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風邪と豆腐(全12話)
7.推理と暴露
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ここは部外者の強みか、早々に頭を切り替えた日葵が切り出す。
「源五郎親方、包丁が無くなって言うけど、ここでは包丁を持ち歩いて無くす物なの?」
「いえ、包丁は各自が管理していて、研ぎも自分でやらせてやす。なもんで研屋にも出すことはねえです。だから外にある訳が無い訳でして……」
冷静に説明していると次第に語尾が小さくなる。それはそうだ。外にあるはずの無いものを、見つけるまで帰ってくるなと追い出してしまったのだから。
「責めてるわけじゃないの。正確に出来事を把握したいだけ。それで、当然お店の中は探したのよね?」
「へい。それはもう。銀次を追い出してからも残りの者全員で探しやした」
「でも無いのよね? じゃあ他の部屋は?」
「他の部屋と言っても、一階はあっしの部屋ですし、上は、ここにいる使用人たちと銀次の部屋でして」
「探してみてもいいんじゃない?」
「もちろん、探しやした。ありやせんでした」
話を聞く限り手詰まりだ。勝手に店の外に出ていくものでもないし、かといって店にも無し。
さて、どうしたものかと項垂れるうぐいす屋の面々に、日向は何気なく呟く。
「それって誰かが持ち出したって事になるんじゃないですか?」
「馬鹿言っちゃいけねえよ! お嬢さん。ここにいる誰もが銀次を認めてる。あいつに悪さをしようなんて奴は居やしませんって。それにあっしの部屋は、階段の脇なもんで誰かが通れば足音に気が付きやす」
その答えに嬉しそうに頷き、日向は話を続ける。
「銀次さんは良い人なんですね。良かった。店の人じゃないとすると外から人が入ったという事ですよね?」
さも当然と泥棒にでも入られたと言われて、ギョッとするうぐいす屋の面々。彼らは今日一日で何度驚くことになるのだろう。
「そうは言っても、なんで包丁なんか。金も残ってやしたし、他に取るものがあったでしょう。包丁が魂ってのは料理人に限っての事ですから」
「しかし、その包丁だけが盗まれたと。うーん、それって泥棒さんは、包丁が銀次さんにとって何より大事って知ってたって事になるんじゃないかな? 全員の包丁ではなく、銀次さんの包丁だけという事から、競合店の嫌がらせではなさそうですし」
再度驚きに包まれるうぐいす屋の面々。
「そ、それは……身内って事ですかい?」
「そうなっちゃうと思います。うぐいす屋さんの身内で、この店にいない人。それは上野のうぐいす屋さんの使用人の方しかいないですよね?」
「驚いた。……お嬢さん、そんなちっこいのに良く頭が回りやすね」
「ちっこいとは失礼な! 私はもう十五歳です! そして何より重要なのは、私は優秀なくノ一なんですからね! このくらいは当然なのです」
「ちょっと日向!」
止めるのも間に合わず、堂々とくノ一と言い放つ日向にうぐいす屋の面々はというと、思いもよらぬ発言にポカンとしてしまっている。
「お嬢さん、くノ一って忍者の女番のあれですかい?」
「はい! そう――」
胸を張って、「そうですよ」と同意しようとする日向。しかし、その言葉は、勢いの乗った言葉にかき消される。
「ちょっと待ったぁ! 日向はね、アレなのよ。若いうちってそういう時期あるでしょ。若い子特有の黒い時代なの」
「ひまりちゃん!なんてこと言うの! それにひまりちゃんだって、私に負けず劣らず優秀なくノ一じゃない!」
「やめてー!私の歳でそれを言ってたら、ただの痛い人だから! 洒落にならないわ!」
周囲の人間をそっちのけでギャアギャアと叔母・姪コンビの漫才が始まってしまう。
内容がまずかったのか取っ組み合いにまで発展しそうだ。
「あのー、きっと剣呑だった空気を和らげようとしてくださったんですよね? お気遣い頂きやして、ありがとうごぜえやす」
さすがに状況も状況なので、身分差は気にしつつも止め役となる源五郎親方。
「そうなんですよー。ほほほ」
今度こそは、もう余計な事は言わせないと物理的にも日向を封じた。
日葵の腕には、日向が抱え込まれており、手で口を抑えれモガモガしている。
何か言ってるようだが、この流れでは恐らく「本物のくノ一だ」と言っているんじゃなかろうか。
皆、同様に察しているが、そこに触れると話が進まなそうなので、誰も触れない。
やがてなんとか抜け出した日向は、着物の乱れを直して、ため息を一つ。
「もう! せっかくいい流れで説明してたのに。頭が良いできる系の印象が台無しじゃないですか。もうですよ。それで上野のうぐいす屋には使用人が二人いるんですよね?」
気になる所はあるが、ツッコミ役不在のおかげか、変に混ぜっ返す人間がいないので話がスムーズに進む。
「へい。弥助と太吉でさぁ」
「となると、そのうちのどちらかが怪しいわね」
話が厄介になるので、主導権は日葵が受け持つようだ。
「そうは思いたくはねぇんですが」
「仕方ないわ。本店のように上野のお店の上に住んでるの?」
「いえ、あっちは狭い借家なので、近くの長屋に住まわせてやす」
「なんて言う長屋?」
「弥助が五兵衛長屋で太吉が魚魚長屋でさ」
「ありがと。そっち行ってみるわ。本人は今の時間なら店にいるでしょ?」
「へい。夜になるまで戻りやせん」
「じゃあ家探しと行きますか!」
「源五郎親方、包丁が無くなって言うけど、ここでは包丁を持ち歩いて無くす物なの?」
「いえ、包丁は各自が管理していて、研ぎも自分でやらせてやす。なもんで研屋にも出すことはねえです。だから外にある訳が無い訳でして……」
冷静に説明していると次第に語尾が小さくなる。それはそうだ。外にあるはずの無いものを、見つけるまで帰ってくるなと追い出してしまったのだから。
「責めてるわけじゃないの。正確に出来事を把握したいだけ。それで、当然お店の中は探したのよね?」
「へい。それはもう。銀次を追い出してからも残りの者全員で探しやした」
「でも無いのよね? じゃあ他の部屋は?」
「他の部屋と言っても、一階はあっしの部屋ですし、上は、ここにいる使用人たちと銀次の部屋でして」
「探してみてもいいんじゃない?」
「もちろん、探しやした。ありやせんでした」
話を聞く限り手詰まりだ。勝手に店の外に出ていくものでもないし、かといって店にも無し。
さて、どうしたものかと項垂れるうぐいす屋の面々に、日向は何気なく呟く。
「それって誰かが持ち出したって事になるんじゃないですか?」
「馬鹿言っちゃいけねえよ! お嬢さん。ここにいる誰もが銀次を認めてる。あいつに悪さをしようなんて奴は居やしませんって。それにあっしの部屋は、階段の脇なもんで誰かが通れば足音に気が付きやす」
その答えに嬉しそうに頷き、日向は話を続ける。
「銀次さんは良い人なんですね。良かった。店の人じゃないとすると外から人が入ったという事ですよね?」
さも当然と泥棒にでも入られたと言われて、ギョッとするうぐいす屋の面々。彼らは今日一日で何度驚くことになるのだろう。
「そうは言っても、なんで包丁なんか。金も残ってやしたし、他に取るものがあったでしょう。包丁が魂ってのは料理人に限っての事ですから」
「しかし、その包丁だけが盗まれたと。うーん、それって泥棒さんは、包丁が銀次さんにとって何より大事って知ってたって事になるんじゃないかな? 全員の包丁ではなく、銀次さんの包丁だけという事から、競合店の嫌がらせではなさそうですし」
再度驚きに包まれるうぐいす屋の面々。
「そ、それは……身内って事ですかい?」
「そうなっちゃうと思います。うぐいす屋さんの身内で、この店にいない人。それは上野のうぐいす屋さんの使用人の方しかいないですよね?」
「驚いた。……お嬢さん、そんなちっこいのに良く頭が回りやすね」
「ちっこいとは失礼な! 私はもう十五歳です! そして何より重要なのは、私は優秀なくノ一なんですからね! このくらいは当然なのです」
「ちょっと日向!」
止めるのも間に合わず、堂々とくノ一と言い放つ日向にうぐいす屋の面々はというと、思いもよらぬ発言にポカンとしてしまっている。
「お嬢さん、くノ一って忍者の女番のあれですかい?」
「はい! そう――」
胸を張って、「そうですよ」と同意しようとする日向。しかし、その言葉は、勢いの乗った言葉にかき消される。
「ちょっと待ったぁ! 日向はね、アレなのよ。若いうちってそういう時期あるでしょ。若い子特有の黒い時代なの」
「ひまりちゃん!なんてこと言うの! それにひまりちゃんだって、私に負けず劣らず優秀なくノ一じゃない!」
「やめてー!私の歳でそれを言ってたら、ただの痛い人だから! 洒落にならないわ!」
周囲の人間をそっちのけでギャアギャアと叔母・姪コンビの漫才が始まってしまう。
内容がまずかったのか取っ組み合いにまで発展しそうだ。
「あのー、きっと剣呑だった空気を和らげようとしてくださったんですよね? お気遣い頂きやして、ありがとうごぜえやす」
さすがに状況も状況なので、身分差は気にしつつも止め役となる源五郎親方。
「そうなんですよー。ほほほ」
今度こそは、もう余計な事は言わせないと物理的にも日向を封じた。
日葵の腕には、日向が抱え込まれており、手で口を抑えれモガモガしている。
何か言ってるようだが、この流れでは恐らく「本物のくノ一だ」と言っているんじゃなかろうか。
皆、同様に察しているが、そこに触れると話が進まなそうなので、誰も触れない。
やがてなんとか抜け出した日向は、着物の乱れを直して、ため息を一つ。
「もう! せっかくいい流れで説明してたのに。頭が良いできる系の印象が台無しじゃないですか。もうですよ。それで上野のうぐいす屋には使用人が二人いるんですよね?」
気になる所はあるが、ツッコミ役不在のおかげか、変に混ぜっ返す人間がいないので話がスムーズに進む。
「へい。弥助と太吉でさぁ」
「となると、そのうちのどちらかが怪しいわね」
話が厄介になるので、主導権は日葵が受け持つようだ。
「そうは思いたくはねぇんですが」
「仕方ないわ。本店のように上野のお店の上に住んでるの?」
「いえ、あっちは狭い借家なので、近くの長屋に住まわせてやす」
「なんて言う長屋?」
「弥助が五兵衛長屋で太吉が魚魚長屋でさ」
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「じゃあ家探しと行きますか!」
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