魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第六話 遠ざかる異世界自由ライフ

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 夕食を終えて寝室に戻った私はベッドに座って髪を結っていた。
 だけど、それは唯の見せ掛け。本当は炎龍退治の事を思い出していた。
 圧倒的力の差に絶望し、死を覚悟した。だけど突如現れたジンの戦いに私は魅了された。けど、その戦い方はとても美しいと言える物じゃなかった。どちらかと言えば野蛮人のような戦い方だった。でも炎龍に反撃させる隙すら与える事無く倒してしまった。
 異常とも言える圧倒的身体能力だけで、近づき翼を無力化すると、あの巨体を引っくり返し胸を貫いた。
 その姿に私は嫉妬した。いったいどれだけの才能を与えられたの?そう思ってしまった。だけど、違った。ジンに才能なんてなかった。どちらかと言えば劣等に分類されるほどの才能しか持ち合わせていなかった。そんなジンがどうやって今の強さを手に入れたのかとても気になった。
 だから私は勇気をだして訊いてみた。
 そして返って来た答えに私は驚きを隠せなかった。魔王や勇者、迷い人、送り人たちですら恐怖し近づけもしない地獄島ヘル・アイランドで生きたいと願い、行動してきた。それが如何に辛く壮絶な生活で大変だったかは私には分からない。ただジンの強さの根源を知れた事に嬉しいと思う私が何故か居た。

「平然とタメ口で話しているのに何故か嫌な気分にならないのよね」
 気がつけばそんな事を口にしていた。それが何故なのか私には分からなかった。

「もしかしたらまた魔物に襲われるかもしれないし、寝るとしましょうか」
 部屋の電気を消した私はベッドに横になるのだった。

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「ねぇ、ジンはこれからどうするの?」
「ん?急にどうしたんだ?」
 銀に起こされ身支度を整えた俺は食堂車両で朝食を食べ終えたところだった。今日のモーニングセットも良かったな。特に炎龍の肉を使ったスープは格別だった。気がついたら五杯もお代わりしてしまった。やはり食ほど俺を魅了する物はないな。
 ロイドが居ないがイザベラが言うには昨日の事もあり、管制室で警戒しているらしい。ま、あいつが居ないのは喜ばしいことだ。せっかくの朝食が不味くなるからな。
 そんな食後のお茶を楽しんでいた時、イザベラが唐突に聞いてきた。あ、あれか。保護者としてちゃんと生きていけるか心配なんだな。ほんとイザベラは優しいな。どっかの腹黒女神とは大違いだ。

「そうだな。冒険者にでもなろうかと思ってる」
 異世界物の小説、漫画などにおいて主人公が就職する確率№1を誇る職業だ。ちょっと名前を記入すればなれるし、時間に縛られる事もないからな。これほど俺の性格にあった職業は他にない!本当は家で引き篭もりたいが、そんな事言えばイザベラに怒られそうなので止めておく。

「ジン、本気で言ってるの?」
 緑茶で喉を潤していると、呆れた口調で聞き返された。なにか問題でもあるのか?

「当たり前だ」
「はぁ、もしかしてジンが想像している冒険者って名前を記入すれば誰にでもなれるって思ってないでしょうね?」
「違うのか」
「はぁ、やっぱり」
 完全に呆れられてしまった。見ている俺からすれば失礼この上ない。

「あのね、ジンが想像している冒険者は600年前の話なの。今はそう簡単になれるものじゃないのよ」
「え、そうなの?」
 思わず湯呑を落としそうになってしまった。

「良いわ、何も知らないジンに私が教えてあげる」
 まるで俺が馬鹿って遠まわしに言われた気がするが、この世界の事をしらない俺からすればここは正直に聞いて置く方が身のためだろう。

「未だに冒険者って呼ばれてるけど正確には、民間軍事会社なの社員なの」
「つまり傭兵ってことか?」
「ま、大まかに言えばね。でもする仕事は魔物討伐や薬草採取がメインなの。あとは街の手伝いや遺跡調査とかもあるわね。ここらへんは昔から変わってないわ」
「なるほど」
「で、民間軍事会社と言っても一つじゃないの。この国だけでも1000はあるわ」
 そんなにあるのか。一つの会社に戦闘員、つまり冒険者が5人居たとしても5000人は居る事になるわけだ。

「で、民間軍事会社――通称【ギルド】って呼ばれていて、それぞれのギルドは見合った依頼を受けて仕事をこなすの」
「つまり、小説や漫画でいうところのパーティーやクランが民間軍事会社になったって事か」
「そうよ。それぞれのリーダーつまり社長が会社を立ち上げのために冒険者組合に申請し、それが受理されて民間軍事会社として認められるの」
 なんとも面倒だな。

「じゃあ依頼なんかは、今出てきた冒険者組合に行けば受けられるのか?」
「ええ、そうよ。だけど大抵は依頼をこなした事を報告に行く時だけで」
 イザベラはそこで一旦話を切ると喉を潤すようにティーカップに入った紅茶を一口飲む。

「大抵、依頼を受ける時は冒険者専用のホームページを利用して行うから冒険者組合に行く事は殆どないらしいわ」
 なるほどな。
 色々と物が便利になるにつれて、それに合わせてシステムも変わり効率化されて行ったってわけか。確かに5000人もの冒険者が冒険者組合に入るなんていったいどれだけ広くなければ行けないことやら。
 そう思うと冒険者専用のホームページを使った依頼受注は世界だと思う。
 だが、物が発展すると言う事は武器の性能も上がったと言う事だ。
 そんな当然と言える疑問をイザベラに問いかける事にした。

「だけど、それは大丈夫なのか?冒険者と言っても民間人が武器を持つわけだからな」
「勿論そこらへんはしっかりとしているわ。たとえばギルドがクーデターを起こせば他の冒険者や軍を総動員する決まりだし、なにより冒険者にとって一番は信頼されないと依頼を受けることが出来なくなるもの」
「それもそうか」
「それに組合の大体の仕事はギルドからの報告書の整理と国からの依頼を掲示板に載せるだけの仲介役みたいなものだけどね」
 まるで役場みたいなところだな。

「ここまでは分かった?」
「ああ。大丈夫だ」
 半分まで減った紅茶を一口飲んでから俺に視線を向けて確認してくるイザベラに俺も緑茶を一口飲んでから返事をする。

「それじゃあ、次はどうやったら冒険者になれるかだけど、これはどの国でも同じ。必ず冒険者育成学校や冒険者育成科に入り、卒業すること。これは絶対よ」
「なんで冒険者になるのに学校なんかできたんだ?」
「色々理由はあるけど、やっぱり生存率の問題でしょうね。一時期駆出し冒険者の生存率が3割を切ったことがあったの。そこから学校が設立されるようになったのよ」
 イザベラの言葉を聞いて俺は納得してしまった。
 新人の生存率が3割を切るなんて最悪も良いところだ。
 誰だって生存率が3割を切るような仕事をしたがる様な奴はいない。ま居たとしてもそれはただの馬鹿か物好きぐらいだろう。
 だがそれでは冒険者組合にとっては今後に関わって来ることだからだ。

「つまりなんだ。冒険者になりたかったら冒険者育成学校を卒業しろってことか」
「そうよ」
 ガタンッ!
 俺は思わず、テーブルに額をぶつけながら突っ伏す。
 イザベラの説明に納得はした。だが人間とは説明されたからと言って自分の感情や欲望を直ぐに抑えられるほど出来た生き物じゃない。それは俺も同様にだ。マジか。登録用紙に名前や戦闘スタイルを記入すればOKじゃないのかよ。これじゃ俺が望んだ冒険ライフは夢のまた夢じゃねぇか!

「一応聞くが入学して卒業するまでに何年掛かる?」
「落第や留年しなければ4年で卒業出来るわね」
「マジか……」
 突きつけられた現実に俺は絶望する。中世ヨーロッパ時代で直ぐに冒険者になれると思ったのに。現実は現代とそんなに変わらないし、学園を卒業しなければならない。つまり現代知識を活かした金儲けや冒険者として自由奔放にに生きる事も不可能とは何たる事か。これなら気まぐれ島で好き勝手生きてた方が良かった。っ!いや、まだ手はある!

「一つ聞くが飛び級とかないのか?」
「一応あることにはあるけど……実技だけでなく座学でも良い成績を残さないと駄目よ?」
「は?座学なんて要るのか?」
「当たり前でしょ。馬鹿でもなれたのは昔の話よ」
 それは昔の人に失礼じゃないか?いや、今はそんな事思ってる場合じゃない。

「座学ではどんな事学ぶんだ?」
「冒険者専門の事は私には分からないけど一般教養なら良いわよ。はい」
 そう言ってイザベラはテーブルに置いていたタブレットを数度タッチすると渡してくる。
 そこに映し出されていた内容に俺は目玉が飛び出そうになった。

「これ……本当なのか?」
「ええ、冒険者になるには必要な一般教養よ」
 そこに映し出された問題は全て難問。
 これって大学生が習う問題じゃないのか?高校生が習うにしてもどうみても進学校レベルだろ。
 俺も大卒とは言え、三流大をギリギリ卒業しただけだぞ。ま、そんな俺がこんなの出来るはずがない。てか、冒険者の連中どんだけ頭良いんだよ。普通に一流企業に入社するか官僚にでもなってろ!

「その問題を満点取るぐらいじゃないと飛び級は無理ね」
「イザベラはこの問題解けるのか?」
「私は中間期末で満点以外取った事ないわよ?」
 このチートめ!何が才能がないだ!俺なんかよりハイスペックじゃないか!

「それで、どうするの?」
「ぐぐぐぐ……」
「ただ、ジンの場合は18歳だから、編入という形になるでしょうね。そうすれば、残り一年間通うだけで卒業証書が貰えて冒険者になれるわ」
「本当か!」
「勿論、知識や実力が無ければ18歳でも一年生から通う羽目になるけど、実技は問題ないだろうし、勉強だけ頑張れば大丈夫よ」
 一年間久々に学園生活を送るのも悪くない。その間は働かずに済むんだからな。

「もし良かったら私が教えましょうか?私が通う学園なら編入試験はいつでもやってるし」
 この話は正直有難いが、18歳の少女に前世も合わせて37歳のおっさんが勉強を教わると言うのはどうかと思う。だが、それ以外となるとまたあの時間に縛られた生活になってしまう。それだけはなんとしても回避しなければ!一番はイザベラに養ってもらう事だが……いや、それはもっと駄目だ。18歳の少女に養ってもらう37歳のおっさんなんてどうみても駄目人間でしかない!それは俺のプライドが許さない!

「お、お願いします………」
「どうしてそんなに嫌そうなの?もしかして私に教えて貰うのが嫌とか?」
 少し悲しそうな表情になるイザベラを見て俺は慌てて訂正する。

「ち、違うぞ!断じて違う!」
 勉強を教えるだけなのに、なぜ辛そうな表情をするんだ。

「じゃあ、なんで?」
「………勉強が嫌いなんだ」
「………なら、厳しく教えるわね」
 満面の笑みでそう言われた。ああ、これほど恐怖を感じる笑みは初めてだ。
 後悔するも、すでに遅し。イザベラによるスパルタ教育が始まるのだった。今すぐ気まぐれ島に帰りたい。


 次の日、早速イザベラによるスパルタ教育が始まった。
 別に今すぐ始める必要はないと思うと、提案したんだが。

「冒険者になりたいんでしょ。だったら頑張らないと。それにいつでも編入試験はやってるけど、私が教えられるのは春休みで長期間中の今しかないの。分かった?」
 って事らしい。有無を言わせぬその迫力に俺は従うしかなかった。
 それにしてもどうしてここまでしてくれるのか俺には分からない。保護者としてか?それなら仕方が無いな。この世界の事をしらない俺が街に出れば1日でホームレスになれる自信がある!アハハハ凄いだろ!

「勉強に集中する」
「はい」
 俺はこうして黙々と勉強する羽目になった。銀のやつ気持ちよさそうに昼寝なんてしやがって!昼飯抜きにしてもらおう!

「ちゃんとしないと昼食抜きにするわよ」
「はい」
 ああ!俺の自由異世界ライフはどこに行ったんだ!
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