20 / 51
子供の行方(全17話)
6.日向、目撃す
しおりを挟む
「ほえ~。大きなお店ですね~。呉服屋さんの花月屋さんって言うのですか。青物市場で呉服屋さんなんて儲かるのでしょうか」
呉服と言えば日本橋。有名な大店が競うように出店して鎬を削っている
だというのに、縁のなさそうな青物市場のそばに呉服屋。店構えからすれば儲かっているのは疑いようも無いのだが、場違い感は否めない。
しかし実際、身なりの良い商人らしき人物がひっきりなしに出たり入ったりしているのだから繁盛しているのは間違いない。
だが、日向は何か気になる様子で、見入っている。
と花月屋を眺めていたのは数拍で、もう身体は別の方向に向いていた。
次に行く予定のお団子屋に行くことにしたようである。
「こんにちは。お団子とお茶をくださいな~」
目的の茶店に着いた日向は迷うことなく注文をする。
「はいよ! おや、かわいらしいお嬢ちゃんで。うちはヨモギ団子が人気だよ。それでいいかい?」
「はい! でも普通の奴も食べてみたいな~」
普段はお嬢ちゃん呼ばわりされれば、子供扱いしないでくれと、きっちり訂正する日向だが、今回は訂正せずニコニコ顔。
「しょうがねえ!可愛いお嬢ちゃんには敵わねえや。一本オマケしといてやるよ」
「ありがとうございます!」
その真意はここにあったようだ。
相手の心の機微を読み取り、それに合わせて態度を作る。忍びの情報収集の手段である。決してここで使うようなものではないのだが。
「へい、おまち!」
「ありがとうございます! 美味しそうですね~。ヨモギの香りと焙られた団子の香ばしさが相まって、食欲を刺激します。上に餡子をかけるなんて反則ですよ!」
「お褒めにいただき光栄なこって。それにしても武家のお嬢ちゃんがこんなところでどうしたんだい?」
日向は団子を食べながら答える。
「去年、江戸に来たばかりだから色々と散策しているの。今日は青物市場を見に来た帰りで」
既に踏破してきた食い倒れの行程については説明しないようだ。第一目標の松風を後悔の無いよう、たらふく食って、大福やら饅頭やら露店や茶店をハシゴして今に至るのである。
ここまでくると、目的は甘味巡りとしか言えない状況なのだが。
「そうかい。あそこはすげえだろ? 天下のお江戸を支える青物市場だ。沢山人も集まるからね。ここらは、青物市場と花月屋で成り立ってるのさ」
「花月屋さん? どっかで見かけたような……」
「青物市場からこっちに向かってくるときに、ひときわ大きな店があったの気が付かなかったかい?」
「あー、あの呉服屋さんですか?」
「そうそう! あそこの店主である金衛門さんはやり手でね。一代であそこまでの店にしただけじゃなく子供のために私財を投げ打ってるって話だ。金があるだけじゃなくて人も良いときてる。ここらの自慢さ」
「へぇ。確かにお客さんは沢山入ってましたね。でもここらで呉服を必要とする人なんて多いのですか?」
「まさかぁ! 俺らは木綿の古着がせいぜいさ。市場の連中だって絹物を着てたら仕事になんねえや。この町には絹物を着れる連中なんで片手で足りるくらいなのに不思議だなって思うけどよ。俺にはよくわかんねえな」
「そうですか。確かに不思議ですね。人気の秘密は何なのでしょう。面白い秘密があるかもしれません。また見に行ってみますかね」
また興味の虫が騒ぎ出した日向。ここから花月屋まで、そう離れていない事もあって、もう一度訪ねてみる事にしたようだ。
また見に来ても、さっきと変わらず筋の良い客が出入りするばかり。
出てくる客も手ぶらで帰るが、後で届けてもらうのだろう。上機嫌そうに軽い足取り、そして嬉しそうな表情を浮かべている様子から、商談が成功したと察する事が出来るからだ。
何気なくその様子を見ていると、店の横の路地に佇む人物が目に入った。
花月屋の客筋にそぐわない下卑た目付き、服装も着古した木綿の着流し。ニタニタとその客を見送っていた。
何か良からぬ事を企んでいそうに思えた日向は、意識を改め周囲を警戒する。
しかし、その男は、店から出てきた客を見送るだけで、何もしなかった。
そしてその客が見えなくなると、踵を返し奥へと行ってしまった。
気がかりだった日向は、躊躇なくその男の後を追う。
するとその男はあろうことか花月屋の裏口から中へと入っていってしまった。
裏口とはいえ、ここまでの大店になれば、鍵が締まっているか門番がいる。
さほど待つ事もなく、スムーズに中に入れたのは、すでに何度もここにきている証拠だろう。
だが、団子屋の話で聞いた篤志家の店主という人物像からすると、先ほどの胡散臭い男と懇意であるとは思えない。
もしかすると花月屋で押し込み強盗など悪さを企んでいるのかもしれない。
日向は、目の前で起きた光景に頭の整理に収拾がつかないようで動けずにいた。
呉服と言えば日本橋。有名な大店が競うように出店して鎬を削っている
だというのに、縁のなさそうな青物市場のそばに呉服屋。店構えからすれば儲かっているのは疑いようも無いのだが、場違い感は否めない。
しかし実際、身なりの良い商人らしき人物がひっきりなしに出たり入ったりしているのだから繁盛しているのは間違いない。
だが、日向は何か気になる様子で、見入っている。
と花月屋を眺めていたのは数拍で、もう身体は別の方向に向いていた。
次に行く予定のお団子屋に行くことにしたようである。
「こんにちは。お団子とお茶をくださいな~」
目的の茶店に着いた日向は迷うことなく注文をする。
「はいよ! おや、かわいらしいお嬢ちゃんで。うちはヨモギ団子が人気だよ。それでいいかい?」
「はい! でも普通の奴も食べてみたいな~」
普段はお嬢ちゃん呼ばわりされれば、子供扱いしないでくれと、きっちり訂正する日向だが、今回は訂正せずニコニコ顔。
「しょうがねえ!可愛いお嬢ちゃんには敵わねえや。一本オマケしといてやるよ」
「ありがとうございます!」
その真意はここにあったようだ。
相手の心の機微を読み取り、それに合わせて態度を作る。忍びの情報収集の手段である。決してここで使うようなものではないのだが。
「へい、おまち!」
「ありがとうございます! 美味しそうですね~。ヨモギの香りと焙られた団子の香ばしさが相まって、食欲を刺激します。上に餡子をかけるなんて反則ですよ!」
「お褒めにいただき光栄なこって。それにしても武家のお嬢ちゃんがこんなところでどうしたんだい?」
日向は団子を食べながら答える。
「去年、江戸に来たばかりだから色々と散策しているの。今日は青物市場を見に来た帰りで」
既に踏破してきた食い倒れの行程については説明しないようだ。第一目標の松風を後悔の無いよう、たらふく食って、大福やら饅頭やら露店や茶店をハシゴして今に至るのである。
ここまでくると、目的は甘味巡りとしか言えない状況なのだが。
「そうかい。あそこはすげえだろ? 天下のお江戸を支える青物市場だ。沢山人も集まるからね。ここらは、青物市場と花月屋で成り立ってるのさ」
「花月屋さん? どっかで見かけたような……」
「青物市場からこっちに向かってくるときに、ひときわ大きな店があったの気が付かなかったかい?」
「あー、あの呉服屋さんですか?」
「そうそう! あそこの店主である金衛門さんはやり手でね。一代であそこまでの店にしただけじゃなく子供のために私財を投げ打ってるって話だ。金があるだけじゃなくて人も良いときてる。ここらの自慢さ」
「へぇ。確かにお客さんは沢山入ってましたね。でもここらで呉服を必要とする人なんて多いのですか?」
「まさかぁ! 俺らは木綿の古着がせいぜいさ。市場の連中だって絹物を着てたら仕事になんねえや。この町には絹物を着れる連中なんで片手で足りるくらいなのに不思議だなって思うけどよ。俺にはよくわかんねえな」
「そうですか。確かに不思議ですね。人気の秘密は何なのでしょう。面白い秘密があるかもしれません。また見に行ってみますかね」
また興味の虫が騒ぎ出した日向。ここから花月屋まで、そう離れていない事もあって、もう一度訪ねてみる事にしたようだ。
また見に来ても、さっきと変わらず筋の良い客が出入りするばかり。
出てくる客も手ぶらで帰るが、後で届けてもらうのだろう。上機嫌そうに軽い足取り、そして嬉しそうな表情を浮かべている様子から、商談が成功したと察する事が出来るからだ。
何気なくその様子を見ていると、店の横の路地に佇む人物が目に入った。
花月屋の客筋にそぐわない下卑た目付き、服装も着古した木綿の着流し。ニタニタとその客を見送っていた。
何か良からぬ事を企んでいそうに思えた日向は、意識を改め周囲を警戒する。
しかし、その男は、店から出てきた客を見送るだけで、何もしなかった。
そしてその客が見えなくなると、踵を返し奥へと行ってしまった。
気がかりだった日向は、躊躇なくその男の後を追う。
するとその男はあろうことか花月屋の裏口から中へと入っていってしまった。
裏口とはいえ、ここまでの大店になれば、鍵が締まっているか門番がいる。
さほど待つ事もなく、スムーズに中に入れたのは、すでに何度もここにきている証拠だろう。
だが、団子屋の話で聞いた篤志家の店主という人物像からすると、先ほどの胡散臭い男と懇意であるとは思えない。
もしかすると花月屋で押し込み強盗など悪さを企んでいるのかもしれない。
日向は、目の前で起きた光景に頭の整理に収拾がつかないようで動けずにいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる