魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第十三話 26億RKの虫

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 その日の夜。夕食を終えた俺は書斎に呼ばれていた。まさか街での出来事の事を言われるのか。それともフェアリーパラダイスの戦況報告でありますかハロルド閣下。
 ドキドキしながら俺は書斎のソファーに座る。この場所には俺、イザベラ、ロイド、ライオネル、ハロルド、ライラ、セバスが集まっている。リリーは銀と一緒に入浴中だ。

「さてジン君。今日のお昼頃に学園長から編入試験の合格通知があったよ」
「良かったわね、ジン」
「ああ、あの地獄を……なんでもありません」
 本人の前で言ったら何をされるか分かったものじゃないからな。

「だけどいったい何をしたんだね?学園長が驚いていたよ。彼はいったい何者なんだってね」
 そんな事言われても困る。イザベラとの約束だからな。喋ったら一週間断食ではすまないだろう。

「で、明日はイザベラと一緒に学園で着る制服や実戦演習で使う戦闘服を買ってくると良い。費用はこちらで出すから安心したまえ」
 そうか。なら遠慮なく。

「あ、それとマスカットに行ってタブレットを買ってくると良い」
「タブレット?何に使うんだ?」
「スヴェルニ学園はね。タブレットを使って授業をするの。そうすれば教科書やノートを持ち運ぶ必要もないでしょ?」
「なるほど」
 前世の学校より最先端だな。羨ましい。

「話は以上だ。もしも学園について知りたいことがあるならイザベラやライオネルに聞くと良い。ま、二人とも軍務科だから、冒険科については詳しくないが許してくれ」
「分かった」
 こうして話は終わった。そうか受かったのか。これで目的にまた一歩近づいたな。

 次の日、俺は再び街に来ていた。三日連続で街にくるなんて最初は想像もしてなかったな。まるでニートのセリフだが、気にしないぜ。だって、ずっと屋敷の中で地獄の試験勉強だったからな。
 今日は4月7日。学園に通うのは4月9日だから、最低でもその前の日には寮に入っておかないといけないらしい。つまりこの都市とも今日でお別れだ。存分に堪能しておこう。特に夜にはまたあのフェアリー・パラダイスに行って楽しむとしよう。

「ジン鼻の下が伸びてるわよ」
「っ!」
 おっと拙い。俺としたことが、つい、本能が顔に出てしまった。

「何を見ていたのかしら?」
「な、何って、それは………あ、あの店を見ていたんだ!」
 俺は咄嗟に中華料理屋を指差した。近くに飲食店が会ってマジ助かった。

「本当に?」
 しかし挙動不審過ぎだのかイザベラは疑いの目を向けてくる。
 まるで蛇に睨まれた蛙の気持ちだ。死ぬわけじゃないけど。いや、もしかしたら死よりも恐ろしいめにあうかもしれない。
 ならここは全力で誤魔化し通さねば!

「あ、当たり前だろ。俺が食い物に目が無いのは知ってるだろ」
「そうね。でも、お金も大好きでしょ」
「勿論だ」
 お金が無ければ好きな事も出来ないし、食べたい物も食べられないからな。

「でも、食べ物なら普通、涎とかじゃないの?どうして鼻の下が伸びるのかしら?」
「俺は美味そうな物を見ると鼻の下が伸びるんだ」
「ふ~ん。そ~なんだ」
 拙い。疑っている目が鋭くなっていく!。ここはなんとしても乗り切らなければ。

「そ、それよりも、制服を買うって言ってたけど、どこで買うんだ」
「…………」
「…………」
 無言で睨まれてる。そんなイザベラの姿に俺も黙り込みゴクリと喉を鳴らす。超怖い!

「ま、良いわ。制服を買うのはあの店よ」
 そう言って指差したのは中華屋とは遠く離れた反対側のお店だ。正直お店の看板がギリギリ見えるぐらいの距離だぞ。
 歩いて向かうとガラスケースの中にスーツなどが飾られていた。

「入るわよ」
「ああ」
 自動ドアではなく、引き戸を開けて中に入る。

「いらっしゃいませ。あ、これはイザベラお嬢様、いつもお世話になっております」
 女性店員が笑顔で挨拶してくる。
 どうやらここは見知ったお店らしい。

「それで今日はどういった服をお求めでしょうか?」
「今日はジンの、彼の制服を買いに来たの」
「そうですか。分かりました。ではいくつか用意しますので少々お待ちください」
 自分で選ぶのかと思ったのにな。
 生活水準は前世と変わらないからな、古着やオーダーメイドと言う事はないんだろ。きっと少しだけ裾や袖の長さを調整して貰う程度だ。

「本当ならオーダーメイドで頼むんだけど時間もないし、良いわよね」
「ああ」
 前言撤回。これだから金持ちは。

「お待たせしました」
 俺は渡された服を持って試着室に入った。
 数分で着替えてカーテンを開ける。

「どうだ?」
 178センチと身長も少し高めだからな。別に似合わないと言う事はないはずだ。

「うん、似合っているわ。ただ少し袖が長いかしら」
「この程度巻くっておけば平気だろ」
「駄目よ。どんな理由があれ、ジンも国立スヴェルニ学園の生徒になるんだから、ちゃんとした格好をして貰うわ」
 めんどくせぇな。

「今、めんどくせぇって思ったでしょ」
「ソンナワケ、ナイダロ」
「なんで片言なのか気になるけど、まあいいわ」
 ほんと鋭いな。

「それじゃあ、少し袖を短くしてちょうだい。あ、それとワッペンは冒険科のを入れておいて頂戴」
「軍務科じゃないのですか?」
 以外に感じたのか女性は質問する。しかし、客の事情を詮索してしまった事に思わず口元に手を当てる。
 しかし、イザベラは気にした様子もなく答えた。

「ええ、彼は私やロイドと違って冒険科よ」
「分かりました。1時間ほどで出来上がりますが、その間どうなされますか?」
「実技用の服も買わないといけないから、そっちで買い物してからまた取りに来るわ」
「分かりました」
 女性店員に見送られながら俺たちは別の店に向かう。

「あそこで実技用の服も買うんじゃないのか」
「あそこは社会人のスーツや学生服を扱うお店なの。だから模擬戦や実技演習を行う戦闘服は取り扱ってないの」
 なるほど、使う生地も違うだろうしな。

「それじゃあ、向かうわよ」
 俺たち三人は徒歩十分の距離にあるミリタリー専門のお店に入った。前世とは違い全ての商品が実戦で使われる品って事もあり男の俺としては少し興味を引かれる。色んな品があるな。迷彩服に銃のアタッチメントなんか品揃え豊富だな。
 20分ほど掛けて戦闘服を3枚ほど購入した俺たちは再び店に戻る。時間的にも待たずに済みそうだ。
 再び店に入るとさっきの女性店員が出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。夏用、冬用の制服になります」
「どうも」
 大きな紙袋に入れられた品を受け取る。それにしても夏用と冬用なんてあるのか。一着しか着なかったけど、生地や通気性が違うのか?

「それでは全部で三十二万RKになります」
 三十二万RK!制服にどんだけ金を使うんだよ!それだけあればハンバーガーが幾つ買えると思ってるんだ!

「ありがとう、クレジットで構わないかしら?」
「はい」
 流石は大富豪の公爵令嬢。俺とは金銭感覚が全然違うぜ。
 買い物を終えた俺たちは店を出た。それじゃ帰る――

「次はジンの私服を買いに行くわよ」
「まだ買うのか」
「当たり前じゃない。全寮制だけど、休日には外に出歩いたりするし、室内で着る服だっているでしょ。他にも日用品とか買わないと。ジンは心配しないで支払いは全てお父様持ちだから」
 そう言ってイザベラは先ほどの黒地に金で文字が施されたクレジットカードを見せてくる。流石はお金持ち全てにおいて俺の考えを凌駕してらっしゃる。いや、俺が生活に無頓着なだけなのか?

「本当なら制服もオーダーメイドにしたかったのよ」
「どうせ一年しか通わないんだから、そこまでする必要性はないと思うが」
「なに言ってるのよ。一年しか通わないから思い出に良い物を使うんでしょ」
 庶民と金持ちの違いだな。

「一つ聞くがもしもオーダーメイドだったら幾らするんだ?」
「そう言われてもね。付与する魔法とかの種類やランクでも変わってくるし、付与する数でも違うから。たしかロイドのもオーダーメイドよね?」
「はい」
「幾らしたの?」
「もう数年前ですし詳しくは覚えていませんが、百二十万RKはしたかと」
「夏用、冬用合わせてか!?」
「馬鹿かお前は。一着でだ」
「……………」
 どうやら金銭感覚がおかしいのはイザベラだけじゃなかったようだ。
 結局その後も日用品や服や下着などを買って帰ることになった。荷物は全てアイテムボックスに入っているので手ぶらで帰れるから楽だな。

「ジンのその固有スキルは羨ましいわね」
「イザベラは持ってないのか?」
「当たり前じゃない。普通はお店に頼んで送って貰うか、執事やメイドに頼んで代わりに持って帰って貰うものよ」
「いや、それも普通じゃないと思うぞ」
「そうかしら?」
 ダメだ。変なところで常識知らずだ。いやこの世界ではあたりまえの事なのか?だったら常識知らずは俺って事になるわけで………納得いかん。

「でもアイテムボックスなら持っている奴は多いと思うが?」
「そうでもないわよ。固有スキルを持っている人間の方が遥かに少ないもの。でも確かにアイテムボックスを持っている人は居るわね。特に迷い人や送り人は必ず持っていると言われているわね」
 そうなのか。それもあの捻くれ女神によるものだろうな。

「それでジンのアイテムボックスの容量はどれくらいなの?」
「容量?なんだそれは?」
「まさか知らないの?」
「ああ、今まで満タンで物が入らなくなったことがないからな」
「「…………」」
 何故か目を見開けて放心状態になる二人。イザベラの両親やライオネルもなっていたが、良くあることなのか?それよりもアイテムボックスに要領制限があるなんて始めてしったな。今度調べてみるか。

「一つ聞くけど、今日買った物意外でなにが入っているの?」
「何ってそりゃあ、骨や牙、爪だろ。あとは鱗に皮、綺麗な鉱石になんかの羽。ま、色々な物が沢山入ってるな」
 皮剥ぎの時はどうにか持って出来たけど、骨なんかは持てなかったからな。アイテムボックスに入れるのが大変だったぜ。好きな場所にアイテムボックスを開けるから良かったものの。そうでなければ放置するしかなかったぜ。そう言えば途中から楽しくなって一人でキックゴルフみたいな事してたな。どれだけ小さい穴に蹴って入れられるかって。ま、途中で一人でやってて空しくなって止めたけど。

「ねぇもしかしてその骨や爪って地獄島ヘル・アイランドの物?」
「勿論そうだが?」
「「……………」」
 ん?急にどうしたんだ。二人とも目の色が変わったが。

「今すぐ帰るわよ!」
「はい。お嬢様!」
 突然走り出したイザベラとロイドの姿に俺は戸惑いを隠せずアホな言葉が漏れる。
 元々常人よりも身体能力の高い2人はたった数秒で100メートル弱も離れていた。前世なら間違いなくオリンピックや世界大会の100メートル走で1位取れただろうな。

「ジン何をしてるの、早く!」
「さっさと走れ!この鈍足」
 俺が呆然と立っている事に気が付いたのか走りながら振り向きそんな事を言ってくる。やぱり俺も走る羽目になるんだな。

「なんだとテメェ!」
 俺たちは走って屋敷まで戻ることになった。いったいどういう事なのか説明しろっての!
 二十分ほど走って到着した俺たちはそのまま書斎に向かった。で、何がなんだか分からないうちに、俺、イザベラ、ロイド、ハロルド、ライラ、ライオネル、セバスが集まっていた。てか、いつものメンツだな。

「それでイザベラどうしたんだ。急にライラたちを集めてくれって言ったが」
 何も知らないハロルドは困惑気味に聞いてくる。当たり前だな。俺も理解出来てないんだ。

「お父様、ジンはアイテムボックスを持っています」
「それは知っているよ。ステータスを見せて貰ったからね」
「お父様たちは忘れたのですか。ジンがここに来る前、どこに居たのか」
「「「「!」」」」
 イザベラの説明でハロルドたちは理解したらしい。ごめん。俺にはさっぱり分からないんだが。

「ジンはあの地獄島ヘル・アイランドで戦って生き抜いた男です。そんなジンのアイテムボックスには地獄島ヘル・アイランドの魔物たちの骨や爪が入っています」
「なんと!」
 ハロルドのおっさんなんだか嬉しそうだな。

「ジン、悪いんだけど見せて貰える?」
 イザベラが振り向きそう言ってくる。俺も今の説明で何となく理解はしている。
 だが、問題なのは何を見せれば良いかだ。俺はあの気まぐれ島で5年間過ごしてきた。つまり5年間で手に入れた皮や骨、爪に牙、鱗、鉱石など多種多様の物が入っている。
 だからこそイザベラはそのどれを求めているのか分からないのだ。選択肢が多すぎて悩むって奴だ。

「何をだ?」
 だからこそ俺は問う事にした。

「骨や爪、牙に皮。地獄島ヘル・アイランドで手に入れた物全てよ」
「ここに出すのか?」
「ええ、そうよ」
「それは無理だ」
「なんで!」
「すべて把握してるわけじゃないが、この部屋に入りきる量じゃないんだ」
 あの島で手に入れた物は正直尋常じゃない。
 この書斎は一般的な書斎よりも広いのは確かだ。さすがは公爵家と言いたいほどに。
 それでもこの書斎に入りきる事はない。きっと海沿いに生息していた双頭鋼刃蜥蜴ダブルヘッド・ドラゴンの白骨死体一匹分も入らないだろう。
 因みにドラゴンと名前にあるが、龍種ではない。完全な別の種だ。ま、龍種の劣等版とでも思っていてくれ。

「「「「「「……………」」」」」」
 あ、今度は全員が一時停止状態になった。これは何かのお呪いか何かなのか?

「なら、なんでも構わないから少しだけ出してみて」
「わ、分かった」
 イザベラさん。さんだか目が血走って怖いんですけど。
 俺は適当にアイテムボックスから牙や爪、皮なんかを幾つか取り出す。

「これで良いのか?」
「…………」
「無視ですか」
 テーブルの上には黒い爪や白い毛皮を見て品定めを始めるルーベンハイト一家。なんだこの光景は。

「なんの魔物の牙か分からないが、これほど強固な物は初めてだ。それにかなりの魔力を宿している」
「こっちの黒い爪も見事です。鋭く、少し先端を触っただけで指先が切れそうなほどだ。これで剣や弾丸を作ったら炎龍の鱗なんて一瞬で貫通するんだろうね」
「この毛皮も素晴らしいわね。触り心地も最高だわ。これで服や羽織をつくったら最高でしょうね」
「この鉱石はなにかしら見たこともないけど。まさか失われたとされている伝説のオリハルコンなのかしら?」
 なんだか下種な空気が漂いだしたが、大丈夫か。

「ジン君。これを売ってはくれまいか」
「は?」
「ダメよお父様!もしもそれをすれば犯罪よ!」
「むっ、しかしだな………」
「犯罪になるのか?」
 俺が倒した魔物の骨や牙、つまりは所有物を誰かに売るだけなんだから別に大丈夫だと思うが。
 まさか、資格が居るとかじゃないよな。別にお店を開くわけじゃないんだが。

「ええ。高価な魔物の素材は高く取引されているのだけど、その分世界条約で討伐報告がされていない魔物の素材の販売を行ったら犯罪になるの」
「そうなのか」
 色々とあるんだな。

「因みに聞くがその黒い爪一個で幾らするんだ?」
「なんの魔物か分からないが、最低でも一億RKはするだろうね」
「一億!そんな爪が!」
「勿論だ。ジン君も知っての通り地獄島ヘル・アイランドは魔王や勇者、迷い人、送り人ですら死ぬ危険性が極めて高い島だ。それどころかまともに近づく事すら出来ない島だからね。そのため地獄島ヘル・アイランドで取れる素材は数が少なくいから、とても貴重な品なんだ。また素材の純度もランクも素晴らしいって言うこともあるから高く取引されてるんだ。10年ほど前に地獄島ヘル・アイランドで生息されていると言われているこれぐらいの虫の死骸がオークションに出されてね」
 ハロルドのおっさんが両手でサイズを表現する。見た感じ蝉サイズだな。

「その時はたしか………26億RKにもなったんじゃなかったかな」
「26億!?そんな蝉サイズの虫が!」
「そうだ。もちろん虫って事もあって装飾品としての意味合いが大きかったけど、もしもそれが武器や魔法道具なんかに実用可能な品だったりしたら、その倍以上の値段がついてもおかしくはなかった」
 倍だってマジか……ん?装飾品ってあの黄金虫みたいな虫の事か?

「それにその虫は調べる限り海沿いに住む虫だ」
「そうだろうな。そのサイズの虫は海沿いの森にしか居ないからな」
 心当たりがあるだけで、ハロルドのおっさんが言っている虫と同じかは分からない。だが海沿いの森に生息していて、蝉サイズ、それも装飾品として活用が出来る虫となるととてつもなく限られてくるからな。

「見たことがあるのかい」
「見たことがあるもなにも。これだろ?」
 俺はアイテムボックスから思い当たる虫の死骸を取り出す。

「おおっ!まさにその虫だよ!まさか再びお目にあえるなんてね!」
「言っておくけど、こいつ危険だぞ」
「え?」
 その言葉に触れようとしたおっさんの手がピタリと止まった。

「ひ、一つ聞くけど。どれぐらい危険なのかな?」
「綺麗な色をしているが、これは光る物に反応する魔物を誘き寄せるためのものだ。で、近づいてきた魔物に口にある牙から毒を注入して殺すんだ」
「ち、因みにその毒の強さは?」
「そうだな。イザベラたちに分かるように説明するなら、その毒一滴で炎龍が一瞬で死ぬほどだな」
「い、一瞬で?」
「一瞬で」
 ザッ!
 その言葉に全員が壁際まで離れる。なんて俊敏な動きなんだ。俺の目でも捉えられなかったぞ。

「で、でも炎龍の鱗はとても強固なのよ。その小さな牙で砕けるとは思えないけど」
「こいつらの牙は易々と地獄島ヘル・アイランドに生息する地龍の鱗に穴を開ける程だぞ。それにこいつらの顎は強靭だ。一度挟んだらその周りの肉を抉り取らないと取れないほどだ」
「そ、そんなになの?」
「ああ、それにこいつらは蟻みたいに集団で動くし、肉食だからな。目の前で骨になるのを見たときは流石の俺も驚いた」
 あれはマジで凄かった。早送りで生物が骨になる感じだったな。

「そ、そんなになのね……」
「それよりもそんなに怖がらなくても良いだろ?」
「そんな危険生物出さないでよ!」
 まるでガキが虫が嫌いな女子に嫌がらせで近づけるみたいな光景になってるんだろうな。

「危険なんてあるわけないだろ。死んでるんだから」
「そ、そうなの?」
「当たり前だろ。アイテムボックスには生きた生物は入れられない事ぐらい知ってるだろ。まさか忘れていたととかじゃないよな?」
「も、勿論よ」
 これは完全に忘れていたパターンだな。

「そ、そうか死んでるのかそれなら安心だな」
「でも、牙には毒があるから気をつけてな」
「今すぐしまいなさい!」
「はい」
 なぜか叱られてしまった。

「それにしても色んな物を持ってるねジン君は」
「まあな。5年間もあの島に居ればそれなりに物は手に入るからな」
「因みに好奇心で聞くけど、デスエリア。島の中心部分に生息する素材は持ってないよね」
「島の中心って龍神や神獣たちが生息する場所のことか?」
「その通りだ」
「持ってるぞ」
「「「「「「え?」」」」」」
 全員が驚きの表情で聞き返してくる。なんで聞き返してくる。5年間も住んでいたんだから持っていてもおかしくはないだろ。

「だから持ってるって。俺が守護している狼がなんなのか忘れたわけじゃないよな?」
「そう言えば銀は神狼だったわね」
「そうなのか!」
 そう言えばハロルドのおっさんたちは知らないんだったな。

「5年間の島生活のうち二年間は島の中心で暮らしてたからな俺」
「「「「「「……………」」」」」」
 あ、またフリーズした。ほんと多いな。なにかの病気じゃないのか?

「ダ、ダメだ。これ以上話についていけない。すまないがこの話はまた別の機会に頼む」
「分かった。あ、今出してるそれ。欲しいならあげるぞ?」
「「「「「「本当に!?」」」」」」
「あ、ああ。命の恩人だし、この屋敷で居候になってるわけだし。それに学費まで出して貰えるわけだからな」
「だが、学費ならこの爪一個で余裕で払えるんだぞ」
「爪があってもお金じゃないからな。勝手に販売したら罪なんだろ?」
「そうだ」
「だったら受け取ってくれ。これは販売じゃなくてお礼だからな。それなら問題ないだろ?」
「ああ、問題ない」
 そうか。なら良いや。いや待てよ。あれを売れば間違いなく大金持ち。好きな事だけして一生暮らせる額が手に入る。そうなれば俺は働かなくて済むんじゃないのか?

「ジン、勝手な販売は犯罪よ。今自分で言ってたじゃない」
「だが、ちゃんと報告すれば問題ないんだろ?」
「でも、そうすればジンの正体を国や色んな場所に報告しないといけなくなるの。そうなればジンの許に沢山の人が押しかけてくるわよ。国や軍人に冒険者。お金目当ての勧誘や犯罪組織なんかがね。それでも良いの?」
「それは嫌だ。俺は静かに好きな事だけして生きたい」
「その考えには賛同できないけど、つまりそういう事。分かった?」
「はい……」
 クソ、やはりダメだったか。この世界の時代が中世ヨーロッパだったら余裕で金持ちになれたのにな。はぁ……どうしてこうなるんだ。
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