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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第五十五話 眠りし帝国最強皇女 ㉖
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だが、このまま何もしないわけにはいかないので、気持ちを切り替えて前を向く。
「あれが大量の魔物に投与されるだけでも最悪な事態が起こる事は間違いない。だがこれまでの事件を考えるとこの薬の開発者は魔物を強くする事より人間を強くする事に固執していると俺は思うんだが」
これまでの事件の大半は人間に投与されたものであって、魔物に投与された事は一度もない。もしかしたら別の都市や国でその実験が行われているのかもしれないが、ボルキュス陛下たちの様子を見る限りそれはないだろう。もしかしたら本当は実験が行われていたが、現場の奴らはそれが実験だと気づいておらず、ただの事件として報告されているのかもしれないな。
そんな俺の言葉にボルキュス陛下とライアンはいち早く同意するように頷いた。
「それは間違いないであろう。都市の壊滅が目的なら魔物でも良いかもしれないが、個人を標的した時や都市内での奇襲攻撃も考えているのであれば人間の方が遥かに良いからな」
「そうですね。魔物と違い知能と言う面で人間は圧倒的に優れている。だがもしも改良を重ね副作用が殆どなく死ぬ確率も低くなれば間違いなく戦争になるでしょう。いや、最悪人の文明が無くなる危険性だってありえる」
だろな。文明とは人が生きて行くうえで作り上げた道具の結晶体だ。
そこには外敵から身を護るために開発、発展していた道具だってある。長生きするためにするために作られた薬だってある。それが己の肉体1つで可能になるとなればその道具は必要となくなり時間と共に知識と共に消えて行くだろう。
つまり人が獣と同じになっていくのと同じだ。
「直ぐにでもこの薬を開発、研究している人物、もしくは組織を見つけ出し討伐したいところではあるが……」
そこでボルキュス陛下は言葉をきり、ジャンヌに視線を向けた。
きっとボルキュス陛下も分かっているのだ。そしてそれはこの場に居る誰もが理解していた。
「今は我が娘、ジャンヌの命を狙った愚か者を始末するのが先であろうな」
ハッキリとボルキュス陛下は答えた。
当然だ。そんな薬が使われ魔物が偶然にも俺とジャンヌが帝都外に出た時に現れたなんてありえない。どう考えても狙われたと考えるのが妥当。
勿論狙われたのがジャンヌではなく俺の可能性もあるが、それなら今の依頼を終えてから暗殺すれば良いだけの話であって魔物に俺を襲わせると言う回りくどいやり方をする必要はない。
なんせ俺は皇族であるジャンヌと違い、一介の冒険者に過ぎない。もしも暗殺されたとしてもニュースに数日の間流れるだけで、世界的に大きなニュースになる事はないだろう。もしかしたら魔物の討伐依頼に失敗して死亡したと報道される程度かもしれない。
だがジャンヌは違う。世界的に軍事力を誇るベルヘンス帝国の第一皇女。そんな人物を暗殺しようと思えば通常の暗殺方法では直ぐにバレてしまうだろう。なら突如出現した高ランクの魔物に襲われて死亡したと言う事にするのが一番手っ取り早い。それならば暗殺と言う疑いは出ずに、悲しい惨劇として処理されるだろうからな。
大量の魔物に襲わせるにしてもフレンジーパウダーは各国が厳重に保管している。そんな入手困難な物を使った作戦は難しい。もしも万が一フレンジーパウダーを入手する事に成功したとしても帝都近郊では軍が常に警戒し魔物の活動を監視している。そんな状況でフレンジーパウダーを使えばすぐに気付かれ、ジャンヌを殺す前に榴弾砲による攻撃で対処されるだろう。
だが、問題は――
「誰が我が娘、ジャンヌを暗殺しようとしたかだ」
ボルキュス陛下も同じことを考えていたらしく、俺より先に言葉を口にする。
「他国と言う線は低いでしょうね。なんせジャンヌが回復している事は緘口令を敷いて伏せていましたから」
「となると身内、それもジャンヌが今日帝都の外に出る事を知っていた者と言う事になるか……」
「それこそありえません。帝都外での実戦訓練を行う事を決めたのは2日前の事です。その事を知っているのはジャンヌが回復し始めている事を知っている数より圧倒的に少ない。いえ、それこそ皇族とイオ、グレンダ、それからジン君のみしか知らない事をどうやって知ったと言うのですか?」
ライアンが言っている事は正しい。
情報規制によりジャンヌの事は帝都に住む一般人ですら知らない事だ。
それなのに他国の人間が知る方法と言えばこの皇宮内で務める方法しかない。だがそれこそ不可能に近い。この皇宮で務めると言う事は皇族に認められたと言う事だ。
聞いた話によると筆記試験や面接だけじゃなく、軍や諜報機関によって試験を受けた人物の事を徹底的に調べ上げるのだ。そんな場所にスパイが入り込むのは困難に近い。プライベートの侵害と思うかもしれないが、それを分かった上で試験を受けているのだから文句は言えないだろう。え?俺は平気なのかって?確かに俺は去年の4月より前の記録がない。なんせこの世界に転生して5年。いや、もう6年か。そのうちの5年間は地獄島で暮らしていたのだから無くて当然だ。なのにこうして俺がこの場に居られるのは日ごろの行いが良いからだ!ってのは冗談で色んな意味で目立っているからだろう。スヴェルニ王国での事件やシャルロットを救った事など。ま、そこから俺と言う人物を見定めたのだろう。そう考えると俺って変なところで運が良いよな。
「大樹喰らいを出現させるには相応の時間と準備がいる筈。となると数日前から、最低でもその前日から準備をしておかなけれ不可能です」
「それもそうか……」
ボルキュス陛下はライアンの言葉に納得して腕を組みなおす。
確かにライアンの言うとおりだ。時間と準備期間を考えたら間違いないだろう。
結局煮詰まってしまい誰も喋らなくなったり、1時間が経過しても答えが出ないのでお開きとなった。ただ1つだけ決まった事はジャンヌが誰かに命を狙われていると言う事はこの場に居る者だけの秘密にすると言う物だった。
つまりシャルロットやグレンダにも秘密と言う事だ。特にシャルロットには内緒にしなければならない。家族想いで優しい子なんだ。そんな子が知れば間違いなく悲しむのは目に見えているからな。
で、今日の夕食はやはりいつもと違いどこか暗い雰囲気があった気がする。事情を知っているからなのか分からないが。それでもレティシアさんやエリーシャさん、ライアンは流石だ。家族に心配掛けまいと普段通りに過ごしている。これも皇族として過ごして来た結果身に付いた技術なのだろう。
え?俺はっても、勿論出来てるに決まってるだろ!ま、俺はいつも通り食事を堪能するだけだが。因みにジャンヌもいつも通りシャルロットたちと会話をしながら夕食を楽しんでいた。
夕食を終えた俺は寝室のベットに横になっていた。この天井も随分と見慣れた光景だ。もう我が家のような気分になってくる。
ま、そんな事より今は明日の事だ。正直この状況では帝都外での訓練は無理だ。となると訓練場での模擬戦や訓練になってしまう。悪い事ではないが先が見えないようでは不安でしかない。となると、
「犯人を捕まえるしかないか」
思わず口から洩れてしまう。ま、寝室だし周囲の気配も感じないから大丈夫だろう。
それよりも犯人を捕まえる方法だな。と言っても犯人が誰なのか分かってすらいないんだ。この場合はまず誰が犯人なのか見つけるのが先なわけだが、どうやって探すかだよな。
…………仕方がない。一つ一つ可能性を挙げて消して行くしかないか。
他国の可能性は?
ライアンが言ったように無いとは言い切れないだろう。だが、今殺しても自分たちが疑われるのは明白だ。そんな事をすれば帝国と全面戦争になる可能性がある。そなら戦場で殺した方がまだ言い訳もできる。
なら身内の仕業か。
確かに他国に比べれば情報を得ると言う意味では楽だろう。だが他国よりも見つかる可能性は十分にある。そんな愚を犯すとは思えない。
いや違う。
だからこそ魔物で暗殺しようとしたんだ。戦死に見せかけるために。それなら暗殺の線は消えるからな。
なるほど分かって来たぞ。この犯人が考えた作戦は暗殺ではなく戦闘中による戦死を前提に考えられたものだ。確かに戦死を前提に考えれば完璧な作戦と言える。
だが、暗殺であると前提で考えると色々と見えて来る。
まず他国より身内の仕業の可能性だ。なんせ魔物に襲わせるよりあからさまな暗殺の方がまだ他国の仕業である可能性が強調されるからな。
となるとこの作戦を思いつく前から薬の開発を行っている連中とつながりがあったと考えるのが妥当だろう。でなければこんな魔物に襲わせて殺すなんて作戦を思いつく筈が無いからな。もしくは連中が吹き込んだ作戦の可能性もあるが、決断して実行している時点で国家反逆罪は免れないだろう。
それにしてもこの犯人は相当な自信過剰か、自己保身のどちらか、もしくはその両方の持ち主なのかは分からないが、変なところで抜けた奴だ。なんせ作戦が成功する確率よりも成功し前提で疑われる可能性が最も低い作戦を選んでいるんだからな。
もしも俺が犯人なら間違いなく魔物なんか使わず普通の暗殺を選ぶ。作戦が成功しようが失敗に終わろうが、暗殺されかけたともなればまず疑うのは身内じゃなく他国なんだからな。
となると後は身内の誰かと言う事になるわけだが、皇族は除外しても良いだろう。あれだけ仲が良いんだ家族を殺すような事はしないだろう。疑うのであれば一番の容疑者はライアンだ。なんせ会議の際の身内の可能性を否定する弁舌には他国の可能性を否定する時よりも熱弁になっていたからな。
作戦能力は兄弟の中でも随一らいしい。その分では自信を持っていると言える。自信過剰になってもおかしくない。
ジャンヌを殺す動機は恐らく戦闘に関する嫉妬が考えられるが、自己保身の面から考えるとあの熱弁はどう考えてもあからさま過ぎる。自分を疑って下さいと言っているようにも聞こえる。その裏をかいて行ったとも言えなくはないが、無線機でのやり取りを聞く限り妹の事を心の底から大切に想っているのは間違いないだろう。
となるとジャンヌの事をよく知っている人物であり、皇族とも親しく己の作戦に自信過剰で尚且つ自己保身の強い人物か。そんな奴いたか?
その時、1人の人物が頭に浮かぶ。
ジャンヌが訓練をしようとして魔力を暴走させたとイオがギルドホームまで来て伝えてきたため、依頼を続行する事になり様子を見に皇宮に行った時に偶然会った男。
確か名前は――リュド・バン・ジュデール。第304遊撃連隊の現隊長であり、ジャンヌが隊長だった時は副隊長だったか。
リュドにも一応暗殺の動機はあるな。現在第304遊撃連隊の隊長なんだ。だがジャンヌが復帰すればその地位から落ち再び副隊長になるだろう。だがそれだけの理由で暗殺をするとは思えないんだが。給料と言う面でも隊長と副隊長の差は無いに等しいだろう。そんな事のために国家反逆罪を犯すとは到底思えない。ましてやあの堅物そうな性格で。なら違うか……。
そう言えばアイツも地獄島調査に向かったんだよな。それにしては大きな外傷があるようには見えなかったが。それを言うならジャンヌもそうか。だが1年間も引きこもるほどのトラウマを与えられるほどの場所に行ったにしては平然としてたな。メンタルはジャンヌ以上って事なのか?
もしかしたらリュド以外にも復帰している奴がいるかもしれないな。明日にでもジャンヌ……に訊いたら悪化しそうだからな。ライアンかボルキュス陛下にでも訊いてみるか。ついでに地獄島の調査がどんなモノだったのかも訊いてみるか。前は大まかにしか教えて貰えなかったしな。
2月13日水曜日午前9時30分。
朝食を終えた俺は朝食前にイオに頼んで第304遊撃連隊と地獄島の調査に関する出来事を見せて貰うべく応接室に来ていた。
どうやら内容が機密らしくおいそれと見せれるようなものじゃないらしい。
出された適温のお茶を飲みながら待つ事数分、ボルキュス陛下とイオが応接室へとやって来た。
「待たせたな」
「いや、こっちこそ昨日の今日で無理を言ってすまない」
「なに、犯人捜しの手がかりを探すためと言われては断るわけにもいかないからな」
だからと言って機密を冒険者に見せるのはどうかと思うぞ。頼んだのは俺だけどさ。
「あれが大量の魔物に投与されるだけでも最悪な事態が起こる事は間違いない。だがこれまでの事件を考えるとこの薬の開発者は魔物を強くする事より人間を強くする事に固執していると俺は思うんだが」
これまでの事件の大半は人間に投与されたものであって、魔物に投与された事は一度もない。もしかしたら別の都市や国でその実験が行われているのかもしれないが、ボルキュス陛下たちの様子を見る限りそれはないだろう。もしかしたら本当は実験が行われていたが、現場の奴らはそれが実験だと気づいておらず、ただの事件として報告されているのかもしれないな。
そんな俺の言葉にボルキュス陛下とライアンはいち早く同意するように頷いた。
「それは間違いないであろう。都市の壊滅が目的なら魔物でも良いかもしれないが、個人を標的した時や都市内での奇襲攻撃も考えているのであれば人間の方が遥かに良いからな」
「そうですね。魔物と違い知能と言う面で人間は圧倒的に優れている。だがもしも改良を重ね副作用が殆どなく死ぬ確率も低くなれば間違いなく戦争になるでしょう。いや、最悪人の文明が無くなる危険性だってありえる」
だろな。文明とは人が生きて行くうえで作り上げた道具の結晶体だ。
そこには外敵から身を護るために開発、発展していた道具だってある。長生きするためにするために作られた薬だってある。それが己の肉体1つで可能になるとなればその道具は必要となくなり時間と共に知識と共に消えて行くだろう。
つまり人が獣と同じになっていくのと同じだ。
「直ぐにでもこの薬を開発、研究している人物、もしくは組織を見つけ出し討伐したいところではあるが……」
そこでボルキュス陛下は言葉をきり、ジャンヌに視線を向けた。
きっとボルキュス陛下も分かっているのだ。そしてそれはこの場に居る誰もが理解していた。
「今は我が娘、ジャンヌの命を狙った愚か者を始末するのが先であろうな」
ハッキリとボルキュス陛下は答えた。
当然だ。そんな薬が使われ魔物が偶然にも俺とジャンヌが帝都外に出た時に現れたなんてありえない。どう考えても狙われたと考えるのが妥当。
勿論狙われたのがジャンヌではなく俺の可能性もあるが、それなら今の依頼を終えてから暗殺すれば良いだけの話であって魔物に俺を襲わせると言う回りくどいやり方をする必要はない。
なんせ俺は皇族であるジャンヌと違い、一介の冒険者に過ぎない。もしも暗殺されたとしてもニュースに数日の間流れるだけで、世界的に大きなニュースになる事はないだろう。もしかしたら魔物の討伐依頼に失敗して死亡したと報道される程度かもしれない。
だがジャンヌは違う。世界的に軍事力を誇るベルヘンス帝国の第一皇女。そんな人物を暗殺しようと思えば通常の暗殺方法では直ぐにバレてしまうだろう。なら突如出現した高ランクの魔物に襲われて死亡したと言う事にするのが一番手っ取り早い。それならば暗殺と言う疑いは出ずに、悲しい惨劇として処理されるだろうからな。
大量の魔物に襲わせるにしてもフレンジーパウダーは各国が厳重に保管している。そんな入手困難な物を使った作戦は難しい。もしも万が一フレンジーパウダーを入手する事に成功したとしても帝都近郊では軍が常に警戒し魔物の活動を監視している。そんな状況でフレンジーパウダーを使えばすぐに気付かれ、ジャンヌを殺す前に榴弾砲による攻撃で対処されるだろう。
だが、問題は――
「誰が我が娘、ジャンヌを暗殺しようとしたかだ」
ボルキュス陛下も同じことを考えていたらしく、俺より先に言葉を口にする。
「他国と言う線は低いでしょうね。なんせジャンヌが回復している事は緘口令を敷いて伏せていましたから」
「となると身内、それもジャンヌが今日帝都の外に出る事を知っていた者と言う事になるか……」
「それこそありえません。帝都外での実戦訓練を行う事を決めたのは2日前の事です。その事を知っているのはジャンヌが回復し始めている事を知っている数より圧倒的に少ない。いえ、それこそ皇族とイオ、グレンダ、それからジン君のみしか知らない事をどうやって知ったと言うのですか?」
ライアンが言っている事は正しい。
情報規制によりジャンヌの事は帝都に住む一般人ですら知らない事だ。
それなのに他国の人間が知る方法と言えばこの皇宮内で務める方法しかない。だがそれこそ不可能に近い。この皇宮で務めると言う事は皇族に認められたと言う事だ。
聞いた話によると筆記試験や面接だけじゃなく、軍や諜報機関によって試験を受けた人物の事を徹底的に調べ上げるのだ。そんな場所にスパイが入り込むのは困難に近い。プライベートの侵害と思うかもしれないが、それを分かった上で試験を受けているのだから文句は言えないだろう。え?俺は平気なのかって?確かに俺は去年の4月より前の記録がない。なんせこの世界に転生して5年。いや、もう6年か。そのうちの5年間は地獄島で暮らしていたのだから無くて当然だ。なのにこうして俺がこの場に居られるのは日ごろの行いが良いからだ!ってのは冗談で色んな意味で目立っているからだろう。スヴェルニ王国での事件やシャルロットを救った事など。ま、そこから俺と言う人物を見定めたのだろう。そう考えると俺って変なところで運が良いよな。
「大樹喰らいを出現させるには相応の時間と準備がいる筈。となると数日前から、最低でもその前日から準備をしておかなけれ不可能です」
「それもそうか……」
ボルキュス陛下はライアンの言葉に納得して腕を組みなおす。
確かにライアンの言うとおりだ。時間と準備期間を考えたら間違いないだろう。
結局煮詰まってしまい誰も喋らなくなったり、1時間が経過しても答えが出ないのでお開きとなった。ただ1つだけ決まった事はジャンヌが誰かに命を狙われていると言う事はこの場に居る者だけの秘密にすると言う物だった。
つまりシャルロットやグレンダにも秘密と言う事だ。特にシャルロットには内緒にしなければならない。家族想いで優しい子なんだ。そんな子が知れば間違いなく悲しむのは目に見えているからな。
で、今日の夕食はやはりいつもと違いどこか暗い雰囲気があった気がする。事情を知っているからなのか分からないが。それでもレティシアさんやエリーシャさん、ライアンは流石だ。家族に心配掛けまいと普段通りに過ごしている。これも皇族として過ごして来た結果身に付いた技術なのだろう。
え?俺はっても、勿論出来てるに決まってるだろ!ま、俺はいつも通り食事を堪能するだけだが。因みにジャンヌもいつも通りシャルロットたちと会話をしながら夕食を楽しんでいた。
夕食を終えた俺は寝室のベットに横になっていた。この天井も随分と見慣れた光景だ。もう我が家のような気分になってくる。
ま、そんな事より今は明日の事だ。正直この状況では帝都外での訓練は無理だ。となると訓練場での模擬戦や訓練になってしまう。悪い事ではないが先が見えないようでは不安でしかない。となると、
「犯人を捕まえるしかないか」
思わず口から洩れてしまう。ま、寝室だし周囲の気配も感じないから大丈夫だろう。
それよりも犯人を捕まえる方法だな。と言っても犯人が誰なのか分かってすらいないんだ。この場合はまず誰が犯人なのか見つけるのが先なわけだが、どうやって探すかだよな。
…………仕方がない。一つ一つ可能性を挙げて消して行くしかないか。
他国の可能性は?
ライアンが言ったように無いとは言い切れないだろう。だが、今殺しても自分たちが疑われるのは明白だ。そんな事をすれば帝国と全面戦争になる可能性がある。そなら戦場で殺した方がまだ言い訳もできる。
なら身内の仕業か。
確かに他国に比べれば情報を得ると言う意味では楽だろう。だが他国よりも見つかる可能性は十分にある。そんな愚を犯すとは思えない。
いや違う。
だからこそ魔物で暗殺しようとしたんだ。戦死に見せかけるために。それなら暗殺の線は消えるからな。
なるほど分かって来たぞ。この犯人が考えた作戦は暗殺ではなく戦闘中による戦死を前提に考えられたものだ。確かに戦死を前提に考えれば完璧な作戦と言える。
だが、暗殺であると前提で考えると色々と見えて来る。
まず他国より身内の仕業の可能性だ。なんせ魔物に襲わせるよりあからさまな暗殺の方がまだ他国の仕業である可能性が強調されるからな。
となるとこの作戦を思いつく前から薬の開発を行っている連中とつながりがあったと考えるのが妥当だろう。でなければこんな魔物に襲わせて殺すなんて作戦を思いつく筈が無いからな。もしくは連中が吹き込んだ作戦の可能性もあるが、決断して実行している時点で国家反逆罪は免れないだろう。
それにしてもこの犯人は相当な自信過剰か、自己保身のどちらか、もしくはその両方の持ち主なのかは分からないが、変なところで抜けた奴だ。なんせ作戦が成功する確率よりも成功し前提で疑われる可能性が最も低い作戦を選んでいるんだからな。
もしも俺が犯人なら間違いなく魔物なんか使わず普通の暗殺を選ぶ。作戦が成功しようが失敗に終わろうが、暗殺されかけたともなればまず疑うのは身内じゃなく他国なんだからな。
となると後は身内の誰かと言う事になるわけだが、皇族は除外しても良いだろう。あれだけ仲が良いんだ家族を殺すような事はしないだろう。疑うのであれば一番の容疑者はライアンだ。なんせ会議の際の身内の可能性を否定する弁舌には他国の可能性を否定する時よりも熱弁になっていたからな。
作戦能力は兄弟の中でも随一らいしい。その分では自信を持っていると言える。自信過剰になってもおかしくない。
ジャンヌを殺す動機は恐らく戦闘に関する嫉妬が考えられるが、自己保身の面から考えるとあの熱弁はどう考えてもあからさま過ぎる。自分を疑って下さいと言っているようにも聞こえる。その裏をかいて行ったとも言えなくはないが、無線機でのやり取りを聞く限り妹の事を心の底から大切に想っているのは間違いないだろう。
となるとジャンヌの事をよく知っている人物であり、皇族とも親しく己の作戦に自信過剰で尚且つ自己保身の強い人物か。そんな奴いたか?
その時、1人の人物が頭に浮かぶ。
ジャンヌが訓練をしようとして魔力を暴走させたとイオがギルドホームまで来て伝えてきたため、依頼を続行する事になり様子を見に皇宮に行った時に偶然会った男。
確か名前は――リュド・バン・ジュデール。第304遊撃連隊の現隊長であり、ジャンヌが隊長だった時は副隊長だったか。
リュドにも一応暗殺の動機はあるな。現在第304遊撃連隊の隊長なんだ。だがジャンヌが復帰すればその地位から落ち再び副隊長になるだろう。だがそれだけの理由で暗殺をするとは思えないんだが。給料と言う面でも隊長と副隊長の差は無いに等しいだろう。そんな事のために国家反逆罪を犯すとは到底思えない。ましてやあの堅物そうな性格で。なら違うか……。
そう言えばアイツも地獄島調査に向かったんだよな。それにしては大きな外傷があるようには見えなかったが。それを言うならジャンヌもそうか。だが1年間も引きこもるほどのトラウマを与えられるほどの場所に行ったにしては平然としてたな。メンタルはジャンヌ以上って事なのか?
もしかしたらリュド以外にも復帰している奴がいるかもしれないな。明日にでもジャンヌ……に訊いたら悪化しそうだからな。ライアンかボルキュス陛下にでも訊いてみるか。ついでに地獄島の調査がどんなモノだったのかも訊いてみるか。前は大まかにしか教えて貰えなかったしな。
2月13日水曜日午前9時30分。
朝食を終えた俺は朝食前にイオに頼んで第304遊撃連隊と地獄島の調査に関する出来事を見せて貰うべく応接室に来ていた。
どうやら内容が機密らしくおいそれと見せれるようなものじゃないらしい。
出された適温のお茶を飲みながら待つ事数分、ボルキュス陛下とイオが応接室へとやって来た。
「待たせたな」
「いや、こっちこそ昨日の今日で無理を言ってすまない」
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だからと言って機密を冒険者に見せるのはどうかと思うぞ。頼んだのは俺だけどさ。
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