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推し活、捗ってます
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不思議なことが起きた結婚式と不穏なお茶会を終えて、滞りなく新居へのお引っ越しまで完了した。
それから数日、現在の私はと言うと、心臓に悪いことは多々あれどとても快適な日々を送っています。
そう、結婚した上での推しと一つ屋根の下はもう心臓に悪いことばっかり。当たり前だけど。だって結婚してるんだもん。しかも政略結婚じゃなくほぼ恋愛結婚。
出会った当初は遠慮がちだった勇者様も、今では特に遠慮もなくガンガンくっ付いてくる。死ぬ。嬉しいけど死ぬ。
まず朝起きたら隣にいる時点で死ぬ。寝起きの掠れた声での「おはよう」の色気で死ぬ。なぜか寝ぼけてのしかかってくるから一旦物理的に死にそうになって、美味しそうに朝ごはんを食べる様子の可愛さで死ぬ。
そして日中、勇者様はお仕事のため外に出る。初日に勇者様が「俺が元いた世界では行ってきますの時にキスをする習慣がある」と言い出したので、毎度必ず行ってきますのキスをしている。死ぬ。
「はぁ……」
さて、勇者様がお仕事に行っている間、私は何をしているのかというと。
「……はあぁ」
勇者様の肖像画を眺めてはため息を零すという、簡単な推しごとをしています。
毎日毎日生身の推しが同じ空間で生活しているし、肖像画じゃなく実物見ればいいじゃんと思われるかもしれないけれど、やっぱりこうして推しグッズに囲まれて推しに思いを馳せる時間も大切なのである。
絵師様に頼んだ肖像画の数々を、建築士様にこっそり作ってもらった秘密部屋に並べて、毎日それを眺める。それが私の日課になった。
最近では勇者様のイメージカラー宝石としてモリオンやオニキス、黒曜石を集めたりもしている。
フィギュアもアクスタもないから、とりあえず概念グッズに手を出したという形で。
そもそも私が日ごろやっていた薔薇のお世話も小鳥たちのお世話も妹たちに引き継ぐことになったので、日中に暇な時間が増えたのだ。薔薇や小鳥たちのお世話は王女の仕事だし。私もう王女じゃないし。王女じゃなくて勇者の妻だし。えへへ。
……とはいえ薔薇も小鳥たちも様子は気になるので見に行ったりもするけど。
そうして勇者様の帰宅時間が近くなったころには秘密部屋から出て、お出迎えの準備をする。
行ってきますのキスを習慣だと言った勇者様は、もちろんただいまのキスも習慣だと言い張ったので、入念に心の準備をする。結局死ぬけど。
帰宅した勇者様とキスをして、勇者様から今日あった出来事なんかを聞く。
それから夕食をもりもり食べる勇者様の可愛さで死に、お腹いっぱいになってちょっと眠そうな勇者様を眺めては可愛さで死に、入浴やその他諸々の寝る準備を整えて、二人でベッドに入ったら……さっきまでの可愛さが一変してかっこよさと色気を垂れ流して大変なことになり、結局気付けば朝になってて起きたら隣にいてまた元気に死ぬ。
そんな1UPキノコを主食にしたって足りないレベルで毎日毎日「はい死ぬ!!!」ってなる生活を続けています。
供給過多なんだわ。
そんな身も心も充実した日々を送っているここ最近、一番の悩みと言えば、ことあるごとに「子どもはいつ?」といった話がふわっと出てくることだろうか。
大っぴらに子どもを産めるのか、と聞いてきたアバランザ伯爵夫人はあの後社交界の恥さらしみたいな扱いを受け、アバランザ伯爵からは離縁され、行方知れずになった。そのことから勇者様の逆鱗に触れたら社会的に消される、と周囲が勝手に怯えてくれたので大っぴらには聞かれないけれど、それとなく子どもはまだかなー? とは思われているらしい。
勇者様は自分なんて召喚されて勇者になっただけで別に血筋は普通の日本人だし子どもは出来ればいいなくらいにしか思ってないよ、と言っている。
私は勇者様と二人で永遠にいちゃいちゃするのも悪くないなと思うし、勇者様そっくりの子を育てるのもいいなと思っている。ただ少し不安なのは、無能から無能が生まれた時だ。私のような扱いを受ける人間をこの世に増やしてしまったらと思うと恐ろしい。
そんな不安、自分の心の中だけにとどめておかなければと思っていたのに、眠る直前にぽろっと零してしまった。
「俺とセリーヌの子だから、能力なんて関係なく可愛いんじゃないかな」
「そう、ですけど。でも、辛い思いはさせたくない……」
「辛い思いをしないように俺がちゃんと守ってあげる。セリーヌも、俺たちの子も」
「ありがとうござ、んぐ」
突然強い力で抱きしめられて窒息するかと思った。
「周りが子ども子どもって言うのはさ、俺たちの子と結婚させたいって魂胆があるからでしょ」
「むむ、むむむ」
「あ、ごめん苦しかった? なんかセリーヌがあんまりにも可愛くて。……まぁ勇者と王族の血筋ってことだもんね」
「ちすじ」
「だから俺たちと同じタイミングで子どもが出来ればワンチャン結婚させられる、みたいな?」
「……分からなくもないけど、でも出来れば政略結婚じゃなくて恋愛結婚してもらいたいですけどね、私たちのように」
「いや俺はともかくセリーヌ的には政略結婚だと思ったでしょ? 最初は」
「いえ? 初めて会った日に一目惚れして、それからずっと、今もタイキ様に恋をしています」
「……嘘?」
「信じてくれないのですか?」
「いや、信じたいけど、でも俺だよ?」
あなただって無能だと罵られていた私に求婚したくせに、なんて思いながら、私は勇者様の胸元にすり寄った。
「信じてもらえなくても、私は一目見た瞬間恋に落ちましたし、優しくしてくれるタイキ様に毎日毎日改めて恋に落ち続けています」
「可愛い!!!」
「声が大きい」
「あはは」
翌朝、勇者様も私も寝不足で働かない頭のまま朝食を摂っていたところ、従者の一人がお手紙を持ってきた。
差出人はお兄様だったのだが、私宛てではなく勇者様宛てらしい。
勇者様とお兄様はいつの間にかお手紙のやりとりをするほど仲良しに? と首を傾げていたら、勇者様がくすりと笑って口を開いた。
「ほら、結婚式があった日に絡んできたアバラボネ伯爵夫人? っていたでしょ」
「アバランザ伯爵夫人ですね」
「そうそれ。そいつらがセリーヌに報復しに来たら嫌だなと思って監視してもらってたんだ。で、それについての報告だと思う」
まさか監視していたとは。しかもお兄様から報告が来たってことは王族側の誰かが監視してたってことか。と、思っていたら「別におにーさまには頼んでねぇけど~」と零していた。
「アバラボネはちょっと前に社交界から消えたんだけど、今回の報告はアバラボネの娘だね。なんか変態で有名な男爵のところに嫁に行くんだって」
変態で有名……? と首を傾げていたところ、勇者様も「変態で有名ってなんだよやべぇな」と呟いて笑っている。
「あー、アバラボネが言った『そういった教育』ってやつに心惹かれた変態男爵がアバラボネの娘を買い取る形で結婚したって。ほぼ監禁状態だから報復に来たりはしないだろうってさ。取り巻きの令嬢たちは3人が修道女になって2人が貧乏貴族のところに嫁入りしたらしい。うん、セリーヌの安全確保は完了だな」
大きく一つ頷いた勇者様は、封筒の中に残っていたもう一枚の便せんに目を通した後、その紙をまとめて私のほうに差し出してきた。
「おにーさまはセリーヌが心配らしいよ」
なんて言いながら。
お手紙を受け取って、中身を読んでみると、一枚は本当にただの調査報告書。そしてもう一枚は、お兄様からの「セリーヌは元気か? きちんとごはんは食べているか? 無理をさせていないか?」などなど疑問符の嵐。
ちょっと恥ずかしいし勇者様に迷惑だからやめてほしい。
「とりあえず分かりやすい危険人物は遠ざけたけど、まぁ、子どもについて聞いてくる奴とかはいると思う」
「はい」
「だけど、あんまり気にしないようにね。しつこい奴がいたらとりあえず名前だけメモっといて」
「分かりました」
私が名前をメモったらその人に監視がついたり最悪社会的に死ぬんだろうな。
名前を書かれたら死ぬっていうあのノートみたいだな、と心の中で笑っていたこの時の私は、これから3年後にはすでに4人の子どもたちを育てているだなんて露ほども思っていなかったのだった。
「タイキ様、私幸せです」
「俺も。でもまだ始まったばっかりだからね。これから一生、永遠に、来世でも幸せになる予定でしょ」
「はい!」
それから数日、現在の私はと言うと、心臓に悪いことは多々あれどとても快適な日々を送っています。
そう、結婚した上での推しと一つ屋根の下はもう心臓に悪いことばっかり。当たり前だけど。だって結婚してるんだもん。しかも政略結婚じゃなくほぼ恋愛結婚。
出会った当初は遠慮がちだった勇者様も、今では特に遠慮もなくガンガンくっ付いてくる。死ぬ。嬉しいけど死ぬ。
まず朝起きたら隣にいる時点で死ぬ。寝起きの掠れた声での「おはよう」の色気で死ぬ。なぜか寝ぼけてのしかかってくるから一旦物理的に死にそうになって、美味しそうに朝ごはんを食べる様子の可愛さで死ぬ。
そして日中、勇者様はお仕事のため外に出る。初日に勇者様が「俺が元いた世界では行ってきますの時にキスをする習慣がある」と言い出したので、毎度必ず行ってきますのキスをしている。死ぬ。
「はぁ……」
さて、勇者様がお仕事に行っている間、私は何をしているのかというと。
「……はあぁ」
勇者様の肖像画を眺めてはため息を零すという、簡単な推しごとをしています。
毎日毎日生身の推しが同じ空間で生活しているし、肖像画じゃなく実物見ればいいじゃんと思われるかもしれないけれど、やっぱりこうして推しグッズに囲まれて推しに思いを馳せる時間も大切なのである。
絵師様に頼んだ肖像画の数々を、建築士様にこっそり作ってもらった秘密部屋に並べて、毎日それを眺める。それが私の日課になった。
最近では勇者様のイメージカラー宝石としてモリオンやオニキス、黒曜石を集めたりもしている。
フィギュアもアクスタもないから、とりあえず概念グッズに手を出したという形で。
そもそも私が日ごろやっていた薔薇のお世話も小鳥たちのお世話も妹たちに引き継ぐことになったので、日中に暇な時間が増えたのだ。薔薇や小鳥たちのお世話は王女の仕事だし。私もう王女じゃないし。王女じゃなくて勇者の妻だし。えへへ。
……とはいえ薔薇も小鳥たちも様子は気になるので見に行ったりもするけど。
そうして勇者様の帰宅時間が近くなったころには秘密部屋から出て、お出迎えの準備をする。
行ってきますのキスを習慣だと言った勇者様は、もちろんただいまのキスも習慣だと言い張ったので、入念に心の準備をする。結局死ぬけど。
帰宅した勇者様とキスをして、勇者様から今日あった出来事なんかを聞く。
それから夕食をもりもり食べる勇者様の可愛さで死に、お腹いっぱいになってちょっと眠そうな勇者様を眺めては可愛さで死に、入浴やその他諸々の寝る準備を整えて、二人でベッドに入ったら……さっきまでの可愛さが一変してかっこよさと色気を垂れ流して大変なことになり、結局気付けば朝になってて起きたら隣にいてまた元気に死ぬ。
そんな1UPキノコを主食にしたって足りないレベルで毎日毎日「はい死ぬ!!!」ってなる生活を続けています。
供給過多なんだわ。
そんな身も心も充実した日々を送っているここ最近、一番の悩みと言えば、ことあるごとに「子どもはいつ?」といった話がふわっと出てくることだろうか。
大っぴらに子どもを産めるのか、と聞いてきたアバランザ伯爵夫人はあの後社交界の恥さらしみたいな扱いを受け、アバランザ伯爵からは離縁され、行方知れずになった。そのことから勇者様の逆鱗に触れたら社会的に消される、と周囲が勝手に怯えてくれたので大っぴらには聞かれないけれど、それとなく子どもはまだかなー? とは思われているらしい。
勇者様は自分なんて召喚されて勇者になっただけで別に血筋は普通の日本人だし子どもは出来ればいいなくらいにしか思ってないよ、と言っている。
私は勇者様と二人で永遠にいちゃいちゃするのも悪くないなと思うし、勇者様そっくりの子を育てるのもいいなと思っている。ただ少し不安なのは、無能から無能が生まれた時だ。私のような扱いを受ける人間をこの世に増やしてしまったらと思うと恐ろしい。
そんな不安、自分の心の中だけにとどめておかなければと思っていたのに、眠る直前にぽろっと零してしまった。
「俺とセリーヌの子だから、能力なんて関係なく可愛いんじゃないかな」
「そう、ですけど。でも、辛い思いはさせたくない……」
「辛い思いをしないように俺がちゃんと守ってあげる。セリーヌも、俺たちの子も」
「ありがとうござ、んぐ」
突然強い力で抱きしめられて窒息するかと思った。
「周りが子ども子どもって言うのはさ、俺たちの子と結婚させたいって魂胆があるからでしょ」
「むむ、むむむ」
「あ、ごめん苦しかった? なんかセリーヌがあんまりにも可愛くて。……まぁ勇者と王族の血筋ってことだもんね」
「ちすじ」
「だから俺たちと同じタイミングで子どもが出来ればワンチャン結婚させられる、みたいな?」
「……分からなくもないけど、でも出来れば政略結婚じゃなくて恋愛結婚してもらいたいですけどね、私たちのように」
「いや俺はともかくセリーヌ的には政略結婚だと思ったでしょ? 最初は」
「いえ? 初めて会った日に一目惚れして、それからずっと、今もタイキ様に恋をしています」
「……嘘?」
「信じてくれないのですか?」
「いや、信じたいけど、でも俺だよ?」
あなただって無能だと罵られていた私に求婚したくせに、なんて思いながら、私は勇者様の胸元にすり寄った。
「信じてもらえなくても、私は一目見た瞬間恋に落ちましたし、優しくしてくれるタイキ様に毎日毎日改めて恋に落ち続けています」
「可愛い!!!」
「声が大きい」
「あはは」
翌朝、勇者様も私も寝不足で働かない頭のまま朝食を摂っていたところ、従者の一人がお手紙を持ってきた。
差出人はお兄様だったのだが、私宛てではなく勇者様宛てらしい。
勇者様とお兄様はいつの間にかお手紙のやりとりをするほど仲良しに? と首を傾げていたら、勇者様がくすりと笑って口を開いた。
「ほら、結婚式があった日に絡んできたアバラボネ伯爵夫人? っていたでしょ」
「アバランザ伯爵夫人ですね」
「そうそれ。そいつらがセリーヌに報復しに来たら嫌だなと思って監視してもらってたんだ。で、それについての報告だと思う」
まさか監視していたとは。しかもお兄様から報告が来たってことは王族側の誰かが監視してたってことか。と、思っていたら「別におにーさまには頼んでねぇけど~」と零していた。
「アバラボネはちょっと前に社交界から消えたんだけど、今回の報告はアバラボネの娘だね。なんか変態で有名な男爵のところに嫁に行くんだって」
変態で有名……? と首を傾げていたところ、勇者様も「変態で有名ってなんだよやべぇな」と呟いて笑っている。
「あー、アバラボネが言った『そういった教育』ってやつに心惹かれた変態男爵がアバラボネの娘を買い取る形で結婚したって。ほぼ監禁状態だから報復に来たりはしないだろうってさ。取り巻きの令嬢たちは3人が修道女になって2人が貧乏貴族のところに嫁入りしたらしい。うん、セリーヌの安全確保は完了だな」
大きく一つ頷いた勇者様は、封筒の中に残っていたもう一枚の便せんに目を通した後、その紙をまとめて私のほうに差し出してきた。
「おにーさまはセリーヌが心配らしいよ」
なんて言いながら。
お手紙を受け取って、中身を読んでみると、一枚は本当にただの調査報告書。そしてもう一枚は、お兄様からの「セリーヌは元気か? きちんとごはんは食べているか? 無理をさせていないか?」などなど疑問符の嵐。
ちょっと恥ずかしいし勇者様に迷惑だからやめてほしい。
「とりあえず分かりやすい危険人物は遠ざけたけど、まぁ、子どもについて聞いてくる奴とかはいると思う」
「はい」
「だけど、あんまり気にしないようにね。しつこい奴がいたらとりあえず名前だけメモっといて」
「分かりました」
私が名前をメモったらその人に監視がついたり最悪社会的に死ぬんだろうな。
名前を書かれたら死ぬっていうあのノートみたいだな、と心の中で笑っていたこの時の私は、これから3年後にはすでに4人の子どもたちを育てているだなんて露ほども思っていなかったのだった。
「タイキ様、私幸せです」
「俺も。でもまだ始まったばっかりだからね。これから一生、永遠に、来世でも幸せになる予定でしょ」
「はい!」
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