8 / 20
8
しおりを挟む
ローデヴェイク様は「ここでしばらく待っていてくれ」と言い残し、この部屋から出ていった。仕事の都合をつけてくるそうだ。
私はお宿初体験とはならなかったため、ほんの少しだけ残念に思っていたけれど、なんとなくうきうきで準備をしている使用人さんたちを見ているとどうしてもお宿に泊まりたいとは言えなかった。
しかしアンジェリアとしてここに来たときはあまり歓迎されていなかったが、呪いという名の火傷痕を治すことになった途端使用人さんたちの視線がちょっとだけ優しくなった気がする。
ローデヴェイク様はもちろん、使用人さんたちもあの火傷痕が消せて嬉しいのかもしれない。
ローデヴェイク様と使用人さんたち、なんとなく仲良さそうだもんな。
貴族社会なんかわからないけれど、侍女に冷たい貴族のご婦人はわりといたし、主と使用人は仲良くするもんじゃないんだろうと思っていたが、例外もあるんだな。
「お部屋の準備が整いました」
そう声をかけてくれたのは、年配の女性だった。
彼女の後ろについて客間とやらを目指す。その間に彼女はこのお城の侍女長だと教えてくれた。
ローデヴェイク様が小さな子どもだった頃からお仕えしているのだとか。
「ローデヴェイク様の呪いは、本当に消えるのでしょうか?」
広々とした客間に通されてちょっとわくわくしていたところで侍女長さんに問われた。
「呪いかどうかはともかくとして、消せると思います」
私が力強くそう答えても、彼女の不安そうな表情が晴れることはない。
「ローデヴェイク様は過去に何度も解呪を依頼していました。けれど、どんなに偉大な魔法使いでも匙を投げてしまうのです」
呪いじゃないからだろうねぇ。
「そのうちローデヴェイク様は解呪を諦めてしまいましたが、我々、ローデヴェイク様に仕える者たちは皆あの呪いをどうにかしてほしいと思っています。我が主が、不当な扱いを受ける姿を見たくはないのです」
そりゃそうだよな。
第三皇子ともあろうお人が罪人の娘に与える罰になってるのがまずおかしい。
ちゃんとした扱いを受けていないんだろうな、と、このほぼほぼ平民の私だって考えなくともすぐわかる。
「今回の、この結婚話の言い出しっぺって誰なんですか?」
私がそう尋ねると、侍女長さんはそっと私に近寄ってきた。
そして声を潜めて言い出しっぺを教えてくれる。
「第二皇子殿下です」
なるほど面倒臭そうだ。
「第二皇子殿下はローデヴェイク様をあからさまに嫌っていらっしゃるのです。第二、といってもローデヴェイク様よりほんの数ヶ月早く生まれただけなのに」
なるほど不満そうだ。
ということは、ローデヴェイク様に熱湯をぶちまけたであろう犯人は……その第二皇子の母親あたりか?
数ヶ月早く生まれただけなら、母親は違うんだろうし。
「呪われた第三皇子という話を積極的に広めたのも第二皇子殿下です」
なかなか質が悪いタイプの人間なんだろうなぁ。
「皇太子殿下は兄弟なのだから皆仲良くするものだとおっしゃっているのに」
そう言いつつ改善しようとはしていないのだから、皇太子殿下とやらも同罪だと思うなぁ。今回のこの『罰』も止められなかった。
案外その皇太子殿下とやらが犯人だったりして? いくつくらい歳が離れているのだろう?
……いや。いやいやいや。ローデヴェイク様は犯人を捜すつもりではなさそうだったんだから、勝手に犯人捜しなんかしなくてもいいし、皇族のあれこれに首を突っ込むもんじゃない。
「皇女様たちも皆ローデヴェイク様を庇うことなく見て見ぬふり。もう少し心優しい人がいらっしゃったら、ローデヴェイク様がこんなに不当な扱いを受けずに済んだのでは、と……」
「皇女様たち……ローデヴェイク様ってたくさん兄弟がいらっしゃるんですね」
「え、知らないのですか!?」
めちゃくちゃビックリされてしまった。
「自分の人生には一切関係ない物だと思っていたのでまったく覚えてなくて」
「……あなたは、平民として生きていらっしゃったのですよね?」
「そうですそうです。さくっと捨てられましたからね」
「……平民の暮らしは、質素なのでしょう?」
「んーー……まぁ」
私はこの部屋を見渡しながら考える。
この部屋、このお城での生活を普通とするならば、質素と言っても間違いないだろう。小屋暮らしだもの。
ただ私には仕事があったしお金もあった。そしてなにより自由があった。好きなものを買って好きなものを食って、誰から指図されるわけでもなく好きなように生きていた。だから他の平民の皆さんに比べればそこまで質素ではなかったかもしれない。
「もしも、もしもあなたがここに居座りたくて……お金が欲しくて嘘を言っているのだとしたら、そっと出て行っていただきたいのです。今ならまだ、私も手をお貸しします」
なるほど、やっぱり信じてもらえてないやつだ。
「あの呪いを消すことが出来るというのが嘘で、ローデヴェイク様をがっかりさせるようなことになるくらいなら」
「大丈夫です。消します。本当に」
突然現れたほぼ平民の女が呪いを消すって言ってるんだから信じられないのも無理はない。
「我々は失望するローデヴェイク様を、もう見たくはないのです」
私はお宿初体験とはならなかったため、ほんの少しだけ残念に思っていたけれど、なんとなくうきうきで準備をしている使用人さんたちを見ているとどうしてもお宿に泊まりたいとは言えなかった。
しかしアンジェリアとしてここに来たときはあまり歓迎されていなかったが、呪いという名の火傷痕を治すことになった途端使用人さんたちの視線がちょっとだけ優しくなった気がする。
ローデヴェイク様はもちろん、使用人さんたちもあの火傷痕が消せて嬉しいのかもしれない。
ローデヴェイク様と使用人さんたち、なんとなく仲良さそうだもんな。
貴族社会なんかわからないけれど、侍女に冷たい貴族のご婦人はわりといたし、主と使用人は仲良くするもんじゃないんだろうと思っていたが、例外もあるんだな。
「お部屋の準備が整いました」
そう声をかけてくれたのは、年配の女性だった。
彼女の後ろについて客間とやらを目指す。その間に彼女はこのお城の侍女長だと教えてくれた。
ローデヴェイク様が小さな子どもだった頃からお仕えしているのだとか。
「ローデヴェイク様の呪いは、本当に消えるのでしょうか?」
広々とした客間に通されてちょっとわくわくしていたところで侍女長さんに問われた。
「呪いかどうかはともかくとして、消せると思います」
私が力強くそう答えても、彼女の不安そうな表情が晴れることはない。
「ローデヴェイク様は過去に何度も解呪を依頼していました。けれど、どんなに偉大な魔法使いでも匙を投げてしまうのです」
呪いじゃないからだろうねぇ。
「そのうちローデヴェイク様は解呪を諦めてしまいましたが、我々、ローデヴェイク様に仕える者たちは皆あの呪いをどうにかしてほしいと思っています。我が主が、不当な扱いを受ける姿を見たくはないのです」
そりゃそうだよな。
第三皇子ともあろうお人が罪人の娘に与える罰になってるのがまずおかしい。
ちゃんとした扱いを受けていないんだろうな、と、このほぼほぼ平民の私だって考えなくともすぐわかる。
「今回の、この結婚話の言い出しっぺって誰なんですか?」
私がそう尋ねると、侍女長さんはそっと私に近寄ってきた。
そして声を潜めて言い出しっぺを教えてくれる。
「第二皇子殿下です」
なるほど面倒臭そうだ。
「第二皇子殿下はローデヴェイク様をあからさまに嫌っていらっしゃるのです。第二、といってもローデヴェイク様よりほんの数ヶ月早く生まれただけなのに」
なるほど不満そうだ。
ということは、ローデヴェイク様に熱湯をぶちまけたであろう犯人は……その第二皇子の母親あたりか?
数ヶ月早く生まれただけなら、母親は違うんだろうし。
「呪われた第三皇子という話を積極的に広めたのも第二皇子殿下です」
なかなか質が悪いタイプの人間なんだろうなぁ。
「皇太子殿下は兄弟なのだから皆仲良くするものだとおっしゃっているのに」
そう言いつつ改善しようとはしていないのだから、皇太子殿下とやらも同罪だと思うなぁ。今回のこの『罰』も止められなかった。
案外その皇太子殿下とやらが犯人だったりして? いくつくらい歳が離れているのだろう?
……いや。いやいやいや。ローデヴェイク様は犯人を捜すつもりではなさそうだったんだから、勝手に犯人捜しなんかしなくてもいいし、皇族のあれこれに首を突っ込むもんじゃない。
「皇女様たちも皆ローデヴェイク様を庇うことなく見て見ぬふり。もう少し心優しい人がいらっしゃったら、ローデヴェイク様がこんなに不当な扱いを受けずに済んだのでは、と……」
「皇女様たち……ローデヴェイク様ってたくさん兄弟がいらっしゃるんですね」
「え、知らないのですか!?」
めちゃくちゃビックリされてしまった。
「自分の人生には一切関係ない物だと思っていたのでまったく覚えてなくて」
「……あなたは、平民として生きていらっしゃったのですよね?」
「そうですそうです。さくっと捨てられましたからね」
「……平民の暮らしは、質素なのでしょう?」
「んーー……まぁ」
私はこの部屋を見渡しながら考える。
この部屋、このお城での生活を普通とするならば、質素と言っても間違いないだろう。小屋暮らしだもの。
ただ私には仕事があったしお金もあった。そしてなにより自由があった。好きなものを買って好きなものを食って、誰から指図されるわけでもなく好きなように生きていた。だから他の平民の皆さんに比べればそこまで質素ではなかったかもしれない。
「もしも、もしもあなたがここに居座りたくて……お金が欲しくて嘘を言っているのだとしたら、そっと出て行っていただきたいのです。今ならまだ、私も手をお貸しします」
なるほど、やっぱり信じてもらえてないやつだ。
「あの呪いを消すことが出来るというのが嘘で、ローデヴェイク様をがっかりさせるようなことになるくらいなら」
「大丈夫です。消します。本当に」
突然現れたほぼ平民の女が呪いを消すって言ってるんだから信じられないのも無理はない。
「我々は失望するローデヴェイク様を、もう見たくはないのです」
14
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生者と忘れられた約束
悠十
恋愛
シュゼットは前世の記憶を持って生まれた転生者である。
シュゼットは前世の最後の瞬間に、幼馴染の少年と約束した。
「もし来世があるのなら、お嫁さんにしてね……」
そして、その記憶を持ってシュゼットは転生した。
しかし、約束した筈の少年には、既に恋人が居て……。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
押しかけ女房は叶わない恋の身代わりらしい
雪成
恋愛
寝て起きたら異世界だった。しかも目の前には殺る気に満ち溢れた魔獣がスタンバイ状態。なんこれ。
絶体絶命と思ったところで助けられた図太い系女子とその面倒をみることになったオカン系堅物イケオジ(?)のお話。
※のんびり更新予定。
※不快に思われる描写が予告なくあるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。
※小説家になろうにも掲載しています。
社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~
藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。
森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった!
「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。
やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。
不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる