御庭番のくノ一ちゃん ~華のお江戸で花より団子~

裏耕記

文字の大きさ
3 / 51
風邪と豆腐(全12話)

2.追跡

しおりを挟む
「歳を取ると保守的になるんですかね~」

 いない相手に毒を吐く小柄な少女、宮地日向である。

「確かに真っ黒なお団子とは邪道な気がしましたが、食べてみれば香りも良くて美味しかったなぁ。今度はひまりちゃんも連れてきて、黒胡麻餡のお団子食べさせてあげたいな。食べれば絶対気に入ると思うの」

 なんだかんだ、日葵ひまりの事は好きなようで共通の好物である団子について思いを馳せる。

 その足取りは先日初めて来たばかりだというのに躊躇がない。

「せっかく広小路まで出てきたんだし、お昼食べてっちゃおうかな! 江戸はお昼食べるのが当たり前で幸せです。紀州じゃ、昼も食べるなんて言ったら、大食らい扱いですからね。さてさて、美味しそうなところは……」

 彼女の目に留まったのは、不思議な看板の掛かったうぐいす屋。
 どんな店かわからないが、興味が勝ってしまい躊躇いなく店に入る。

「こんにちは。一人なんですが、食事しても良いですか?」

「いらっしゃい! よければ奥の小上がりにどうぞ」

 店員の女性は、驚いた様子も見せず、奥へと案内した。
 経験の成せる技だ。

 それもそのはず。彼女は、この店の女将。
 日向より、いくつか上の十八歳ながら、幼い頃より父親の一膳飯屋の手伝いをしていた経験は伊達ではない。

 そんな彼女だから、変な反応もせず、気を遣って咄嗟に奥と通せた。
 慣れない小僧ならびっくりして固まっていただろう。

 というのも、そもそも武家の人間は外食しない。腹が減っても買い食いですらしないものだ。

 何より、日向は武家の子女。女子は基本外出しないか、したとしても女中か若侍が付くのが普通。ふらっと一人で店に来る事はあり得ない

 と、驚きの要素盛りだくさん。
 何のてらいもなく食事をしたいと入ってきた少女を他の客の目につかないよう奥に案内した女将の判断は、流石だと言えるだろう。

「お嬢様、何を召し上がられますか? うちは一膳飯屋ですから、気の利いた物はないのですが」

 やんわりと予防線を張る辺りは、武士の街、江戸で長い間商売を続けてきた知恵だろう。

 そんな事とは、つゆ知らず、初めて入った飯屋に興味津々の日向。

「どういうのが良いかわからないので、お店のイチオシをください」

「あいすみません。今、うちの看板料理は品切れでして。色んなおばんざいを盛り付けた日替わりはいかがでしょう?」
「美味しそうですね! それをお願いします」

 特にごねる事なく、注文が決まったのでほっとした女将。すぐに持ってくる旨を伝え、板場に向かった。


「ご馳走様でした」

 綺麗に食べ終わると、席を立つ。店内は思いの外、客が少なく、店に人気がないように見える。店の味の良さと釣り合っていないようで怪訝な表情を浮かべる日向。

「看板料理が売り切れるほど、お客さんがいないように思うのだけれど」

 一度来ただけで、よく分からない事もあるだろう。それに、この店は夜が繁盛するのかもしれない。

「とても美味しかったです。お店は清潔だし、女将さんは優しいし。また来ますね」
「あら。お上手ですね。またお越しくださいませ」

 女将は愛想を振り撒き、しっかりと接客をやりきる。その顔は、変わった客を無事に捌ききった安堵感というより、心配事が頭を離れないといった顔だった。


 少し日が経った上野広小路。
 ここに歩くは、何時ぞやの叔母、姪コンビ。日葵ひまり日向ひなた。二人揃えばキャッキャっとはしゃぎながら歩く様子は、歳の離れた姉妹にも見える。

「ね! 私の言った通り、試してみて良かったでしょ?」
「確かに。あんなに美味しいだなんて。真っ黒なお団子なんて初めてよ。江戸の団子屋さんの熱意を舐めてたわ」

 自分の勧めたお団子が認められて大満足の表情を浮かべ次なる目的地へと案内する。

 すると、以前と様子が違うのに気がついたのか、立ち止まる姪の日向。

「あれ? 一本道を間違えちゃった。こっちは裏口の方みたい」

 いつも、からかわれる日葵は、ここぞとばかりに揶揄う。

「忍びたる者、街の地図くらい頭に入れとかないとダメじゃない。日向って地図読むのとかも苦手よね~」

「違うの! この前は考え事しながら歩いてたから、間違えちゃっただけだもん!」

 二人の掛け合いがヒートアップするかに思えた瞬間、道の奥から男女の言い争う声が聞こえて、思わず二人で顔を見合わせる。

 声を出さずとも、そこは似た者同士で以心伝心。
 すぐに物陰に隠れると、そこにいると知っていても気が付かないほどに、見事に気配を消す。忍びたる者の面目躍如。だか忍術の無駄遣いである。

 咄嗟に隠れてみたものの、言い争いは先ほどの言葉が捨て台詞だったようで、その場には肩を震わせ涙を啜る女性だけ。

 物陰に隠れた二人はコソコソ話で突然居合わせたこの状況を確認し合う。

「あの人、これから行く予定だったお店の女将さんだ」
「男の人と言い争っていたようね」

「優しくて気さくな良い人だったのに。しかも女を泣かせるなんて! 男の風上にも置けません!」
「そうね! あの男め! 追いかけてガツンと言ってやりましょう!」

 本当にガツンと言いたいだけなのか、単なる興味本位なのか怪しいところではあるが、二人の中では疑問に思わないらしい。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...