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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七十七話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑧
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どうやら順番待ちしているようだ。どこから入っても危険な事に変わりはないし何よりここに来てからどこのエリアに行くの決めていたら時間の無駄だろうと思ってしまうが口にするのは喧嘩になるのでやめておこう。
ま、そんなわけで疲れてはいないが俺たちの番が来るまで一休みする事にした。
待っている間俺たちは互いの体調確認を行いどのエリアに入るのか最終確認をしていた。
弥生さん率いる氷華ギルドの冒険者たちがクリアした樹海エリアに進むのが先に進むのが一番手っ取り早いのは間違いない。エリア内で出現する魔物の種類やエリアボスに関しての情報量も段違いに違う。
だが俺たちは先に進むことが第一目的であっても焦る理由が無いので今回は砂漠エリアに向かう事にしている。
理由は幾つかあるが一番の理由としては誰もクリアしていないエリアの攻略であり、渓谷エリアに比べて砂漠エリアはボルキュス陛下の依頼で経験した事があるからだ。ま、移動は車とオンボロプロペラ機だったけど。それでも初めての渓谷エリアより少しでも経験のある砂漠エリアの方がアクシデントに対しても即座に対応がしやすいからだ。
何よりこれまで開示されている情報だと渓谷エリアに出現する魔物は崖に穴を掘って住むワーム種とワイバーン系ばかりだ。
ワーム種なら影光やヘレンと言った接近戦タイプの俺たちでも対処は出来るが渓谷で襲って来るワイバーンと戦うのは厳しい。
11階層のみのクリアを目指しているのであれば実力向上と言う事でなんら問題はないがダンジョンから出る事無く潜り続けるつもりの俺たちにとってすれば一方的に消費する食料や薬、特に弾薬は少しでも節約しておきたいのだ。
結果、接近戦がしやすい地形と空から攻撃してくる魔物が発見されていない砂漠エリアを選んだわけだ。
2本目の煙草を吸い終わる頃ようやく俺たちの番がやって来た。
どういう訳か分からないが、11階層に行く扉は1組が入ると数分間の間そのエリアの扉が開かないようになっているらしい。ほんとダンジョンって摩訶不思議の塊だよな。金が稼げて強くなれるから俺としては別に構わないけど。
砂漠エリアに向かう装備に交換した俺たちは更なる強さを求め扉を開いた。
「うっ」
扉を開けた瞬間強烈な日差しが眼を襲い思わず苦痛の声が漏れる。
まるで外に出たかのような光景が広がっているとは情報で分かっていたが、スメルティス砂漠と変わらない暑さと景色に本当にダンジョンの中か?と疑ってしまう。ほんとダンジョンって訳がわからん。
ま、そんな疑問に時間を使って突っ立っていれば間違いなく干からびて死んでしまう。
気が付けば通って来た扉が消えていた。これも情報通りだ。
扉が消えるのは砂漠エリアだけでなく他の渓谷エリアや樹海エリアでも同じらしく、11階層をクリアするかどこかにある出口を探すしかないが、最悪な事に出口は毎回違う場所にランダムで出現してくるらしい。まったくここのダンジョンマスターはどこまで冒険者を苦しめて殺したいのやら。
ま、俺たちは目指すのは出口じゃなく12階層へと続く道だけだから関係ないけど。
「さて、エリアボスを探すとするか」
アフガンストールやネックゲーターと各自好きな方で紫外線から肌を守りながらエリアボスを探すため先へと進むことにした。
歩き始めて30分。建物やオアシスを発見するどころか魔物にも出会う事無く、俺たちは熱い日差しの下を歩き続けた。ったくこれじゃ体力を無駄に消費してるだけじゃねぇか。
事前に情報があれば対策も出来たんだが分かっているのは出て来る魔物の種類とランダムで出現する帰還用の転移魔法陣があるってことだけだからな。
それにしても誰一人として弱音を吐かず黙々と周囲を探索しながら歩いているのは驚きだ。
俺はあの島でここ以上に暑い場所で生活していたお陰で耐性が付いているし、アインはサイボーグだからまず暑さを感じない。
影光やグレイヴはSランクとしての経験からだろうがグリードはまだ長時間耐えられるとは思っていなかったからな。きっとグリードなりに強くなろうとしている結果なんだろうな。
それにしてもどこまで続いてるんだ……。
地平線の彼方まで砂漠が広がる光景に先ほどから進んでいないんじゃないかと錯覚しそうになる。
だが空を見上げれば先ほどとは少し違う場所にある疑似太陽。
つまり幻覚ではなくちゃんと移動はしていると言う事なんだろう。ま、あの疑似太陽の動きも幻覚で無い事を祈るしかないが。
喉が渇くが無限にあるわけじゃないため、水筒のキャップをコップ替わりにして一杯だけ口に含んでから歩き続ける。
あれから2時間俺たちは言葉もなくただひたすらに歩き続けた。しかしいつしかこの砂漠エリアをクリアする目的から休憩できる場所を探すのが目的に変わるほど俺たちは疲労していた。
俺はあの島での生活で慣れているからさほど疲れてはいないが、影光たちにまで疲労が目に見えていた。体力的にも戦闘力的にも劣るグリードに至っては疲労の声が振り向かずとも聞こえて来やがる。ヤバいな。ダンジョンに入る前から砂漠エリアに挑戦する事を決めていたから水や食料はいつも以上に準備はしてきたから直ぐに死ぬことはないだろう。
だけどまさか戦闘特化の俺たちフリーダムメンバーが戦闘ではなくダンジョンが産み出した自然環境に苦しめられるとはなんとも皮肉な話だな。
短距離走では速いけど長距離走では遅いって言うのと同じ原理なんだろう。
それにしてもこの状況でギルドマスターとして仲間になんて声を掛けてやれば良いのかまったく分からない。気温50℃弱はあるだろうが俺はあの島での生活で慣れてはいる。だがあの島で暮らしていた時は1人だった。だからこそ周囲に気を配る必要は無かった。
だが今は違う。ここには大切な仲間がいる。
戦闘中であれば俺が囮や先陣を切って勇気づける事も可能だがそうもいかない。
太刀打ち使用のない自然環境が俺たちは牙を剥い体力をどんどん削って行きやがる。
ギルドマスターとして無能な自分に苛立ちを覚えるがそれを表に出した所で影光たちに迷惑が掛かるだけだ。今は1秒でも早く休める場所を見つける事が……
ふと顔を前に向けた時石で出来た大きな遺跡のような建造物が飛び込んできた。蜃気楼なんかじゃない。あれは間違いなく立派な建造物だ。
体の奥から湧き上がる安堵と感動が疲労を感じる体に栄養となって蘇ってくるようだ。
後ろを歩く影光たちに視線を向けると俺と同じように嬉しそうに笑みを浮かべていた。特にグリードは歓喜のあまり涙目になっていた。
軽くなった足取りで俺たちは遺跡に向かった。だからと言って油断はしない。気配感知で周囲に魔物が居ないか確認しているし、ゴーレムのような生命を持たない魔物が潜んでいる事も考えアインに魔力感知で調べて貰っている。
砂漠エリアを歩き続けて3時間弱俺たちはようやく休息出来る場所を手にすることが出来た。
だからと言って全員で寝るわけにも酒を飲むわけでもない。
遺跡と言っても地下へと続く入り口があるわけじゃない。どちらかと言えばアテネにあるアクロポリスに似た遺跡だ。
5分程体を休め俺は早速仲間に指示を飛ばす。
「俺、影光、アイン、クレイヴは各方角の探索。それ以外はここに野営の設置だ。グリードお前はもう少し休んでからで構わない」
『了解』
「了解です。すみませんが皆さんお願いします」
俺の指示に全員が同時に返事をした。
グリードは疲労を隠し切れない程の声音で返事をして来た。最近のグリードは頑張っていたしそれに見合う程成長もしていると思っていたが、まだここに来るのは早かったかもしれない。いや、これを乗り越えてこそだろう。
それにしても10階層からたった1つ階層が下がっただけなのにここまで難易度が上がるのはどう考えても性格が歪んでいるとしか思えない。
ダンジョンにも色々と種類があり出て来る魔物が偏っているダンジョンがあったりもするがそれだけでなく外見にも色んなタイプがある。
洞窟タイプ、塔タイプ、遺跡タイプと様々だ。因みに今回は遺跡タイプと洞窟タイプを合体させたようなダンジョンだ。
ダンジョン内に居ると時間の感覚は大丈夫だが、方位感覚が狂いそうになるため方位磁石が必需品となる。
ま、今回は野営地からさほど離れないから使う必要はないが。
俺は西の方角へと進み周囲を見渡しながら気配感知を密にして魔物が居ないか確かめる。
「居るな」
最大限広げた気配感知に魔物の反応があった。
気配のシルエットからしてこれは……アルマジロに似ているな。となると多分砂漠犰狳だろうな。
で、数は20弱と言ったところだが、200メートルと案外近い距離にいるな。しかし地中内に居るせいで目視で確認は出来ないか。
砂漠犰狳。前世で地球に生息しているアルマジロとは違い全長2メートル強の体躯を持つ魔物だ。体を丸め転がって体当たりをしたりモグラのように地中から鋭い爪で攻撃してくるらしい。そのため1体ででの魔物脅威度はB-の魔物だが群れを成す魔物のため、B+、最悪Aにまで到達するほどだ。
もしも今冒険者が何も気づかずにあの砂漠の群れの上を歩けば間違いなく苦戦させられるだろう。死人だって出る可能性がある。ま、動きからして俺たちに気付いた様子はないが。
「ま、念のため」
万が一こっちにこられても面倒なので地中内に潜む砂漠犰狳に向かった殺気を放つ。
殺気に気付いた砂漠犰狳たちは脱兎の如く離れていった。ま、SSランク魔物が放つような殺気を飛ばしたからな無理もない。
改めて周囲を観察するが他に魔物はいないようだな。
「さて、戻るとするか」
野営地の日陰で冷たい水でも飲みながらグリードが作る飯を待つとしよう。
砂丘を下り野営地に戻っているとイヤホンマイクに通信が入る。
『こちらクレイヴ、1.5キロほど先で冒険者パーティーが砂漠棘蟲の群れに襲われてる。暑い……早く誰か来てくれ、じゃないと暑さで死ぬ……』
気だるげなクレイヴだがちゃんと仕事はしているようだな。
「分かった。今からアインと影光の3人で向かうからそれまで死なずに待ってろ」
暑いのは確かだろうがそこまで耐えられないほどじゃない事は知っている。まったく怠けたいのは俺だってのによ!
内心愚痴りながら俺は南の方角を担当しているクレイヴの許へ向かった。
数分で到着した俺と同時に東の方角を担当していた影光もやって来た。
フリーダムトップ3に入るだけあって影光からは疲労している様子がまったくない。
それと対比的にクレイヴは今にもその場に倒れ込みそうな表情をしながら魔導狙撃銃のスコープを覗いていた。
「ああ……ようやく来た。じゃ俺はこれで」
俺たちが来た事に安堵したクレイヴはさっさと休もうとグリードたちの許へ戻ろうと立ち上がる。
「待て」
何の説明も無しに返すわけがないだろうが。まったく堂々とサボろうとするとはほんと怠け者だな。
内心そう呟いていると丁度アインも到着した。何故だか分からないが俺の姿をみて舌打ちしてる。人の顔を見て舌打ちとかいったい何を考えていたのやら。
「ちゃんと説明しろ」
俺がそう言うと面倒臭いと言う顔を隠す事すらせず俺に見せつけて来る。気持ちは分かるがそんな顔をしたって駄目だ。
「見たまんまだよ」
いや、そうじゃないだろ。他にもっとあるだろうが。
クレイヴの言葉に俺と影光、アインは嘆息する。
そうかもしれないが俺たちが来るまでの間の事を話せって言ってるのにクレイヴの奴早く戻りたいから省こうとしてやがるな。
「お前から見てあの冒険者たちの実力と能力について話せ」
「はぁ……分かりましたよ」
ここで愚痴っても時間が無駄に経過するだけだと分かったクレイヴは面倒臭そうに頭を掻きながら説明し始める。
「見ての通り5人編成のパーティーで、体格の良い男が前衛でタンク兼パーティーリーダーって感じ、魔法弓を持ったエルフの女が後衛。猫獣人の女と狼獣人の男2人が前衛の攻撃担当と言ったところでしょうね。ただ一番後ろのフードの奴が何者なのかは分かりませんが」
ダルそうな声音で説明するクレイヴ早く終わらないかと思っているのか僅かに苛立ちを感じる。
ま、そんなわけで疲れてはいないが俺たちの番が来るまで一休みする事にした。
待っている間俺たちは互いの体調確認を行いどのエリアに入るのか最終確認をしていた。
弥生さん率いる氷華ギルドの冒険者たちがクリアした樹海エリアに進むのが先に進むのが一番手っ取り早いのは間違いない。エリア内で出現する魔物の種類やエリアボスに関しての情報量も段違いに違う。
だが俺たちは先に進むことが第一目的であっても焦る理由が無いので今回は砂漠エリアに向かう事にしている。
理由は幾つかあるが一番の理由としては誰もクリアしていないエリアの攻略であり、渓谷エリアに比べて砂漠エリアはボルキュス陛下の依頼で経験した事があるからだ。ま、移動は車とオンボロプロペラ機だったけど。それでも初めての渓谷エリアより少しでも経験のある砂漠エリアの方がアクシデントに対しても即座に対応がしやすいからだ。
何よりこれまで開示されている情報だと渓谷エリアに出現する魔物は崖に穴を掘って住むワーム種とワイバーン系ばかりだ。
ワーム種なら影光やヘレンと言った接近戦タイプの俺たちでも対処は出来るが渓谷で襲って来るワイバーンと戦うのは厳しい。
11階層のみのクリアを目指しているのであれば実力向上と言う事でなんら問題はないがダンジョンから出る事無く潜り続けるつもりの俺たちにとってすれば一方的に消費する食料や薬、特に弾薬は少しでも節約しておきたいのだ。
結果、接近戦がしやすい地形と空から攻撃してくる魔物が発見されていない砂漠エリアを選んだわけだ。
2本目の煙草を吸い終わる頃ようやく俺たちの番がやって来た。
どういう訳か分からないが、11階層に行く扉は1組が入ると数分間の間そのエリアの扉が開かないようになっているらしい。ほんとダンジョンって摩訶不思議の塊だよな。金が稼げて強くなれるから俺としては別に構わないけど。
砂漠エリアに向かう装備に交換した俺たちは更なる強さを求め扉を開いた。
「うっ」
扉を開けた瞬間強烈な日差しが眼を襲い思わず苦痛の声が漏れる。
まるで外に出たかのような光景が広がっているとは情報で分かっていたが、スメルティス砂漠と変わらない暑さと景色に本当にダンジョンの中か?と疑ってしまう。ほんとダンジョンって訳がわからん。
ま、そんな疑問に時間を使って突っ立っていれば間違いなく干からびて死んでしまう。
気が付けば通って来た扉が消えていた。これも情報通りだ。
扉が消えるのは砂漠エリアだけでなく他の渓谷エリアや樹海エリアでも同じらしく、11階層をクリアするかどこかにある出口を探すしかないが、最悪な事に出口は毎回違う場所にランダムで出現してくるらしい。まったくここのダンジョンマスターはどこまで冒険者を苦しめて殺したいのやら。
ま、俺たちは目指すのは出口じゃなく12階層へと続く道だけだから関係ないけど。
「さて、エリアボスを探すとするか」
アフガンストールやネックゲーターと各自好きな方で紫外線から肌を守りながらエリアボスを探すため先へと進むことにした。
歩き始めて30分。建物やオアシスを発見するどころか魔物にも出会う事無く、俺たちは熱い日差しの下を歩き続けた。ったくこれじゃ体力を無駄に消費してるだけじゃねぇか。
事前に情報があれば対策も出来たんだが分かっているのは出て来る魔物の種類とランダムで出現する帰還用の転移魔法陣があるってことだけだからな。
それにしても誰一人として弱音を吐かず黙々と周囲を探索しながら歩いているのは驚きだ。
俺はあの島でここ以上に暑い場所で生活していたお陰で耐性が付いているし、アインはサイボーグだからまず暑さを感じない。
影光やグレイヴはSランクとしての経験からだろうがグリードはまだ長時間耐えられるとは思っていなかったからな。きっとグリードなりに強くなろうとしている結果なんだろうな。
それにしてもどこまで続いてるんだ……。
地平線の彼方まで砂漠が広がる光景に先ほどから進んでいないんじゃないかと錯覚しそうになる。
だが空を見上げれば先ほどとは少し違う場所にある疑似太陽。
つまり幻覚ではなくちゃんと移動はしていると言う事なんだろう。ま、あの疑似太陽の動きも幻覚で無い事を祈るしかないが。
喉が渇くが無限にあるわけじゃないため、水筒のキャップをコップ替わりにして一杯だけ口に含んでから歩き続ける。
あれから2時間俺たちは言葉もなくただひたすらに歩き続けた。しかしいつしかこの砂漠エリアをクリアする目的から休憩できる場所を探すのが目的に変わるほど俺たちは疲労していた。
俺はあの島での生活で慣れているからさほど疲れてはいないが、影光たちにまで疲労が目に見えていた。体力的にも戦闘力的にも劣るグリードに至っては疲労の声が振り向かずとも聞こえて来やがる。ヤバいな。ダンジョンに入る前から砂漠エリアに挑戦する事を決めていたから水や食料はいつも以上に準備はしてきたから直ぐに死ぬことはないだろう。
だけどまさか戦闘特化の俺たちフリーダムメンバーが戦闘ではなくダンジョンが産み出した自然環境に苦しめられるとはなんとも皮肉な話だな。
短距離走では速いけど長距離走では遅いって言うのと同じ原理なんだろう。
それにしてもこの状況でギルドマスターとして仲間になんて声を掛けてやれば良いのかまったく分からない。気温50℃弱はあるだろうが俺はあの島での生活で慣れてはいる。だがあの島で暮らしていた時は1人だった。だからこそ周囲に気を配る必要は無かった。
だが今は違う。ここには大切な仲間がいる。
戦闘中であれば俺が囮や先陣を切って勇気づける事も可能だがそうもいかない。
太刀打ち使用のない自然環境が俺たちは牙を剥い体力をどんどん削って行きやがる。
ギルドマスターとして無能な自分に苛立ちを覚えるがそれを表に出した所で影光たちに迷惑が掛かるだけだ。今は1秒でも早く休める場所を見つける事が……
ふと顔を前に向けた時石で出来た大きな遺跡のような建造物が飛び込んできた。蜃気楼なんかじゃない。あれは間違いなく立派な建造物だ。
体の奥から湧き上がる安堵と感動が疲労を感じる体に栄養となって蘇ってくるようだ。
後ろを歩く影光たちに視線を向けると俺と同じように嬉しそうに笑みを浮かべていた。特にグリードは歓喜のあまり涙目になっていた。
軽くなった足取りで俺たちは遺跡に向かった。だからと言って油断はしない。気配感知で周囲に魔物が居ないか確認しているし、ゴーレムのような生命を持たない魔物が潜んでいる事も考えアインに魔力感知で調べて貰っている。
砂漠エリアを歩き続けて3時間弱俺たちはようやく休息出来る場所を手にすることが出来た。
だからと言って全員で寝るわけにも酒を飲むわけでもない。
遺跡と言っても地下へと続く入り口があるわけじゃない。どちらかと言えばアテネにあるアクロポリスに似た遺跡だ。
5分程体を休め俺は早速仲間に指示を飛ばす。
「俺、影光、アイン、クレイヴは各方角の探索。それ以外はここに野営の設置だ。グリードお前はもう少し休んでからで構わない」
『了解』
「了解です。すみませんが皆さんお願いします」
俺の指示に全員が同時に返事をした。
グリードは疲労を隠し切れない程の声音で返事をして来た。最近のグリードは頑張っていたしそれに見合う程成長もしていると思っていたが、まだここに来るのは早かったかもしれない。いや、これを乗り越えてこそだろう。
それにしても10階層からたった1つ階層が下がっただけなのにここまで難易度が上がるのはどう考えても性格が歪んでいるとしか思えない。
ダンジョンにも色々と種類があり出て来る魔物が偏っているダンジョンがあったりもするがそれだけでなく外見にも色んなタイプがある。
洞窟タイプ、塔タイプ、遺跡タイプと様々だ。因みに今回は遺跡タイプと洞窟タイプを合体させたようなダンジョンだ。
ダンジョン内に居ると時間の感覚は大丈夫だが、方位感覚が狂いそうになるため方位磁石が必需品となる。
ま、今回は野営地からさほど離れないから使う必要はないが。
俺は西の方角へと進み周囲を見渡しながら気配感知を密にして魔物が居ないか確かめる。
「居るな」
最大限広げた気配感知に魔物の反応があった。
気配のシルエットからしてこれは……アルマジロに似ているな。となると多分砂漠犰狳だろうな。
で、数は20弱と言ったところだが、200メートルと案外近い距離にいるな。しかし地中内に居るせいで目視で確認は出来ないか。
砂漠犰狳。前世で地球に生息しているアルマジロとは違い全長2メートル強の体躯を持つ魔物だ。体を丸め転がって体当たりをしたりモグラのように地中から鋭い爪で攻撃してくるらしい。そのため1体ででの魔物脅威度はB-の魔物だが群れを成す魔物のため、B+、最悪Aにまで到達するほどだ。
もしも今冒険者が何も気づかずにあの砂漠の群れの上を歩けば間違いなく苦戦させられるだろう。死人だって出る可能性がある。ま、動きからして俺たちに気付いた様子はないが。
「ま、念のため」
万が一こっちにこられても面倒なので地中内に潜む砂漠犰狳に向かった殺気を放つ。
殺気に気付いた砂漠犰狳たちは脱兎の如く離れていった。ま、SSランク魔物が放つような殺気を飛ばしたからな無理もない。
改めて周囲を観察するが他に魔物はいないようだな。
「さて、戻るとするか」
野営地の日陰で冷たい水でも飲みながらグリードが作る飯を待つとしよう。
砂丘を下り野営地に戻っているとイヤホンマイクに通信が入る。
『こちらクレイヴ、1.5キロほど先で冒険者パーティーが砂漠棘蟲の群れに襲われてる。暑い……早く誰か来てくれ、じゃないと暑さで死ぬ……』
気だるげなクレイヴだがちゃんと仕事はしているようだな。
「分かった。今からアインと影光の3人で向かうからそれまで死なずに待ってろ」
暑いのは確かだろうがそこまで耐えられないほどじゃない事は知っている。まったく怠けたいのは俺だってのによ!
内心愚痴りながら俺は南の方角を担当しているクレイヴの許へ向かった。
数分で到着した俺と同時に東の方角を担当していた影光もやって来た。
フリーダムトップ3に入るだけあって影光からは疲労している様子がまったくない。
それと対比的にクレイヴは今にもその場に倒れ込みそうな表情をしながら魔導狙撃銃のスコープを覗いていた。
「ああ……ようやく来た。じゃ俺はこれで」
俺たちが来た事に安堵したクレイヴはさっさと休もうとグリードたちの許へ戻ろうと立ち上がる。
「待て」
何の説明も無しに返すわけがないだろうが。まったく堂々とサボろうとするとはほんと怠け者だな。
内心そう呟いていると丁度アインも到着した。何故だか分からないが俺の姿をみて舌打ちしてる。人の顔を見て舌打ちとかいったい何を考えていたのやら。
「ちゃんと説明しろ」
俺がそう言うと面倒臭いと言う顔を隠す事すらせず俺に見せつけて来る。気持ちは分かるがそんな顔をしたって駄目だ。
「見たまんまだよ」
いや、そうじゃないだろ。他にもっとあるだろうが。
クレイヴの言葉に俺と影光、アインは嘆息する。
そうかもしれないが俺たちが来るまでの間の事を話せって言ってるのにクレイヴの奴早く戻りたいから省こうとしてやがるな。
「お前から見てあの冒険者たちの実力と能力について話せ」
「はぁ……分かりましたよ」
ここで愚痴っても時間が無駄に経過するだけだと分かったクレイヴは面倒臭そうに頭を掻きながら説明し始める。
「見ての通り5人編成のパーティーで、体格の良い男が前衛でタンク兼パーティーリーダーって感じ、魔法弓を持ったエルフの女が後衛。猫獣人の女と狼獣人の男2人が前衛の攻撃担当と言ったところでしょうね。ただ一番後ろのフードの奴が何者なのかは分かりませんが」
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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