251 / 274
第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七十話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ①
しおりを挟む
公暦1327年2月14日木曜日午後5時20分。
ボルキュス陛下の依頼を達成した俺は今久々の我が家に帰って来た。え?帰って来るのが遅くないかって。そりゃ溜まりに溜まったエネルギーを放出していたからな時間が掛かってしまった。ま、そのお陰で財布と下半身が軽くなったが問題ない。
一ヶ月半振りに帰って来たホームだが、何も変わっていなかった。嬉しような悲しいような。
そう思いながら俺はグリードが用意してくれた温かい緑茶を飲んでいた。皇宮ではコーヒーか紅茶しか出なかったからな、元日本人としてはたまに緑茶も飲みたくなる。
我がギルドには色んな国の出身者が居るヤマト皇国、ベラグール王国、ベルヘンス帝国、アルメティル王国、レグウェス帝国と様々だ。ま、最後の国は既に滅んでいるし、出身国と言うよりかは製造国と言った方が正確だろう。そんなわけで、各国の文化や習慣を取り入れていたりするためこうして我が家で緑茶を飲むことが出来るのだ。
因みにこの緑茶の茶葉は朧さんに頂いた物だ。
高級茶葉なのかはしらないが懐かしい味を堪能しながら周囲を見渡す。
リビングで寛いでいるのは俺とヘレンだけで影光、アイン、アリサ、クレイヴの4人は珍しくパーティーを組んで依頼を請けているそうだ。Aランクのヘレンが参加していないのは今日の昼まで帝都を離れていたらしく参加出来なかったためらしい。で、グリードはキッチンで夕食の準備中である。
寝室に戻るのも考えたが影光たちもそろそろ帰ってくるらしいからリビングでテレビでも見ながら寛いでいるとするか。
テレビのスイッチを入れた俺は懐から取り出したタバコに火を灯して吸う。ついでにアリサが入社してから購入した煙草専用の空気清浄機にのスイッチも押す。
「ふぅ~」
リモコンのボタンを色々と押して面白番組を探すがこの時間帯にしているのは子供向けの番組かニュースぐらいしかなかった。
あまり気になる内容もやってないな。そう思った時緊急速報が入って来たたテレビを消すのを止めて見入る事にした。
『お伝えします。先日28区にある軍事墓地慰霊公園で起きた事件に関してボルキュス陛下より緊急記者会見が行われたもようです』
おいおい俺は何も聞いていないんだが。
あの事件の関係者の俺に一言もなく始めるってどういうこと。ま、相手は皇帝で俺は一介の冒険者だ。だけど一言ぐらいあるのが筋ってもんだろ。ま、言われたところで別に即座OKだったけど。
テレビに映し出されるとそこにはボルキュス陛下がこれまた堂々とした態度で椅子に座っていた。よく見ると初めて謁見した際に見た宰相さんの姿もあった。
『先日起きた事件は我が娘ジャンヌ・ダルク・ベルヘンスの命を狙った襲撃であると判明した。既に犯人は討伐され娘も負傷はしたが命に別状はな――』
威厳の塊と言った態度で状況を説明するボルキュス陛下。初めて謁見した時もあんな感じで怖かったんだよな。
そんな事を思っている間もボルキュス陛下の話は続き、質問タイムとなった。陛下に質問って身分を弁えろ。って言われそうだけど大丈夫なのか?
『それでは質問させて頂きます。ジャンヌ皇女殿下の命を狙った襲撃とおっしゃっておられ、私どもの情報にも襲撃現場にジャンヌ皇女殿下らしき人物を目撃したと言う情報が入っております。しかしジャンヌ皇女殿下は地獄島探索任務で部下を失ったショックで床に臥せっておられると言う話でしたが、ジャンヌ皇女殿下が完全回復したと言う事でよろしいでしょうか』
『娘の容態についての公式発表は後日行うつもりだが、そう遠くないうちに軍人として復活すると考えて貰って構わない』
『おおおぉ!』
ボルキュス陛下の言葉に記者たちが騒めき出す。力のある有名人が復活するんだ、喜ばずにはいられないよな。
『ジュインプ放送局のハルトです。襲撃現場にはジャンヌ皇女殿下だけでなく冒険者が1人居たと言う情報がありますがそれに関してはどうなのでしょうか?』
『如何にも、その冒険者こそ我が雇ったカウンセラーだ』
『冒険者をカウンセラーとして雇ったと言う事ですか?』
カウンセラーの資格を持っているかの問題は兎も角、冒険者に頼むと言う行為に質問したハルトと言う記者を含め全員が驚いていた。ま、当然だよな。俺も依頼を聞いた時は自分の耳を疑ったからな。
『我が信頼している冒険者だ。なんの問題もあるまい。それに奴は見事に依頼を達成してみせたぞ』
見事に解決したのだから文句はあるまいと言う顔つきで答えるボルキュス陛下。その言葉に誰も意見を唱えられる者はあの場にはいなかった。
『グライシュ新聞のヤーシィです。襲撃犯は討伐されたとの事ですが、先ほどの話では襲撃犯の強さはSSランクの魔物に匹敵するとの話でしたが、そのような危険人物を1人の冒険者とジャンヌ皇女殿下の2人で討伐されたと言う事でしょうか?』
ああ、また面倒な質問をするな。
最初に戦っていたのはジャンヌだ。だがボルキュス陛下の答えによっては面倒な事になる。目立ちたくない俺としては殆どジャンヌが戦い俺はサポートに徹したと報道して欲しい。
そう願う俺は煙草を咥えていた歯に力が入る。
テレビ画面に映し出されているボルキュス陛下の顔に一瞬悪戯小僧のような不敵な笑みが零れたような気がした。
『襲撃犯に止めを刺したのは娘のジャンヌだが、奴の体力を消耗させ瀕死の状態にまで追い込んだのは我が雇った冒険者だ』
その言葉に記者会見は騒々しくなっていく。拙い。頼むからやめてくれ。
『そ、それほどの力を持った冒険者となるとSランク、いえ、SSランク以上の冒険者と言う事でしょうか?』
『いや、奴はまだAランクの冒険者よ』
『え、Aランクですか!しかしSSランクにも匹敵する敵をAランクの冒険者が単独で瀕死にまで追い込めるとは到底思えないのですが』
『どれだけ力があろうと最初はGランクからのスタートだ。我が信頼する冒険者は冒険者になって日も浅い。しかし奴が持つ力は本物。そして奴は信頼に足る存在だと我は認めている』
まるで自慢するかのように答えるボルキュス陛下。それに反応するように記者たちの騒々しさも増していく。頼むからやめてくれ!俺は目立ちたくないんだ!俺は自由自適に過ごしたいだけなんだ。別に名声や名誉が欲しいわけじゃないんだ!
『して、その冒険者の名前は?』
頼む伏せてくれ。それだけは伏せてくれ。ベルヘンス帝国皇女を救った謎の冒険者としておいてくれ。別にそんなミステリアス性なんて欲しくはないが、目立つよりかは遥かにマシだから言わないでくれ。
『お主ら、悲劇の騎士と名付けられた人物の事を知っておるか?』
何やら企んでいるかのような表情で問いかけるボルキュス陛下に記者たちは一瞬呆けたのか先ほどまで騒々しかった記者会見場に静寂が訪れる。
『確か……スヴェルニ王国で起きた事件ですよね?ルーベンハイト公爵家の令嬢を救った英雄でありながら王族を殴った罪で国外追放処分になった……まさか!』
1人の記者が気付いたような反応にボルキュス陛下は不敵な笑みを零すと席から立ち上がり威風堂々とした態度で発表した。
『如何にも!我が娘を護り救ったのはギルド『フリーダム』ギルドマスター、オニガワラ・ジンである!』
高らかに発表する姿はまさに一国の皇帝の姿。流石ですよボルキュス陛下。
そう思いながら俺は吸っていた煙草を灰皿で火を消すなり天井を見上げた。確かに今回の事は口止めするようには頼んでいなかったし、事件が事件なだけに発表する必要性もある事も知っている。だけど俺が目立つ事が嫌いな事は知っているでしょ!
「どうしてこうなるんだよ!」
頭を掻きながら俺は絶叫し、グリードは俺の声にビックリし、ヘレンはマイペースに「ジンの名前が出たのだ~」と嬉しそうに言っていた。
依頼が達成されても上手く行かない事ってあるんだなと言う事を思い知らされた頃、ようやく影光たちが帰ってきたのだった。絶対にアインに何か言われるだろうな。もしかしたら他の奴らにも言われるかもしれない。そう思うと更に憂鬱になる。
するとまるで俺の考えを神様が叶えたかのようにエレベーターがチィンッと音を鳴らす。
俺は視線をドアに向けると同時に気配感知で確認するとエレベーターから3人の気配を感じ取る。1人は生命体ではないから気配は感じないが空中に浮いている1匹の気配がこちらに近づいてくる。ああ、間違いなく影光たちだ……。
もうどうする事も出来なくなった事に俺は項垂れグリードが淹れてくれたお茶飲む。
ドアが開かれ見知った顔の連中がやって来た。
「見知った気配があると思えばやはり帰っておったか」
俺の姿を見て笑みを浮かべる影光たち。銀は久々の俺の姿にアインの腕から抜け出し俺の胸に飛び込んで来る。
俺の姿を見て顔を顰めていたアインの顔が銀が俺の許へ来た事で更に苦虫を噛み締めたようななんとも言えないような顔になる。サイボーグの精巧に造られてるな。
「銀、久々に会ったが強くなったようだな」
「ガウッ!」
俺の言葉に嬉しそうに反応する。ああ、我が家の癒し担当である銀を見るとほんと癒されるな。
「マスターそれ以上汚物に触れていると病気になってしまいます。さ、全てにおいて清廉な私の許へ」
優しい表情で自分の許へ来るよう手を差し出したアインは自分を持ち上げ、俺をディスる。相変わらずの通常運転でなによりだよ。
銀は一度アインの方を向くがフイッと顔を背ける。まるで銀が「嫌っ!」と言っているかのようだ。
「そ、そんな……あの数秒の間に汚物の臭いでマスターが洗脳されてしまった!やはり汚物は消毒あるのみですね」
「待て待て!」
機械らしく目を輝かせたアインは亜空間から魔導軽機関銃を取り出し、俺を殺そうとする。
俺を含め全員がアインの暴挙を止める。まったく久々に帰って来て早々我が家を壊されてたまるか!
どうにかアインを宥め落ち着かせる事に成功した事に安堵した俺たちは全員ソファーに座ってグリードが用意した飲み物を飲みながら約2ヶ月弱の事を話し合った。
「護衛や討伐任務ではなかったからどうなるか心配してたんだが、杞憂で終わってなによりだ」
記者会見は終わったがどこのニュース番組でもジャンヌ復活とその立役者として俺の事が報道されており、俺が説明するまでもなく既に知っていた。多分アインの脳内ネットで知ったんだろ。
「終わってねぇよ。なんだよあのニュース、あれじゃ目立っちまうじゃねぇか!」
「ま、記者会見で言われては仕方があるまい」
頭を抱える俺に対してお茶を飲みながら言ってくる影光。
「影光、他人事だと思ってるだろ?」
「そりゃ、仁の事だからな。拙者には関係ない」
やはりそうだろうと思ったよ。関係ありませんと言う顔をする影光とそれと同じような顔をするアインたち。
「ボルキュス陛下がフリーダムの名前も出したからな。間違いなくここにマスコミ連中が押しかけて来るぞ」
「なぬ!アインそれは真か!?」
やはりアインから教えて貰ったようで慌ててアインに確認する影光。
それに驚いていたのは影光だけではなく、アリサとクレイヴ、グリードもだった。
グリードは両手を握ってオドオドしており、クレイヴはこれ以上にないほどの面倒臭そうと言う顔をしており、アリサも舌打ちをするなり「メンドクセェ」と煙草を吸いながら呟き、流石のヘレンもマスコミに囲まれるのは嫌らしく「それは嫌なのだ」と呟いていた。
マスコミに関して言えば俺だけでなく全員が好きじゃないようだ。だから俺は目立つのが嫌だったんだ。マスコミは無駄に騒ぎ立てるだけでなく、根掘り葉掘り訊いて来るから超鬱陶しい。
「ええ、確かにフリーダムの名前を出してましたね」
俺の膝の上に乗る銀を撫でながらこれまた他人事のように言ってくる。
「何故それを言わないんだ!」
「私には関係ありませんから」
「「関係あるだろ!」」
俺と影光の声が重なる。
互いにどれだけマスコミが嫌いなのかが分かる。
「お前ならちょっと考えればすぐに分かる事だろ!マスコミがくれば銀だってテレビに映るかもしれない。そうなれば銀を狙ってくる連中だっているかもしれないんだぞ」
「はっ!なんて事……私としたことがマスターの事を想っていてすっかり忘れていました……」
事の重大さを理解したアインはあまりのショックに崩れ落ちていた。そこまで銀を世間に知られたくないのか。
「こうしてはいられない。今すぐにでもここから離れるぞ!」
『了解!』
マスコミのお陰とは考えたくはないが、久しぶりに全員集合し団結力低下を心配していたのが必要なくなった。
ボルキュス陛下の依頼を達成した俺は今久々の我が家に帰って来た。え?帰って来るのが遅くないかって。そりゃ溜まりに溜まったエネルギーを放出していたからな時間が掛かってしまった。ま、そのお陰で財布と下半身が軽くなったが問題ない。
一ヶ月半振りに帰って来たホームだが、何も変わっていなかった。嬉しような悲しいような。
そう思いながら俺はグリードが用意してくれた温かい緑茶を飲んでいた。皇宮ではコーヒーか紅茶しか出なかったからな、元日本人としてはたまに緑茶も飲みたくなる。
我がギルドには色んな国の出身者が居るヤマト皇国、ベラグール王国、ベルヘンス帝国、アルメティル王国、レグウェス帝国と様々だ。ま、最後の国は既に滅んでいるし、出身国と言うよりかは製造国と言った方が正確だろう。そんなわけで、各国の文化や習慣を取り入れていたりするためこうして我が家で緑茶を飲むことが出来るのだ。
因みにこの緑茶の茶葉は朧さんに頂いた物だ。
高級茶葉なのかはしらないが懐かしい味を堪能しながら周囲を見渡す。
リビングで寛いでいるのは俺とヘレンだけで影光、アイン、アリサ、クレイヴの4人は珍しくパーティーを組んで依頼を請けているそうだ。Aランクのヘレンが参加していないのは今日の昼まで帝都を離れていたらしく参加出来なかったためらしい。で、グリードはキッチンで夕食の準備中である。
寝室に戻るのも考えたが影光たちもそろそろ帰ってくるらしいからリビングでテレビでも見ながら寛いでいるとするか。
テレビのスイッチを入れた俺は懐から取り出したタバコに火を灯して吸う。ついでにアリサが入社してから購入した煙草専用の空気清浄機にのスイッチも押す。
「ふぅ~」
リモコンのボタンを色々と押して面白番組を探すがこの時間帯にしているのは子供向けの番組かニュースぐらいしかなかった。
あまり気になる内容もやってないな。そう思った時緊急速報が入って来たたテレビを消すのを止めて見入る事にした。
『お伝えします。先日28区にある軍事墓地慰霊公園で起きた事件に関してボルキュス陛下より緊急記者会見が行われたもようです』
おいおい俺は何も聞いていないんだが。
あの事件の関係者の俺に一言もなく始めるってどういうこと。ま、相手は皇帝で俺は一介の冒険者だ。だけど一言ぐらいあるのが筋ってもんだろ。ま、言われたところで別に即座OKだったけど。
テレビに映し出されるとそこにはボルキュス陛下がこれまた堂々とした態度で椅子に座っていた。よく見ると初めて謁見した際に見た宰相さんの姿もあった。
『先日起きた事件は我が娘ジャンヌ・ダルク・ベルヘンスの命を狙った襲撃であると判明した。既に犯人は討伐され娘も負傷はしたが命に別状はな――』
威厳の塊と言った態度で状況を説明するボルキュス陛下。初めて謁見した時もあんな感じで怖かったんだよな。
そんな事を思っている間もボルキュス陛下の話は続き、質問タイムとなった。陛下に質問って身分を弁えろ。って言われそうだけど大丈夫なのか?
『それでは質問させて頂きます。ジャンヌ皇女殿下の命を狙った襲撃とおっしゃっておられ、私どもの情報にも襲撃現場にジャンヌ皇女殿下らしき人物を目撃したと言う情報が入っております。しかしジャンヌ皇女殿下は地獄島探索任務で部下を失ったショックで床に臥せっておられると言う話でしたが、ジャンヌ皇女殿下が完全回復したと言う事でよろしいでしょうか』
『娘の容態についての公式発表は後日行うつもりだが、そう遠くないうちに軍人として復活すると考えて貰って構わない』
『おおおぉ!』
ボルキュス陛下の言葉に記者たちが騒めき出す。力のある有名人が復活するんだ、喜ばずにはいられないよな。
『ジュインプ放送局のハルトです。襲撃現場にはジャンヌ皇女殿下だけでなく冒険者が1人居たと言う情報がありますがそれに関してはどうなのでしょうか?』
『如何にも、その冒険者こそ我が雇ったカウンセラーだ』
『冒険者をカウンセラーとして雇ったと言う事ですか?』
カウンセラーの資格を持っているかの問題は兎も角、冒険者に頼むと言う行為に質問したハルトと言う記者を含め全員が驚いていた。ま、当然だよな。俺も依頼を聞いた時は自分の耳を疑ったからな。
『我が信頼している冒険者だ。なんの問題もあるまい。それに奴は見事に依頼を達成してみせたぞ』
見事に解決したのだから文句はあるまいと言う顔つきで答えるボルキュス陛下。その言葉に誰も意見を唱えられる者はあの場にはいなかった。
『グライシュ新聞のヤーシィです。襲撃犯は討伐されたとの事ですが、先ほどの話では襲撃犯の強さはSSランクの魔物に匹敵するとの話でしたが、そのような危険人物を1人の冒険者とジャンヌ皇女殿下の2人で討伐されたと言う事でしょうか?』
ああ、また面倒な質問をするな。
最初に戦っていたのはジャンヌだ。だがボルキュス陛下の答えによっては面倒な事になる。目立ちたくない俺としては殆どジャンヌが戦い俺はサポートに徹したと報道して欲しい。
そう願う俺は煙草を咥えていた歯に力が入る。
テレビ画面に映し出されているボルキュス陛下の顔に一瞬悪戯小僧のような不敵な笑みが零れたような気がした。
『襲撃犯に止めを刺したのは娘のジャンヌだが、奴の体力を消耗させ瀕死の状態にまで追い込んだのは我が雇った冒険者だ』
その言葉に記者会見は騒々しくなっていく。拙い。頼むからやめてくれ。
『そ、それほどの力を持った冒険者となるとSランク、いえ、SSランク以上の冒険者と言う事でしょうか?』
『いや、奴はまだAランクの冒険者よ』
『え、Aランクですか!しかしSSランクにも匹敵する敵をAランクの冒険者が単独で瀕死にまで追い込めるとは到底思えないのですが』
『どれだけ力があろうと最初はGランクからのスタートだ。我が信頼する冒険者は冒険者になって日も浅い。しかし奴が持つ力は本物。そして奴は信頼に足る存在だと我は認めている』
まるで自慢するかのように答えるボルキュス陛下。それに反応するように記者たちの騒々しさも増していく。頼むからやめてくれ!俺は目立ちたくないんだ!俺は自由自適に過ごしたいだけなんだ。別に名声や名誉が欲しいわけじゃないんだ!
『して、その冒険者の名前は?』
頼む伏せてくれ。それだけは伏せてくれ。ベルヘンス帝国皇女を救った謎の冒険者としておいてくれ。別にそんなミステリアス性なんて欲しくはないが、目立つよりかは遥かにマシだから言わないでくれ。
『お主ら、悲劇の騎士と名付けられた人物の事を知っておるか?』
何やら企んでいるかのような表情で問いかけるボルキュス陛下に記者たちは一瞬呆けたのか先ほどまで騒々しかった記者会見場に静寂が訪れる。
『確か……スヴェルニ王国で起きた事件ですよね?ルーベンハイト公爵家の令嬢を救った英雄でありながら王族を殴った罪で国外追放処分になった……まさか!』
1人の記者が気付いたような反応にボルキュス陛下は不敵な笑みを零すと席から立ち上がり威風堂々とした態度で発表した。
『如何にも!我が娘を護り救ったのはギルド『フリーダム』ギルドマスター、オニガワラ・ジンである!』
高らかに発表する姿はまさに一国の皇帝の姿。流石ですよボルキュス陛下。
そう思いながら俺は吸っていた煙草を灰皿で火を消すなり天井を見上げた。確かに今回の事は口止めするようには頼んでいなかったし、事件が事件なだけに発表する必要性もある事も知っている。だけど俺が目立つ事が嫌いな事は知っているでしょ!
「どうしてこうなるんだよ!」
頭を掻きながら俺は絶叫し、グリードは俺の声にビックリし、ヘレンはマイペースに「ジンの名前が出たのだ~」と嬉しそうに言っていた。
依頼が達成されても上手く行かない事ってあるんだなと言う事を思い知らされた頃、ようやく影光たちが帰ってきたのだった。絶対にアインに何か言われるだろうな。もしかしたら他の奴らにも言われるかもしれない。そう思うと更に憂鬱になる。
するとまるで俺の考えを神様が叶えたかのようにエレベーターがチィンッと音を鳴らす。
俺は視線をドアに向けると同時に気配感知で確認するとエレベーターから3人の気配を感じ取る。1人は生命体ではないから気配は感じないが空中に浮いている1匹の気配がこちらに近づいてくる。ああ、間違いなく影光たちだ……。
もうどうする事も出来なくなった事に俺は項垂れグリードが淹れてくれたお茶飲む。
ドアが開かれ見知った顔の連中がやって来た。
「見知った気配があると思えばやはり帰っておったか」
俺の姿を見て笑みを浮かべる影光たち。銀は久々の俺の姿にアインの腕から抜け出し俺の胸に飛び込んで来る。
俺の姿を見て顔を顰めていたアインの顔が銀が俺の許へ来た事で更に苦虫を噛み締めたようななんとも言えないような顔になる。サイボーグの精巧に造られてるな。
「銀、久々に会ったが強くなったようだな」
「ガウッ!」
俺の言葉に嬉しそうに反応する。ああ、我が家の癒し担当である銀を見るとほんと癒されるな。
「マスターそれ以上汚物に触れていると病気になってしまいます。さ、全てにおいて清廉な私の許へ」
優しい表情で自分の許へ来るよう手を差し出したアインは自分を持ち上げ、俺をディスる。相変わらずの通常運転でなによりだよ。
銀は一度アインの方を向くがフイッと顔を背ける。まるで銀が「嫌っ!」と言っているかのようだ。
「そ、そんな……あの数秒の間に汚物の臭いでマスターが洗脳されてしまった!やはり汚物は消毒あるのみですね」
「待て待て!」
機械らしく目を輝かせたアインは亜空間から魔導軽機関銃を取り出し、俺を殺そうとする。
俺を含め全員がアインの暴挙を止める。まったく久々に帰って来て早々我が家を壊されてたまるか!
どうにかアインを宥め落ち着かせる事に成功した事に安堵した俺たちは全員ソファーに座ってグリードが用意した飲み物を飲みながら約2ヶ月弱の事を話し合った。
「護衛や討伐任務ではなかったからどうなるか心配してたんだが、杞憂で終わってなによりだ」
記者会見は終わったがどこのニュース番組でもジャンヌ復活とその立役者として俺の事が報道されており、俺が説明するまでもなく既に知っていた。多分アインの脳内ネットで知ったんだろ。
「終わってねぇよ。なんだよあのニュース、あれじゃ目立っちまうじゃねぇか!」
「ま、記者会見で言われては仕方があるまい」
頭を抱える俺に対してお茶を飲みながら言ってくる影光。
「影光、他人事だと思ってるだろ?」
「そりゃ、仁の事だからな。拙者には関係ない」
やはりそうだろうと思ったよ。関係ありませんと言う顔をする影光とそれと同じような顔をするアインたち。
「ボルキュス陛下がフリーダムの名前も出したからな。間違いなくここにマスコミ連中が押しかけて来るぞ」
「なぬ!アインそれは真か!?」
やはりアインから教えて貰ったようで慌ててアインに確認する影光。
それに驚いていたのは影光だけではなく、アリサとクレイヴ、グリードもだった。
グリードは両手を握ってオドオドしており、クレイヴはこれ以上にないほどの面倒臭そうと言う顔をしており、アリサも舌打ちをするなり「メンドクセェ」と煙草を吸いながら呟き、流石のヘレンもマスコミに囲まれるのは嫌らしく「それは嫌なのだ」と呟いていた。
マスコミに関して言えば俺だけでなく全員が好きじゃないようだ。だから俺は目立つのが嫌だったんだ。マスコミは無駄に騒ぎ立てるだけでなく、根掘り葉掘り訊いて来るから超鬱陶しい。
「ええ、確かにフリーダムの名前を出してましたね」
俺の膝の上に乗る銀を撫でながらこれまた他人事のように言ってくる。
「何故それを言わないんだ!」
「私には関係ありませんから」
「「関係あるだろ!」」
俺と影光の声が重なる。
互いにどれだけマスコミが嫌いなのかが分かる。
「お前ならちょっと考えればすぐに分かる事だろ!マスコミがくれば銀だってテレビに映るかもしれない。そうなれば銀を狙ってくる連中だっているかもしれないんだぞ」
「はっ!なんて事……私としたことがマスターの事を想っていてすっかり忘れていました……」
事の重大さを理解したアインはあまりのショックに崩れ落ちていた。そこまで銀を世間に知られたくないのか。
「こうしてはいられない。今すぐにでもここから離れるぞ!」
『了解!』
マスコミのお陰とは考えたくはないが、久しぶりに全員集合し団結力低下を心配していたのが必要なくなった。
5
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる