魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第三十二話 眠りし帝国最強皇女 ③

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 物凄い形相で睨んでくるジャンヌの気迫が凄まじい。だが脚は恐怖で震えていた。
 これまで色んな奴に化物扱いされた事はある。だがそれは戦った後や最中だ。でもまさか初対面に相手に化物扱いされるとは思わなかった。
 それにしてもどこが精神的に塞ぎこんでいるんだ?とてつもなく元気に見えるんだが。
 怖くて仕方が無い。だが家族を護ろうと必死に殺意を飛ばしてくるジャンヌの姿は小動物が大型猛獣の脅威に抗っているかのようだった。
 さてこの状況をどうしたものか。俺が何を言ったところで受け入れては貰えないだろうからな。
 どうしたものかと後頭部を掻いていると、俺を庇うようにしてシャルロットが入り込んでくる。

「お姉様、落ち着いてください!」
「シャルロット!ソイツから離れろ!その男は危険だ!」
「いえ、離れません!ジンさんは私にとって命の恩人にであり大切な方なのですから!」
 シャルロットが突然俺を庇うようにして立つ姿にジャンヌは驚きの表情になると、慌ててその場から離れるように言うが、シャルロットは拒否して説得しだす。
 傍から見れば一人の男を恨む女と男を庇う女と言うなんとも昼ドラにありそうな場面になってはいるが、けして恋愛の縺れではないので安心してくれ。
 姉妹による口論とも言うべき説得のし合いは10分以上も続く。いったいいつになったら終わるんだ?てか俺完全に空気になってないか?
 そんな風に思っているとシャルロットとジャンヌの間に割り込んで来る一人の女性が居た。

「「お、お母様……」」
 2人はその女性の姿を見てそう呟いた。だが何故だか分からないが、2人の声音から恐怖を感じるんだが。
 そんな俺の疑問は直ぐに解消された。
 レティシアさんは満面の笑みを浮かべている。しかしその瞳はまったく笑ってはいなかった。

「2人ともいい加減にしなさい。でないと私怒るわよ」
「「っ!」」
 優しく撫で掛けるように呟かれた一言。だがその言葉に2人は身体はビクッ!と震わせる。
 よく見るとボルキュス陛下も怯えていた。きっと昔なにかしてしまったのだろう。
 ライアンやカルロスたちも困った表情をしていた。
 で、エリーシャさんは分かっていたのかただ笑みを浮かべていた。
 うん、俺も似たような経験をした事があるから、分かるぞ。笑顔なのに目が笑っていない時って超怖いよな。
 如何に帝国最強の第一皇女でも心優しい第二皇女でも絶対に勝てないものが母親と言うことらしい。
 うん、まさに母は強しだな。
 どうにか冷静さを取り戻した俺たちはジャンヌの自室にあるソファーに座って改めて話をする。
 ソファーに座るなりイオが全員分の飲み物をテーブルに置く。いったいいつ用意したんだ?
 ま、そんな疑問は今は置いといて早速本題に入るとしよう。
 イオが淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ俺は対面に座るジャンヌに視線を向ける。うん、やっぱりインスタントとは比べ物にならない美味しさだな。

「初めまして、俺は冒険者の鬼瓦仁だ」
 簡素な自己紹介だが、別に構わないだろう。
 それに未だにジャンヌは俺の事を警戒しているようだからな。

「私はジャンヌ・ダルク・ベルヘンス。シャルロットの実の姉だ」
 向こうもなんとも簡素な挨拶だ。何かした覚えはないんだが、なんで嫌われているんだ?
 俺はボルキュス陛下に視線を向けた。

「それで俺はこのあと何をすれば良いんだ?依頼内容であったジャンヌ皇女殿下は元気になったと思うんだが」
「依頼?それはどういう事だ?」
 俺の言葉にジャンヌは眉を顰めてボルキュス陛下に視線を向けた。
 しかし誰一人として答えようとしない。確かに睨んだ顔は怖いが、事情ぐらい話しても良いようなものだが。

「俺は、塞ぎこんでいるジャンヌ皇女殿下を昔のように元気にするために依頼を請けてここに来た」
「なっ!」
 信じられないと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべる。ま、医者でもカウンセラーでもない俺に依頼してるんだ。そりゃ驚くのは無理もない話だ。

「お父様、それは本当なのですか?」
「あ、ああ……確かにあの事件は悲劇としか言いようがないだろう。だがこのまま部屋に閉じ篭っていれば体調にも影響してくるからな」
 歯切れの悪いと言うか、どこか曖昧な言い方だ。
 それに怒りを覚えたのかジャンヌは立ち上がる。

「くっ!お父様たちは、何も……何も知らないからそんな事が言えるのだ!あの場所がどれほど恐ろしい場所なのか!まさにあそこは地獄。私たちが足を踏み入れて良い場所ではなかったのだ!だが私は足を踏み入れたせいで大切な部下の大半を失った……今でも鮮明に覚えている。あの場所がどれほど恐ろしい場所なのか……」
「ジャンヌ……」
 憤りと恐怖交じりの声音で絶叫するジャンヌの姿にボルキュス陛下たちは皆が心配そうに見ていた。
 それだけあの場所がトラウマなのだろう。
 だが思っていた情緒不安定とは違う。思いのほか元気だ。なら俺は必要ないだろう。
 俺は残りのコーヒーを飲み干しソファーから立ち上がった。

「それじゃ、俺はこれで失礼するぞ。もう大丈夫みたいだからな」
「待て」
 部屋から出ようとした俺はジャンヌに引き止められてしまった。
 まだ何か用があるのか?

「なんだ?」
 俺は視線を向けて、訊いてみる。

「ジンと言ったな。貴様、地獄島ヘル・アイランドに行った事はないか?」
『っ!』
 鋭い視線を向けてくるジャンヌが口にした質問にこの場に居る誰もが驚愕の表情を浮かべていた。
 当然だろう。
 地獄島ヘル・アイランドの凄まじさ、恐ろしさ、禍々しさを体験した身内を持つ一家なのだ。
 そんな言葉が出れば誰だって驚く。が、俺は別に驚きはしない。最初に会った時、なんとなくそんな質問をされるのではないかと思っていた。
 力を開放していない俺の事をいきなり化物呼ばわりするなんてありえない。
 となるとジャンヌと俺は一度会っている可能性がある。
 ジャンヌが地獄島ヘル・アイランドに行ったのは約1年と4ヶ月前。その時はまだ俺も地獄島ヘル・アイランドに住んでいた。
 だが俺にはジャンヌと会った記憶が無い。
 それに1度会っているのであれば気配を覚えているはずだ。なのに覚えていないとなると会っていないことになる。いや、あの時なら分からない。
 俺はあの気まぐれ島で我を忘れて暴れまわっていた時期がある。正直その時の事はあまり覚えていない。
 ただ失った悲しみと無力な自分に憤りを覚えてただ我武者羅に魔物を殺して回っていた。
 生きるために食料としてとかじゃない。ただ沸き上がる怒りを抑えるために、強くなるためだけに暴れまわっていた時期がある。
 その時に偶然手に入れた称号。正直おっかなくてイザベラたちにすら見せていない称号がある。
 称号――悪鬼羅刹。
 称号がどう言う風にして手に入るか俺は詳しくは知らない。ただ何かを成し遂げれば手に入るのだろう。『龍殺し』のように。
 悪鬼羅刹の称号効果は身体能力を20倍にし、痛覚を遮断。その代わり我を忘れ、強者を求めて彷徨うだけの悪鬼になる。と言うものだ。
 一度発動すれば我に返る事は不可能とされているらしい。だが俺は銀のお陰で我に返る事が出来た。
 もしもその時に出会って居たのであれば、俺に記憶がないのも頷ける。
 だが、それは正直困ると言うより最悪だ。
 ボルキュス陛下たちに俺が地獄島ヘル・アイランドで暮らしていた事を話していない。だからバレると非常に面倒な事になりかねない。

「あれは私たち304独立遊撃部隊があの島に上陸して2週間が過ぎた頃の事だ。隊の殆どが壊滅し、一日でも早く船へ戻っている時の事だ。そんな私たちの前に圧倒的な力を持った地龍が現れた。私たちは死を覚悟した。だがそんな時人の姿をした化物が一瞬にして地龍を屠ったのだ。私は今までに感じたこの無い恐怖に動くどころか一言も発する事すら出来なかった……」
 きっとのその時の事を思い出しているのだろう。
 だがこれで間違いない。
 昔、俺とジャンヌはあの島で会っている。
 ここに来てまさか俺があの気まぐれ島に居た事を知る者に出会うなんて最悪だ。もしもバレたらイザベラに何を言われるか分かったもんじゃないからな。
 俺は平静を装い馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに答える。

「そんな事あるわけないだろ。ジャンヌ皇女殿下は知らないかもしれないが、俺は魔力が無い。そんな奴が地獄島ヘル・アイランドに行くなんて、そんなの死にに行くようなものだぞ」
「それは本当なのか?」
 ジャンヌは俺に問い返したのではなく、確認のためにボルキュス陛下たちに視線を向けて問い掛ける。
 それに対してボルキュス陛下たちはただ頷くだけだった。

「そういう事だ。だから地獄島ヘル・アイランドで会ったと言う人の姿をした化物は俺じゃない。きっと人の姿をした魔物だったんじゃないか?なんせ何も分かってはいない島なんだからよ」
「それもそうだな。すまない、変な事を訊いたな」
「なら、俺はこれで帰らせて貰うぜ」
 俺はそう言って部屋を出る。
 ボルキュス陛下の言葉でイオが皇宮の外まで同行する事になったが、別に構わない。
 ただ一言言えることは、危ねぇ!マジでバレるところだった!

            ************************

 部屋を出て行ったシルバーメッシュが特徴的な黒髪のオニガワラ・ジンと言う成年は軽く手を振って出て行った。
 やはり似ている。
 一歩足を踏み入れただけで戦慄を覚え、まともに歩くことすら許されない名前の通り地獄が広がるあの島で出会った化物に。
 私は思い出したくも無い記憶の化物と彼を重ね合わせていた。
 だが何故だ。
 さっきまでベッドの上で後悔と恐怖に押し殺されそうになっていた。だが、あの気配を感じた瞬間私は何かに引っ張られるようにして重圧から開放されていた。
 完全に開放されたわけではない。今も少し思い出しただけでも恐怖、悲しみ、憤り、などあらゆる負の感情が渦巻き始める。だが前ほど荒々しいものではなくなっていた。

「ジャンヌ、もう大丈夫なのか?」
「本調子とまではいきませんが、通常の生活を過ごす分には問題ありません」
「そうか」
 私の言葉に笑みを浮かべるお父様やお母様たちから安堵する声が漏れる。
 今まで心配させたのだ。これからは今まで以上に頑張らなければ……。
 私は自分の右手を見つめて強く握り締める。

「あまり無理は駄目よ。ゆっくりと回復していくのよ」
「分かっています」
 お母様は元冒険者だ。だから肉体や精神面の経験としての知識を持っている。だからお母様の言葉は間違ってはいない。
 勿論無理をするつもりはない。
 家族を悲しませたくはないからな。

「それにしても流石はジンさんです。何もしないでお姉様を部屋から出してしまうなんて!」
 シャルロットは嬉しそうに先ほどの彼の事を話し出す。
 そんな話題にライアンやお母様たちもそうねと同意しているが、お父様とグレンダだけはどこか納得のいかない表情をしていた。
 それだけでシャルロットの中で彼が美化されているのだとハッキリと分かる。
 だが自然と私も彼の事が気になった。
 イケメンの分類に入る彼だが、実力主義であるこのベルヘンス帝国でシャルロットだけでなくお父様やお母様、ライアン兄様たちまでも信頼している人物は片手で数えられる程度しかしらない。
 ましてや彼は自ら魔力を持たないと口にしていた。
 私は魔力量+魔法属性の数=実力と言う考えは間違えだと思っている。だが、戦闘において実力の半分を占めていると言っても過言ではないだろう。
 身体能力の向上や魔法武器、魔導武器を使うにしても魔力が必要なのだから。
 だが彼は魔力を持っていない。
 確かに魔力感知を使った際に彼から魔力が感じられなかった。魔力操作能力の高い者ならば無いように見せる事は簡単だ。しかしどれだけの達人でも少しは漏れていてもおかしくはない。だが彼からは漏れてすらいなかった。
 にも拘らず、お父様たちは彼の事を信頼している。
 そんなオニガワラ・ジンと言う男に興味を持たないほうが可笑しいと言うものだ。

「シャルロット、あの男は何者なんだ?」
 だからこそ自然と私は彼の事をシャルロットに訊ねていた。

「ジンさんの事ですか?」
「そうだ」
 何の疑いも無くそう訊ね返してくるシャルロットに私は肯定の返事をする。私はシャルロットが産まれた時から知っている。誰よりも心優しく、弱きものでも手を差し伸べる素晴らしい妹だ。もしも私が血縁者ではない男であれば結婚したいと思えるほどの素晴らしい妹だ。
 だがそれでもここまで一人の男を褒め称えるような事は今まで無かった。
 だからこそ私はそんなシャルロットがここまで信頼し褒める男がどのような男なのか姉として知りたいと言う意味もあった。
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