呪われた第三皇子と捨てられた令嬢

蔵崎とら

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 ローデヴェイク様は「ここでしばらく待っていてくれ」と言い残し、この部屋から出ていった。仕事の都合をつけてくるそうだ。
 私はお宿初体験とはならなかったため、ほんの少しだけ残念に思っていたけれど、なんとなくうきうきで準備をしている使用人さんたちを見ているとどうしてもお宿に泊まりたいとは言えなかった。
 しかしアンジェリアとしてここに来たときはあまり歓迎されていなかったが、呪いという名の火傷痕を治すことになった途端使用人さんたちの視線がちょっとだけ優しくなった気がする。
 ローデヴェイク様はもちろん、使用人さんたちもあの火傷痕が消せて嬉しいのかもしれない。
 ローデヴェイク様と使用人さんたち、なんとなく仲良さそうだもんな。
 貴族社会なんかわからないけれど、侍女に冷たい貴族のご婦人はわりといたし、主と使用人は仲良くするもんじゃないんだろうと思っていたが、例外もあるんだな。

「お部屋の準備が整いました」

 そう声をかけてくれたのは、年配の女性だった。
 彼女の後ろについて客間とやらを目指す。その間に彼女はこのお城の侍女長だと教えてくれた。
 ローデヴェイク様が小さな子どもだった頃からお仕えしているのだとか。

「ローデヴェイク様の呪いは、本当に消えるのでしょうか?」

 広々とした客間に通されてちょっとわくわくしていたところで侍女長さんに問われた。

「呪いかどうかはともかくとして、消せると思います」

 私が力強くそう答えても、彼女の不安そうな表情が晴れることはない。

「ローデヴェイク様は過去に何度も解呪を依頼していました。けれど、どんなに偉大な魔法使いでも匙を投げてしまうのです」

 呪いじゃないからだろうねぇ。

「そのうちローデヴェイク様は解呪を諦めてしまいましたが、我々、ローデヴェイク様に仕える者たちは皆あの呪いをどうにかしてほしいと思っています。我が主が、不当な扱いを受ける姿を見たくはないのです」

 そりゃそうだよな。
 第三皇子ともあろうお人が罪人の娘に与える罰になってるのがまずおかしい。
 ちゃんとした扱いを受けていないんだろうな、と、このほぼほぼ平民の私だって考えなくともすぐわかる。

「今回の、この結婚話の言い出しっぺって誰なんですか?」

 私がそう尋ねると、侍女長さんはそっと私に近寄ってきた。
 そして声を潜めて言い出しっぺを教えてくれる。

「第二皇子殿下です」

 なるほど面倒臭そうだ。

「第二皇子殿下はローデヴェイク様をあからさまに嫌っていらっしゃるのです。第二、といってもローデヴェイク様よりほんの数ヶ月早く生まれただけなのに」

 なるほど不満そうだ。
 ということは、ローデヴェイク様に熱湯をぶちまけたであろう犯人は……その第二皇子の母親あたりか?
 数ヶ月早く生まれただけなら、母親は違うんだろうし。

「呪われた第三皇子という話を積極的に広めたのも第二皇子殿下です」

 なかなか質が悪いタイプの人間なんだろうなぁ。

「皇太子殿下は兄弟なのだから皆仲良くするものだとおっしゃっているのに」

 そう言いつつ改善しようとはしていないのだから、皇太子殿下とやらも同罪だと思うなぁ。今回のこの『罰』も止められなかった。
 案外その皇太子殿下とやらが犯人だったりして? いくつくらい歳が離れているのだろう?
 ……いや。いやいやいや。ローデヴェイク様は犯人を捜すつもりではなさそうだったんだから、勝手に犯人捜しなんかしなくてもいいし、皇族のあれこれに首を突っ込むもんじゃない。

「皇女様たちも皆ローデヴェイク様を庇うことなく見て見ぬふり。もう少し心優しい人がいらっしゃったら、ローデヴェイク様がこんなに不当な扱いを受けずに済んだのでは、と……」
「皇女様たち……ローデヴェイク様ってたくさん兄弟がいらっしゃるんですね」
「え、知らないのですか!?」

 めちゃくちゃビックリされてしまった。

「自分の人生には一切関係ない物だと思っていたのでまったく覚えてなくて」
「……あなたは、平民として生きていらっしゃったのですよね?」
「そうですそうです。さくっと捨てられましたからね」
「……平民の暮らしは、質素なのでしょう?」
「んーー……まぁ」

 私はこの部屋を見渡しながら考える。
 この部屋、このお城での生活を普通とするならば、質素と言っても間違いないだろう。小屋暮らしだもの。
 ただ私には仕事があったしお金もあった。そしてなにより自由があった。好きなものを買って好きなものを食って、誰から指図されるわけでもなく好きなように生きていた。だから他の平民の皆さんに比べればそこまで質素ではなかったかもしれない。

「もしも、もしもあなたがここに居座りたくて……お金が欲しくて嘘を言っているのだとしたら、そっと出て行っていただきたいのです。今ならまだ、私も手をお貸しします」

 なるほど、やっぱり信じてもらえてないやつだ。

「あの呪いを消すことが出来るというのが嘘で、ローデヴェイク様をがっかりさせるようなことになるくらいなら」
「大丈夫です。消します。本当に」

 突然現れたほぼ平民の女が呪いを消すって言ってるんだから信じられないのも無理はない。

「我々は失望するローデヴェイク様を、もう見たくはないのです」




 
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