極雷まとう真紅の蕾は大魔法使いアレクシア -呪いと鎧とソーサレス-

深海さばらん

文字の大きさ
24 / 32
第2章 雛を育てるソーサレス

「どこ触ってんのよ!?」

しおりを挟む
「ねえ、この役立たずの重りって何に使うんだと思う?」
 それからクマのぬいぐるみ――ジェシカを出現させると、疲れ切った声で彼女?に聞いた。
 ふよふよと浮かぶぬいぐるみは、これが答えだと言わんばかりの呆れ返ったような表情で肩を竦め――アレクシアまだ続けるらしい。

「これね、杖に見えて盾なのよ。非効率的過ぎて逆にすごーい。あとね、日時計にも使えちゃうのよ」
 無邪気な声の裏に皮肉などこめつつ、アレクシアは杖を地面に突き刺したが、その直後、杖はジェシカに蹴飛ばされ地面を転がった。

「日時計は無理だったみたーい」
『……』
 アレクシアはくすくすと笑いながら杖を拾い、ジェシカは深いため息を吐くような仕草をすると消滅した。
 爽やかな風が吹くなか、ヴィオラの半眼とアレクシアの無邪気な笑みが交差し――アレクシアは無言で掃除を再開した。

(やれやれ……)
 軽くため息など吐き、ヴィオラも清掃を再開した瞬間――風を切る何かが、彼女たちの方へと向かってくる。
 ヴィオラは即座に戦闘態勢にはいると、アレクシアを右手で思い切り抱き寄せる――

 むにゅっ!

「どどどこ触ってんのよ!?」
 手のひらほどの大きさのなにかが、寸前までアレクシアがいた位置を高速で通り過ぎていった。
 乳房を鷲掴みにされていたらしいアレクシアが抗議の声などあげたが、ヴィオラは――昨日の宣言通り――手を離さなかった。
 少女の膨らみをより強く握りつつ、箒を剣のように構え、新たに飛んできたものを払いのける。

 べしんっ!

 いまいち緊張感のない音が響く。
 ヴィオラたちが見やれば、地面に叩き落されたのは丸められた雑巾だった。矢ほどの殺傷力はないが、毒でも含ませてあれば面倒なことになりかねない。
 ヴィオラが飛んできた方に鋭い視線を向けると、校舎側に植えられた樹の陰から、頬に大きな傷跡のある女がゆらりと姿を表した。傷跡と三角巾のギャップがヴィオラの警戒心を掻き立てる――

「……ケアリー?」
「まったく!」
 そしてアレクシアが不思議そうに呟いた瞬間、ケアリー教師長は樹よりも高く飛び上がった。落下しながらアレクシアに迫ると、手に持っていたはたきを彼女へと振り下ろす。

 がきぃんっ!

 はたきと箒。掃除用具同士の激突からは想像できない音が中庭に響く。
 ケアリーは、はたきを受け止められた体勢――宙に浮いたまま、怒声を張り上げた。

「教師長を呼び捨てにするとは! まったくなんという子ですか!」
 それから瞬時に地に両足をつくと、何故かヴィオラへと連続攻撃を仕掛ける――

 ひぃんっ! きゅんっ!

 はたきによる攻撃ではあるが、空を切る音が尋常ではない。アレクシアを下がらせると、ヴィオラは鋭い連撃を箒で捌きながら半眼を向ける。

「確かにこいつは口の利き方がなっていないが、教師にも問題があるように思えるぞ」
「そんなことはありません! 当魔法院では礼儀作法に精通した教師がしっかりと教えています!」
 ケアリーはしっかりと反論するとヴィオラの蹴りをくぐり抜け、素早く跳び退いた。授業参観では絶対に見せられないであろう、恐ろしい笑みなど浮かべつつ、はたきを逆手に構え直す――

「しかし魔法とは無関係の授業は、試験が終わってしまうと頭から抜けてしまう生徒が多いのもまた事実! 理事長も苦慮しておられます! 社会での人間最大の武器は礼儀だというのに!」
 そして懐から取り出した新たなはたきも逆手に構えた。人間離れした速度で距離を詰め、回転するような乱撃を繰り出す。

 がががががっ!

「いきなり襲いかかってくる教師に礼儀をがたがた言われたくはないって話だよ」
 ヴィオラは後退しつつ、異様な軌道を描く乱撃を捌いていくが、後方にはアレクシアがいるのでいつまでも後退してはいられない――

「お前、礼儀作法に精通した教師を自称する奴か!?」
「来期のカリキュラムでは生徒の休日を減らしてでもそのあたりを改善してみせます!」
「鬼」
 アレクシアが半眼で呟くと同時、ケアリーが斜め前方――つまりはヴィオラに向かって軽く跳躍した。宙返りなどして勢いをつけ、逆手に構えた二本のはたきを、牙のように振り下ろし――対するヴィオラは箒を全力で振り上げた。

 ぎぃんっ!

 金属音がなぜか響き渡り、戦いは終わった。

「やりやがる」
「あなたもなかなかですよ」
 左肩にはたきをめり込まされたヴィオラは、地面に片膝をついたケアリーを見やった。

「まぁ、合格ということにしておきましょう」
 教師長は立ち上がると唇の血を拭い、ヴィオラに右手を差し出した。握手に応じようと、ヴィオラは右手を差し出しかけたが――左手でケアリーの右手首を掴むと手のひらを上に向けさせた。
 そこには特大の画びょうがテープで貼り付けられている。礼儀にうるさい教師長は、ヴィオラのじっとりとした視線にも負けず、微笑みを返した。

「わたしはケアリー。この学び舎で格闘と礼儀作法の授業を担当させて頂いてます」
「オレは冒険者のヴィオラだ。いま気づいたんだが、自己紹介ってのは殴り合った後じゃなくてもできるよな」
 ケアリーは驚いたように口を開けているアレクシアを一瞥してからヴィオラに顔を近づけると、笑顔で囁く。

「アレクシアをお願いします。あの電撃ツインテールがわままを言い出したら、ごりっとした関節技がおすすめです。ニッパーもお貸ししましょうか?」
「あんたの授業風景に興味が湧いたよ。クリフォードによろしくな」
「ええ。では」
 ケアリーは、軽く会釈するとはたきを拾い、そそくさと校舎へと去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪ 高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。 ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載! ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...