魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第六十二話 眠りし帝国最強皇女 ㉝

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「だが所詮はそれだけだ。それ以外はお前はジャンヌに劣っている」
「何を……言っている。私は今さっき皇女殿下を倒した。お前もその姿を見たはずだ!」
 最初こそは痛みで片言だった言葉も怒りで痛みを忘れたのか普通に話せるようになっていた。

「ああ、見ていたから知ってるさ。もしもルールのある模擬戦や試合なら間違いなくお前は勝利の二文字を手に入れていただろうな。だがこれは殺し合いだ。そしてお前はジャンヌを殺せていない。つまり勝っていないんだよ」
「それはお前が邪魔したから――」
「殺し合いの世界でアクシデントやイレギュラーは日常茶飯事だ。それぐらい第304独立遊撃連隊に所属していたお前なら常識として知っているはずだろ?」
「クッ!」
 思い当たる節があるのかインテリ眼鏡野郎は俺の言葉に対して言い返せなくなる。やはりその程度か。

「ま、無理もない。勝負と言うステージに上がる事を放棄したお前は所詮その程度の男だったわけだからな」
「貴様に何が分かる!努力しゆっくりと上っている人間の隣を地位と才能だけで追い抜かれて行かれる奴の気持ちが!」
「ああ、分からねぇよ。俺は追い抜かれた事なんてないからな」
「そうだろう。だったら黙って――」
「なんたって俺は魔力が無いからな。一番下からのスタートだったからな」
「っ!」
 そんな俺の言葉にインテリ眼鏡野郎は大きく目を見開いていた。驚いている顔じゃない。何かを思い出したような顔だ。
 きっと俺の事を調べて知ったのだろう。俺が魔力無しの人間であることを。
(そうだ、ジンは魔力が無い。つまり誰よりも下からのスタートなんだ。だが諦めず強さを求めた。魔物が跋扈する森の中でずっと命を懸けた殺し合いをしていた。そんな場所でどうやって他の人間と競う事が出来る。どうすれば才能で抜かれたと実感出来る。そんな事不可能だ)
 ジャンヌは気が付いた。ジンと言う男が競い合う事をこれまで知らなかった事を。

「それより、俺は知ってるんだよ。お前と同じでジャンヌと比べて才能が無い事に劣等感を感じて戦略や戦術の勉強をした奴をな」
「そうだろ。やはり俺だけじゃない、俺は間違っていない!ソイツ等の代わりに俺がそこの女を殺して勝利を掴むのさ!」
 目を見開け自分の正当性に酔いしれるインテリ眼鏡野郎。
 
「だけどな俺が知ってるソイツは、いつの日かジャンヌに勝ちたいと願い努力する事を諦めてはいない。お前よりもずっと前から劣等感に悩まされながらも未だに努力し強さを求め、それでも勝負と言うステージに立ち続けている奴を俺は知っている」
「っ!」
「あ」
 そんな俺の言葉にインテリ眼鏡野郎は自分の正当性を否定された事に苦虫を噛み締めたように顔を歪ませ、後ろからは俺が語った人物に心当たりがあると言う声が口から漏れて聞こえてくる。

「別にお前のやり方が悪いとは言わない。だがお前はただの腰抜け野郎だ」
「ふざけるな!私は強い!その証拠に皇女殿下をねじ伏せて見せたじゃないか!」
「薬を使ってな」
 その事が癪に障ったのか更に声を荒立てて言い放って来る。

「薬を使って何が悪い!私は勝ちたかった!あの女よりも上に行くはずだったんだ!だがあの女に奪われた!だから私は奪い返しただけだ!」
 完全に開き直っているが、道徳や倫理なんかは今はどうだって良いからな。

「なら何故、直ぐにでも奪い返さなかった?」
「え?」
 俺の言葉が理解出来なかったのか。頭の上に疑問符を浮かべていた。

「お前は自分が連隊長になるものだと思っていた。しかしジャンヌに奪われた。だから奪い返したかった。違うのか?」
「そ、そうだ」
「なら何故直ぐにでも奪え返さなかったのかと聞いているんだ。ジャンヌの性格を考えれば、連隊長の席を賭けて闘って欲しいと頼めば受けてくれると傍にいたお前には分かっていたんじゃないのか?」
「そ、それは……」
「だがお前はその勝負を放棄して謀略と言う戦法に変えた」
「ああ、その通りだ」
 俺が肯定した事を思い出したのか、暗く影が落ちていた顔に希望の光が差し込んだように明るくなる。

「なら何故最後までそれを貫き通さなかった?」
「な、何が言いたいんだ……?」
 まるで本当に気が付いていないかのような問い返し。しかしその顔には僅かに誤魔化すような笑みが浮かんでいた。まるで無意識に気付かないように、知りたくないように自分で自分の心に鍵を掛けているみたいに。ま、俺には関係ないけど。

「1対1での勝負では勝てない。そう考えて謀略で勝利を掴んだお前がどうして最後になって戦う気になったのかって聞いてるんだ」
「そ、それは力を手に入れたからだ」
「ああ、そうだな。お前は力を手に入れた。つまりは薬の力や得意分野でしかジャンヌと戦う事すら出来ない。いや、勝負と言うステージすら上がる事の出来ない腰抜け野郎だって俺は言ってるんだよ」
 人って生き物はかなりの負けず嫌いな生き物だ。
 勝利に興味が無いっていようが、楽しければそれで良いって考えようが、勝負で負ければ悔しがる。つまりは勝利への渇望があると言う事だ。当然だよな。誰だって負けるより勝った方がうれしいんだからな。

「違う!私は強いんだ!あの女よりも強いんだ!」
「なら最初から勝負を挑むべきだったな」
「煩い!僕は強いんだ!」
 薬の影響なのかしらないが、もう奴からはインテリ眼鏡野郎らしい雰囲気はまったくなく、駄々を捏ねるガキと変わらない姿をしていた。
 これが奴の本性か。

「今からその証拠を見せてやる!」
 そう宣言すると奴は懐から取り出した数本の注射器を俺が止める間もなく自分の胸に突き刺した。
 まだ持っていたのか!
 あそこから励まして持ち上げてから薬の製造している連中の話を訊こうとしたのにミスったな。
 全ての薬を投与し終えたのかポタッポタッと注射器が地面に落ちる。その数4本。
 おいおいそんなに持ってたのかよ。
 そんな事実に混乱している暇もなく、腰抜け野郎から感じる気配が膨れ上がっていく。
 そしてそれは気配だけでなく、肉体までもが膨張し黒く変貌していく。まるでレイノーツ学園際でシャルロットを誘拐したストーカー野郎と同じ姿。いや、あの時以上に禍々しい姿になっていく。

「ウッ……ゥゥウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアァァァァ!」
 空気が振動し木々が震えるほどの絶叫。
 それが痛みによるものなのか、それとも強くなった事への歓喜の雄叫びなのかは分からない。ったくなんて声量なんだ。鼓膜が破れるかと思ったぞ。
 そんな悪態を脳内で吐きながら俺は奴の姿を見る。
 グリードよりも大きい5メートル以上もある身長に黒い肌。そして額からは3本の角が生え、色彩は真っ黒に染まり、水色だった瞳は縦長の赤い瞳に変わっていた。こりゃあもう人の形をした魔物だな。
 そんな腰抜け野郎の姿に怯えるどころか俺は心から感謝していた。

「どウだ……こレデもお前は、ぼクヲ腰抜ケ呼ばワリ出来ルか」
 勝利を確信した優越な表情で俺を見下しながら自信満々に問いかけて来る。
 強さへの渇望は悪い事じゃない。これはルール無用の殺し合いだ。だからお前が薬に頼る事に関して文句は無い。
 だが、結局お前は薬でしか強くなることの出来ない。ただそれだけの男だ。
 ま、俺はお前のお陰でどうやら久々に楽しめそうだ!
 このまま戦えば間違いなく俺は死ぬな。
 なら互角に戦えるまで力を開放すれば良いだけの話だ。
 ――力開放量+5%。
 力開放率8%。

「なら、お前のと俺の力、どっちが上かハッキリさせようぜ!」
 不敵な笑みを浮かべ高ぶる闘争心で俺は化物と成り果てた腰抜け野郎目掛けて地面を蹴った。
 さあ、死合を楽しもうぜ!
 まずは力試しも踏まえてジャンプした俺は奴の顔面目掛けて右拳で殴りつける。

「グッ!」
 しかし殴ろうとした瞬間、まるで小虫を払い除けるかのように腕で薙ぎ払われた俺は思いっきり吹き飛ばされる。
 木々を幾つも薙ぎ倒し、どうにか地面に何度も叩き付けらないように両足で着地する。
 タイヤのブレーキ痕に似た線が芝生を抉って出来上がっていたが気にする事無く、俺は腰抜け野郎に視線を向ける。それにしてもなんてスピードとパワーだ。咄嗟に腕でガードしなきゃ肩の骨が折れてただろうな。

「これはやべぇな」
 死ぬかもしれない。と言う不安から出た言葉じゃない。
 予想以上にパワーアップしている事に嬉し過ぎて、楽し過ぎて仕方が無かった。
 だがのんびりしている時間はない。
 さっき長く話過ぎたからな。まだ戦闘ヘリのプロペラ音は聞こえないが、もう数分でライアン達が来るだろう。それにもしも奴が俺じゃなくジャンヌに標的を変えたら面倒だ。少しでも早く腰抜け野郎……いや、もうあれは人外化物野郎だな。
 人外化物野郎に攻撃して意識を俺に向けさせる必要がある。
 それにこんな面白い相手。そうそう他人に邪魔されてたまるかよ!
 地面を蹴った俺は再び奴に向かって駆ける。
 60メートル以上離れた距離を一瞬で零距離にした俺は再び奴の顔面目掛けて殴りかかる。
 鬱陶しいと言わんばかりに奴はさっきと同じように右手で薙ぎ払おうとする。俺が読んでいないわけないだろ。奴の顔面を狙うのを止め、体を捻って殴ろうと構えている拳を弾き飛ばすつもりで奴の右手目掛けて突き出しだ。
 ストレートと言うよりフックに近い俺のパンチは奴の掌と衝突し、弾き飛ばそうと力を入れるが、空中に居る俺がどうしても力負けしてしまい。吹き飛ばされる。
 しかしさっきとは違い。奴の力を弱める事には成功したおかげでさほど吹き飛ばされる事無く両足で着地する。
 そのまま俺は相手に主導権を握らせないため間髪入れる攻撃を仕掛ける。
 今度は顔を狙うのを止め奴の脚。正確に言うのであれば膝目掛けて近づく。
 低姿勢から接近する俺の姿に嫌な顔をする人外化物野郎。相手に嫌な顔をさせる事が出来ただけでも気分が良い。
 奴の身体は体が大きいくなっただけで、腕だけが異常に長くなったわけでもない。
 そうなるとどうしても下半身を手や腕を使って護るのが上半身や顔を護るよりも数瞬遅れる。
 俺のスピードは変化はない。だが数瞬のタイムラグがあれば俺の攻撃は人外化物野郎に当てられる!
 強烈な右フックが奴の右膝を横から襲う。

「グッ!」
 人外化物野郎も膝への攻撃は声を漏らしてしまうほどの激痛だったんだろう思わず膝を着いてしまう。ありがたい。
 膝を着いた事により顔の位置が低くなった。
 痛みで膝に意識が向いている隙にその場でジャンプし奴の顔を目掛け、奴の頭部を吹き飛ばすつもりで中段回し蹴りを叩き込む。
 やっぱそう上手く行かないか。
 思いっきり振り抜いたが奴の頭部が吹き飛ぶ事は無く、口から血を吐く程度だった。それでもダメージは与えられているようだな。

            ************************

 なんだ……あの強さは!私は奴から感じるオーラに体が震えて立ち上がる事すら出来ないでいた。
 人の姿を止めた異常な姿に怯え震えている訳じゃない。
 奴が纏うオーラに完全に気圧され身が竦んでいるのだ。もう奴から感じる強さはランクSSじゃない、それどころかランクSSSすらも超えている。
 奴から感じるオーラは間違いなくあの島で出会った化物たちと同じ!
 蘇る記憶。
 死んでいく部下たちの姿。嘲笑うかのように皆殺しにしていく化物。
 こっちの攻撃が一切効かない絶望感。
 駄目だ……殺される。
 私の脳裏に浮かんだのは死。
 嫌だ、死にたくない。そう思ってしまうほどに奴から感じる強さは異常だった。
 なのに何故だ。
 何故、お前は戦える。
 何故、嬉しそうに嗤ってられる。
 嬉々としてあの化物に向かっていくジンの姿に私は理解出来なかった。
 誰だった死にたくない。そう思う筈だ。生への渇望。それがこの世で生きる生命体が持つ本能だ。
 なのにお前はどうしてそれほどまでに嬉しそうに化物に向かって走り出せる。

「なっ!」
 先ほどまで殴りかかっても吹き飛ばされていたはずが、ジンの攻撃であの化物が膝を着く。その姿に私は驚きを隠せなかった。信じられない。あの化物にダメージを与えるだと……。
 目の前で起きている光景。人が圧倒的な力を持つ化物を翻弄する姿。
 その光景は嘗てあの島で見た光景を思い返させる。
 誰もが殺されると、この地龍の形をした化け物に全滅されられると直感した時、私たちの前に現れた人間。
 地龍の形をした化け物よりも圧倒的な力を持って倒した人間。
 最初はその人間から放たれる殺気と圧倒的な強さのオーラに人の姿をした化け物だと思ってしまった。
 しかし今なら分かる。
 初めて会った時、違和感は間違っていなかったと。
 間違いなくあの場所――地獄島ヘル・アイランドで出会ったのはお前だ、オニガワラ・ジン。
 
 ――全てを思い通りにしたいのであれば、力を手に入れるしかない。

 あの時の奴がジンだと分かった瞬間、ジンの言葉が再び蘇る。
 そうか、お前は全てを思い通りに出来るだけの力を手に入れたんだな。
 私の目の前で戦う1人の男は最初に会った時のような怖さは一切なく、それどころか頼もしいと思ってしまう。
 羨ましい。私もいつかあれだけの力と強さを手に入れたい。そう思ってしまう。
 そして何より今目の前で戦うジンは、格好良いな。
 嬉々として戦うジンの姿に私は恐怖を忘れ、笑みを浮かべていた。

            ************************
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