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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七十二話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ③
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朧さんの話を聞く限り低ランクの冒険者じゃ行けて精々10階層までだろう。そうなると間違いなく高ランクパーティーで無ければ攻略は不可能。だが高ランクパーティーなんて数が知れてる。
ダンジョンと言う狭い空間で戦う事が多い場所で10人以上で行くのは危険だ。大抵は5人~7人だろう。
そう考えると到達していない階層からどんどん魔物の数は増えていく。そうなると最悪氾濫が起きる可能性だってある。だから朧さんは俺たちにこの情報を教えたわけか。
それにしても流石はSランクギルドだな。ヤマト皇国から一番遠い国と言っても過言ではないベルヘンス帝国に居ながらそれだけの情報を手にしているんだからな。俺たちじゃ足元にも及ばない人脈と情報網を持っているようだ。
だがそんな朧さんでさえ11階層から上の情報は持っていないとなるとまだ攻略したパーティーがいないのか、それとも情報を独占しているのか。どちらにしても今の俺たちにしてみればありがたい情報だ。
「その情報提供有効に使わせてもらうぜ」
「主さんならそう言うと思っていたでありんすよ」
表情筋から力が抜け朗らかな笑みを浮かべる朧さんはまさに優しいお姉さんのようだった。だがエロい。
話が一段落したところで朧さんが手をパンパンと二度鳴らす。すると隣の部屋と繋がる襖がゆっくりと開けられ、そこから灰色の犬耳と尻尾を持つ男性が現れた。
「朧様、及びでしょうか」
「源之助、主さんたちを部屋に案内するでありんすよ」
「畏まりました」
彼の名前は狗飼源之助。Sランクギルド夜霧の月のサブギルドマスターであり、朧さんの右腕でもあるSランク冒険者だ。
彼は父親がドワーフでその血を色濃く受け継いでいるためか身長は160強と成人男性にしては低く褐色の肌を持つが、体型は母親譲りなのだろう引き締まった躰をしている。
朧さんが言うには戦闘スタイルはヘレンに似ているらしい。
そんな源之助の案内でやって来た部屋は12畳と広い部屋だった。しかし全員で寝るわけではなく、女性陣は隣に部屋が用意されている。
男4人で使うには充分に広いわけだがきっとグリードの事を知っているからの配慮なのだろう。流石は旅館を経営しているだけの事はある。
因みに源之助は旅館では若旦那として働いているそうだ。もしかして源之助って凄い?
セバスやイオのように配慮が出来て、イザベラやジャンヌのような統率力と実力を兼ね備えている。話によると事務仕事とかもしてるそうだ。なにそのスーパー超人は。あの寡黙な性格からは全然想像も出来ないんだが。と言うかそんな性格で人に指示が出せるのか?
そんな疑問を部屋の座椅子に座って考えながらお茶を啜る。うん、美味い。
おっと、忘れていた。依頼達成報酬の割合の話をしなければ。
アインたちもにも話す必要があるため俺たちの部屋に集まって貰い、俺は説明した。
俺がギルドフリーダム用の移動手段として大型貨物車改造のキャンピングカーを欲している事。それに伴ってギルドホームのリニューアル計画を考えている事。
勿論それだけじゃなく今後お金が必要になった際に直ぐに買い物が出来るようにするために。
そんな俺の素晴らしい演説でもなかったが、案外にも全員が簡単に了承してくれた。意外だ。理由を聞いてみると元から割合が低すぎる。普通ならあり得ない。と言われてしまった。仕方ないだろ。ギルドどころか前世でも会社を経営した事なんて一度もないんだから。
で、俺たちは改めて契約し直す事にした。
俺のタブレットはノートパソコンとしても使えるので超便利。
契約の内容は殆ど変わらず、達成報酬時の割合を変更するだけとなった。
─────────────────────
通常依頼達成報酬+素材の代金の1割→2割
指名依頼達成報酬+素材の代金の2割→3割
─────────────────────
源之助に頼んで借りた印刷機で印刷した契約書に改めてサインと捺印を押してもらい契約が完了した。さて、あとは事の契約書を冒険者組合に提出したら良いだけだな。
現在の時刻は午後9時5分前。
冒険者組合に契約書を持って行きたいがテレビに名前が出たせいでおいそれと外出も出来やしない。俺の力を使えばバレずに向かう事は出来るだろうが、冒険者組合に入ったら間違いなくバレる。冒険者組合レイノーツ支部1階には受付カウンターがあり、そこでは冒険者登録や素材買取、依頼の発注や受注が行え、一部スペースはカフェとして利用する事が可能だが夜になれば酒場としても利用が出来る。この時間帯なら間違いなく冒険者どもが飲んでいるだろう。小説や漫画で見るような荒くれ物がばかりが居るような酒場ではないが、それでもガラの悪い奴や酒が入った事で短気になっている奴だっているだろう。そんな奴に絡まれるのは正直面倒だ。
だが、契約書を持って行かない限り今後の依頼の割合は以前の1割のままとなってしまう。
「はぁ……」
考えるだけで憂鬱になり思わず溜息が漏れてしまう。しかしこれもギルドマスターとしての役目だ。
そう思いながら俺はパーカーのフードを深く被り、人口の灯が支配する街の空を駆け抜ける。
目的地に到着したのは午後9時を5分程過ぎた頃だった。
冒険者組合に入ると予想通り数組のパーティーが酒場で酒を飲んでいた。ランクもさほど高くないようだな。酒が入っている事もあってか、俺の存在に気付いていない。
俺はそのまま受付カウンターに向かった。
カウンターには見知った顔があり、俺が入った事に気づくなり接客スマイルを向けて来た。
「久しぶりですね、ジンさん」
「久しぶりだな、ミキ」
ミキ・セントは俺がこの国で冒険者として活動を始めた時からの付き合いだ。俺の担当でもある。
事前にスマホでミキに連絡しておいたお陰でスムーズに契約書の更新が出来る。
冒険者組合にギルドメンバーの契約書を提出するのは冒険者側が損をするような不当な契約内容になっていないかを確認するためでもある。どうやら昔契約内容関連の事件があってから規則が変わったらしいからな。
ギルドメンバー全員の契約書類が入ったA4サイズの茶封筒をミキに渡して確認して貰う。
契約書類に不備が無いか1枚1枚丁寧に確認するミキ。時間が掛かろうと丁寧に仕事をしてくれると信頼度が全然違うよな。
「確かに事前に聞いた通りにギルドに支払う報酬の割合が1割ずつ上がってるね」
「ああ、色々物入りそうになったからな。影光たちに相談したら割合を上げても良いって言われてな」
「なるほどね。ギルドマスターとしては嬉しいでしょ」
「まあな」
ギルドのお金が増えればそれだけ色々な事が出来るし買える。これほどありがたい事はない。ま、俺個人の懐に入るお金の量が1割減ってしまうが今のところお金に困ってはいないし、趣味があるわけでもない。普段お金を使うのは煙草と酒、時々風俗にお金を使うぐらいだから別に構わない。ん?煙草、酒、女、一歩間違えれば人生転落コースだ。これに博打が加われば人生転落の役満だな。ま、ジュリアスとのホールデムポーカー対決で俺の運の無さを思い知ってるからな。博打はしないけど。それにお金賭けるより命を賭けた戦いの方が遥かに面白いしな。
「楽しい事でもあった?」
「何で?」
「だって笑顔だったから」
おっと俺としたことが顔に出てしまっていたようだ。まったく正直な表情筋には困ったものだ。
ミキに「大した事じゃないから気にしないでくれ」と告げて話を打ち切る。
しかしそれでも会話は続き、自然と話題は俺の事になっていく。
「そうそう、テレビ見たよ」
「ああ、やっぱり」
「あれ?嬉しくないの?」
項垂れる俺の姿が意外だったのかミキは首を傾げ怪訝そうに訊ねて来る。
「当たり前だろ。俺は別に目立ちたくて冒険者になったわけじゃないからな」
「そう言えば前にもそんな事言ってたね」
付き合いで言えばまだ半年ぐらいだ。だが俺の担当であるため自然と仲良くなった。そうなればプライベートな事も話したりもする。そうなれば俺がどうして冒険者になったかぐらいは知っていてもおかしくはない。ま、一度も食事に誘えてはいないんだが。
「だけど凄いじゃない。ボルキュス陛下から『信頼する冒険者』なんて宣言された冒険者なんて私知らないわよ」
「それに関してはありがたいと思ってるよ」
信頼する冒険者。誰もが一度は思っていたり口にした事のある言葉だろう。だが皇帝が口にするのでは意味が違う。
発した通り俺たちフリーダムはボルキュス陛下から信頼されたギルドだと言う事だ。それはつまり素晴らしい冒険者であると言う事だけでなく、手出し無用と言う意味に他ならない。つまりフリーダムはこの国のトップの後ろ盾を得たに近い状態になったと言う事が 帝国内延いては世界にすら知れ渡ったと言う事だ。
ボルキュス陛下……とてもありがたい事なんだが、もう少しどうにかならなかったのか。
因みに冒険者が国と関わってはならないと言う規則に違反しそうだが、それは戦争時の話であって今回の事はなんの規則にも触れないため問題ない。ボルキュス陛下の部下になったわけでもないしな。
「はい、確認完了です。問題はありませんでしたよ」
「そうか、ミキ助かった」
「いえ、ジンさんの活躍を期待しています」
受付嬢として社交辞令も忘れない。流石はミキだな。
無事に契約の改正を終えた俺はフリーダムのホームではなく、夜霧の月に戻った。
公暦1327年2月15日金曜日午前9時20分。
俺たちフリーダムメンバーは亜人種乗車可能旅客機に乗ってヤマト皇国へ向かうため空港に来ていた。
平日でありながら沢山の人でごった返している。流石は帝国一の空港だな。
受付で予約した事を伝えゲートを通過して飛行機に乗り込む。人間ではないアインは金属探知機に引っかかるかと思ったが、何事も無く平然とゲートを通過した。なんで?
アインの身体はオリハルコンや世界樹をメイン材料ととして造られているのは知っているが、全ての部品が金属以外で造られているのか!?
そう考えると俺としてはありがたいが、世界制覇を掲げ他国と戦争していたレグウェス帝国は武器や兵器を量産していた筈だ。そんな時代に製造されたアインの身体にも金属が使われていてもおかしくはない。なのにゲート式金属探知機が反応しないと言う事は暗殺も可能にするためとかか?なにそれ怖い。
もうこの事を考えるのはよそう。それよりもこれだけスムーズに飛行機に乗れたのも朧さんたちの協力があったからこそだ。ありがとう朧さん。
グリーン席に座った俺はキャビンアテンダントに頼んで持ってきて貰った酒を飲みながら映画鑑賞で時間を潰す。
公暦1327年2月17日日曜日午前3時40分。
飛行機に乗る事28時間。ようやく目的地のヤマト皇国に到着した。疲れた……長時間も飛行機の座席に座りっぱなしだったから尻の筋肉が固まってしまったじゃないか。
最初ベルヘンス帝国とヤマト皇国の時差が14時間だと聞いた時は、どうして西から東に向かって飛んだんだって思った。時差が14時間と言う事はベルヘンス帝国はヤマト皇国の真反対にあるのではなく西寄りにあると言う事だ。ならそのまま西回りで飛んで行けばもっと早く到着できたのにと思ってしまったが、どうやらこの大陸以外に人が住んでいる大陸や島は存在していないらしく燃料を給油する問題を考えるととうしても遠回りになってしまうらしい。なんとも面倒な。
ま、そんなわけで燃料補給のため途中ヘリシュペ王国を経由した程度でなんの問題も無く無事到着したわけだ。
空港でパスポート代わりに冒険者免許書を提示し入国する事が出来た。因みにアインも普通にゲートを通過していた。やっぱり謎だ。
既に深夜なわけだがホテルの予約はしていない。朧さんが知り合いに頼んでくれているらしい。ほんと何から何までありがとうございます朧さん。
そんな朧さんの知り合いが空港で出迎えてくれると言う話だったが、どこにいるんだ?
「ギルドフリーダムの方々でしょうか?」
突如背後から声が聞こえ俺は慌てて振り向いて距離を取る。別に気を抜いていた覚えはないがまさか背後を取られるとは思っていなかったぞ。
完璧に気配を殺した状態で話しかけて来たのは紺色の角袖着物に身に纏い、金色のお団子ヘア。まるで外人が着物を着てお侍体験をしている感じだが、立ち姿が一般人じゃないまさしく何らかの武術をマスターしているか冒険者だろう。
身長は影光と同じか少し高いぐらいか。だが俺が一番注目したのはエメラルド色の横長の瞳と額から生える歪な形をした2本の角。いったい何者だ?
ダンジョンと言う狭い空間で戦う事が多い場所で10人以上で行くのは危険だ。大抵は5人~7人だろう。
そう考えると到達していない階層からどんどん魔物の数は増えていく。そうなると最悪氾濫が起きる可能性だってある。だから朧さんは俺たちにこの情報を教えたわけか。
それにしても流石はSランクギルドだな。ヤマト皇国から一番遠い国と言っても過言ではないベルヘンス帝国に居ながらそれだけの情報を手にしているんだからな。俺たちじゃ足元にも及ばない人脈と情報網を持っているようだ。
だがそんな朧さんでさえ11階層から上の情報は持っていないとなるとまだ攻略したパーティーがいないのか、それとも情報を独占しているのか。どちらにしても今の俺たちにしてみればありがたい情報だ。
「その情報提供有効に使わせてもらうぜ」
「主さんならそう言うと思っていたでありんすよ」
表情筋から力が抜け朗らかな笑みを浮かべる朧さんはまさに優しいお姉さんのようだった。だがエロい。
話が一段落したところで朧さんが手をパンパンと二度鳴らす。すると隣の部屋と繋がる襖がゆっくりと開けられ、そこから灰色の犬耳と尻尾を持つ男性が現れた。
「朧様、及びでしょうか」
「源之助、主さんたちを部屋に案内するでありんすよ」
「畏まりました」
彼の名前は狗飼源之助。Sランクギルド夜霧の月のサブギルドマスターであり、朧さんの右腕でもあるSランク冒険者だ。
彼は父親がドワーフでその血を色濃く受け継いでいるためか身長は160強と成人男性にしては低く褐色の肌を持つが、体型は母親譲りなのだろう引き締まった躰をしている。
朧さんが言うには戦闘スタイルはヘレンに似ているらしい。
そんな源之助の案内でやって来た部屋は12畳と広い部屋だった。しかし全員で寝るわけではなく、女性陣は隣に部屋が用意されている。
男4人で使うには充分に広いわけだがきっとグリードの事を知っているからの配慮なのだろう。流石は旅館を経営しているだけの事はある。
因みに源之助は旅館では若旦那として働いているそうだ。もしかして源之助って凄い?
セバスやイオのように配慮が出来て、イザベラやジャンヌのような統率力と実力を兼ね備えている。話によると事務仕事とかもしてるそうだ。なにそのスーパー超人は。あの寡黙な性格からは全然想像も出来ないんだが。と言うかそんな性格で人に指示が出せるのか?
そんな疑問を部屋の座椅子に座って考えながらお茶を啜る。うん、美味い。
おっと、忘れていた。依頼達成報酬の割合の話をしなければ。
アインたちもにも話す必要があるため俺たちの部屋に集まって貰い、俺は説明した。
俺がギルドフリーダム用の移動手段として大型貨物車改造のキャンピングカーを欲している事。それに伴ってギルドホームのリニューアル計画を考えている事。
勿論それだけじゃなく今後お金が必要になった際に直ぐに買い物が出来るようにするために。
そんな俺の素晴らしい演説でもなかったが、案外にも全員が簡単に了承してくれた。意外だ。理由を聞いてみると元から割合が低すぎる。普通ならあり得ない。と言われてしまった。仕方ないだろ。ギルドどころか前世でも会社を経営した事なんて一度もないんだから。
で、俺たちは改めて契約し直す事にした。
俺のタブレットはノートパソコンとしても使えるので超便利。
契約の内容は殆ど変わらず、達成報酬時の割合を変更するだけとなった。
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通常依頼達成報酬+素材の代金の1割→2割
指名依頼達成報酬+素材の代金の2割→3割
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源之助に頼んで借りた印刷機で印刷した契約書に改めてサインと捺印を押してもらい契約が完了した。さて、あとは事の契約書を冒険者組合に提出したら良いだけだな。
現在の時刻は午後9時5分前。
冒険者組合に契約書を持って行きたいがテレビに名前が出たせいでおいそれと外出も出来やしない。俺の力を使えばバレずに向かう事は出来るだろうが、冒険者組合に入ったら間違いなくバレる。冒険者組合レイノーツ支部1階には受付カウンターがあり、そこでは冒険者登録や素材買取、依頼の発注や受注が行え、一部スペースはカフェとして利用する事が可能だが夜になれば酒場としても利用が出来る。この時間帯なら間違いなく冒険者どもが飲んでいるだろう。小説や漫画で見るような荒くれ物がばかりが居るような酒場ではないが、それでもガラの悪い奴や酒が入った事で短気になっている奴だっているだろう。そんな奴に絡まれるのは正直面倒だ。
だが、契約書を持って行かない限り今後の依頼の割合は以前の1割のままとなってしまう。
「はぁ……」
考えるだけで憂鬱になり思わず溜息が漏れてしまう。しかしこれもギルドマスターとしての役目だ。
そう思いながら俺はパーカーのフードを深く被り、人口の灯が支配する街の空を駆け抜ける。
目的地に到着したのは午後9時を5分程過ぎた頃だった。
冒険者組合に入ると予想通り数組のパーティーが酒場で酒を飲んでいた。ランクもさほど高くないようだな。酒が入っている事もあってか、俺の存在に気付いていない。
俺はそのまま受付カウンターに向かった。
カウンターには見知った顔があり、俺が入った事に気づくなり接客スマイルを向けて来た。
「久しぶりですね、ジンさん」
「久しぶりだな、ミキ」
ミキ・セントは俺がこの国で冒険者として活動を始めた時からの付き合いだ。俺の担当でもある。
事前にスマホでミキに連絡しておいたお陰でスムーズに契約書の更新が出来る。
冒険者組合にギルドメンバーの契約書を提出するのは冒険者側が損をするような不当な契約内容になっていないかを確認するためでもある。どうやら昔契約内容関連の事件があってから規則が変わったらしいからな。
ギルドメンバー全員の契約書類が入ったA4サイズの茶封筒をミキに渡して確認して貰う。
契約書類に不備が無いか1枚1枚丁寧に確認するミキ。時間が掛かろうと丁寧に仕事をしてくれると信頼度が全然違うよな。
「確かに事前に聞いた通りにギルドに支払う報酬の割合が1割ずつ上がってるね」
「ああ、色々物入りそうになったからな。影光たちに相談したら割合を上げても良いって言われてな」
「なるほどね。ギルドマスターとしては嬉しいでしょ」
「まあな」
ギルドのお金が増えればそれだけ色々な事が出来るし買える。これほどありがたい事はない。ま、俺個人の懐に入るお金の量が1割減ってしまうが今のところお金に困ってはいないし、趣味があるわけでもない。普段お金を使うのは煙草と酒、時々風俗にお金を使うぐらいだから別に構わない。ん?煙草、酒、女、一歩間違えれば人生転落コースだ。これに博打が加われば人生転落の役満だな。ま、ジュリアスとのホールデムポーカー対決で俺の運の無さを思い知ってるからな。博打はしないけど。それにお金賭けるより命を賭けた戦いの方が遥かに面白いしな。
「楽しい事でもあった?」
「何で?」
「だって笑顔だったから」
おっと俺としたことが顔に出てしまっていたようだ。まったく正直な表情筋には困ったものだ。
ミキに「大した事じゃないから気にしないでくれ」と告げて話を打ち切る。
しかしそれでも会話は続き、自然と話題は俺の事になっていく。
「そうそう、テレビ見たよ」
「ああ、やっぱり」
「あれ?嬉しくないの?」
項垂れる俺の姿が意外だったのかミキは首を傾げ怪訝そうに訊ねて来る。
「当たり前だろ。俺は別に目立ちたくて冒険者になったわけじゃないからな」
「そう言えば前にもそんな事言ってたね」
付き合いで言えばまだ半年ぐらいだ。だが俺の担当であるため自然と仲良くなった。そうなればプライベートな事も話したりもする。そうなれば俺がどうして冒険者になったかぐらいは知っていてもおかしくはない。ま、一度も食事に誘えてはいないんだが。
「だけど凄いじゃない。ボルキュス陛下から『信頼する冒険者』なんて宣言された冒険者なんて私知らないわよ」
「それに関してはありがたいと思ってるよ」
信頼する冒険者。誰もが一度は思っていたり口にした事のある言葉だろう。だが皇帝が口にするのでは意味が違う。
発した通り俺たちフリーダムはボルキュス陛下から信頼されたギルドだと言う事だ。それはつまり素晴らしい冒険者であると言う事だけでなく、手出し無用と言う意味に他ならない。つまりフリーダムはこの国のトップの後ろ盾を得たに近い状態になったと言う事が 帝国内延いては世界にすら知れ渡ったと言う事だ。
ボルキュス陛下……とてもありがたい事なんだが、もう少しどうにかならなかったのか。
因みに冒険者が国と関わってはならないと言う規則に違反しそうだが、それは戦争時の話であって今回の事はなんの規則にも触れないため問題ない。ボルキュス陛下の部下になったわけでもないしな。
「はい、確認完了です。問題はありませんでしたよ」
「そうか、ミキ助かった」
「いえ、ジンさんの活躍を期待しています」
受付嬢として社交辞令も忘れない。流石はミキだな。
無事に契約の改正を終えた俺はフリーダムのホームではなく、夜霧の月に戻った。
公暦1327年2月15日金曜日午前9時20分。
俺たちフリーダムメンバーは亜人種乗車可能旅客機に乗ってヤマト皇国へ向かうため空港に来ていた。
平日でありながら沢山の人でごった返している。流石は帝国一の空港だな。
受付で予約した事を伝えゲートを通過して飛行機に乗り込む。人間ではないアインは金属探知機に引っかかるかと思ったが、何事も無く平然とゲートを通過した。なんで?
アインの身体はオリハルコンや世界樹をメイン材料ととして造られているのは知っているが、全ての部品が金属以外で造られているのか!?
そう考えると俺としてはありがたいが、世界制覇を掲げ他国と戦争していたレグウェス帝国は武器や兵器を量産していた筈だ。そんな時代に製造されたアインの身体にも金属が使われていてもおかしくはない。なのにゲート式金属探知機が反応しないと言う事は暗殺も可能にするためとかか?なにそれ怖い。
もうこの事を考えるのはよそう。それよりもこれだけスムーズに飛行機に乗れたのも朧さんたちの協力があったからこそだ。ありがとう朧さん。
グリーン席に座った俺はキャビンアテンダントに頼んで持ってきて貰った酒を飲みながら映画鑑賞で時間を潰す。
公暦1327年2月17日日曜日午前3時40分。
飛行機に乗る事28時間。ようやく目的地のヤマト皇国に到着した。疲れた……長時間も飛行機の座席に座りっぱなしだったから尻の筋肉が固まってしまったじゃないか。
最初ベルヘンス帝国とヤマト皇国の時差が14時間だと聞いた時は、どうして西から東に向かって飛んだんだって思った。時差が14時間と言う事はベルヘンス帝国はヤマト皇国の真反対にあるのではなく西寄りにあると言う事だ。ならそのまま西回りで飛んで行けばもっと早く到着できたのにと思ってしまったが、どうやらこの大陸以外に人が住んでいる大陸や島は存在していないらしく燃料を給油する問題を考えるととうしても遠回りになってしまうらしい。なんとも面倒な。
ま、そんなわけで燃料補給のため途中ヘリシュペ王国を経由した程度でなんの問題も無く無事到着したわけだ。
空港でパスポート代わりに冒険者免許書を提示し入国する事が出来た。因みにアインも普通にゲートを通過していた。やっぱり謎だ。
既に深夜なわけだがホテルの予約はしていない。朧さんが知り合いに頼んでくれているらしい。ほんと何から何までありがとうございます朧さん。
そんな朧さんの知り合いが空港で出迎えてくれると言う話だったが、どこにいるんだ?
「ギルドフリーダムの方々でしょうか?」
突如背後から声が聞こえ俺は慌てて振り向いて距離を取る。別に気を抜いていた覚えはないがまさか背後を取られるとは思っていなかったぞ。
完璧に気配を殺した状態で話しかけて来たのは紺色の角袖着物に身に纏い、金色のお団子ヘア。まるで外人が着物を着てお侍体験をしている感じだが、立ち姿が一般人じゃないまさしく何らかの武術をマスターしているか冒険者だろう。
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イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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