魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第七十六話 銀髪の吸血鬼少女 ⑩

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「どうして平然としているのかと言いたいのであろう?」
「そうなのだ。どうしてなのだ?」
「我を誰だと思っている大陸一と言っても過言ではないベルヘンス帝国の皇帝だぞ。最悪が何だろうが魔眼など恐れるに足らん。それどころかそれほどの強力な魔眼の持ち主が我が帝国で冒険者として活動してくれることに感謝するぞ」
「な、言っただろ。ボルキュス陛下は魔眼なんかで怯えたりするような小さな男じゃねぇんだから」
「ジン君に褒められるとはな」
 別に褒めたつもりはない。事実を口にしただけだ。
 あ、そうだった。

「ボルキュス陛下」
「なんだ?」
「悪いんだが、ヘレンの戸籍と住所をこっちに移せないか?」
「ふむ……住所はなんとかなるだろう。だが戸籍となると色々と面倒だからな。ヘレンは既に成人しているとは言え、あの夫婦がそれを許すとは思えん」
 確かにボルキュス陛下の言うとおりだ。あのギルバートとヘンリエッタが素直にヘレンを戸籍変更させるとは思えない。

「ギルバートとヘンリエッタの事は俺たちが何とかする。だから悪いんだがヘレンの住所と戸籍登録の手続きを進めておいてくれないか」
「別にそれは構わないが、どうするのだ?」
「なに、偶然にも依頼を受けてベラグール王国の隣、ヌイシャ連邦国に明日にでも行く予定なんだ」
「ヌイシャ連邦国に?」
「そうだ」
(仲間の危機が終わっていない状況で依頼を受けるような男ではない。ヌイシャ連邦国……そう言えばあの国にはヴァンパイアハンターの本部があったな。確か部下からの報告ではヴァンパイアハンター内で派閥争いが起きていると報告があったな。なるほどそういう事か)
 一瞬考え込むボルキュス陛下は最後に笑みを零した。どうやら俺たちの考えに気付いたのだろう。

「良かろう。無事に戻ってきたらヘレンを我がベルヘンス帝国の国民として登録できるようにしておこう」
「助かる。ヘレンもそれで良いよな?」
「うん、問題ないのだ!」
「あ、それと住所は俺たちのホームがある48区にしておいてくれ」
「分かっている」
 そう言って俺たちは皇宮を後にした。
 帰ってきた時の準備は整った。
 あとは依頼を無事に終えるだけだ。

            ************************

 セダン風の高級車に乗って移動するギルバートとヘンリエッタは帝都の街並みを見ながら吐き捨てるように言葉を口にする。

「やはりこの国は駄目だな。最初来た時から気分が悪くなったが、特にあの男はゴミ虫以下だ」
 ギルバートの脳裏に浮かぶ男とは銀のメッシュが入った髪を持ち、飄々とした態度で挑発を繰り返しギルバートを苛立たせた成年だ。

「何を今更分かりきったことを言ってるのよ。私たち吸血鬼以外の種族なんて全てが下等生物よ。いえ、私たち吸血鬼以外種族なんて存在しない。他は全て家畜、道具、ゴミよ」
「そうだな、ヘンリエッタ。お前の言うとおりだ」
 優雅な態度で悪態を口にするヘンリエッタの言葉にギルバートは笑みを浮かべて同意するのだった。
 その姿はまさにジンが想像していた通りの傲慢不遜で他種族を見下していた。

「だがまさかあの疫病神を仲間にしたがるような連中がいるとは、これでは私たちの身も危険だ」
「大丈夫よ。あの出来損ないがあの情報を他人に伝えるとは思えないわ」
「どうしてだ?」
 ヘンリエッタの自信溢れる声音にギルドバートは視線を向けて問い掛けた。

「だってそうでしょ。伝えるならとうにしてるはずだもの。なのに10年の間、あの情報が表に出てこなかったって事はあの出来損ないは誰も信じることが出来ていない証拠」
「なるほどな。やはりヘンリエッタ、お前は素晴らしい女だ」
「うふふ、ありがとう」
 ヘンリエッタの言葉に安堵するギルバート。
 ヘンリエッタもまたギルバートと同じでなんと疑いや不安も抱いてはいなかった。
 しかし、ギルバートが疫病神とヘンリエッタが出来損ないと吐き捨てたヘレンの心の錠を解き放ったのは紛れもなく仁なのだ。
 その事に気付かない2人はただただ外を歩く人々を見下すような視線を向けるのだった。

「オニガワラ・ジン……貴様だけは私の手で絶望を味合わせてやる」
 憎しみと怒りが混ざり合った声音が車内に静かに広がっていくのだった。

            ************************

 48区にあるホームに戻ってきた俺たちはソファーに座り寛いでいた。
 壊れたエアコンに血の跡が未だに残る絨毯。そして大きな風穴が開いているソファー。
 依頼を終えたら買い換えないとな。
 そう思うとやはり憂鬱な気分になる。ま、今回の非公式の依頼を終えたら1000万RK入るからそれでリフォームと一緒に買い換えるけど。
 さて、依頼を達成するに当たってやっておくことが幾つかある。

「さて、まずはヘレン。悪いんだがお前のステータスを見せてくれないか?」
「別にかまわないぞ。だけどなんでなのだ?」
 信頼してはいるがやはり気になるのかヘレンは問い返して来る。ま、別に構わないが。

「お前の力を把握するためだ」
「そう言うことなら構わないのだ」
 そう言うとヘレンは慣れない手付きでスマホ画面にステータスを表示した。

─────────────────────
 ヘレン・ボルティネ
 種族 吸血鬼
 職業 冒険者(双剣使い)
 レベル 327
 MP 285000
 力 33600
 体力 31200
 器用 33000
 敏捷性 42000

 固有スキル
 経験値3倍速
 全痛覚眼パーフェクトペイン
 吸血

 スキル
 剣術Ⅵ
 双剣術Ⅶ
 瞬脚Ⅴ
 耐熱Ⅱ
 耐寒Ⅷ
 雷電耐性Ⅱ
 危機察知Ⅶ
 物理攻撃耐性Ⅳ
 魔法攻撃耐性Ⅳ
 状態異常耐性Ⅱ
 魔力操作Ⅶ

 称号
 龍殺し

 属性
 火 氷 闇 無
─────────────────────

 え、何これ?
 予想外の数値に俺は驚きを隠せずにいた。
 確かに俺たちに比べれば全然劣る。だがヘレンはAランクにしては強いとは思っていた。だがここまで強かったとは予想外だ。
 いや、それよりも問題なのは固有スキルだ。なんでイザベラと同じ経験値3倍速を持ってるんだ。
 経験値3倍速の効果は同じモンスターを倒したとして獲得できる経験値が10だったとすればイザベラやヘレンは30貰えると言う事だ。
 影光は2倍速だから20だ。
 俺なんてそんな戦闘向きの固有スキルなんて持ってないってのに。
 無限強化って名前の固有スキルは持ってるけど、これはただ単に何歳になろうと強くなれるとと言うモノだ。
 年齢を重ねるごとに体は衰えていくが俺はそれが無いと言うだけで、強くなるには戦って強くなるしかない。
 イザベラやヘレン、影光のように二段や三段飛ばしで強くなることはない。俺も10しか増えないのだから。

「ほほう、気配から強いとは思っていたがこれほどとは。拙者よりも魔力量が多いな。それに瞬脚が使えるのか。それも中々熟練度が高いな」
「それに私ほどではありまえんが魔力操作の熟練度も高いです。これは将来が期待できますね」
 影光とアインが嬉しそうに話している。
 ま、確かに気や剣術は影光、魔力操作なんかはアイン。それぞれの分野でスペシャリストと言っても良い2人なのだから仕方あるまい。
 だがこれはヘレンが地獄へと行く予定が決まってしまったと言う事だ。なんせこの2人の目が間違いなくやる気に満ちているのだから。頑張れよヘレン。
 心の中で合掌しながら祈る俺。
 俺はふと気になった事を質問してみる事にした。

「なぁ瞬脚ってなんだ?前に影光のステータスにもあったと思うんだが」
「何を言っているんだ仁。お前も拙者との戦いで使っていたではないか」
「いや、使ってないぞ。俺はただ単に地面を強く蹴って移動してただけだ」
「なら見せてみろ」
 そう言われ、俺たちは地下の訓練場へとやって来た。ここに来るのは久しぶりだな。

「それじゃ始めるぞ」
 俺の瞬脚を見るべく横一列で並ぶ影光たちの前で俺はいつも通り地面を蹴って移動した。
 移動した距離は10メートル。その時間は0.2秒。まさに一瞬だ。
 走り終わり影光たちの方へ視線を向けると何故か影光は驚愕の表情を浮かべていた。

「まさか、瞬脚ではないとは……」
「だから言っただろう。で瞬脚ってなんだ?」
「瞬脚とは一瞬で敵に近寄る歩法の事だ。技と言っても良い。この歩法を極めたものは自然と使えるようになり普通に走って近づくよりも体力を消耗しなくなる。なにより移動した地面を破壊する事はない」
 マジか。それは良いな。
 瞬脚をマスターすれば地面を壊さなくて済む。そうすれば街の中でも戦いやすくなるな。
(だが、瞬脚ではなく普通に走っただけで拙者以上に速い移動速度。いや、まだ力を抑えているとなるとそれ以上か。もしも仁が瞬脚を覚え本気で走れば奴は光よりも速い速度で移動することが可能になるかもしれん)
 顎に手を当ててなにやら考え込んでいるようだが、何を考えているんだ?
 そう思っていると影光が俺に視線を向けてきた。

「良いだろう。この依頼が終わったら仁、お前に瞬脚の歩法を教えてやる」
「マジか。ありがたいね」
 これで俺は強くなれる。
 師匠俺はまだ強くなれるようだぜ。
 新たな強さが手に入ることに嬉しく感じながら俺はシミのある天井を見上げた。


 10月23日火曜日、午前5時10分。
 ようやく少し明るくなってきた空の下、俺は寒さに耐えながらホームの外で影光たちと待っていた。

「ったくこんなに寒いと眠気なんて一気に吹っ飛ぶぜ」
 力を制限しているせいでまともに寒さが肌を直撃してくる。

「仁の言うとおりぞ。なぜこんな早くに出発せねばならないのだ」
 影光もこの寒さには耐えられないのか、顔を顰めていた。

「まったくお2人は情けないですね」
「お前はサイボーグだから寒さなんて感じないだろうが」
「いえ、感じますよ。ですが今は外気温感知を遮断してますので平気です」
 ただのズルじゃねぇか!
 そう思いながら迎えが来るのを待つ。

「そう言えばヘレンは平気なのか?」
「私が住んでいたベルグール王国は雪国だからな。このぐらいの寒さは平気なのだ!」
 なるほど寒い国に生まれた国でよくある事だな。寒い国で生まれた奴は寒さには強いが暑さには弱いって言う。
 そんな事を思っていると1台の車がやって来た。
 黒いミニバンのような車が俺たちの前で止まる。

「お待たせして申し訳ありません。さぁ乗ってください」
 スライド式のドアを開けたハルナの指示に従って俺たちは車に乗り込んだ。
 運転しているのは黒髪のエテ。助席には弟のイヴェール。
 その後ろ、つまり中間の後部座席には左側からハルナ、俺、影光。一番後ろの後部座席にはアインとへレンが座っている。因みに銀はアインの膝の上だ。

「少し遅れて申し訳ありません」
「何かあったのか?」
 もしかしたら敵対派閥の連中が先に仕掛けてきたのかもしれない。

「いえ、恥ずかしい話なのですが……」
 少し顔を赤らめて下を向くハルナ。いったい何があったんだ?

「間違えた」
「道を間違えました」
 と双子が教えてくれた。
 なるほど、だから遅れたのか。

「本当は間違える筈は無かったんですよ。ただ右折する道を1つ早めに曲がってしまっただけで……」
「ハルナが間違えた」
「だから運転を代わりました」
 双子の言葉にハルナは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 どうみても見た目の年齢は27歳ぐらいだ。戦闘能力も高く真剣な表情はとても威厳に溢れ、凛々しさで見惚れるほどでもある。
 しかし、今の彼女にはどれもなく、同年代としか思えないほどの可愛いらしさに溢れていた。
 こんな可愛らしい一面が見られるとは思ってなかったぞ。得した気分だ。

「よく間違えるのか?」
「いえ、そんな事はありません」
「たまに間違える」
「だけど方向音痴じゃない」
 間違えるのに方向音痴じゃないってどういう事だ?

「ハルナはドジっ子」
「運転だけでなく日常生活でよくミスをします」
 まさかドジっ子だったとは意外だ。
 視線をハルナに向けると頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にして俯いていた。
 双子よ可哀想だから止めてあげてくれ。
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