せる。
「あ、あなたがオニガワラ・ジン!で、こっちがトウドウ・カゲミツ様!大変失礼しました!」
なんで俺には様がないんだ?ま、良いか。
もめる事も無く入ることが出来た俺たちが扉を開けると、
『お待ちしてました!』
スーツ姿の男性女性たちが両脇に並んで出迎えてくれた。
俺たちは組長の友人かよ!ってツッコミたくなる光景だが気にする事なく靴を脱いで朧さんの許まで向かう。
俺たちを案内してくれるのは依然案内してくれたゲンジだった。
「ゲンジも元気そうだな」
「まあな」
タメ口でも気にしないのは俺がゲンジよりも強いと身を以って知っているからだろう。それ以外に理由があるのか、もしくは気にしないのかのどれかだ。
「ここだ」
案内されたのはこれまた豪華な料理が並べられた大広間。
周りの襖も牡丹や菊の花模様が描かれていた。きっと名前は違うんだろうが。
「藤堂はん、それに仁はん、そしてえっと……」
「アインと言います。お見知りおきを」
「わっちは東雲朧。このギルドのギルマスを勤めさせて貰ってる者じゃ」
うん、美人が相対しただけでも絵になるな。ま、片方は性格ドブスだけど。
「なにか失礼な事でも考えていましたね」
「いや、別に」
この世界は人間だけじゃなくてサイボーグまでも鋭いんだな。
鋭い視線をどうにか回避していると朧さんが助け舟を出してくれる。
「せっかくの宴なんじゃ、そんな怖い顔したら飯が不味くなりんす。ほら、座った座った」
俺たちは朧さんに言われるがままに上座に座らされる。俺は社長じゃないんだが。
カタカナのコの字のようなテーブルの並べ方の上座に座った俺たちだが正確に言うなら一番右にアイン、その隣が俺、その隣が影光、その隣が朧さんと言う形だ。因みに銀はアインの膝の上である。
「ほな、そろそろ宴を始めるとするのじゃ」
そう言うと手を数回叩くとゾロゾロと夜霧の月のギルドメンバーと思われる人たちが大広間に入ってくる。な、なんて数だ。
まるで前から座る場所が決まっていたかのように直ぐに全員が席に座る。
その数約50人。大宴会と言えるレベルだ。
「僭越ながら音頭はわっちがさして貰うのじゃ」
そう言うとグラスを片手に立ち上がる。
ま、男なら立ち上がった瞬間に揺れる胸に目がいくだろうが、勿論紳士の俺は視線なんか向けてはいない。断じて無いからな!
「今日はとても良き日じゃ。行方が分からなくなっていた兄弟子の藤堂はんがこうして見つかり、問題も解決した。それも全て仁はんのお陰じゃ。ありがとうなのじゃ」
別にお礼を言われる事じゃない。俺は依頼を受けてそれを完遂しただけだからな。
ま、こんな美人にお礼を言われるのは嫌じゃないが。
「今宵は無礼講じゃ!皆、好きなだけ酒を飲むと良い!乾杯!」
『乾杯!』
それぞれビールや酒、ジュースが入ったグラスを高らかに天に掲げる。
こうして始まった宴は黄色い笑い声が一気に大広間を支配した。
俺もそれに習ってグイッ!酒を飲み干す。
「プハアアアァァ!」
美味い!体を動かした後のビールはやっぱり格別だ!
ま、それよりも俺の目当ては酒ではない。
俺の目当ては目の前に並んだ寿司だ!
日本人なら誰もが好きな寿司。日本のソウルフードとまで呼ばれている1つ!
この大広間に入った時から早く食べたくてしかたがなかった。
「それじゃ、さっそく」
俺はトロの寿司を醤油に付けて口に放り込む。
「美味い!」
油が乗った魚と醤油の塩気にほんの僅か甘みを含んだシャリが絶妙に絡み合って最高に美味しい!なによりツーと鼻を抜けるワサビが食欲を引き立てる。
ワサビ入りの寿司屋が減りつつある現代の日本ではやはり最初からワサビが入っているのは俺としてはとても嬉しい!
なにより影光と戦った後で食欲もかなりある。これなら幾らだって食べられるぜ!
俺は無我夢中で寿司を食べていく。
トロ、ハマチ、鯛、ホタテ、ウニ、ビール。イクラ、トロ、イカ、玉子、ビール。トロ、トロ、ビール。アナゴ、サーモン、味噌汁、鯛、ハマチ、ビール、イカ、トロ、ビール。
の順に俺は食べていく。
気がつけば30貫入りの皿が全て空になっていた。
「俺としたことがあまりの美味しさに全部食べてしまった」
「うふふ、仁はんは寿司が大好きなんじゃのぉ」
「寿司は俺のソウルフードの一つだ!」
「それは良かった。まだ沢山あるから食べるの良いのじゃ」
「それはありがたい!」
俺は無我夢中で食べ続けた。美味い!もうその一言だ。
イカの歯ごたえも、玉子の甘さも、イクラのプチと弾ける旨みも最高だ!
満足した俺はお口直しにと肉を食べる。え?寿司の次に肉。だって肉は美味しいだろ。
俺はどちらかと言えば質より量を取るタイプだからな美味しければ文句は無い。今回の寿司は久々と言うこともあって格別だったけど。
あれから何時間が経過したんだろうか。すでに酔いつぶれた奴等がそこら中で転がっている。
外を見れば暗く月が綺麗な庭園を照らしていた。
確か宴会を始めたのが午後の4時ごろだったから、もう4時間は経過しているだろうか?ま、どうでも良いか。
ビールから少し強い焼酎に変えた俺は一升瓶とグラスを持って縁側に座る。うん、やっぱり月を見ながら飲むのは風流があって良いな。
アインはお酒を飲まないので始まった時から水を飲んでいた。
銀は久々のご馳走に肉や魚を存分に食べていた。と言うか未だに食べている。子犬サイズのアイツの腹のどこに入っているのか不思議でしかないが、楽しいのならそれで良いか。
空になったグラスに焼酎を注ぎ込む。
正直焼酎程度では酔う事は出来ない。ビールもあの味が好きだから最初飲んでいただけだしな。
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そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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