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エリオと結婚するにあたって、彼のご両親に挨拶をしに行くことになった。
ちなみにうちの両親は未だにどこぞの金持ちのところに嫁がせて玉の輿だ、みたいなことを言っているので、顔は合わせずに手紙だけで済ませてぇなめんどくせぇと思っている。
「毎日銃を担いでる野蛮な女との結婚なんか許してもらえるのかな」
自国の王都を目指す馬上で、私はぽつりと零す。
「うちの両親はそういうの大好きだよ」
大好きなら良かったわ。良かったのか?
しかし魔王討伐の旅ではこんななんの変哲もない道でも魔物が出て来たりしていたのに、今はもうたまに可愛らしい野生動物が出てくるくらいでスライムの一匹だっていない。
平和になったものだ。
「あれが俺の家だよ」
エリオがそう言って指示したのは、まぁまぁデカい邸だった。
モブと思って油断して深くは聞いていなかったけれど、結構いいとこのお坊ちゃんだったりするのかもしれない。
俄然緊張してきた。
「ちゃんとしたドレスとか着てくるべきだったんじゃないかな」
「ドレスじゃ馬には乗れないよ」
ごもっともですけれども。
あまりの緊張にもたもたしていたら、エリオにぐいぐいと腕を引っ張られる。
「大丈夫だって。魔王より怖いものなんかこの世にないから」
いやごもっともですけれども。
でも緊張と怖いとでは話が違うというか、やっぱ多大なる心の準備が必要というか。
「ただいまー」
エリオー!
「まあ!」
エリオの声に気が付いたメイドさんが嬉しそうに声をあげる。
「皆様英雄がいらっしゃいましたよー! あ、エリオ様おかえりなさいませ」
「俺はおまけなの?」
エリオの不満はスルーされ、使用人の皆様がわらわらと集まってくる。
そしてエリオのご家族の皆さんも姿を現した。
「初めまして、ミレイアと申します」
緊張をひた隠しにして、しっかりと頭を下げる。そうして頭を上げて驚いた。
エリオのお父様が、あの続編で悪役令嬢が結婚するはずだったクソイケメンクソイケボキャラだったのだから。
急いでお母様の顔を確認したけれど、もちろん悪役令嬢ではなかった。
そうなってくるとあの魔王討伐の旅で純度の高いモブは結局私だけだったんだな。なぜだ。なぜ私は巻き込まれたんだ。……特殊スキルが便利だったからかな……?
「英雄様、英雄様、魔王を倒した時の話を教えていただけませんか?」
超絶美少女に声をかけられた。エリオの妹らしい。そしてお転婆らしく、戦う女に憧れているんだそうだ。
ちなみに、さっきからちょいちょい私が英雄と呼ばれているのは、大体ヒロインのせいだ。
彼女は魔王に取っ捕まった際、攻略対象キャラたちに置き去りにされたのが余程頭に来たようで、旅を終えた後で暴露本を出版していた。
そこには第二王子はもちろん、近衛隊の銃士である男でさえも尻尾を巻いて逃げ出したのだと面白おかしく書かれていた上に最終的に魔王を倒したのはミレイアただ一人だったとしっかりと書かれていた。
結果として第二王子を悪く書いているので不敬罪とかその辺は大丈夫なのだろうかと疑問に思ったけれど、どうやら噂によるとヒロインは現在消息不明らしい。上手いこと逃げたのだろう。
で、その暴露本がめちゃくちゃ流行ったせいで、私はいつしか英雄と呼ばれるようになっていたわけだ。なんとも迷惑な話である。
モブはモブらしくひっそりしていたいというのに。
その後、エリオのご家族と一緒にお食事をしたり、魔王討伐の旅の話をしたりと穏やかな家族団らんの時を楽しんだ。
そして、私がこの国でずっと気になっていたことを確かめに行くことにした。
「ミレイア、行きたいところがあるんだっけ」
「そう。アイスクリーム屋なんだけど」
「あぁ、流行ってたとこ? 辺鄙なところにあるけど、馬ならそう時間はかからないよ」
「前から食べてみたかったんだよね」
と言うのは建前で、悪役令嬢の現在がただ見てみたいだけだ。単なる好奇心で。全てを放棄した彼女は今幸せなのだろうかと。
故意ではないとは言えモブである私に魔王討伐という役割を擦り付けたのだから、あまりにも幸せだとちょっともやっとしちゃうかもしれないなぁ。でもクソイケメンクソイケボキャラとは出会ってないわけだし、どうなんだろう?
まぁ結婚だけが女の幸せってわけでもないし? アイスクリーム屋さんの大繁盛が彼女にとっての幸せかもしれないし?
なんてあれこれ考えていたら、いつの間にかアイスクリーム屋に到着していた。
「思ったより人少ないね。大繁盛って噂を聞いてたんだけど」
「俺たちが魔王討伐に行く前はね。妹に聞いた話だけど、最近では安価な類似品が出回ってるから客が減ってるんだってさ」
「そうなんだ」
大繁盛もひと時の夢だったらしい。
幸せだともやっとするとは言ったけど、ちょっと複雑だな。
店内に入ると、そこにはちらほらとお客さんがいる。ドアの開閉音のせいか、そのお客さんたちの視線がアイスクリームから入ってきたばかりの我々に移り、アイスクリームに戻り、もう一度こちらに戻ってくる。
それはそれは見事な二度見だった。小さな声で「英雄だ」と言っているのが聞こえたので、私の存在に気が付かれてしまったようだ。
悪役令嬢も、気が付くのだろうか。自分の尻ぬぐいをした奴がここにいることを。
そう思ったけれど、目が合った彼女は私の姿を見ても何一つとして表情を変えることはなかった。やっぱり知らないのだろう。続編の存在を。
「いらっしゃいませ」
普通の接客だもの。
私はミルクとチョコレートのダブル、エリオはミルクとベリーのダブルを注文して、ただただ美味しく楽しいデートを楽しんだ。
旅の途中では無銭飲食でもしてやろうかと思っていたんだけどね。
「さて、そろそろ戻ろうか。準備も整っただろうし」
「準備?」
「俺の家族がパーティーの準備をしてくれてるんだって。結婚祝いの」
「なにそれ、楽しみ!」
うきうきしながらお会計を、と思ったら、悪役令嬢に止められた。
「ごちそうさせてください、この国の英雄様」
なんて言われて。……本当に無銭飲食することになるとは思わなかったわ。
本来ならこのまま黙って帰るつもりだったのだが、悪役令嬢の顔を見た瞬間、口を衝いて出てしまった。
「あなたは今、幸せですか?」
と。
彼女は驚いたように目を瞠ったけれど、すぐに少し寂しそうに笑う。
「……夢を叶えられたから、それなりに」
「そうですか。……それじゃあ、さようなら」
「……ありがとう。ごめんなさい」
消え入りそうな声が聞こえた気がして振り返ったものの、そこに悪役令嬢はもういなかった。
「ミレイア? どうかした?」
「ううん、行こうか。あ、ちょっと寄り道してもいい? 武器屋なんだけど」
「いいけど、また武器増やすの?」
「火竜対策の散弾銃が欲しくて!」
「分かったよ。もうミレイアが幸せそうならなんでもいいよ」
「え、私幸せそう?」
「うん」
たった今、悪役令嬢に対する恨みが全て消えた気がした。
「幸せついでにバズーカも作っちゃおうかな」
「それはさすがにやめて」
ダメでした。
ちなみにうちの両親は未だにどこぞの金持ちのところに嫁がせて玉の輿だ、みたいなことを言っているので、顔は合わせずに手紙だけで済ませてぇなめんどくせぇと思っている。
「毎日銃を担いでる野蛮な女との結婚なんか許してもらえるのかな」
自国の王都を目指す馬上で、私はぽつりと零す。
「うちの両親はそういうの大好きだよ」
大好きなら良かったわ。良かったのか?
しかし魔王討伐の旅ではこんななんの変哲もない道でも魔物が出て来たりしていたのに、今はもうたまに可愛らしい野生動物が出てくるくらいでスライムの一匹だっていない。
平和になったものだ。
「あれが俺の家だよ」
エリオがそう言って指示したのは、まぁまぁデカい邸だった。
モブと思って油断して深くは聞いていなかったけれど、結構いいとこのお坊ちゃんだったりするのかもしれない。
俄然緊張してきた。
「ちゃんとしたドレスとか着てくるべきだったんじゃないかな」
「ドレスじゃ馬には乗れないよ」
ごもっともですけれども。
あまりの緊張にもたもたしていたら、エリオにぐいぐいと腕を引っ張られる。
「大丈夫だって。魔王より怖いものなんかこの世にないから」
いやごもっともですけれども。
でも緊張と怖いとでは話が違うというか、やっぱ多大なる心の準備が必要というか。
「ただいまー」
エリオー!
「まあ!」
エリオの声に気が付いたメイドさんが嬉しそうに声をあげる。
「皆様英雄がいらっしゃいましたよー! あ、エリオ様おかえりなさいませ」
「俺はおまけなの?」
エリオの不満はスルーされ、使用人の皆様がわらわらと集まってくる。
そしてエリオのご家族の皆さんも姿を現した。
「初めまして、ミレイアと申します」
緊張をひた隠しにして、しっかりと頭を下げる。そうして頭を上げて驚いた。
エリオのお父様が、あの続編で悪役令嬢が結婚するはずだったクソイケメンクソイケボキャラだったのだから。
急いでお母様の顔を確認したけれど、もちろん悪役令嬢ではなかった。
そうなってくるとあの魔王討伐の旅で純度の高いモブは結局私だけだったんだな。なぜだ。なぜ私は巻き込まれたんだ。……特殊スキルが便利だったからかな……?
「英雄様、英雄様、魔王を倒した時の話を教えていただけませんか?」
超絶美少女に声をかけられた。エリオの妹らしい。そしてお転婆らしく、戦う女に憧れているんだそうだ。
ちなみに、さっきからちょいちょい私が英雄と呼ばれているのは、大体ヒロインのせいだ。
彼女は魔王に取っ捕まった際、攻略対象キャラたちに置き去りにされたのが余程頭に来たようで、旅を終えた後で暴露本を出版していた。
そこには第二王子はもちろん、近衛隊の銃士である男でさえも尻尾を巻いて逃げ出したのだと面白おかしく書かれていた上に最終的に魔王を倒したのはミレイアただ一人だったとしっかりと書かれていた。
結果として第二王子を悪く書いているので不敬罪とかその辺は大丈夫なのだろうかと疑問に思ったけれど、どうやら噂によるとヒロインは現在消息不明らしい。上手いこと逃げたのだろう。
で、その暴露本がめちゃくちゃ流行ったせいで、私はいつしか英雄と呼ばれるようになっていたわけだ。なんとも迷惑な話である。
モブはモブらしくひっそりしていたいというのに。
その後、エリオのご家族と一緒にお食事をしたり、魔王討伐の旅の話をしたりと穏やかな家族団らんの時を楽しんだ。
そして、私がこの国でずっと気になっていたことを確かめに行くことにした。
「ミレイア、行きたいところがあるんだっけ」
「そう。アイスクリーム屋なんだけど」
「あぁ、流行ってたとこ? 辺鄙なところにあるけど、馬ならそう時間はかからないよ」
「前から食べてみたかったんだよね」
と言うのは建前で、悪役令嬢の現在がただ見てみたいだけだ。単なる好奇心で。全てを放棄した彼女は今幸せなのだろうかと。
故意ではないとは言えモブである私に魔王討伐という役割を擦り付けたのだから、あまりにも幸せだとちょっともやっとしちゃうかもしれないなぁ。でもクソイケメンクソイケボキャラとは出会ってないわけだし、どうなんだろう?
まぁ結婚だけが女の幸せってわけでもないし? アイスクリーム屋さんの大繁盛が彼女にとっての幸せかもしれないし?
なんてあれこれ考えていたら、いつの間にかアイスクリーム屋に到着していた。
「思ったより人少ないね。大繁盛って噂を聞いてたんだけど」
「俺たちが魔王討伐に行く前はね。妹に聞いた話だけど、最近では安価な類似品が出回ってるから客が減ってるんだってさ」
「そうなんだ」
大繁盛もひと時の夢だったらしい。
幸せだともやっとするとは言ったけど、ちょっと複雑だな。
店内に入ると、そこにはちらほらとお客さんがいる。ドアの開閉音のせいか、そのお客さんたちの視線がアイスクリームから入ってきたばかりの我々に移り、アイスクリームに戻り、もう一度こちらに戻ってくる。
それはそれは見事な二度見だった。小さな声で「英雄だ」と言っているのが聞こえたので、私の存在に気が付かれてしまったようだ。
悪役令嬢も、気が付くのだろうか。自分の尻ぬぐいをした奴がここにいることを。
そう思ったけれど、目が合った彼女は私の姿を見ても何一つとして表情を変えることはなかった。やっぱり知らないのだろう。続編の存在を。
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私はミルクとチョコレートのダブル、エリオはミルクとベリーのダブルを注文して、ただただ美味しく楽しいデートを楽しんだ。
旅の途中では無銭飲食でもしてやろうかと思っていたんだけどね。
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なんて言われて。……本当に無銭飲食することになるとは思わなかったわ。
本来ならこのまま黙って帰るつもりだったのだが、悪役令嬢の顔を見た瞬間、口を衝いて出てしまった。
「あなたは今、幸せですか?」
と。
彼女は驚いたように目を瞠ったけれど、すぐに少し寂しそうに笑う。
「……夢を叶えられたから、それなりに」
「そうですか。……それじゃあ、さようなら」
「……ありがとう。ごめんなさい」
消え入りそうな声が聞こえた気がして振り返ったものの、そこに悪役令嬢はもういなかった。
「ミレイア? どうかした?」
「ううん、行こうか。あ、ちょっと寄り道してもいい? 武器屋なんだけど」
「いいけど、また武器増やすの?」
「火竜対策の散弾銃が欲しくて!」
「分かったよ。もうミレイアが幸せそうならなんでもいいよ」
「え、私幸せそう?」
「うん」
たった今、悪役令嬢に対する恨みが全て消えた気がした。
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