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第2章 雛を育てるソーサレス
「どこ触ってんのよ!?」
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「ねえ、この役立たずの重りって何に使うんだと思う?」
それからクマのぬいぐるみ――ジェシカを出現させると、疲れ切った声で彼女?に聞いた。
ふよふよと浮かぶぬいぐるみは、これが答えだと言わんばかりの呆れ返ったような表情で肩を竦め――アレクシアまだ続けるらしい。
「これね、杖に見えて盾なのよ。非効率的過ぎて逆にすごーい。あとね、日時計にも使えちゃうのよ」
無邪気な声の裏に皮肉などこめつつ、アレクシアは杖を地面に突き刺したが、その直後、杖はジェシカに蹴飛ばされ地面を転がった。
「日時計は無理だったみたーい」
『……』
アレクシアはくすくすと笑いながら杖を拾い、ジェシカは深いため息を吐くような仕草をすると消滅した。
爽やかな風が吹くなか、ヴィオラの半眼とアレクシアの無邪気な笑みが交差し――アレクシアは無言で掃除を再開した。
(やれやれ……)
軽くため息など吐き、ヴィオラも清掃を再開した瞬間――風を切る何かが、彼女たちの方へと向かってくる。
ヴィオラは即座に戦闘態勢にはいると、アレクシアを右手で思い切り抱き寄せる――
むにゅっ!
「どどどこ触ってんのよ!?」
手のひらほどの大きさのなにかが、寸前までアレクシアがいた位置を高速で通り過ぎていった。
乳房を鷲掴みにされていたらしいアレクシアが抗議の声などあげたが、ヴィオラは――昨日の宣言通り――手を離さなかった。
少女の膨らみをより強く握りつつ、箒を剣のように構え、新たに飛んできたものを払いのける。
べしんっ!
いまいち緊張感のない音が響く。
ヴィオラたちが見やれば、地面に叩き落されたのは丸められた雑巾だった。矢ほどの殺傷力はないが、毒でも含ませてあれば面倒なことになりかねない。
ヴィオラが飛んできた方に鋭い視線を向けると、校舎側に植えられた樹の陰から、頬に大きな傷跡のある女がゆらりと姿を表した。傷跡と三角巾のギャップがヴィオラの警戒心を掻き立てる――
「……ケアリー?」
「まったく!」
そしてアレクシアが不思議そうに呟いた瞬間、ケアリー教師長は樹よりも高く飛び上がった。落下しながらアレクシアに迫ると、手に持っていたはたきを彼女へと振り下ろす。
がきぃんっ!
はたきと箒。掃除用具同士の激突からは想像できない音が中庭に響く。
ケアリーは、はたきを受け止められた体勢――宙に浮いたまま、怒声を張り上げた。
「教師長を呼び捨てにするとは! まったくなんという子ですか!」
それから瞬時に地に両足をつくと、何故かヴィオラへと連続攻撃を仕掛ける――
ひぃんっ! きゅんっ!
はたきによる攻撃ではあるが、空を切る音が尋常ではない。アレクシアを下がらせると、ヴィオラは鋭い連撃を箒で捌きながら半眼を向ける。
「確かにこいつは口の利き方がなっていないが、教師にも問題があるように思えるぞ」
「そんなことはありません! 当魔法院では礼儀作法に精通した教師がしっかりと教えています!」
ケアリーはしっかりと反論するとヴィオラの蹴りをくぐり抜け、素早く跳び退いた。授業参観では絶対に見せられないであろう、恐ろしい笑みなど浮かべつつ、はたきを逆手に構え直す――
「しかし魔法とは無関係の授業は、試験が終わってしまうと頭から抜けてしまう生徒が多いのもまた事実! 理事長も苦慮しておられます! 社会での人間最大の武器は礼儀だというのに!」
そして懐から取り出した新たなはたきも逆手に構えた。人間離れした速度で距離を詰め、回転するような乱撃を繰り出す。
がががががっ!
「いきなり襲いかかってくる教師に礼儀をがたがた言われたくはないって話だよ」
ヴィオラは後退しつつ、異様な軌道を描く乱撃を捌いていくが、後方にはアレクシアがいるのでいつまでも後退してはいられない――
「お前、礼儀作法に精通した教師を自称する奴か!?」
「来期のカリキュラムでは生徒の休日を減らしてでもそのあたりを改善してみせます!」
「鬼」
アレクシアが半眼で呟くと同時、ケアリーが斜め前方――つまりはヴィオラに向かって軽く跳躍した。宙返りなどして勢いをつけ、逆手に構えた二本のはたきを、牙のように振り下ろし――対するヴィオラは箒を全力で振り上げた。
ぎぃんっ!
金属音がなぜか響き渡り、戦いは終わった。
「やりやがる」
「あなたもなかなかですよ」
左肩にはたきをめり込まされたヴィオラは、地面に片膝をついたケアリーを見やった。
「まぁ、合格ということにしておきましょう」
教師長は立ち上がると唇の血を拭い、ヴィオラに右手を差し出した。握手に応じようと、ヴィオラは右手を差し出しかけたが――左手でケアリーの右手首を掴むと手のひらを上に向けさせた。
そこには特大の画びょうがテープで貼り付けられている。礼儀にうるさい教師長は、ヴィオラのじっとりとした視線にも負けず、微笑みを返した。
「わたしはケアリー。この学び舎で格闘と礼儀作法の授業を担当させて頂いてます」
「オレは冒険者のヴィオラだ。いま気づいたんだが、自己紹介ってのは殴り合った後じゃなくてもできるよな」
ケアリーは驚いたように口を開けているアレクシアを一瞥してからヴィオラに顔を近づけると、笑顔で囁く。
「アレクシアをお願いします。あの電撃ツインテールがわままを言い出したら、ごりっとした関節技がおすすめです。ニッパーもお貸ししましょうか?」
「あんたの授業風景に興味が湧いたよ。クリフォードによろしくな」
「ええ。では」
ケアリーは、軽く会釈するとはたきを拾い、そそくさと校舎へと去っていった。
それからクマのぬいぐるみ――ジェシカを出現させると、疲れ切った声で彼女?に聞いた。
ふよふよと浮かぶぬいぐるみは、これが答えだと言わんばかりの呆れ返ったような表情で肩を竦め――アレクシアまだ続けるらしい。
「これね、杖に見えて盾なのよ。非効率的過ぎて逆にすごーい。あとね、日時計にも使えちゃうのよ」
無邪気な声の裏に皮肉などこめつつ、アレクシアは杖を地面に突き刺したが、その直後、杖はジェシカに蹴飛ばされ地面を転がった。
「日時計は無理だったみたーい」
『……』
アレクシアはくすくすと笑いながら杖を拾い、ジェシカは深いため息を吐くような仕草をすると消滅した。
爽やかな風が吹くなか、ヴィオラの半眼とアレクシアの無邪気な笑みが交差し――アレクシアは無言で掃除を再開した。
(やれやれ……)
軽くため息など吐き、ヴィオラも清掃を再開した瞬間――風を切る何かが、彼女たちの方へと向かってくる。
ヴィオラは即座に戦闘態勢にはいると、アレクシアを右手で思い切り抱き寄せる――
むにゅっ!
「どどどこ触ってんのよ!?」
手のひらほどの大きさのなにかが、寸前までアレクシアがいた位置を高速で通り過ぎていった。
乳房を鷲掴みにされていたらしいアレクシアが抗議の声などあげたが、ヴィオラは――昨日の宣言通り――手を離さなかった。
少女の膨らみをより強く握りつつ、箒を剣のように構え、新たに飛んできたものを払いのける。
べしんっ!
いまいち緊張感のない音が響く。
ヴィオラたちが見やれば、地面に叩き落されたのは丸められた雑巾だった。矢ほどの殺傷力はないが、毒でも含ませてあれば面倒なことになりかねない。
ヴィオラが飛んできた方に鋭い視線を向けると、校舎側に植えられた樹の陰から、頬に大きな傷跡のある女がゆらりと姿を表した。傷跡と三角巾のギャップがヴィオラの警戒心を掻き立てる――
「……ケアリー?」
「まったく!」
そしてアレクシアが不思議そうに呟いた瞬間、ケアリー教師長は樹よりも高く飛び上がった。落下しながらアレクシアに迫ると、手に持っていたはたきを彼女へと振り下ろす。
がきぃんっ!
はたきと箒。掃除用具同士の激突からは想像できない音が中庭に響く。
ケアリーは、はたきを受け止められた体勢――宙に浮いたまま、怒声を張り上げた。
「教師長を呼び捨てにするとは! まったくなんという子ですか!」
それから瞬時に地に両足をつくと、何故かヴィオラへと連続攻撃を仕掛ける――
ひぃんっ! きゅんっ!
はたきによる攻撃ではあるが、空を切る音が尋常ではない。アレクシアを下がらせると、ヴィオラは鋭い連撃を箒で捌きながら半眼を向ける。
「確かにこいつは口の利き方がなっていないが、教師にも問題があるように思えるぞ」
「そんなことはありません! 当魔法院では礼儀作法に精通した教師がしっかりと教えています!」
ケアリーはしっかりと反論するとヴィオラの蹴りをくぐり抜け、素早く跳び退いた。授業参観では絶対に見せられないであろう、恐ろしい笑みなど浮かべつつ、はたきを逆手に構え直す――
「しかし魔法とは無関係の授業は、試験が終わってしまうと頭から抜けてしまう生徒が多いのもまた事実! 理事長も苦慮しておられます! 社会での人間最大の武器は礼儀だというのに!」
そして懐から取り出した新たなはたきも逆手に構えた。人間離れした速度で距離を詰め、回転するような乱撃を繰り出す。
がががががっ!
「いきなり襲いかかってくる教師に礼儀をがたがた言われたくはないって話だよ」
ヴィオラは後退しつつ、異様な軌道を描く乱撃を捌いていくが、後方にはアレクシアがいるのでいつまでも後退してはいられない――
「お前、礼儀作法に精通した教師を自称する奴か!?」
「来期のカリキュラムでは生徒の休日を減らしてでもそのあたりを改善してみせます!」
「鬼」
アレクシアが半眼で呟くと同時、ケアリーが斜め前方――つまりはヴィオラに向かって軽く跳躍した。宙返りなどして勢いをつけ、逆手に構えた二本のはたきを、牙のように振り下ろし――対するヴィオラは箒を全力で振り上げた。
ぎぃんっ!
金属音がなぜか響き渡り、戦いは終わった。
「やりやがる」
「あなたもなかなかですよ」
左肩にはたきをめり込まされたヴィオラは、地面に片膝をついたケアリーを見やった。
「まぁ、合格ということにしておきましょう」
教師長は立ち上がると唇の血を拭い、ヴィオラに右手を差し出した。握手に応じようと、ヴィオラは右手を差し出しかけたが――左手でケアリーの右手首を掴むと手のひらを上に向けさせた。
そこには特大の画びょうがテープで貼り付けられている。礼儀にうるさい教師長は、ヴィオラのじっとりとした視線にも負けず、微笑みを返した。
「わたしはケアリー。この学び舎で格闘と礼儀作法の授業を担当させて頂いてます」
「オレは冒険者のヴィオラだ。いま気づいたんだが、自己紹介ってのは殴り合った後じゃなくてもできるよな」
ケアリーは驚いたように口を開けているアレクシアを一瞥してからヴィオラに顔を近づけると、笑顔で囁く。
「アレクシアをお願いします。あの電撃ツインテールがわままを言い出したら、ごりっとした関節技がおすすめです。ニッパーもお貸ししましょうか?」
「あんたの授業風景に興味が湧いたよ。クリフォードによろしくな」
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