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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第十四話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑭
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俺とヘレンは階段を上がりながら途中途中で待ち構えているブラック・ハウンドの構成員を殴り殺したり、切り殺したりしながら、ブラック・ハウンドのボスが居る部屋へと急いで向かう。
そしてようやくアインに教えて貰った部屋のドアを見つけた俺はドアを蹴り飛ばして中へと進入する。
そこはコンクリートで出来た鉄と油臭い殺風景な工場とは別世界と思えるほど、清潔に保たれたアンティークの家具と絨毯で囲まれた書斎部屋だった。
そんな書斎の奥にはアンティークのオフィスチェアに座るメガネを掛けたインテリ男が座っていた。
本当にこの男がブラック・ハウンドのボスなのか?
参謀か、会計担当じゃないのか?
そんな風に思わせる奴は身長180前半の20代後半。眉が隠れるほどのダーク・モス色のミディアムヘアに特徴的な黒縁眼鏡。
きっともう少し若ければ生徒会長、もしくは生徒会会計の役職だと思われてもおかしくはない見た目をしていた。
インテリ男は眼鏡を外してレンズを拭きながら口を開いた。
「不気味に思えるほど黒で統一された服装をしているので、どこかの暗殺集団かと思いましたが、随分と乱暴な入室ですね」
インテリ男はそう言うとレンズに曇りや汚れが無いことを確認して掛け直す。
俺はそんな奴を見て最初、馬鹿なのか?と思った。だってそうだろ。誰が見てもこの状況が不利なのは分かる。人数的にも、実力差的にもだ。
逃走するにしてもこの部屋に窓らしい窓が無い。あるのは換気用のダクトぐらいだが、あるのはちょうど俺とインテリ男の間の天井だ。そこまで移動して逃走するのはどう考えても不可能だ。
だが、よく観察してみると納得できた。このインテリ男強い。
影光やアインほどではないにしろ、ブラック・ハウンドでボスになるだけの実力を兼ね備えている。
それにこのインテリ男からは気配が読み辛い。気配が弱いと言っても良い。
つまりはそれだけ気配操作に長けていると言う事だろう。
なら何故俺が気づけたのかって?ま、俺は気配感知が得意ってのもあるし、椅子に座っていたから普通に気づけたってのもある。
だが一番の理由はインテリ男は別に気配を薄めているわけじゃないからだ。
気配操作には大まかに分けて二種類ある。
1つは、気配の強弱。
イメージで言えば風船を大きくしたり、小さくしたりだ。
で、もう1つが気配の濃さだ。
よく、漫画などでそこに居ても気づかれないキャラクターがいたりするが、あれは普通の一般人よりも気配が薄いからだ。そのため気づかれ難いのだ。
で、逆に学校などで歩いているだけで目立っている奴と言うのは気配が濃い奴が多かったりする。勿論、何らかの行いが原因で目だってしまう奴だっていたりするけど。
で、この気と言うのは強い奴ほど体から洩れている量が多いのだ。
つまり気の強弱。この場合は量と言うべきだろう。それが多い者ほど強いと言うわけだ。
だから気配操作が出来ないAランク冒険者とすれ違って一瞬ビクッとするのは大量の気が洩れている証拠なのだ。
で、気配操作が出来る異名を持つほどの暗殺者と言うのは気を弱め、出来るだけ薄くしているのだ。
これほど俺にとって強敵は居ないだろう。
そして俺とインテリ野郎はその領域にまで達しようとしている。
きっとコイツのステータスを見れば間違いなく気配操作の熟練度はⅧ以上に違いない。
俺が警戒していると奴は引き出しから取り出した銃を両手に持って立ち上がると、何かを思い出したかのように喋り出した。
あの銃の形状から考えて魔法拳銃か。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前はレオン・ベルガーと言います」
レオンね。その見た目でレオンとは随分と可笑しな話だな。
俺はそう思うと仮面の下で笑みを零す。
「こちらも名乗ったのですから、貴方の名前もお聞きしても宜しいですか?」
「Jと名乗っておこう」
そう言うと奴は眼鏡のブリッジ部分を魔法拳銃を手にしている右手の中指でクイッと一瞬持ち上げながら感想を口にし始め、
「なるほど。私に名前を教えるつもりは無いと言う事ですね。では、殺してその仮面の下の顔を拝ませて貰いましょうか!」
喋り終わるのと同時に両手に持っていた魔法拳銃で攻撃してくる。
交互に発砲してくるレオン。
しかしその弾丸が見えないだと!
一瞬驚いた俺だが直ぐに横に跳んで回避行動をとる。
数瞬後、俺が立っていた背後の壁に小さな穴が複数出来上がり、外の作業灯の光が穴から差し込む。なんて貫通力なんだ!一発でも当たったら間違いなく死ぬ可能性だってある。
「H、お前は廊下に隠れていろ!」
「分かったのだ!」
この狭い空間じゃ2人でレオンと戦うのは難しい。ましてや相手の攻撃が見えないんじゃヘレンが死ぬ恐れだってあるからな。
魔法拳銃で見えないと弾丸。それもあの貫通力に6%の力でギリギリ躱すのが精一杯なほどの速度。
魔法拳銃の速度は魔導拳銃よりも遥かに劣る。その応用が利く多様性と威力が強いのが特徴的だ。
だが今の攻撃は魔導拳銃の発射速度にも劣らない速さだった。それを考えると奴が使っているのはただの魔力弾じゃない。
確実重視の風の弾丸。
アイン程じゃないにしろ、これほど連射速度と射撃精度を持つ相手に躱しながら接近するのは難しい。
ま、躱しながら。だったらな。
俺は躱すのをやめてレオンの真正面に移動すると拳が届く距離まで近づくために絨毯が敷かれた地面を蹴った。
それを見て一瞬目を見張らせるレオンだが直ぐに勝利を確信したような、俺を哀れむような笑みを零すと、
「まさか、真正面から接近してくるとは愚かですね」
トリガーを3度引いた。
見えない攻撃。
なら、どうする?
感じろ!
俺には魔力が無い。だから魔力を感じる事は出来ない。
だがどんな物でも僅かながら使用者の気が付着している。
勿論、徐々に薄れて行き、いつかは消える。だがこの僅かな時間。刹那の時ならばまだ残っているはずだ。
全神経を使って奴が放った魔弾に付着している微かな気を感じ取れ!
「っ!」
感じた。感じ取った。
俺は直ぐに腕を伸ばし俺に目掛けて襲い飛んでくる風の魔弾を掴む。
一発目は左胸に目掛けて、二発目は右脇腹に目掛けて。で、最後の三発目は、
「顔面に目掛けて!」
襲い飛んで来る風の魔弾を順番に両手を使って掴んで霧散させた俺はオフィスデスクを飛び越えて振り上げていた左拳を驚愕の表情を浮かべる奴の顔面目掛けて、
「ば、馬鹿な――グヘッ!」
捻じ込むようにして殴り飛ばす。
イザベラですら圧倒する強烈な一撃で飛ばされたレオンは何枚もの壁を突き破る。
ようやく止まったのは3つ隣の部屋の壁に激突しクレーターを作ってからだった。
まだ気配を感じる。ならあのクソ野郎はまだ生きているな。
重力に従い床に落ちたレオンは殺意の宿った瞳で俺を睨みながら立ち上がる。
細い体をしているがやはり鍛えていたようだな。でなければあの一撃で死んでいてもおかしくはない。だがあのクソ野郎は死ぬどころか気絶すらしていない。
コイツは間違いなくSランク以上の実力者だな。
「まったく……なんて威力の……一撃なんですか……これほどの威力……ロット君でも……無理でしょう……」
肩で息をしながら喋る口の端から血が垂れ落ちる。
しかし書斎から入り込む光と外の作業灯の光だけでは奴の血が黒く見えた。
それにロットとはいったい誰なのか俺には分からないし、興味も無い。ただ分かるのは、そのロットとか言う奴もブラック・ハウンドの構成員であることは間違いないだろう。となると俺がここに来る途中に殴り殺したか、影光たちの誰かが殺しているだろうが。
「それにしても……まさか……私の攻撃を無力化……する力を持っていた……とは思いません……でしたが」
だいぶ呼吸が整ってきたのか、言葉の途切れが少なくなっていた。
レオンを吹き飛ばした際にグチャグチャになった無人の部屋を通り過ぎながら俺はレオンに近づく。
だが奴はそれから一言も喋ろうとはしない。性格的にそんなに喋るほうじゃないのかもしれないが、一番の原因は俺の一撃によるものだろう。
体中が痛い筈だ。特に顔は強い鈍痛が未だに続いているだろうからな。
それを我慢してさっきまで喋っていた事を考えると大したものだと、感嘆を覚える。
レオンとの距離を1メートルにまで近づいた俺はその場で歩みを止めて、痛みでまっすぐ立てないレオンを見下ろす。
未だに殺意が宿っている瞳で俺を見上げる。
しかし攻撃してこないのは、奴の両手には魔法拳銃が握られていないからだろう。
魔法拳銃ありでも俺に一撃も与えられなかったレオンの事だ。今の体で接近戦を挑む事がどれだけ危険で無謀なことなのか元冒険者としてよく理解しているからだ。それでも殺意の瞳を向けて来るのはプライドからなのか、それとも反撃のチャンスを狙っているのかのどちらかだろう。
「おや、殺さないのですか?」
薄く笑みを浮かべたレオンは挑発するように質問してくる。
「殺すさ。だがどうしても気になる事があってな」
「気になること……ですか?」
俺のそんな返答に怪訝に感じたのかレオンは俺に問い返す。
俺にはどうしても気になった事があった。だからこそ部屋に入って直ぐには奴に攻撃しなかったのだ。
「それで、何が聞きたいのですか?」
「どうして冒険者から犯罪者組織なんかに変えたんだ?」
「そんな事ですか」
なんらかの予測はしていたのだろう。だが俺が訊いた質問の内容がレオンにとってはくだらない事だったのか馬鹿にするように鼻で笑い飛ばしながら呟いた。
「それで、どうしてなんだ?」
正直、そんなに時間があるわけじゃない。冒険者の連中が直ぐそこまで来ているかもしれないしな。
「ま、一言で言うのならお金が欲しかったからですね」
色々と思考を巡らせて出した返答が、それだった。
なんともありきたりで分かりやすい理由なんだ。俺はそう思ってしまった。本当はきっと別の理由もあるのだろう。だがお金が欲しかったと言うのが一番の目的であった事は奴の目を見れば嘘では無い事は分かる。
だから俺は小さく「そうか」と呟きながら、奴の心臓目掛けて指突を繰り出した。
一瞬奴の目が痛みで瞳孔が開いたが、すぐにすました顔に戻る。
赤く染まった右の人差し指をゆっくりと引き抜いた俺はレオンが死んだのを確認する。
「こちらJ、最優先ターゲットであったブラック・ハウンドのボス、レオン・ベルガーの討伐が終わった」
『こちらA、分かりました。冒険者と思われる数人の集団が直ぐそこまで来ていますので直ぐに撤退する事をお勧めします』
「分かった」
アインの会話を聞いた俺は通信を終了すると、ある事を思い出す。そうだ、アレは持っていかないとな。
書斎に戻った俺はある物を探し始めると、俺とアインの通話を聞いたヘレンが書斎の中へと入ってくる。
「何を探しているのだ?」
「名簿だよ。ブラック・ハウンドと取引をしていたと思われる組織や個人名。それからブラック・ハウンドの構成員のな」
どうしてそんな物を探しているのかと言うとこの工場を燃やすからだ。
このまま放置すれば間違いなく、証拠品として押収されるだろう。その中の何かが闇市場や取引のために盗まれる可能性だってある。それが俺の友人に危害を成す可能性があるのであれば、燃やして使い物にならないようにした方が確実だ。
だがそうすると捕まっていない連中が俺の友人に危害を加えないとも限らない。だからこそ名簿だけでも探し出さないとな。
「ん?これって」
引き出しを引っ張り出すと違和感を覚えた。
妙に他の引き出しよりも底が浅いような気がする。
軽く叩いてみると予想通り空洞になっていた。
ま、よくある二重底という奴だな。
俺は板を取り外し中の物を見ると、そこにはUSBメモリーが二つだけ置かれていた。きっとこれが名簿だろう。
奴の見た目と口調からして几帳面な奴だと思った。それに元冒険者でもあったからな。間違いなく名簿を隠していると思った。
USBメモリーをポケットに入れた俺はヘレンと一緒に通った道を戻り、出口の途中にある天使の花の原料となる花が育てられている部屋に戻ってきた。
「H、この花を全部燃やせ」
「分かったのだ!」
元気よく返事をしたヘレンは複数の炎蝙蝠を放ち綺麗に咲いている花を燃やし尽くし、工場の外に出た俺たちは正面入り口へと走り続けた。
数分して正面入り口に辿り着いた俺とヘレンはちょうど工場の中から出てきた影光とアリサに出くわした。
そしてようやくアインに教えて貰った部屋のドアを見つけた俺はドアを蹴り飛ばして中へと進入する。
そこはコンクリートで出来た鉄と油臭い殺風景な工場とは別世界と思えるほど、清潔に保たれたアンティークの家具と絨毯で囲まれた書斎部屋だった。
そんな書斎の奥にはアンティークのオフィスチェアに座るメガネを掛けたインテリ男が座っていた。
本当にこの男がブラック・ハウンドのボスなのか?
参謀か、会計担当じゃないのか?
そんな風に思わせる奴は身長180前半の20代後半。眉が隠れるほどのダーク・モス色のミディアムヘアに特徴的な黒縁眼鏡。
きっともう少し若ければ生徒会長、もしくは生徒会会計の役職だと思われてもおかしくはない見た目をしていた。
インテリ男は眼鏡を外してレンズを拭きながら口を開いた。
「不気味に思えるほど黒で統一された服装をしているので、どこかの暗殺集団かと思いましたが、随分と乱暴な入室ですね」
インテリ男はそう言うとレンズに曇りや汚れが無いことを確認して掛け直す。
俺はそんな奴を見て最初、馬鹿なのか?と思った。だってそうだろ。誰が見てもこの状況が不利なのは分かる。人数的にも、実力差的にもだ。
逃走するにしてもこの部屋に窓らしい窓が無い。あるのは換気用のダクトぐらいだが、あるのはちょうど俺とインテリ男の間の天井だ。そこまで移動して逃走するのはどう考えても不可能だ。
だが、よく観察してみると納得できた。このインテリ男強い。
影光やアインほどではないにしろ、ブラック・ハウンドでボスになるだけの実力を兼ね備えている。
それにこのインテリ男からは気配が読み辛い。気配が弱いと言っても良い。
つまりはそれだけ気配操作に長けていると言う事だろう。
なら何故俺が気づけたのかって?ま、俺は気配感知が得意ってのもあるし、椅子に座っていたから普通に気づけたってのもある。
だが一番の理由はインテリ男は別に気配を薄めているわけじゃないからだ。
気配操作には大まかに分けて二種類ある。
1つは、気配の強弱。
イメージで言えば風船を大きくしたり、小さくしたりだ。
で、もう1つが気配の濃さだ。
よく、漫画などでそこに居ても気づかれないキャラクターがいたりするが、あれは普通の一般人よりも気配が薄いからだ。そのため気づかれ難いのだ。
で、逆に学校などで歩いているだけで目立っている奴と言うのは気配が濃い奴が多かったりする。勿論、何らかの行いが原因で目だってしまう奴だっていたりするけど。
で、この気と言うのは強い奴ほど体から洩れている量が多いのだ。
つまり気の強弱。この場合は量と言うべきだろう。それが多い者ほど強いと言うわけだ。
だから気配操作が出来ないAランク冒険者とすれ違って一瞬ビクッとするのは大量の気が洩れている証拠なのだ。
で、気配操作が出来る異名を持つほどの暗殺者と言うのは気を弱め、出来るだけ薄くしているのだ。
これほど俺にとって強敵は居ないだろう。
そして俺とインテリ野郎はその領域にまで達しようとしている。
きっとコイツのステータスを見れば間違いなく気配操作の熟練度はⅧ以上に違いない。
俺が警戒していると奴は引き出しから取り出した銃を両手に持って立ち上がると、何かを思い出したかのように喋り出した。
あの銃の形状から考えて魔法拳銃か。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前はレオン・ベルガーと言います」
レオンね。その見た目でレオンとは随分と可笑しな話だな。
俺はそう思うと仮面の下で笑みを零す。
「こちらも名乗ったのですから、貴方の名前もお聞きしても宜しいですか?」
「Jと名乗っておこう」
そう言うと奴は眼鏡のブリッジ部分を魔法拳銃を手にしている右手の中指でクイッと一瞬持ち上げながら感想を口にし始め、
「なるほど。私に名前を教えるつもりは無いと言う事ですね。では、殺してその仮面の下の顔を拝ませて貰いましょうか!」
喋り終わるのと同時に両手に持っていた魔法拳銃で攻撃してくる。
交互に発砲してくるレオン。
しかしその弾丸が見えないだと!
一瞬驚いた俺だが直ぐに横に跳んで回避行動をとる。
数瞬後、俺が立っていた背後の壁に小さな穴が複数出来上がり、外の作業灯の光が穴から差し込む。なんて貫通力なんだ!一発でも当たったら間違いなく死ぬ可能性だってある。
「H、お前は廊下に隠れていろ!」
「分かったのだ!」
この狭い空間じゃ2人でレオンと戦うのは難しい。ましてや相手の攻撃が見えないんじゃヘレンが死ぬ恐れだってあるからな。
魔法拳銃で見えないと弾丸。それもあの貫通力に6%の力でギリギリ躱すのが精一杯なほどの速度。
魔法拳銃の速度は魔導拳銃よりも遥かに劣る。その応用が利く多様性と威力が強いのが特徴的だ。
だが今の攻撃は魔導拳銃の発射速度にも劣らない速さだった。それを考えると奴が使っているのはただの魔力弾じゃない。
確実重視の風の弾丸。
アイン程じゃないにしろ、これほど連射速度と射撃精度を持つ相手に躱しながら接近するのは難しい。
ま、躱しながら。だったらな。
俺は躱すのをやめてレオンの真正面に移動すると拳が届く距離まで近づくために絨毯が敷かれた地面を蹴った。
それを見て一瞬目を見張らせるレオンだが直ぐに勝利を確信したような、俺を哀れむような笑みを零すと、
「まさか、真正面から接近してくるとは愚かですね」
トリガーを3度引いた。
見えない攻撃。
なら、どうする?
感じろ!
俺には魔力が無い。だから魔力を感じる事は出来ない。
だがどんな物でも僅かながら使用者の気が付着している。
勿論、徐々に薄れて行き、いつかは消える。だがこの僅かな時間。刹那の時ならばまだ残っているはずだ。
全神経を使って奴が放った魔弾に付着している微かな気を感じ取れ!
「っ!」
感じた。感じ取った。
俺は直ぐに腕を伸ばし俺に目掛けて襲い飛んでくる風の魔弾を掴む。
一発目は左胸に目掛けて、二発目は右脇腹に目掛けて。で、最後の三発目は、
「顔面に目掛けて!」
襲い飛んで来る風の魔弾を順番に両手を使って掴んで霧散させた俺はオフィスデスクを飛び越えて振り上げていた左拳を驚愕の表情を浮かべる奴の顔面目掛けて、
「ば、馬鹿な――グヘッ!」
捻じ込むようにして殴り飛ばす。
イザベラですら圧倒する強烈な一撃で飛ばされたレオンは何枚もの壁を突き破る。
ようやく止まったのは3つ隣の部屋の壁に激突しクレーターを作ってからだった。
まだ気配を感じる。ならあのクソ野郎はまだ生きているな。
重力に従い床に落ちたレオンは殺意の宿った瞳で俺を睨みながら立ち上がる。
細い体をしているがやはり鍛えていたようだな。でなければあの一撃で死んでいてもおかしくはない。だがあのクソ野郎は死ぬどころか気絶すらしていない。
コイツは間違いなくSランク以上の実力者だな。
「まったく……なんて威力の……一撃なんですか……これほどの威力……ロット君でも……無理でしょう……」
肩で息をしながら喋る口の端から血が垂れ落ちる。
しかし書斎から入り込む光と外の作業灯の光だけでは奴の血が黒く見えた。
それにロットとはいったい誰なのか俺には分からないし、興味も無い。ただ分かるのは、そのロットとか言う奴もブラック・ハウンドの構成員であることは間違いないだろう。となると俺がここに来る途中に殴り殺したか、影光たちの誰かが殺しているだろうが。
「それにしても……まさか……私の攻撃を無力化……する力を持っていた……とは思いません……でしたが」
だいぶ呼吸が整ってきたのか、言葉の途切れが少なくなっていた。
レオンを吹き飛ばした際にグチャグチャになった無人の部屋を通り過ぎながら俺はレオンに近づく。
だが奴はそれから一言も喋ろうとはしない。性格的にそんなに喋るほうじゃないのかもしれないが、一番の原因は俺の一撃によるものだろう。
体中が痛い筈だ。特に顔は強い鈍痛が未だに続いているだろうからな。
それを我慢してさっきまで喋っていた事を考えると大したものだと、感嘆を覚える。
レオンとの距離を1メートルにまで近づいた俺はその場で歩みを止めて、痛みでまっすぐ立てないレオンを見下ろす。
未だに殺意が宿っている瞳で俺を見上げる。
しかし攻撃してこないのは、奴の両手には魔法拳銃が握られていないからだろう。
魔法拳銃ありでも俺に一撃も与えられなかったレオンの事だ。今の体で接近戦を挑む事がどれだけ危険で無謀なことなのか元冒険者としてよく理解しているからだ。それでも殺意の瞳を向けて来るのはプライドからなのか、それとも反撃のチャンスを狙っているのかのどちらかだろう。
「おや、殺さないのですか?」
薄く笑みを浮かべたレオンは挑発するように質問してくる。
「殺すさ。だがどうしても気になる事があってな」
「気になること……ですか?」
俺のそんな返答に怪訝に感じたのかレオンは俺に問い返す。
俺にはどうしても気になった事があった。だからこそ部屋に入って直ぐには奴に攻撃しなかったのだ。
「それで、何が聞きたいのですか?」
「どうして冒険者から犯罪者組織なんかに変えたんだ?」
「そんな事ですか」
なんらかの予測はしていたのだろう。だが俺が訊いた質問の内容がレオンにとってはくだらない事だったのか馬鹿にするように鼻で笑い飛ばしながら呟いた。
「それで、どうしてなんだ?」
正直、そんなに時間があるわけじゃない。冒険者の連中が直ぐそこまで来ているかもしれないしな。
「ま、一言で言うのならお金が欲しかったからですね」
色々と思考を巡らせて出した返答が、それだった。
なんともありきたりで分かりやすい理由なんだ。俺はそう思ってしまった。本当はきっと別の理由もあるのだろう。だがお金が欲しかったと言うのが一番の目的であった事は奴の目を見れば嘘では無い事は分かる。
だから俺は小さく「そうか」と呟きながら、奴の心臓目掛けて指突を繰り出した。
一瞬奴の目が痛みで瞳孔が開いたが、すぐにすました顔に戻る。
赤く染まった右の人差し指をゆっくりと引き抜いた俺はレオンが死んだのを確認する。
「こちらJ、最優先ターゲットであったブラック・ハウンドのボス、レオン・ベルガーの討伐が終わった」
『こちらA、分かりました。冒険者と思われる数人の集団が直ぐそこまで来ていますので直ぐに撤退する事をお勧めします』
「分かった」
アインの会話を聞いた俺は通信を終了すると、ある事を思い出す。そうだ、アレは持っていかないとな。
書斎に戻った俺はある物を探し始めると、俺とアインの通話を聞いたヘレンが書斎の中へと入ってくる。
「何を探しているのだ?」
「名簿だよ。ブラック・ハウンドと取引をしていたと思われる組織や個人名。それからブラック・ハウンドの構成員のな」
どうしてそんな物を探しているのかと言うとこの工場を燃やすからだ。
このまま放置すれば間違いなく、証拠品として押収されるだろう。その中の何かが闇市場や取引のために盗まれる可能性だってある。それが俺の友人に危害を成す可能性があるのであれば、燃やして使い物にならないようにした方が確実だ。
だがそうすると捕まっていない連中が俺の友人に危害を加えないとも限らない。だからこそ名簿だけでも探し出さないとな。
「ん?これって」
引き出しを引っ張り出すと違和感を覚えた。
妙に他の引き出しよりも底が浅いような気がする。
軽く叩いてみると予想通り空洞になっていた。
ま、よくある二重底という奴だな。
俺は板を取り外し中の物を見ると、そこにはUSBメモリーが二つだけ置かれていた。きっとこれが名簿だろう。
奴の見た目と口調からして几帳面な奴だと思った。それに元冒険者でもあったからな。間違いなく名簿を隠していると思った。
USBメモリーをポケットに入れた俺はヘレンと一緒に通った道を戻り、出口の途中にある天使の花の原料となる花が育てられている部屋に戻ってきた。
「H、この花を全部燃やせ」
「分かったのだ!」
元気よく返事をしたヘレンは複数の炎蝙蝠を放ち綺麗に咲いている花を燃やし尽くし、工場の外に出た俺たちは正面入り口へと走り続けた。
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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