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やっぱりめちゃめちゃキレてる
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婚約破棄が決まったと聞いて一番に思ったのが「やっぱり」だった。
元々遅かれ早かれそうなるだろうとは思っていたから。
大切なパーティーを控えた今、王家勢揃いでその話をすることに対しては理解できないけれど、浮気現場を目撃した王妃様が激怒して国王陛下に進言したのだろう。おそらくは。
しかし、それだけでこんなに早く婚約破棄にまで発展するのだろうか?
あの男は……いや、あの男の父親は国王陛下こと私のお父様と懇意にしており、金銭的困窮から私を嫁にと切望していたのだ。
結局熱心なお願いに根負けしたお父様が私をあの男の元に嫁がせることに決めた。
要するにあの男の家にとっては私というよりお父様からの金銭的な援助が欲しいだけだったに違いない。
そしてそれを分かったうえで、私はそれを受け入れていた。
王家に生まれたものとして、世のため人のために生きるのが当たり前。自分のことなど二の次で、常に人のことを、民のことを考えるようにと教えられてきたのだもの。
お兄様や、他のきょうだいたちと違って、私は秀でた魔力も持たない役立たずだから、この身を切り売りすることくらいしか出来ない。
だから、これが人のためになるのならば、と全てを受け入れたのに、まさかあの男の浮気が原因でその婚約が破棄されることになろうとは。
あの男、浮気以外にも何かやらかしてたのか?
「だから言ったのです!」
浮気現場の目撃者である王妃様が、驚きの声量でそう言った。
それを聞いたお父様と私はめちゃくちゃ震えあがっている。
他のきょうだいたちはというと皆揃って王妃様並みにキレているらしく、特に驚いている様子はない。完全アウェー状態なのはお父様と私だけのようだ。
「こうなることは目に見えていたというのに! 破棄するくらいなら最初から婚約なんてするべきではなかったのです!」
めちゃめちゃキレてる。
こうなることは目に見えていた、ってことはあの男は元々浮気癖のある奴だったのかな。
いや、そもそも元からあの男は私が気に入らなかったみたいだもんな。
私は文句も言わずに静かにしていたけれど、あの男の言葉の端々には私に対する嫌味がいつも交じっていた。
私が嫌われていることは火を見るよりも明らかだったのだ。
こんな嫌われ者の役立たずはいつ婚約破棄されてもおかしくはない、自分でもそう思っていた。
だから、王妃様の言う通り最初から婚約などしなければ、こんな風に波風を立たせることはなかったはず。
それでもあちらの父親はどうしてもと言っているし、こちらとしても私以外の王女たちは皆優秀で、あの男の元に嫁がせるにはもったいない。だから私が婚約するしかなかったし、あの男ももう少し我慢すべきだった。
まぁでもあの男が選んだのは私以外の王女たちでもなく、下位貴族の美人だったのだけれど。
「ことの顛末は先ほど聞かせていただきましたが、婚約破棄だなんて甘っちょろいこと言ってないで処刑するべきだと思います。セリーヌ様を傷つけたのでしょう?」
抑揚のない声でそう言ったのは側妃様だった。こちらもめちゃめちゃキレてる。
さっきからほぼほぼ無表情だなと思っていたけれど、あの人は誰よりも静かにキレていたのかもしれない。発した言葉がえげつない。処刑って言った。
しかもそれを横で聞いていた側妃様の双子の息子と娘が「何罪にする?」「国家反逆罪」と呟き合っている。怖い。そして何罪にするかを決めるのは君たちではないと思う。半分血を分けたきょうだいたちではあるが、今私は君たちが怖い。目がマジだもの。
「処刑はさすがに」
そう口を挟んだお父様だったが、王妃様と側妃様に睨まれて慌てた様子で口を閉じる。
お父様……。今は亡き私のお母様も怒ると怖い人だったけれど、女性に睨まれると黙ってしまうのは今も昔も変わらないのね。
「それで? どうやって婚約破棄まで持っていくおつもりですか?」
王妃様が問う。
あの男は伯爵家の嫡男であり身分ではこちらが上なので、無理矢理の婚約破棄も一応可能ではある。
しかしそれでは体裁が悪いし、そもそも相手の親はお父様が懇意にしていた相手なのだから、それなりの理由が必要だろう。
浮気以外に何か大きなことでもやらかしていないと。
政略結婚が当たり前の貴族社会では、悲しいことに浮気など些事なのだから。
「それがその……セリーヌには悪いのだが」
国王陛下ともあろう者がごにょごにょと口籠っている。威厳! 威厳を忘れないでお父様!
私は一応あなたの娘だけれど、こういう時はただ一人の王族の人間! あなたにとっては駒のようなものなの!
ほら! 私に悪いという言葉で王妃様も側妃様も……もうこの場にいる皆の視線が氷のように冷たいわ!
「いや、その、今の婚約を破棄して、今日のパーティーの主役と……婚約してはもらえないだろうか?」
あからさまに歯切れが悪いもんだから、言われた言葉を理解するまでに少し時間を要してしまった。
今の、この婚約を破棄して、改めて別の人と婚約するってこと? パーティーの主役と?
「勇者様と?」
私はそんなお兄様の言葉で、ふと我に返った。
そう、今日のパーティーは、勇者様が魔王を倒してこの国に帰還した記念すべきパーティーなのだ。
だから、そのパーティーの主役は勇者様だ。
勇者様と言えば約一年近く前にこの世界に召喚されて、魔王討伐のために戦っておられた。
そんな英雄と、こんな私が婚約?
「そ、それは勇者様に失礼なのでは?」
そう言った私の声は、震えてしまっていた。
だって、秀でた才のない私などが勇者様の隣に並び立つなどあってはならないことなのでは?
そもそもこの国が勇者様を召喚したとはいえ、勇者様は現在どの国にも属していない状態だ。
全世界の人々が自国に勇者様を呼び込みたいはずなのに、私などと結婚してこの国に腰を据えるなんて。
もちろん我が国にとってはいいことなのだけれど、他国も黙っていないだろうし、私ごときが勇者様を繋ぎ止めておけるのかも謎である。
「その男は大丈夫なのでしょうね?」
……いやあの王妃様、勇者様をその男呼ばわりは、いくらなんでもダメだと思います。
元々遅かれ早かれそうなるだろうとは思っていたから。
大切なパーティーを控えた今、王家勢揃いでその話をすることに対しては理解できないけれど、浮気現場を目撃した王妃様が激怒して国王陛下に進言したのだろう。おそらくは。
しかし、それだけでこんなに早く婚約破棄にまで発展するのだろうか?
あの男は……いや、あの男の父親は国王陛下こと私のお父様と懇意にしており、金銭的困窮から私を嫁にと切望していたのだ。
結局熱心なお願いに根負けしたお父様が私をあの男の元に嫁がせることに決めた。
要するにあの男の家にとっては私というよりお父様からの金銭的な援助が欲しいだけだったに違いない。
そしてそれを分かったうえで、私はそれを受け入れていた。
王家に生まれたものとして、世のため人のために生きるのが当たり前。自分のことなど二の次で、常に人のことを、民のことを考えるようにと教えられてきたのだもの。
お兄様や、他のきょうだいたちと違って、私は秀でた魔力も持たない役立たずだから、この身を切り売りすることくらいしか出来ない。
だから、これが人のためになるのならば、と全てを受け入れたのに、まさかあの男の浮気が原因でその婚約が破棄されることになろうとは。
あの男、浮気以外にも何かやらかしてたのか?
「だから言ったのです!」
浮気現場の目撃者である王妃様が、驚きの声量でそう言った。
それを聞いたお父様と私はめちゃくちゃ震えあがっている。
他のきょうだいたちはというと皆揃って王妃様並みにキレているらしく、特に驚いている様子はない。完全アウェー状態なのはお父様と私だけのようだ。
「こうなることは目に見えていたというのに! 破棄するくらいなら最初から婚約なんてするべきではなかったのです!」
めちゃめちゃキレてる。
こうなることは目に見えていた、ってことはあの男は元々浮気癖のある奴だったのかな。
いや、そもそも元からあの男は私が気に入らなかったみたいだもんな。
私は文句も言わずに静かにしていたけれど、あの男の言葉の端々には私に対する嫌味がいつも交じっていた。
私が嫌われていることは火を見るよりも明らかだったのだ。
こんな嫌われ者の役立たずはいつ婚約破棄されてもおかしくはない、自分でもそう思っていた。
だから、王妃様の言う通り最初から婚約などしなければ、こんな風に波風を立たせることはなかったはず。
それでもあちらの父親はどうしてもと言っているし、こちらとしても私以外の王女たちは皆優秀で、あの男の元に嫁がせるにはもったいない。だから私が婚約するしかなかったし、あの男ももう少し我慢すべきだった。
まぁでもあの男が選んだのは私以外の王女たちでもなく、下位貴族の美人だったのだけれど。
「ことの顛末は先ほど聞かせていただきましたが、婚約破棄だなんて甘っちょろいこと言ってないで処刑するべきだと思います。セリーヌ様を傷つけたのでしょう?」
抑揚のない声でそう言ったのは側妃様だった。こちらもめちゃめちゃキレてる。
さっきからほぼほぼ無表情だなと思っていたけれど、あの人は誰よりも静かにキレていたのかもしれない。発した言葉がえげつない。処刑って言った。
しかもそれを横で聞いていた側妃様の双子の息子と娘が「何罪にする?」「国家反逆罪」と呟き合っている。怖い。そして何罪にするかを決めるのは君たちではないと思う。半分血を分けたきょうだいたちではあるが、今私は君たちが怖い。目がマジだもの。
「処刑はさすがに」
そう口を挟んだお父様だったが、王妃様と側妃様に睨まれて慌てた様子で口を閉じる。
お父様……。今は亡き私のお母様も怒ると怖い人だったけれど、女性に睨まれると黙ってしまうのは今も昔も変わらないのね。
「それで? どうやって婚約破棄まで持っていくおつもりですか?」
王妃様が問う。
あの男は伯爵家の嫡男であり身分ではこちらが上なので、無理矢理の婚約破棄も一応可能ではある。
しかしそれでは体裁が悪いし、そもそも相手の親はお父様が懇意にしていた相手なのだから、それなりの理由が必要だろう。
浮気以外に何か大きなことでもやらかしていないと。
政略結婚が当たり前の貴族社会では、悲しいことに浮気など些事なのだから。
「それがその……セリーヌには悪いのだが」
国王陛下ともあろう者がごにょごにょと口籠っている。威厳! 威厳を忘れないでお父様!
私は一応あなたの娘だけれど、こういう時はただ一人の王族の人間! あなたにとっては駒のようなものなの!
ほら! 私に悪いという言葉で王妃様も側妃様も……もうこの場にいる皆の視線が氷のように冷たいわ!
「いや、その、今の婚約を破棄して、今日のパーティーの主役と……婚約してはもらえないだろうか?」
あからさまに歯切れが悪いもんだから、言われた言葉を理解するまでに少し時間を要してしまった。
今の、この婚約を破棄して、改めて別の人と婚約するってこと? パーティーの主役と?
「勇者様と?」
私はそんなお兄様の言葉で、ふと我に返った。
そう、今日のパーティーは、勇者様が魔王を倒してこの国に帰還した記念すべきパーティーなのだ。
だから、そのパーティーの主役は勇者様だ。
勇者様と言えば約一年近く前にこの世界に召喚されて、魔王討伐のために戦っておられた。
そんな英雄と、こんな私が婚約?
「そ、それは勇者様に失礼なのでは?」
そう言った私の声は、震えてしまっていた。
だって、秀でた才のない私などが勇者様の隣に並び立つなどあってはならないことなのでは?
そもそもこの国が勇者様を召喚したとはいえ、勇者様は現在どの国にも属していない状態だ。
全世界の人々が自国に勇者様を呼び込みたいはずなのに、私などと結婚してこの国に腰を据えるなんて。
もちろん我が国にとってはいいことなのだけれど、他国も黙っていないだろうし、私ごときが勇者様を繋ぎ止めておけるのかも謎である。
「その男は大丈夫なのでしょうね?」
……いやあの王妃様、勇者様をその男呼ばわりは、いくらなんでもダメだと思います。
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