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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第八十話 銀髪の吸血鬼少女 ⑭
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俺の言葉に全員が笑みを浮かべた。
馬鹿にされるかと思ったがどうやら違ったらしい。いや、俺の考えに気付いたんだろう。
「俺たちには陸と空を警戒できる力がある。なら東門の外で待っていれば良い」
「それで作戦は?」
「簡単な事だ。今回はツーマンセルで行動しようと思う。組み合わせは俺のヘレン。アインと影光だ。今回銀はアインと一緒だ」
「ガウッ!」
俺の言葉に銀は気合十分と吼える。
「貴方にしては随分と分かってきたようですね」
「俺とヘレンは陸を警戒する。アインと影光は空を警戒してくれ。と言ってもアインだけで十分だろうがな」
「なんだ拙者は出番なしか」
「空から落ちてきた連中を殺せば良いだろ。もしくは陸から来た連中もな」
「結局はおこぼれか」
業とらしい落ち込み方をしやがって。
「アイン、ハッキングしたデータは盗んだか?」
「そう言われると思って既に完了済みです」
「流石だな」
「貴女に褒められても嬉しくありませんね」
きっとこれはツンデレじゃなくて本音なんだろうな。
その事に思わず嘆息してしまうが、まあ良い。
「それじゃ、依頼をこなしに行くとするか」
俺を先頭に全員が部屋を出るのだった。
先ほどまで太陽が出ていたはずだが、今は分厚い雲に覆われた曇天。
空気も乾燥し、強い風が吹き荒れる。
一瞬で目の前から色彩が消えたような不気味さを感じるが、もうすぐここは赤黒い血で染め尽くされるだろう。
「それにしても来る気配が無いな」
要塞の外に出て20分が経過した。
しかし周囲の森に吸血鬼らしき人影どころか気配すらない。
空から来るにしてもそろそろ見えてもおかしくはない時間帯なのにその面影すらない。どういうことだ?
まさか今更怖気づいて引き返したなんてあるわけがないだろうしな。
「アイン、計画書には時間以外に襲撃ポイントとか書かれてなかったのか?」
「書いてありませんでしたね。互いを信頼しているのか、それとも吸血鬼側に完全に任せているのかは分かりませんが」
「そうか」
吸血鬼が自分たち以外を見下している事ぐらい、分かっている筈だ。だから襲撃の全てを任せるとは思えないんだが。
それとも他に襲撃する方法があるのか?
「仁、どうやらその心配は必要ないようだぞ」
影光の視線の先にはアメリカ陸軍でも使われているCH-47 チヌーク5機がこちらに向かってきていた。正確には似た機体だけど。
この真上に到着するのに5分と掛からないだろうが、どうしてその距離になるまで俺は気づかなかったんだ?
「まさかこの時代に光学迷彩があるとは思いませんでした」
「光学迷彩!?そんな物まであるのか!」
「いや、最新の光学迷彩でもこの距離になるまで気づかないと言うことはない。となると」
「レグウェス帝国の遺産か」
ったくレグウェス帝国め。滅んだくせにどこまで俺たちに迷惑を掛けるんだよ。と言うかどこまでお前らの国だったんだ?帰ったらアインに聞いてみるか。
「だが、それにしては数が多すぎる」
「きっとレグウェス帝国の技術を応用したのでしょう。でもまさかプロペラ音まで消せるとは思いませんでしたが」
確かにどれだけ制作方法が分かっていても、それに必要な材料や技術力が無ければ無理だ。となると吸血鬼どもはそれができるだけの技術力と材料を持っていたって事になる。
「ですが、光学迷彩を使用するにもまだ時間制限があるのでしょう。でなければあの距離で解除するわけがありませんからね」
「完璧じゃないって事か」
「そうなりますね」
それはラッキーだな。なら俺たちは考えた作戦通りに行動を開始するか。
「アイン、フリーダム最初の先制攻撃は任せたぞ」
「言われるまでもありません」
そう言うと亜空間から対戦車ライフルを取り出し構える。
地面に寝そべるかと思いきや普通に構えてやがる。ま、アインはサイボーグだし普通に構えられるのは分かるがやっぱり目で見ると凄い光景だよな。
まさにセーラー服と機関銃ならぬ、メイドと対戦車ライフルだな。
「自分のタイミングで撃っていいぞ」
「貴方に命令されるなんて御免ですので最初からそうするつもりです」
そうかよ。
スコープを覗いて照準を定める。
アインの人差し指がトリガーに掛けられた。そろそろだな。
ドオオオオオオォォッン!
「なんだ!?」
一瞬アインが撃ったのかとも思ったが違う。
強烈な爆発音は要塞の中から聞こえてきたのだ。
おいまさか敵対派閥の連中も動き出したのか?だとしても爆発前にもっと騒がしくなっている筈だ。
それに、
「なんで吸血鬼共が要塞の中に居るんだよ!」
増え続ける吸血鬼の気配に俺は思わず叫ぶ。
これじゃ俺の作戦がめちゃくちゃじゃねぇかよ!
「仁、それでどうするのだ!」
「俺とヘレンは中に戻る。影光とアインはここで外の奴の討伐を頼む!」
「やはりそうなるか」
分かっていたのなら聞かないでほしい。
そう思いながら俺はヘレンに視線を向けた。
「ヘレン、行くぞ!」
「分かったのだ!」
俺たちは急いで要塞へと戻る。
城門を抜けるとそこは既に戦場と化していた。
舞い上がる土煙に鉄と硝煙の臭いが鼻腔を刺激し、襲撃を受けたヴァンパイアハンターたちの叫び声が耳に届いてくる。
俺の中では要塞の前を真っ赤に染める筈だったが、どうやら作戦は無理のようだ。ん?
1人のヴァンパイアハンターが目に留まる。アイツは確か俺に文句を言ってきた奴じゃなかったか?
足元には3体の吸血鬼の死体が転がっているが未だ2人の吸血鬼に囲まれている。
それに腕や脚からは血が流れており今にも倒れそうなほど荒い呼吸をしながら戦っていた。と言うか今にも殺されそうだ。
正直助けたいとは思わないが、もしもここで無視すれば祟られそうなので俺は助ける事にした。
4%まで力を解放した俺は指突で2人のうち1人の心臓を貫いた。
「お、お前は!」
俺に気がついたヴァンパイアハンターは驚きの声を出す。
頭と胴体がお別れした吸血鬼の死体を見下ろす。どうやらヘレンも無事に倒せたようだな。
「よ、無事か?」
「あ、当たり前だ!それよりもどうしてお前らがここに!」
「どうしてってそれが俺たちが受けた依頼だからな」
「依頼だと」
「ま、その話は置いといてだ。この吸血鬼共はいったいどこから現れたんだ?」
「分からない。だが、他の仲間が地下から来たと言っていた」
「地下だと。そんな道があるのか?」
「俺が知るわけ無いだろ!ただこの建物は大昔に建てられたものだ。だから――」
「お前たちが知らない隠し通路があってもおかしくはないわけか……」
だとしたら吸血鬼の数によってはその隠し通路を壊して封鎖しないとだめかもな。
「それで被害状況はどうなってるんだ?」
「正確な事は分からない。だが3割は殺られたと考えてくれ」
となると最悪この会話の間に4割にはなっていると思った方が良いな。
「お前はまだ戦えるか?」
「当たり前だ!誰が吸血鬼なんかに殺られるものか!」
声を荒立てて返事をする。うん、大丈夫だな。怪我が大げさに見えてくるほどだ。
「なら、お前は他のヴァンパイアハンターたちと一緒に吸血鬼の討伐に当たれ」
「な、なんで新入りのお前にそんな事を言われなければならないんだ!俺はこう見えても上等執行官なんだぞ!」
マジか。てっきり二等執行官あたりかと思っていた。
「悪かったよ。だがこのまま個人で動きよりかは良いと思うがな。それに負傷者の救助もしないといけないだろ?」
「そ、それはそうだが。それならお前たちがすれば良いだろ。三等執行官なんだから!」
「悪いな。俺たちはそもそもヴァンパイアハンターじゃないんだ」
「なら何だって言うんだ!ま、まさかお前たちが吸血鬼を!」
「なわけあるか。だったらお前を助ける理由がないだろうが」
「それもそうだな。なら何故だ」
「俺たちは冒険者だ」
「冒険者だと。だが冒険者がどうしてここに居る」
「お前らの上司のハルナの依頼。正確にはその上のダグラスの依頼で来た。敵対派閥が吸血鬼に依頼してお前たちを殺す算段をつけたから助けて欲しいってな」
俺の言葉に一瞬驚きの表情を浮かべたかと思えば、すぐに真剣な面持ちへと変わった。
「なるほど。確かにお前たちはマーベラス様に案内されていたからな。だがそれはおかしい」
「おかしいだと。何がだ?」
「吸血鬼共は俺たちや敵対派閥関係無しにヴァンパイアハンターを殺しまわっているからだ」
「なにっ!それは本当か!」
「ああ。敵対派閥の連中が吸血鬼共に殺されているのを見かけたからな」
「その話を詳しく!って言いたいところだが、どうやら敵さんのお出ましのようだ」
愉悦に浸る笑みを浮かべた吸血鬼約20人が俺たちを囲むようにして殺気を放っていた。
それにしても個々の戦闘能力はやはり吸血鬼の方が高いな。イザベラやロイドに比べれば劣るが、それでも平均的に言えば遥かに勝っている。
それにこの数となるとイザベラでも少しはてこずるだろう。
だが生憎と俺には通用しないぜ。
「ヘレン、殺れるか?」
「なんの問題も無いのだ!」
不敵な笑みを浮かべて両手にショートソードを構える。アインや影光に比べればまだまだだが頼りになるのは間違いない。
「お前は少し休んでろ」
「馬鹿な事を言うな。本職である俺が冒険者の後ろで休んでいるわけには行かないだろうが!」
まったく無駄にプライドだけは高いな。
一瞬脳裏にロイドが浮かぶ。そう、コイツはどこかロイドに似ているのだ。
見た目はぜんぜん似てないのにな。
「ヘレン、何体までなら同時に相手できる?」
「この程度なら5人までなら余裕なのだ」
5人か。さすがは吸血鬼の中でも貴族生まれ。そして才能に恵まれただけの事はある。
「なら、俺は14人を相手する。お前は緑頭の吸血鬼を殺せ」
「幾つか言いた事はあるが、今は従ってやる。だが、あとで覚えていろよ!」
「ま、覚えておいたら考えておいてやるよ!」
俺は地面を蹴って一番近い目の前の奴の顔面を思いっきり殴り飛ばした。
顔面の骨が砕ける感触が拳に伝わってくる。
死んだな。そう確信した俺は次の吸血鬼に接近していた。
流れ作業で俺は敵を殺していく。
殴り殺し、蹴り殺し、突き殺し、捻じ殺す。
きっと俺の戦いを見ている奴等は吸血鬼たちが次々と倒れていく姿に恐怖を覚えるだろうが、別に俺は魔法や固有スキルなんかは使ってはいない。と言うかそれが使えれば苦労はしない。
俺はただこの5年間で鍛えた体を使って相手の顔を殴ったり、蹴ったり、指で突いたり、首を捻じったりして殺しているだけだ。
そして俺は流れ作業は2分とも掛からない時間で終わった。やはりこの程度の奴らだと運動にしかならないな。
俺はヘレンたちに視線を向けると、ヘレンは残り2人、男の方はもう少しで勝てそうだ。と言うかあの男の名前知らないな俺。後で聞いておこう。
それから少しして2人とも無事に倒し終わる。ヴァンパイアハンターの方は負傷していることもあってか肩で息をしていたが。
「ヘレン大丈夫だったか?」
「この程度平気なのだ。ジンの方こそ、相変わらず強いのだ」
「まあな」
「本当に人間かよ。悪魔って言われても俺は信じるぞ」
「失礼な奴だな。俺は正真正銘の人間だ」
ま、ステータスには人間をやめし者って称号があるけど。それでも心は真人間のつもりだ!
それよりも20人も倒してまだあちこちから悲鳴や戦闘音が聞こえてくる。いったいどれだけの吸血鬼共がこの要塞に入り込んでいるんだ?
話を続きをするために俺たちは一旦身を隠せる場所に移動する。その途中で出くわした吸血鬼たちは勿論殺して行った。
「それで敵対派閥の連中も吸血鬼たちに殺されていたってのは本当なんだな?」
「ああ、間違いない。敵対派閥の1人が俺に助けを求めてたからな」
「そうか」
吸血鬼と敵対派閥は協力関係にあると思ったが違うのか?
いや、そうじゃない。吸血鬼、正確にはヘレンの両親であるギルバートとヘンリエッタの2人はこの依頼はチャンスだと考えたんだ。
敵対派閥の連中の依頼を受けたフリをして、要塞内に入り込みヴァンパイアハンターたちを全滅させる算段なんだろう。そうすれば今後襲われる心配はないからな。それに横領の事がバレたとしても今回の功績でチャラにするつもりか。ま、それでチャラになれば良いけど。
馬鹿にされるかと思ったがどうやら違ったらしい。いや、俺の考えに気付いたんだろう。
「俺たちには陸と空を警戒できる力がある。なら東門の外で待っていれば良い」
「それで作戦は?」
「簡単な事だ。今回はツーマンセルで行動しようと思う。組み合わせは俺のヘレン。アインと影光だ。今回銀はアインと一緒だ」
「ガウッ!」
俺の言葉に銀は気合十分と吼える。
「貴方にしては随分と分かってきたようですね」
「俺とヘレンは陸を警戒する。アインと影光は空を警戒してくれ。と言ってもアインだけで十分だろうがな」
「なんだ拙者は出番なしか」
「空から落ちてきた連中を殺せば良いだろ。もしくは陸から来た連中もな」
「結局はおこぼれか」
業とらしい落ち込み方をしやがって。
「アイン、ハッキングしたデータは盗んだか?」
「そう言われると思って既に完了済みです」
「流石だな」
「貴女に褒められても嬉しくありませんね」
きっとこれはツンデレじゃなくて本音なんだろうな。
その事に思わず嘆息してしまうが、まあ良い。
「それじゃ、依頼をこなしに行くとするか」
俺を先頭に全員が部屋を出るのだった。
先ほどまで太陽が出ていたはずだが、今は分厚い雲に覆われた曇天。
空気も乾燥し、強い風が吹き荒れる。
一瞬で目の前から色彩が消えたような不気味さを感じるが、もうすぐここは赤黒い血で染め尽くされるだろう。
「それにしても来る気配が無いな」
要塞の外に出て20分が経過した。
しかし周囲の森に吸血鬼らしき人影どころか気配すらない。
空から来るにしてもそろそろ見えてもおかしくはない時間帯なのにその面影すらない。どういうことだ?
まさか今更怖気づいて引き返したなんてあるわけがないだろうしな。
「アイン、計画書には時間以外に襲撃ポイントとか書かれてなかったのか?」
「書いてありませんでしたね。互いを信頼しているのか、それとも吸血鬼側に完全に任せているのかは分かりませんが」
「そうか」
吸血鬼が自分たち以外を見下している事ぐらい、分かっている筈だ。だから襲撃の全てを任せるとは思えないんだが。
それとも他に襲撃する方法があるのか?
「仁、どうやらその心配は必要ないようだぞ」
影光の視線の先にはアメリカ陸軍でも使われているCH-47 チヌーク5機がこちらに向かってきていた。正確には似た機体だけど。
この真上に到着するのに5分と掛からないだろうが、どうしてその距離になるまで俺は気づかなかったんだ?
「まさかこの時代に光学迷彩があるとは思いませんでした」
「光学迷彩!?そんな物まであるのか!」
「いや、最新の光学迷彩でもこの距離になるまで気づかないと言うことはない。となると」
「レグウェス帝国の遺産か」
ったくレグウェス帝国め。滅んだくせにどこまで俺たちに迷惑を掛けるんだよ。と言うかどこまでお前らの国だったんだ?帰ったらアインに聞いてみるか。
「だが、それにしては数が多すぎる」
「きっとレグウェス帝国の技術を応用したのでしょう。でもまさかプロペラ音まで消せるとは思いませんでしたが」
確かにどれだけ制作方法が分かっていても、それに必要な材料や技術力が無ければ無理だ。となると吸血鬼どもはそれができるだけの技術力と材料を持っていたって事になる。
「ですが、光学迷彩を使用するにもまだ時間制限があるのでしょう。でなければあの距離で解除するわけがありませんからね」
「完璧じゃないって事か」
「そうなりますね」
それはラッキーだな。なら俺たちは考えた作戦通りに行動を開始するか。
「アイン、フリーダム最初の先制攻撃は任せたぞ」
「言われるまでもありません」
そう言うと亜空間から対戦車ライフルを取り出し構える。
地面に寝そべるかと思いきや普通に構えてやがる。ま、アインはサイボーグだし普通に構えられるのは分かるがやっぱり目で見ると凄い光景だよな。
まさにセーラー服と機関銃ならぬ、メイドと対戦車ライフルだな。
「自分のタイミングで撃っていいぞ」
「貴方に命令されるなんて御免ですので最初からそうするつもりです」
そうかよ。
スコープを覗いて照準を定める。
アインの人差し指がトリガーに掛けられた。そろそろだな。
ドオオオオオオォォッン!
「なんだ!?」
一瞬アインが撃ったのかとも思ったが違う。
強烈な爆発音は要塞の中から聞こえてきたのだ。
おいまさか敵対派閥の連中も動き出したのか?だとしても爆発前にもっと騒がしくなっている筈だ。
それに、
「なんで吸血鬼共が要塞の中に居るんだよ!」
増え続ける吸血鬼の気配に俺は思わず叫ぶ。
これじゃ俺の作戦がめちゃくちゃじゃねぇかよ!
「仁、それでどうするのだ!」
「俺とヘレンは中に戻る。影光とアインはここで外の奴の討伐を頼む!」
「やはりそうなるか」
分かっていたのなら聞かないでほしい。
そう思いながら俺はヘレンに視線を向けた。
「ヘレン、行くぞ!」
「分かったのだ!」
俺たちは急いで要塞へと戻る。
城門を抜けるとそこは既に戦場と化していた。
舞い上がる土煙に鉄と硝煙の臭いが鼻腔を刺激し、襲撃を受けたヴァンパイアハンターたちの叫び声が耳に届いてくる。
俺の中では要塞の前を真っ赤に染める筈だったが、どうやら作戦は無理のようだ。ん?
1人のヴァンパイアハンターが目に留まる。アイツは確か俺に文句を言ってきた奴じゃなかったか?
足元には3体の吸血鬼の死体が転がっているが未だ2人の吸血鬼に囲まれている。
それに腕や脚からは血が流れており今にも倒れそうなほど荒い呼吸をしながら戦っていた。と言うか今にも殺されそうだ。
正直助けたいとは思わないが、もしもここで無視すれば祟られそうなので俺は助ける事にした。
4%まで力を解放した俺は指突で2人のうち1人の心臓を貫いた。
「お、お前は!」
俺に気がついたヴァンパイアハンターは驚きの声を出す。
頭と胴体がお別れした吸血鬼の死体を見下ろす。どうやらヘレンも無事に倒せたようだな。
「よ、無事か?」
「あ、当たり前だ!それよりもどうしてお前らがここに!」
「どうしてってそれが俺たちが受けた依頼だからな」
「依頼だと」
「ま、その話は置いといてだ。この吸血鬼共はいったいどこから現れたんだ?」
「分からない。だが、他の仲間が地下から来たと言っていた」
「地下だと。そんな道があるのか?」
「俺が知るわけ無いだろ!ただこの建物は大昔に建てられたものだ。だから――」
「お前たちが知らない隠し通路があってもおかしくはないわけか……」
だとしたら吸血鬼の数によってはその隠し通路を壊して封鎖しないとだめかもな。
「それで被害状況はどうなってるんだ?」
「正確な事は分からない。だが3割は殺られたと考えてくれ」
となると最悪この会話の間に4割にはなっていると思った方が良いな。
「お前はまだ戦えるか?」
「当たり前だ!誰が吸血鬼なんかに殺られるものか!」
声を荒立てて返事をする。うん、大丈夫だな。怪我が大げさに見えてくるほどだ。
「なら、お前は他のヴァンパイアハンターたちと一緒に吸血鬼の討伐に当たれ」
「な、なんで新入りのお前にそんな事を言われなければならないんだ!俺はこう見えても上等執行官なんだぞ!」
マジか。てっきり二等執行官あたりかと思っていた。
「悪かったよ。だがこのまま個人で動きよりかは良いと思うがな。それに負傷者の救助もしないといけないだろ?」
「そ、それはそうだが。それならお前たちがすれば良いだろ。三等執行官なんだから!」
「悪いな。俺たちはそもそもヴァンパイアハンターじゃないんだ」
「なら何だって言うんだ!ま、まさかお前たちが吸血鬼を!」
「なわけあるか。だったらお前を助ける理由がないだろうが」
「それもそうだな。なら何故だ」
「俺たちは冒険者だ」
「冒険者だと。だが冒険者がどうしてここに居る」
「お前らの上司のハルナの依頼。正確にはその上のダグラスの依頼で来た。敵対派閥が吸血鬼に依頼してお前たちを殺す算段をつけたから助けて欲しいってな」
俺の言葉に一瞬驚きの表情を浮かべたかと思えば、すぐに真剣な面持ちへと変わった。
「なるほど。確かにお前たちはマーベラス様に案内されていたからな。だがそれはおかしい」
「おかしいだと。何がだ?」
「吸血鬼共は俺たちや敵対派閥関係無しにヴァンパイアハンターを殺しまわっているからだ」
「なにっ!それは本当か!」
「ああ。敵対派閥の連中が吸血鬼共に殺されているのを見かけたからな」
「その話を詳しく!って言いたいところだが、どうやら敵さんのお出ましのようだ」
愉悦に浸る笑みを浮かべた吸血鬼約20人が俺たちを囲むようにして殺気を放っていた。
それにしても個々の戦闘能力はやはり吸血鬼の方が高いな。イザベラやロイドに比べれば劣るが、それでも平均的に言えば遥かに勝っている。
それにこの数となるとイザベラでも少しはてこずるだろう。
だが生憎と俺には通用しないぜ。
「ヘレン、殺れるか?」
「なんの問題も無いのだ!」
不敵な笑みを浮かべて両手にショートソードを構える。アインや影光に比べればまだまだだが頼りになるのは間違いない。
「お前は少し休んでろ」
「馬鹿な事を言うな。本職である俺が冒険者の後ろで休んでいるわけには行かないだろうが!」
まったく無駄にプライドだけは高いな。
一瞬脳裏にロイドが浮かぶ。そう、コイツはどこかロイドに似ているのだ。
見た目はぜんぜん似てないのにな。
「ヘレン、何体までなら同時に相手できる?」
「この程度なら5人までなら余裕なのだ」
5人か。さすがは吸血鬼の中でも貴族生まれ。そして才能に恵まれただけの事はある。
「なら、俺は14人を相手する。お前は緑頭の吸血鬼を殺せ」
「幾つか言いた事はあるが、今は従ってやる。だが、あとで覚えていろよ!」
「ま、覚えておいたら考えておいてやるよ!」
俺は地面を蹴って一番近い目の前の奴の顔面を思いっきり殴り飛ばした。
顔面の骨が砕ける感触が拳に伝わってくる。
死んだな。そう確信した俺は次の吸血鬼に接近していた。
流れ作業で俺は敵を殺していく。
殴り殺し、蹴り殺し、突き殺し、捻じ殺す。
きっと俺の戦いを見ている奴等は吸血鬼たちが次々と倒れていく姿に恐怖を覚えるだろうが、別に俺は魔法や固有スキルなんかは使ってはいない。と言うかそれが使えれば苦労はしない。
俺はただこの5年間で鍛えた体を使って相手の顔を殴ったり、蹴ったり、指で突いたり、首を捻じったりして殺しているだけだ。
そして俺は流れ作業は2分とも掛からない時間で終わった。やはりこの程度の奴らだと運動にしかならないな。
俺はヘレンたちに視線を向けると、ヘレンは残り2人、男の方はもう少しで勝てそうだ。と言うかあの男の名前知らないな俺。後で聞いておこう。
それから少しして2人とも無事に倒し終わる。ヴァンパイアハンターの方は負傷していることもあってか肩で息をしていたが。
「ヘレン大丈夫だったか?」
「この程度平気なのだ。ジンの方こそ、相変わらず強いのだ」
「まあな」
「本当に人間かよ。悪魔って言われても俺は信じるぞ」
「失礼な奴だな。俺は正真正銘の人間だ」
ま、ステータスには人間をやめし者って称号があるけど。それでも心は真人間のつもりだ!
それよりも20人も倒してまだあちこちから悲鳴や戦闘音が聞こえてくる。いったいどれだけの吸血鬼共がこの要塞に入り込んでいるんだ?
話を続きをするために俺たちは一旦身を隠せる場所に移動する。その途中で出くわした吸血鬼たちは勿論殺して行った。
「それで敵対派閥の連中も吸血鬼たちに殺されていたってのは本当なんだな?」
「ああ、間違いない。敵対派閥の1人が俺に助けを求めてたからな」
「そうか」
吸血鬼と敵対派閥は協力関係にあると思ったが違うのか?
いや、そうじゃない。吸血鬼、正確にはヘレンの両親であるギルバートとヘンリエッタの2人はこの依頼はチャンスだと考えたんだ。
敵対派閥の連中の依頼を受けたフリをして、要塞内に入り込みヴァンパイアハンターたちを全滅させる算段なんだろう。そうすれば今後襲われる心配はないからな。それに横領の事がバレたとしても今回の功績でチャラにするつもりか。ま、それでチャラになれば良いけど。
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宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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