魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第二十三話 漆黒のサンタクロース ⑤

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「ああ、アイツだよ。アイツが私たちを殺そうとしてるんだ」
 そうか、やはりアイツで間違いないようだな。
 初めてリサに会った時に感じた気配とまったく同じだったからもしかして。とは思っていたが、どうやら間違ってはいないようだ。
 もしもここで違っていたら他にも敵が居ることになってセリシャたちが危険になるからな。

「分かった。それで怪我はないか?」
「へ、平気に決まってるだろ!アンタなんかに心配される程じゃないさ!」
 余計なお世話と言わんばかりにリサはお礼を言うどころか悪態を吐く。
 ったくなんて奴だ。恩を着せるつもりはないが、助けたんだからお礼の一つや二つ言ってもいいだろうに。そこまで冒険者が嫌いなのかよ。って愚痴ってる場合じゃなかったな。

「そうかよ。それは悪かったな。それよりもさっさと逃げろ」
「煩い!それぐらい言われなくても分かってるさ!」
 そうかよ。
 結局リサは逃げるまで俺に対して悪態を吐いていた。こんな状況でもあれだけの悪態が吐けるんなら大丈夫か。
 一瞬笑みを零した俺はすぐに真剣な表情に戻すと未だに強烈な殺気を飛ばすローブ野郎を睨む。
 こんな日中に人殺しとかまったく何を考えてるんだ。それとももう手段を選んでいる場合じゃないってか。ま、どっちでも良いや。コイツをぶっ飛ばせば依頼達成で120万が手に入るんだ。
 1時間もしない内に120万だぜ。前世の日本じゃありえない時給だ。もう違法って言ってもいいレベルだろ。これだから冒険者は辞められないんだよな。ま、辞めるつもりなんて一切無いけど。
 口座に120万RKが振り込まれた事を想像すると心が躍る。
 悪いが120万のために死んでくれや!
 もう言っていることが完全にチンピラと同じような気もしないではないが、俺は気にする事無くローブ野郎目掛けて地面を蹴った。
 ここ最近戦闘ばかりで訓練なんてまともに出来ちゃいない。だからまだ瞬脚は使えない。ったくいい加減これが終わったら1ヶ月は休んでやる!で、その後に瞬脚を覚える。よし!予定は決まった。後はこのローブ野郎を殴り飛ばすだけだ!
 拳が届く距離まで近づいた俺は憎しみや恨みなんて感情ではなく、コイツをぶっ飛ばし一ヶ月間を好きなように過ごす事を脳内で妄想しながら拳を振るった。
 きっとそれが拙かったんだろう。
 俺の拳は空を切り、逆にローブ野郎が杖か槍か分からない棒で攻撃した一撃を食らってしまった。
 地面に転げる程では無いにしろ、強烈な鈍痛が腹部を襲い、猛烈な吐き気に襲われる。
 グリードが作ってくれた朝食は既に消化されて胃にはないだろう。あるのは喫茶店で飲んだコーヒーぐらいだ。だがこんな公園で吐くのはごめんだ。
 俺はどうにか堪えて吐き気を抑えながらローブ野郎を睨む。
 だがそれでも鈍痛が消えることは無い。物理耐性のお陰で痛みは少しは軽減されているんだろうが、それでもクソ痛てぇ。
 それにしてもまったく俺は馬鹿だよな。
 ローブ野郎は俺の一撃を耐えるだけのタフネスさを持った奴だ。なのに俺は勝利を確信していた。決着すらついていないのにその先の事を考えていた。それが大きな油断に繋がる事を気まぐれ島に住んでいる頃に教わり今まで守っていたじゃねぇか。
 ったくここ最近依頼も達成して大金が入ったし、フェリシティーを抱いたことで性欲が満たされたから調子に乗ってたのか?それとも気まぐれ島に比べれば圧倒的に温いこの場所に知らないうちに慣れすぎていたのかもな。
 それにしても運が良いぜ。俺は死んじゃいない。血反吐も吐いちゃいない。ただ腹がクソみたいに痛いだけだ。
 だがそれも時間が経てば痛みも引く。
 それまでは我慢すれば言いだけの話だ。
 それにしてもあのローブ野郎はいったい何をしやがった。
 俺は一瞬で奴の懐に入り込んだ。それは間違いない。なんせ奴はそれまで俺の動きを捉えられてすらいなかったんだからな。
 なのにあの状況から躱しただけでなく反撃までして来やがった。
 何かのスキルか?
 いや、そんな感じはしなかった。
 反射神経がずば抜けているわけでもないだろう。
 それともリサと同じで固有スキル?
 それならもっと早く使っているはずだ。
 だいたい、俺の一撃を与えられる奴がどうしてリサたちを殺すのにこんなにも手間取ってやがる。それこそおかし過ぎるだろ。
 もしかしてリサの固有スキル、未来の助言者アヴニール・メントーアと同様に自分では発動することが出来ないのか?もしくは発動するのに条件があるのか?
 ならどんな固有スキル能力だ?
 まさか瞬間移動とかじゃないよな。それならもっと早くリサたちを殺しているはずだからな。
 となるとリサたちを殺す事には使えない固有スキル能力と考えるべきだろう。
 これまで俺が出会って来た人たちが持っていた固有スキルは、経験三倍速のような成長系、他人に痛みを与えるヘレンの魔眼系、そして俺やアインが持っている収納系ぐらいだ。他にもステータスを見る限り色んな系統の固有スキルがある。
 なら奴はカウンター系の固有スキル能力
 だがそんな固有スキルは見たことなんて……あるな。気まぐれ島で。
 あれは中枢の神レベルの魔物と戦った時だったな。
 固有スキル『物理反射』
 全ての物理攻撃を反射すると言うチートスキルを持った神クラスの魔物だ。
 いや、あの時はマジでどうすれば勝てるのか分からなかったわ。だって魔力が無い俺は拳か石で攻撃するしかないわけだよ。
 で、どうやって倒したかと言うとアイテムボックスさ。奴が放ってきた魔法攻撃をアイテムボックスに納めて逆にそれを利用すると言うなんとも天才的な発想で俺は切り抜けたのさ。一発で仕留めないと二度と魔法攻撃してくれないから、魔法攻撃を出来るだけ溜めてから一気に放って倒したってわけだよ。え?なんで今までそれをしないで戦ってたかって。そんなの強くなれないからだよ。俺は上を目指すことを諦めたつもりは一切ない。こんな方法で戦ってたら経験値は稼げても技術面や危機的状況になった時に判断が出来ないからな。ま、これも師匠の受け売りなんだけどな。
 ま、そんな俺の過去話は置いといてだ。だいぶ鈍痛も引いてきた事だし反撃と行くか。
 それに奴の固有スキル能力に条件があるのかないのか。そもそも固有スキルなのか。なんてどっちでもいい。最初かあると仮定して戦えば良いだけの話なんだからな。
 俺は拳を構えてた瞬時にローブ野郎目掛けて地面を蹴った。
 互いの出方を窺ったりなんてしない。
 この相手にそれをしたって意味がないような気がするからな。
 俺はまたしても一瞬で奴の懐に入り込む。
 ローブ野郎はそんな俺を見て舌打ちをする。やはり俺を目で捉える事はできないようだな。
 俺は今度こそぶっ倒すつもりで拳をローブ野郎の脇腹目掛けて左ブローを捻じ込むように放った。
 ――だが、またしても俺の拳は空を切った。
 そして奴は反撃するように俺の背後から杖を振り下ろして殴ろうとする。
 だがこの俺が同じ手を食らうわけないだろうが!
 俺は奴の攻撃を躱し、逆に奴の顔に裏拳を叩き込む。が、それも躱されてしまう。
 一瞬にして俺の目の前に現れたローブ野郎はがら空きとなった俺の右脇腹目掛けて杖をフルスイングする。
 しかし数瞬後には奴の杖がローブ野郎の手から吹き飛ばされていた。
 いったい何が起きたのか分からないと言う表情を浮かべるローブ野郎。そんな奴の顔面に目掛けて俺は引き戻していた右拳を叩き込む。
 俺はまた躱されると思っていた。
 しかし俺の一撃は奴の顔面を確実に捉え十数メートル後方へ吹き飛ばす。
 だがそれでも奴は倒れようとはせず、見事に両足で持ちこたえていた。ったくどんだけタフな野郎なんだ。
 でもこれで奴の能力がなんなのかある程度推測は出来た。
 俺は戦闘続行の合図をするように拳を構えるが奴は吹き飛んだ杖を拾うなり逃走した。

「チッ!逃がすか!」
 俺は追いかけようとするが、そこへ運悪くと言うべきか騒ぎを嗅ぎ付けた警邏隊の連中数名がやって来た。
 ここで俺も奴を追いかけて逃げれば間違いなく犯罪者扱いだ。それだけは嫌なので俺は警邏隊の連中に事情を説明するため追いかけるのを止める事にした。絶対に次はぶっ倒してやる。
 そう心に誓って。
 その後は俺は事情を説明と言うよりも事情聴取を受けるべく詰め所に連行された。で、そこで2時間にも及ぶ事情聴取が行われたわけだよ。俺は冒険者で依頼をこなしているだけだ。って言っているのにあの警邏隊の奴らときたら全然話を聞く耳を持たないんだからよ。ったくそれでも市民を守る警察かっての。
 ま、警邏隊の連中からしてみれば俺たち冒険者なんて金のために暴れまわる傭兵となんにも変わらないんだろうな。案外間違ってないし。
 事情聴取を終えた俺はリサたちと合流しようとしたが電話番号を交換していなかった事を思い出し困っていた時、セリシャのスマホに着信が入り電話の相手の名前を確認すると旭だった。

「もしもし、ジンだ」
『もしもしじゃないわよ!さっさとさっきの喫茶店に戻ってきなさいよ!そして私のスマホを返しなさい!』
 耳が痛くなるほどのセリシャの怒鳴り声を浴びせ掛けられる。勝手にスマホを持ち出した事は悪いと思ってるが緊急事態だったんだから仕方が無いだろ。それぐらい分かれよ。
 いや、そんな事よりもだ。

「リサは大丈夫なのか?」
『とっくに合流してるわよ!いいからさっさと戻ってきなさい!』
「わ、分かった。すぐに戻る」
 これ以上セリシャの怒鳴り声を聞くわけにもいかないので俺は急いでセリシャたちと最初待ち合わせしていた喫茶店に戻る。
 緊急事態だったんだからあそこまで怒る事ないだろ!なんて愚痴りながら俺は曇天模様の空の下を走るのだった。
 20分掛けて喫茶店に戻った俺はセリシャにスマホを返したが、まだ苛立っているのかも物凄い剣幕で睨まれていた。
 喫茶店の一角で電光掲示板にプロモーションビデオが流れるほど有名なバンドが座ってはいるが、ドス黒いオーラを漂わせているせいか、他のお客たちはチラチラと恐怖交じりの視線をこっちに向けて来るだけだった。

「リサが無事にここに居るから助けてくれたんでしょ。それに関してはお礼を言っておくわ、ありがとう。でもどうしてそれから2時間も連絡が取れなかったのか教えて貰えるかしら?」
 周囲の事など気にするようすもないセリシャは頬杖を付いて人差し指でコンコンとテーブルを叩きながら問い詰めるように聞いてきた。

「警邏隊の連中に捕まったんだよ。で、事情聴取を受ける羽目に」
 俺の説明にセリシャたちは変な期待をしてしまう。

「もしかしてリサを襲ったローブの男も捕まったの?」
「いや、アイツは警邏隊を見た瞬間に逃げて行きやがった」
 そんな俺の言葉に旭たちはガッカリする。セリシャに至っては嘆息までするほどに。リサを助けたのにその反応は酷いんじゃないのか?いや、命を狙われていて不安なのは分かるぞ。だがそれでも酷いと思う。
 その後はコーヒーを飲みながら出来るだけ詳細に事情を説明した。
 俺の話を聞いている間に冷静さを取り戻したのかセリシャは真剣な面持ちで俺に質問してきた。

「つまり、そのローブ男はリサと同じで固有スキル持ちの可能性があるってこと?」
 俺はそれに頷き口を開いた。

「ああ。その固有スキル能力関しても最初は分からなかったが、今はある程度の予想は出来ている。ただ一つ言える事はその固有スキル能力でお前たちを殺す事は出来ないって事だ」
「分かったわ。それだけ聞ければ十分よ」
 それだけ言うとセリシャはカフェラテを一口飲む。
 俺はコーヒーはブラック派だ。別に甘いものが苦手ってわけじゃないが、自分から進んで飲もうとは思わない。
 そんな事を内心思いながら俺はコーヒーを一口飲む。

「それで、私にもちゃんと分かるように説明してくれるんだろうな」
 コーヒーやカフェラテを味わう俺やセリシャたちに対してリサは納得がいかないと言わんばかりの鋭い視線を向けてくる。
 そう言えばまだリサには説明してなかったな。
 どうするんだ?と問い掛けるようにセリシャに視線を向ける俺。それは俺だけでなく旭たちも同じだった。
 そんな俺たちの視線を感じたセリシャは渋々納得するかのように嘆息すると、リサに視線を向けて説明し始めた。
 
「私たちがジンに護衛するように依頼したの」
 短く分かりやすい言葉にリサは目を見開けると、

「巫山戯るな!」
 絶叫するように怒声を上げてカップが跳ねるほど強くテーブルを叩いた。 
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