魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第四十八話 レイノーツ学園祭前 ③

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「だが、その男子生徒は随分と優秀なのだな。グレンダに気づかれないように尾行しているとは」
「別に尾行はしていないと思うぞ」
「どう言う事だ?」
「多分だが、小型カメラを取り付けたり監視カメラをハッキングしたりして映像越しにシャルロットを見てるんだろ。それならグレンダが気づかないのも無理は無い」
 それでも視線を感じるって言う敏感な人物はこの世に存在する。そしてシャルロットもその1人だったという事だろう。

「だが一介の生徒にそんな事が出来るものなのか?」
「その生徒が研究や技術関連の学科に通う生徒なら出来ない事もないだろうな」
「確かに私が助けた生徒が拾っていたのは何かの部品のようでしたけど」
「それなら間違いないな」
「よし!今すぐその生徒を探し出すぞ!イオ、学園長に連絡して技術科の生徒のデータを渡すように連絡して来い。そしてその中からシャルロットに見つけ出して貰えば、後は我々が逮捕するだけだ!」
 そう言って喜ぶボルキュス陛下。だが、

「ちょっと待った」
「なんだね!」
 ヤ○ザのようざ顔つきも相まって怒鳴り声に迫力がある。
 娘の一大事なのは分かるが慌てすぎだ。あんた一応皇帝だろうが。

「確かにその手なら一発で見つけられるだろうし、捕まえられる。だが今は見つけるだけにしておいてくれないか?」
「何故だ?」
「今の時期に逮捕すれば間違いなくニュースになるだろう。なんせ帝国の皇女様をストーキングしてたんだからな」
「確かにそれはそうだろうな」
「そうなれば学園側にも問題があったんじゃないかと叩かれかねない。そうなれば来週から始まる学園祭は間違いなく延期……いや中止になる可能性だってある。それは学園祭を楽しみにしているシャルロットの望みを叶えると言う意味では本末転倒じゃないのか?」
「そ、それはそうだが……」
「別に今すぐ捕まえろって言うんじゃない。学園祭が終わった後にでもこっそり捕まえればなんの問題も無いはずだ。それに犯人だけ今のうちに見つけ出しておき、監視しておけばそれだけでシャルロットは安全に学園祭を楽しめる筈だ」
「アナタ、ジン君の言う通りだわ。今は見つけるだけにしましょ」
「ああ、そうだな」
 レティシアさんの短い説得もあってか、どうにかボルキュス陛下にも納得してもらえたようだ。
 ボルキュス陛下の指示でイオが持ってきたレイノーツ学園に通う生徒のデータが入ったタブレットがシャルロットに手渡された。

「シャルロット、学科ごとに生徒のデータは分けてある。技術科の生徒から見てくれ」
「分かりました」
 そんなボルキュス陛下の言葉にシャルロットは緊張しながらもゆっくりと生徒のデータを見ていく。
 王族とは言え同じ学園に通う生徒の個人情報を見て良いわけではない。それでも緊急時なのだから仕方が無いと言えるのかも知れない。
 シャルロットがデータを見ている間、俺はボルキュス陛下に気になった事を聞いてみた。

「レイノーツ学園ってどれぐらいの規模なんだ?」
「そう言えばジンは知らないのだったな。学園にも数日通う事になるだろうからな。教えておいても良いだろう」
 そう言ってボルキュス陛下は腕を組みなおす。

「ここ帝都レイノーツにある学園の全てが初等部、中等部、高等部と一貫性の学園となっており7歳~19歳までの生徒が8つほどある各学園に通っている」
 8つか。この東京よりも一回り大きい帝都でそれは逆に少な過ぎるように感じるんだが。ま、俺には関係ないことか。

「他の国のように冒険者教育学校のようなものはこの帝都には無くてだな。レイノーツ第一学園~第八まであるわけだ。で、一番最初の学園である第一学園はこの帝都を代表してレイノーツ学園と呼ばれている。ま、呼ばれているだけで正門などの看板にはちゃんとレイノーツ第一学園と刻まれているんだがな」
 よく学校の名前を略称して言うみたいなものか?それにしては略称されていないような気もするが。ま、スヴェルニ学園みたいな面倒だったなんて理由じゃなくて良かったと思うが。

「そして各学園で力を入れている事は違う。例えば第七や第八には農業科や酪農科と言う学科があるがシャルロットが通っている第一学園には無い学科だ。それに第一学園はこの帝都を代表してと言う事もあってか、通う大半の生徒が貴族の息子か娘だったりとする」
 ま、普通に考えてそうだろうな。誇りやプライドが高い貴族が帝都の代表と言われる学園に通いたがらないわけがない。もしかしたら本当は農業に興味があるのに親の命令で第一学園に通わされている生徒だっているかもしれないんだからな。

「そして第一学園にある学科は普通科、技術科、冒険科、軍人教育科、魔物学科、芸術科の6つだ」
「普通科、技術科、冒険科、軍人教育科、芸術科は分かる。だが魔物学科ってなんだ?」
「技術科は主に軍人や冒険者などが使っている武器や兵器、それに関連する物の研究なのは知っているね」
「大まかにだけどな」
「で、魔物学科ってのはその名の通り魔物について研究しているのさ。魔物の生態や繁殖能力、どんな病気になりやすいとか、そうじゃないとかね」
 なるほどな。確かに魔物を知る事は大切な事だ。特に冒険者にとっては魔物の生態の研究で弱点が分かった事で効率よく倒せるようになったって事もあるだろう。

「で、一クラス50人で普通科10クラス、技術科15クラス、冒険科15クラス、軍人教育科15クラス、魔物学科12クラス、芸術科10クラスだ」
 スヴェルニ学園よりも遥かに生徒数が多い学園が存在するとは。きっとレイノーツ学園もマンモス学園なんだろうな。

「因みに第一学園の広さってどれぐらいなんだ?」
「そうだな……ジンにも分かり易く説明するならスヴェルニ学園より一回り大きいと言えば分かるか?」
「あ、ああ。それで大丈夫だ」
 うん、予想通りと言うよりもそれ以上のマンモス学園だ。
 ボルキュス陛下の言葉に驚かされた俺は落ち着くために出された紅茶を一口飲んでいると、シャルロットがタブレットをテーブルの上に置く。
 どうやら終わったようだな。
 ボルキュス陛下たちもシャルロットの動きで分かったようで視線を向けている。

「それでどうだったんだ?」
「そ、それが……」
「それが?」
「居ないんです」
 その不安そうな表情で呟かれた言葉に誰もが目を見開けて驚愕の表情を浮かべていた。
 おいおい、嘘だろ。居ないわけないだろ。

「シャルロット、お前が優しいのは知っている。だがその生徒を庇うような事をする必要はないんだぞ」
「いえ、本当に居ないんです。見た目は金色のショートヘア、瞳は森よりも濃い緑色。身長は私より低かったので150センチ代。見た目も童顔だったので後輩だと思うんですがどこにも見当たらないんです」
「他の学年もちゃんと調べたのか?」
「はい、調べました。もしかしたら他の学科なのかもと思って全ての学科を見ましたがどこにも彼のデータが無いんです」
 データが無いなんてどう言う事なんだ?
 他の可能性としてあるなら教師か学園関係者。いや、シャルロットが童顔って言ってるんだそれは無いか。でもこの世界の奴らって外見が必ず年齢相応ってわけじゃないからな。となると別の学園の他校生と言う可能性もあるが。

「なぁ、そいつが他の学園の他校生って事はないのか?文化祭も近いわけだろ。なら合同、もしくは助っ人として呼ばれたとか」
「いや、それはない。他の学園と何かを行うのは毎年の体育祭ぐらいなものだ。学園祭はその学園のみで行われるからな。それに文化祭前に合同授業などするわけがない。それにするなら私のところにその情報が届いているはずだ」
「そうか。ならこの可能性は低いだろうが教師や学園で働いている事務員って可能性はないのか?」
「それはない筈です。そんな外見をしていたら生徒の間で噂になりますから。それに私が出会った時彼は制服を着てましたから生徒で間違いないと思います」
 そんな質問に今度はシャルロットが否定してくる。ま、そうだよな。どっかの学校の子供先生じゃあるまいし、そんな奴がいるはずがないよな。

「となるとあと考えられる可能性としては」
「可能性としては?」
 そんな呟きに全員の視線が俺に集まる。きっとどこの世界であろうと王族に囲まれて見つめられた事があるのは俺ぐらいだろう。

「幽霊だな」
『…………』
 そんな俺の言葉に全員が目を丸くする。ん?なんだその目は?

「ジンさん、それは本気で言っているのですか?」
「それ以外ありえないだろ」
 それに学校や学園には必ず怪談話があるのがつきものだからな。

「陛下、僭越ながら申し上げます。今すぐこの男を護衛から外して頂きたいと思います」
「うむ、そうだな……」
 ボルキュス陛下、うむ、そうだな。じゃないだろ!グレンダも折角の依頼を無かった事にはさせないぞ。
 ったく、分かったよ。もっと真剣に考えれば良いんだろうが。
 幽霊でも無いとするなら、あと考えられる事は、

「そのストーカーには仲間が居る可能性とかありえるんじゃないのか?」
「仲間か。例えば?」
 うっ、ここで追撃とは。予想外だ。
 強面の表情も相まってかいつも以上に怖い。
 俺は殺されないよう一生懸命考える。
 ………そうだ!

「例えば、各クラス50人ならどこか1人人数が少ないはずだ。それなら共犯者が居てもおかしくはないだろ?」
「確かにな」
 ふう、どうにか凌げたか。
 俺たちはさっそくタブレットで人数を確かめていく。
 しかし、どのクラスも50人居た。

「どうやら共犯者は居ないようだな」
「むぅ……」
 いつもより低音に感じるボルキュス陛下の声音に焦りを感じつつ俺はあまり使いたくない脳みそをフル回転にして考える。
 ………………思考中。

「何か良い案を思いつきましたか?」
「学園に行って確かめるか」
「なんとも雑な案だな」
 仕方が無いだろ。それしか思いつかなかったんだから。だからみんなそんな呆れた表情で俺を見ないでくれ。

「それに現場でしか分からない事だってあるかもしれないだろ」
「確かにジン君が言っている事は一理あるね」
 ライアン!さすがは次期皇帝だな!お前ならきっと俺を助けてくれると思っていたよ。

「ライアン、だがな……」
「父上だって知っているはずです。現場でしか分からない事だってあることぐらいは」
「それはそうだが……」
 良いぞ!もっと言ってやれ!
 平然と装いながらも俺は内心腕を振り上げながらライアンを応援する。
 頑張れライアン!

「ああ、分かったよ。もう依頼は受理されてこうして来て貰ったわけだからな」
 よしっ!
 内心ガッツポーズをする俺だが表はクールを装う。これが大人の対応と言うものだ。
 何故かは分からないが、シャルロットが安堵する吐息声が聞こえてきた。やはりシャルロットは優しいな。
 そして来週から始まる学園祭を前に俺たちは一度学園の様子を見に行く事にした。
 明日は学園祭準備があるらしく通常授業を行うそうなので、今日はこのまま王宮に泊まって明日シャルロットと一緒に学園に行くことになった。
 レイノーツ第一学園の学園祭は1週間と長期間行われ、一般人だけでなく、冒険者や貴族、他国からの観光客も足を運ぶほどの有名性があるらしい。その分犯罪者が出入りする危険性を考えて入場口での検問は生徒ではなく、軍人が行う事になっている。

「我の方から学園には連絡しておく。それでジンは自由に出入り出来るはずだ」
「それは助かる」
 俺はシャルロットの新しい護衛として学園に通うため顔パスで入れるようになるみたいだ。王族と知り合いと言うのは何気に得をする事があるな。
 話し合いも終わり見慣れた客室に案内された俺はアインに電話する。
 もしも連絡してなかったら皇宮に乗り込んで着そうだからな。

『もしもし、どこの低脳猿ですか』
「誰が低脳猿だよ」
『おや、誰かと思えばミジンコでしたか。これは失礼しました』
「お前はまともに謝る気がないだろ」
『おや、良くお分かりで』
 絶対帰ったらぶん殴ってやる。
 怒りを抑えてどうにか俺は電話越しのアインに内容を伝える。

「実はな。明日レイノーツ学園に行くことになった」
『空っぽの脳みそしか持ち合わせていない貴方が学園に行ったところで無駄だと思いますが?』
「誰も勉強しに行くわけじゃねぇよ!そうじゃなくて依頼で行くんだよ」
『そうだったんですか』
 いつか絶対に認めさせてやるからな!
 湧き上がる怒りを抑えて俺は話を続ける。

「で、今日は皇宮に泊まる事になったから」
『は?』
「は?じゃねぇよ。だから今日は帰れないって事だ。つまりお前は1人でお留守番だ」
『なるほど今すぐ襲撃に来いと言う事ですね』
「なんでそうなるんだよ!明日は帰るから一日ぐらい我慢しろ!じゃないと銀と一緒に寝させてやらないぞ」
『どうして貴方にそんな事決められないと行けないんですか?』
「俺は銀の保護者で銀の母親に頼まれたからだ」
『……分かりました。今日一日。24時間だけ我慢してあげます』
 ふう、どうにか助かりそうだ。

『ですか、1秒でも遅れたその空っぽな頭に風穴を開けます』
「必ず帰るから安心しろ!」
 俺はそう言って電話を切った。
 やばい!つまり24時間以内に帰らなければ俺の命が無いって事だよな。
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