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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第十二話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑫
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拳を構えた俺はさっそく地面を蹴る。うん、もう少しで瞬脚がマスター出来そうなんだがな。
一瞬でバセットの懐に入り込んだ俺は奴の顎目掛けて右拳を振り上げる。
しかし今度は予想していたのか胸を反らして躱す。
なら、これならどうだ!
俺は空いていた左拳で奴の左脇を思いっきり殴る。
「ぐっ!」
苦悶の声を漏らしたバセットはそのまま殴り飛ばされる。
激突した壁から土煙を舞い上がる。しかしその中からバセットの気配を感じると言う事はまだ生きていると言う事だ。あの一撃を食らってまだ生きているとは流石だな。ま、肋骨の1、2本は貰っただろうけどな。
『J、聞こえますか?』
そんな時俺のインカムにアインの声が届く。
俺はバセットから視線を逸らす事無く返事をする。
「(どうしたA?こっちは現在戦闘中だ)」
『面倒な事になりました』
真剣な声音で呟いたアインの言葉に俺は思わず眉を顰める。
そしてすぐさま内容を聞くべく訊き返す。
「(何があった?)」
『どうやら私たちがここを襲撃している事が冒険者たちに気付かれたようです』
「(それがどうした、お前の話では明日の午前3時前に到着する予定だったはずだが)」
『はい。どう言うわけか、冒険者数人が走ってこっちに向かっています。おそらく肉体強化魔法を使っていると思いますが、このままだとあと30分もしないうちに到着します』
「(それは本当か?)」
『はい、間違いありません』
「(そうか、分かった。Aはそのまま作戦を続行しつつ、冒険者側に何か動きがあれば報告してくれ)」
『分かりました』
通信を終了した俺は拳を構え、土煙の中から姿を現したバセット目掛けて地面を蹴った。
「まった、僕が予想するいっ――!」
「悪いな。事情が変わった。お遊びはここまでだ」
喋っていたバセットの心臓を指突で貫く。
指を引き抜くと穴の開いた胸から血が噴出する。
さて、これで1人は片付いたわけだが、ヘレンの方はどうだ?
俺はそう思って視線を向けるとどうやら2人の戦いも終盤を迎えていたようだ。
「思った以上にやるわね」
「う、煩いのだ」
今だ余裕を見せるアイリッシュに対して、ヘレンは仮面で表情は分からないが肩で軽く呼吸をしていた。
バセットよりアイリッシュの方が強いことは分かっていた。それでもヘレンなら倒せる範囲内の強さだったから任せたが、思いのほか苦戦しているようだ。ま、それもここまでだろうけど。
ヘレンが被る仮面の左目から眼晴が洩れる。
どうやら左眼を開いたようだ。
ここまではずっと左眼を閉じた状態で戦っていたからな。だがあの力を使ったヘレンは正直最強と言える。なんせこの俺ですら模擬戦で苦戦させられたからな。
自由自在にあらゆる種類の痛みと強弱を操るヘレンの魔眼、全痛覚眼。
その凄さは身を以って体験した事のあるものにしかわからない。
さぁ、ヘレン容赦なんていらねぇ。躊躇う必要もない。ソイツは俺たちの敵だ。
ヘレンは武器を構えてアイリッシュ目掛けて再び走る。
アイリッシュはそんなヘレンを接近させまいと両手に持つ魔導拳銃の銃口を向けようとする。
「痛っ!」
しかし銃口を向けようとしたアイリッシュは眉を顰めて小さく叫びながら両手に持っていた魔導拳銃を落としてしまう。
上手い!
ヘレンは全痛覚眼の力を使ってアイリッシュの手に痛みを与えたに違いない。
そのせいでアイリッシュは思わず手から魔導拳銃を落としたに違いない。
武器を落としたアイリッシュは武器を拾うのを諦めてヘレンから距離を取ろうとする。
しかし魔導拳銃を落とす原因となった痛みが体を一瞬だけ硬直させていた。時間にすれば0コンマ数秒の出来事だがヘレンからしてみればそれは大きな隙でしかない。
そのため距離を取ろうと後方にジャンプしようとするアイリッシュにヘレンの双剣が振り下ろされた。
「キャアアアアアアァァ!!」
胸を斬られたアイリッシュはその痛みに絶叫する。
元冒険者、犯罪者組織の幹部とは思えないほどの絶叫。いったいどうすれば痛みに耐性が無いままここまで強くなれるのか俺は不思議でしかない。
そんな疑問を答えてくれそうな張本人はそのまま痛みによるショック死、もしくは大量出血によるものなのかは分からないが、既に絶命していた。
レベルはヘレンの方が低かった。しかしそれを補うだけの経験と戦術、そして全痛覚眼がヘレンの勝利を齎したわけだが、
それにしてもやはり勿体無いな。これほどの美女が死んでしまうのは。だからと言って悲しいと言う感情は無い。今さっき名前を知ったばかりの相手だ。情なんてものもない。
中途半端な情けは自分自身や仲間を危険に晒すだけだからな。
「H、大丈夫か?」
「問題ないのだ」
「そうか」
少し肩で呼吸しているが、少し休めば大丈夫だろう。怪我らしい怪我はしていないしな。
休憩ではないが歩きながら奥へと進む。この天使の花の原料となる花を燃やしても良いが、燃やすなら脱出する時だな。でないと俺たちが丸焦げになる恐れだってある。なんせここは工場。引火や爆発する恐れのある物が沢山あるんだからな。
「こちらJ。幹部2人の討伐を終えたところだ。今からボスの部屋に向かうつもりだが、部屋がどこか分かるか?」
『2人の現在位置から2階上に上がった一番奥の部屋がボスの部屋だと思われます』
「分かった。で、逃げ出している奴はいるのか?」
『はい。この瞬間にも3人も逃げていますが、問題ありません……今、射殺しましたから』
インカムから銃声があまり聞こえない。きっとサップレッサーを付けているんだろう。
普段は毒舌の癖に仕事中はクールビューティーだよな。
「そうか。なら引き続き何かあったら連絡を頼む」
『分かりました』
通信を終えた俺はヘレンと一緒に階段を上ってボスの部屋があると思われる場所へと向かった。
************************
「シッ!」
一閃に刀を振って敵の首を斬り飛ばした拙者は刀に付着した血を振り落とす。
「これで粗方、片付いたか」
工場の正面入り口付近で倒れる大量の死体。まさに死屍累々。
灰色のコンクリートの地面が流れ出た血で赤黒く染まっていた。
これは変装してきて正解だったの。血のシミは落ちにくいからな。
まだ、生きている連中は居る。しかしその連中は完全に戦士喪失しており、武器を捨てて逃げる者やその場に座り込み失禁するもの、武器は手にしてはいるが恐怖で震えて何も出来なくなっている者だと様々だ。
アリサもマガジンに弾薬が残っていないのかリロードしていた。まったく戦場のど真ん中で暢気な事だ。
それとも拙者の事を信頼してくれているからなのかもしれない。
「Kの旦那。アイツ等、どうするの?」
「このまま放置していてもAに面倒を与えるだけだからの、拙者たちで始末するしかあるまい」
「ま、そうだよな」
そう言いながらアリサはポケットから取り出したタバコを咥えようとする。しかし仮面が邪魔をする。
「チッ、そうだった」
仮面を着けている事を忘れていたのかアリサは舌打ちをすると渋々タバコをソフトボックスに戻す。
「仕方がねぇから私が残りのゴミ掃除をしておくぜ」
「そうか」
そう言ってアリサは残り約60人のブラック・ハウンドの構成員に銃口を向ける。
その姿に敵は怯え、先ほどよりも恐怖で顔を歪ませる。
ま、これも因果応報と言う奴だ。
何も感じないままアリサがトリガーを引くのを待つ。
「「っ!」」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
一瞬、感じた殺気に拙者たちは後方に跳ぶ。
その瞬間、先ほどまで立っていた場所を大量の銃弾が降り注ぎ、地面は粉々に砕け穴が穴が出来ていた。
まさに間一髪。
だが安堵に浸っている場合でない。
拙者とアリサはすぐさま殺気を向けてきた方向へと視線を向ける。
そこには魔導機関銃を持った2メートルの身長に筋骨隆々の体をした魔人と細身だが鍛え抜かれた肉体をした虎の獣人族が拙者たちを見下ろすようにしてコンテナの上に立っていた。
「ハッ、今の攻撃をよく躱したな。褒めてやるよ」
筋骨隆々の男は見下すようには言ってくる。
「初めまして、仮面集団の者たち。今からはブラック・ハウンドの幹部である私たちがお相手する。私の名前はマスティフ。マスティフ・ジェット。で、私の隣に立っているのが」
「ロットだ。ロット・ワイラーだ。覚えなくて良いぜ。どうせ蜂の巣になってあの世行きだからよ」
スーツ姿のマスティフに対して、白のタンクトップに迷彩柄のズボンのロット。なんとも対照的な2人だな。
だが、先ほどまで戦っていた者たちよりも強いのは確かだ。
でも少しは楽しめると良いがな。
「Kの旦那。悪いが、あの肉ダルマは私に殺らせてくらねぇか。どうも見てると腹が立つ」
「別に構わぬ。好きにすると良い」
「助かるぜ」
どうしてそう感じるのか拙者にはなんとなく察しが付いている。ロットとアリサの性格は似ている。だからこそ同属嫌悪と言う奴なのかもしれない。
「なら、拙者はあっちのマスティフとか言うスーツ男だの」
拙者が仮面の下から視線を向けると、マスティフは察したように一瞬笑みを零した。
「なるほど、そう言うことですか。良いでしょう。ロット、私はあっちの刀使いを相手します。貴方はあっちの銃使いを倒してください」
「けっ、いつもお前は強いほうをばかり持って行きやがるな」
「別にいつもではないです。それと貴方が相手するのは女ですよ」
「本当か!へへっ、それは最高だぜ。動けなくした後はたっぷりと楽しめるってわけか」
下卑た笑みを浮かべるロット。まったく夜中には下種な奴が多すぎる。
だが実際、あのロットとか言う奴は強い。ランクにすればSランクに近いAランクぐらいだろう。
正直アリサが勝てるかどうか不安だが、任せるしかないか。
拙者たちは互いに場所を移動して対峙し合う。
「それにしても、素晴らしい刀をお持ちのようですね。私が勝ったら頂いても構いませんか?」
「この刀は拙者の愛刀だ。お前如きにやるつもりはない。それに拙者が負けると?」
「ま、良いでしょう。どうせ貴方はここで死ぬのですから!」
そう言うとマスティフは地面を蹴って接近してきた。
速い。伊達にブラック・ハウンドの幹部をやっているわけではなさそうだ。
だが、仁に比べれば遅い。
間合いに入ったのを感じた拙者は刀を一閃に振るう。
「今の速度で近づけさせないとは流石ですね。ではこれならどうですか」
突然マスティフから感じる魔力量が膨れ上がる。
肉体強化魔法を使ったのか。
奴は仁同様に武器を持っていない。いや、奴の指先から生えた長く鋭利な爪が奴の武器だ。
「シッ!」
肉体強化したマスティフがまたしても真正面から接近してくる。
確かに先ほどよりも速度が上がっている。だがこの程度で倒せると思われているとは拙者も舐められたものだな。
今度は躱されないように、先ほどよりも正確にそして速く振り下ろす。
キィンッ!
「なにっ!?」
確かに拙者の目的通りマスティフは躱せなかった。いや、躱さなかったと言うべきなのかもしれない。
だがそれが驚きの原因ではない。
マスティフは拙者の刀を爪で受け止めた事に驚きを隠せなかったのだ。
拙者の刀は龍の鱗ですら斬る事が出来る名刀だ。
その刀を受け止めたマスティフの爪はそれ以上に硬いと言う事になる。
「肉体強化魔法だけかと思っていたが、硬化魔法も使っているのか」
「その通りです。体には肉体強化魔法。両手、両足、牙に硬化魔法を使っています。生憎と私は魔法属性を持ち合わせておらず、使えるのは無属性だけですが、魔力量は常人の数倍以上ありますからね」
マスティフの答えに幹部になるだけの実力がある事が分かる。だがそれだけではない。
同じ無属性魔法とは言え、同時に魔法を使用し尚且つ硬化魔法だけ別々の場所に数箇所も使うと言うのはそう簡単に出来ることじゃない。
間違いなくこのマスティフと言う男の魔力操作の熟練度はⅧ以上だろう。
まさかここまで魔力操作に長けた相手に出会えるとは思っておらなかった。だが、面白い!
仁以外に心躍る戦いが出来るのは久しぶりだ。
「ですから、貴方に私を斬る事は不可能です」
「なら、その爪を叩き斬ってやろうではないか」
鍔迫り合いのように拙者の刀のマスティフの爪が火花を散らす。
一瞬でバセットの懐に入り込んだ俺は奴の顎目掛けて右拳を振り上げる。
しかし今度は予想していたのか胸を反らして躱す。
なら、これならどうだ!
俺は空いていた左拳で奴の左脇を思いっきり殴る。
「ぐっ!」
苦悶の声を漏らしたバセットはそのまま殴り飛ばされる。
激突した壁から土煙を舞い上がる。しかしその中からバセットの気配を感じると言う事はまだ生きていると言う事だ。あの一撃を食らってまだ生きているとは流石だな。ま、肋骨の1、2本は貰っただろうけどな。
『J、聞こえますか?』
そんな時俺のインカムにアインの声が届く。
俺はバセットから視線を逸らす事無く返事をする。
「(どうしたA?こっちは現在戦闘中だ)」
『面倒な事になりました』
真剣な声音で呟いたアインの言葉に俺は思わず眉を顰める。
そしてすぐさま内容を聞くべく訊き返す。
「(何があった?)」
『どうやら私たちがここを襲撃している事が冒険者たちに気付かれたようです』
「(それがどうした、お前の話では明日の午前3時前に到着する予定だったはずだが)」
『はい。どう言うわけか、冒険者数人が走ってこっちに向かっています。おそらく肉体強化魔法を使っていると思いますが、このままだとあと30分もしないうちに到着します』
「(それは本当か?)」
『はい、間違いありません』
「(そうか、分かった。Aはそのまま作戦を続行しつつ、冒険者側に何か動きがあれば報告してくれ)」
『分かりました』
通信を終了した俺は拳を構え、土煙の中から姿を現したバセット目掛けて地面を蹴った。
「まった、僕が予想するいっ――!」
「悪いな。事情が変わった。お遊びはここまでだ」
喋っていたバセットの心臓を指突で貫く。
指を引き抜くと穴の開いた胸から血が噴出する。
さて、これで1人は片付いたわけだが、ヘレンの方はどうだ?
俺はそう思って視線を向けるとどうやら2人の戦いも終盤を迎えていたようだ。
「思った以上にやるわね」
「う、煩いのだ」
今だ余裕を見せるアイリッシュに対して、ヘレンは仮面で表情は分からないが肩で軽く呼吸をしていた。
バセットよりアイリッシュの方が強いことは分かっていた。それでもヘレンなら倒せる範囲内の強さだったから任せたが、思いのほか苦戦しているようだ。ま、それもここまでだろうけど。
ヘレンが被る仮面の左目から眼晴が洩れる。
どうやら左眼を開いたようだ。
ここまではずっと左眼を閉じた状態で戦っていたからな。だがあの力を使ったヘレンは正直最強と言える。なんせこの俺ですら模擬戦で苦戦させられたからな。
自由自在にあらゆる種類の痛みと強弱を操るヘレンの魔眼、全痛覚眼。
その凄さは身を以って体験した事のあるものにしかわからない。
さぁ、ヘレン容赦なんていらねぇ。躊躇う必要もない。ソイツは俺たちの敵だ。
ヘレンは武器を構えてアイリッシュ目掛けて再び走る。
アイリッシュはそんなヘレンを接近させまいと両手に持つ魔導拳銃の銃口を向けようとする。
「痛っ!」
しかし銃口を向けようとしたアイリッシュは眉を顰めて小さく叫びながら両手に持っていた魔導拳銃を落としてしまう。
上手い!
ヘレンは全痛覚眼の力を使ってアイリッシュの手に痛みを与えたに違いない。
そのせいでアイリッシュは思わず手から魔導拳銃を落としたに違いない。
武器を落としたアイリッシュは武器を拾うのを諦めてヘレンから距離を取ろうとする。
しかし魔導拳銃を落とす原因となった痛みが体を一瞬だけ硬直させていた。時間にすれば0コンマ数秒の出来事だがヘレンからしてみればそれは大きな隙でしかない。
そのため距離を取ろうと後方にジャンプしようとするアイリッシュにヘレンの双剣が振り下ろされた。
「キャアアアアアアァァ!!」
胸を斬られたアイリッシュはその痛みに絶叫する。
元冒険者、犯罪者組織の幹部とは思えないほどの絶叫。いったいどうすれば痛みに耐性が無いままここまで強くなれるのか俺は不思議でしかない。
そんな疑問を答えてくれそうな張本人はそのまま痛みによるショック死、もしくは大量出血によるものなのかは分からないが、既に絶命していた。
レベルはヘレンの方が低かった。しかしそれを補うだけの経験と戦術、そして全痛覚眼がヘレンの勝利を齎したわけだが、
それにしてもやはり勿体無いな。これほどの美女が死んでしまうのは。だからと言って悲しいと言う感情は無い。今さっき名前を知ったばかりの相手だ。情なんてものもない。
中途半端な情けは自分自身や仲間を危険に晒すだけだからな。
「H、大丈夫か?」
「問題ないのだ」
「そうか」
少し肩で呼吸しているが、少し休めば大丈夫だろう。怪我らしい怪我はしていないしな。
休憩ではないが歩きながら奥へと進む。この天使の花の原料となる花を燃やしても良いが、燃やすなら脱出する時だな。でないと俺たちが丸焦げになる恐れだってある。なんせここは工場。引火や爆発する恐れのある物が沢山あるんだからな。
「こちらJ。幹部2人の討伐を終えたところだ。今からボスの部屋に向かうつもりだが、部屋がどこか分かるか?」
『2人の現在位置から2階上に上がった一番奥の部屋がボスの部屋だと思われます』
「分かった。で、逃げ出している奴はいるのか?」
『はい。この瞬間にも3人も逃げていますが、問題ありません……今、射殺しましたから』
インカムから銃声があまり聞こえない。きっとサップレッサーを付けているんだろう。
普段は毒舌の癖に仕事中はクールビューティーだよな。
「そうか。なら引き続き何かあったら連絡を頼む」
『分かりました』
通信を終えた俺はヘレンと一緒に階段を上ってボスの部屋があると思われる場所へと向かった。
************************
「シッ!」
一閃に刀を振って敵の首を斬り飛ばした拙者は刀に付着した血を振り落とす。
「これで粗方、片付いたか」
工場の正面入り口付近で倒れる大量の死体。まさに死屍累々。
灰色のコンクリートの地面が流れ出た血で赤黒く染まっていた。
これは変装してきて正解だったの。血のシミは落ちにくいからな。
まだ、生きている連中は居る。しかしその連中は完全に戦士喪失しており、武器を捨てて逃げる者やその場に座り込み失禁するもの、武器は手にしてはいるが恐怖で震えて何も出来なくなっている者だと様々だ。
アリサもマガジンに弾薬が残っていないのかリロードしていた。まったく戦場のど真ん中で暢気な事だ。
それとも拙者の事を信頼してくれているからなのかもしれない。
「Kの旦那。アイツ等、どうするの?」
「このまま放置していてもAに面倒を与えるだけだからの、拙者たちで始末するしかあるまい」
「ま、そうだよな」
そう言いながらアリサはポケットから取り出したタバコを咥えようとする。しかし仮面が邪魔をする。
「チッ、そうだった」
仮面を着けている事を忘れていたのかアリサは舌打ちをすると渋々タバコをソフトボックスに戻す。
「仕方がねぇから私が残りのゴミ掃除をしておくぜ」
「そうか」
そう言ってアリサは残り約60人のブラック・ハウンドの構成員に銃口を向ける。
その姿に敵は怯え、先ほどよりも恐怖で顔を歪ませる。
ま、これも因果応報と言う奴だ。
何も感じないままアリサがトリガーを引くのを待つ。
「「っ!」」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
一瞬、感じた殺気に拙者たちは後方に跳ぶ。
その瞬間、先ほどまで立っていた場所を大量の銃弾が降り注ぎ、地面は粉々に砕け穴が穴が出来ていた。
まさに間一髪。
だが安堵に浸っている場合でない。
拙者とアリサはすぐさま殺気を向けてきた方向へと視線を向ける。
そこには魔導機関銃を持った2メートルの身長に筋骨隆々の体をした魔人と細身だが鍛え抜かれた肉体をした虎の獣人族が拙者たちを見下ろすようにしてコンテナの上に立っていた。
「ハッ、今の攻撃をよく躱したな。褒めてやるよ」
筋骨隆々の男は見下すようには言ってくる。
「初めまして、仮面集団の者たち。今からはブラック・ハウンドの幹部である私たちがお相手する。私の名前はマスティフ。マスティフ・ジェット。で、私の隣に立っているのが」
「ロットだ。ロット・ワイラーだ。覚えなくて良いぜ。どうせ蜂の巣になってあの世行きだからよ」
スーツ姿のマスティフに対して、白のタンクトップに迷彩柄のズボンのロット。なんとも対照的な2人だな。
だが、先ほどまで戦っていた者たちよりも強いのは確かだ。
でも少しは楽しめると良いがな。
「Kの旦那。悪いが、あの肉ダルマは私に殺らせてくらねぇか。どうも見てると腹が立つ」
「別に構わぬ。好きにすると良い」
「助かるぜ」
どうしてそう感じるのか拙者にはなんとなく察しが付いている。ロットとアリサの性格は似ている。だからこそ同属嫌悪と言う奴なのかもしれない。
「なら、拙者はあっちのマスティフとか言うスーツ男だの」
拙者が仮面の下から視線を向けると、マスティフは察したように一瞬笑みを零した。
「なるほど、そう言うことですか。良いでしょう。ロット、私はあっちの刀使いを相手します。貴方はあっちの銃使いを倒してください」
「けっ、いつもお前は強いほうをばかり持って行きやがるな」
「別にいつもではないです。それと貴方が相手するのは女ですよ」
「本当か!へへっ、それは最高だぜ。動けなくした後はたっぷりと楽しめるってわけか」
下卑た笑みを浮かべるロット。まったく夜中には下種な奴が多すぎる。
だが実際、あのロットとか言う奴は強い。ランクにすればSランクに近いAランクぐらいだろう。
正直アリサが勝てるかどうか不安だが、任せるしかないか。
拙者たちは互いに場所を移動して対峙し合う。
「それにしても、素晴らしい刀をお持ちのようですね。私が勝ったら頂いても構いませんか?」
「この刀は拙者の愛刀だ。お前如きにやるつもりはない。それに拙者が負けると?」
「ま、良いでしょう。どうせ貴方はここで死ぬのですから!」
そう言うとマスティフは地面を蹴って接近してきた。
速い。伊達にブラック・ハウンドの幹部をやっているわけではなさそうだ。
だが、仁に比べれば遅い。
間合いに入ったのを感じた拙者は刀を一閃に振るう。
「今の速度で近づけさせないとは流石ですね。ではこれならどうですか」
突然マスティフから感じる魔力量が膨れ上がる。
肉体強化魔法を使ったのか。
奴は仁同様に武器を持っていない。いや、奴の指先から生えた長く鋭利な爪が奴の武器だ。
「シッ!」
肉体強化したマスティフがまたしても真正面から接近してくる。
確かに先ほどよりも速度が上がっている。だがこの程度で倒せると思われているとは拙者も舐められたものだな。
今度は躱されないように、先ほどよりも正確にそして速く振り下ろす。
キィンッ!
「なにっ!?」
確かに拙者の目的通りマスティフは躱せなかった。いや、躱さなかったと言うべきなのかもしれない。
だがそれが驚きの原因ではない。
マスティフは拙者の刀を爪で受け止めた事に驚きを隠せなかったのだ。
拙者の刀は龍の鱗ですら斬る事が出来る名刀だ。
その刀を受け止めたマスティフの爪はそれ以上に硬いと言う事になる。
「肉体強化魔法だけかと思っていたが、硬化魔法も使っているのか」
「その通りです。体には肉体強化魔法。両手、両足、牙に硬化魔法を使っています。生憎と私は魔法属性を持ち合わせておらず、使えるのは無属性だけですが、魔力量は常人の数倍以上ありますからね」
マスティフの答えに幹部になるだけの実力がある事が分かる。だがそれだけではない。
同じ無属性魔法とは言え、同時に魔法を使用し尚且つ硬化魔法だけ別々の場所に数箇所も使うと言うのはそう簡単に出来ることじゃない。
間違いなくこのマスティフと言う男の魔力操作の熟練度はⅧ以上だろう。
まさかここまで魔力操作に長けた相手に出会えるとは思っておらなかった。だが、面白い!
仁以外に心躍る戦いが出来るのは久しぶりだ。
「ですから、貴方に私を斬る事は不可能です」
「なら、その爪を叩き斬ってやろうではないか」
鍔迫り合いのように拙者の刀のマスティフの爪が火花を散らす。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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