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第5章 不器用な親子【道三と義龍】
5.英才教育
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その日、十兵衛は義龍と2度目の対面を行う。
既に叔父光安は、明智家へ戻っていった後である。
2度目は、道三と稲葉一鉄もおり、正式な二人の対面式の様なモノだった。
義龍も十兵衛も、素知らぬ顔で互いに挨拶をすると、道三が二人に語り始める。
『今日から、3ヶ月、ワシが直々にお主らに国の治め方や、軍略とは何かを教えてやろう』
『有難いと思え!!』
『武芸については、稲葉に任せる、一鉄宜しく頼む!!』と道三はそう言い、十兵衛と義龍は、朝からは武芸、午後は帝王学と軍略の講義を受ける事になったのである。
武芸の訓練は、稲葉一鉄の猛特訓を受ける。剣の修行の中で、一鉄は技術よりも精神を鍛える事に主を置いた。
基礎訓練を何時間も行い、その後巨体の義龍と木刀で立ち会う日が連日続いた。
十兵衛も、長年自分で剣の技術を磨いており、素早い打ち込みを得意としていた。
しかし、義龍の武芸は達人であり、その速い打ち込みを時に躱し、時には受けては十兵衛へ雷撃のような鋭い攻撃を返す。武芸に関しては十兵衛の連日連敗であった。
しかし、学問の時間になると結果は全くの逆の結果になる。
義龍も、道三の息子、地頭が良い為、飲み込みも決して遅くない。しかし、相手が悪かった。
十兵衛は、帝王学、軍略共に物凄い勢いで道三の知識を吸収していったのであった。
特に、帝王学(国の治め方)については並々ならぬ熱意を持ち、勉強するので、教えている道三も十兵衛を中心に講義を進める。
そんな二人をみて、義龍が嫉妬するような眼差しで見ていたのである。
(親父殿は、ワシに、あんなに楽しそうに話した事等無い・・・)
大男の目は、突然兄弟が出来、親から一身に浴びていた愛情を横取りされた幼子の様な目をしていたのであった。
『義龍、十兵衛を見習え、得意な武芸ばかりせず、もっと学問に励め!』
子供の気持ちを察する事ができない父親の、叱咤激励は、義龍にとっては自分への批判に聞こえてしまったのであった。
そんな時である、十兵衛は見かねて声をあげる。
『道三様、何を言われまする。私と義龍様は得意分野が違うだけ』
『義龍様の武芸は、日の本一と言っても良いぐらいの達人』
『学問でも、軍略にかけては私も及びませぬ。道三様は、義龍様に厳しすぎると思われまする』
『十兵衛、ワシに意見を述べるとは、生意気な奴、黙っておれ!』
『義龍は、ワシの嫡男、いずれはこの美濃を継がなければならぬ男、総てにおいてお主の上にならなければいけない男なのじゃ』
道三の声は、怒っている。しかし、その怒りは演技であった。
本心は、十兵衛の言葉が嬉しかったのである。
十兵衛を怒る様にして、嫡男義龍への自分の期待を言葉に出せた事、普段息子に直接言えない恥ずかしい言葉を言える事が父は嬉しかった。
道三は視線を微妙に動かし、義龍の様子をうかがうと、義龍が目を真っ赤にしているのが分かった。
(明智の小童め、学問だけでなく、人の気持ちも察する事ができる奴だな)
(義龍よ、泣いている場合じゃないぞ、お主はこの男を越える男にならなければならぬ)
(勝てなくても良い、この者を付き従わせる度量を、学ばなければならぬ)
道三は内心可愛くて仕方が無い義龍を、心の中でも叱咤激励するのであった。
不器用な人間は存在する。不器用とは、手の器用さではない。
道三は、紛れもない人たらしである。しかし、実の息子義龍に対しては期待が大きすぎる為、又自分の子であれば分かってくれるというワガママな気持ちが、息子との距離を作っていたのであった。
そういう意味で、道三も不器用な父親であった。
息子義龍も又、父から褒められたい、期待に応えようとするのだが褒めてくれない父に疲れ、生来素直な男は、父にだけは弱みをみせれない、素直になれない男であった。
お互い素直になれば、万事うまくいくのに、それができない二人であったのである。
容姿は似ていないが、不器用さがソックリで、その不器用さが二人を、斎藤家に悲劇をもたらす事になろうとはこの時は誰もが思わなかった。
既に叔父光安は、明智家へ戻っていった後である。
2度目は、道三と稲葉一鉄もおり、正式な二人の対面式の様なモノだった。
義龍も十兵衛も、素知らぬ顔で互いに挨拶をすると、道三が二人に語り始める。
『今日から、3ヶ月、ワシが直々にお主らに国の治め方や、軍略とは何かを教えてやろう』
『有難いと思え!!』
『武芸については、稲葉に任せる、一鉄宜しく頼む!!』と道三はそう言い、十兵衛と義龍は、朝からは武芸、午後は帝王学と軍略の講義を受ける事になったのである。
武芸の訓練は、稲葉一鉄の猛特訓を受ける。剣の修行の中で、一鉄は技術よりも精神を鍛える事に主を置いた。
基礎訓練を何時間も行い、その後巨体の義龍と木刀で立ち会う日が連日続いた。
十兵衛も、長年自分で剣の技術を磨いており、素早い打ち込みを得意としていた。
しかし、義龍の武芸は達人であり、その速い打ち込みを時に躱し、時には受けては十兵衛へ雷撃のような鋭い攻撃を返す。武芸に関しては十兵衛の連日連敗であった。
しかし、学問の時間になると結果は全くの逆の結果になる。
義龍も、道三の息子、地頭が良い為、飲み込みも決して遅くない。しかし、相手が悪かった。
十兵衛は、帝王学、軍略共に物凄い勢いで道三の知識を吸収していったのであった。
特に、帝王学(国の治め方)については並々ならぬ熱意を持ち、勉強するので、教えている道三も十兵衛を中心に講義を進める。
そんな二人をみて、義龍が嫉妬するような眼差しで見ていたのである。
(親父殿は、ワシに、あんなに楽しそうに話した事等無い・・・)
大男の目は、突然兄弟が出来、親から一身に浴びていた愛情を横取りされた幼子の様な目をしていたのであった。
『義龍、十兵衛を見習え、得意な武芸ばかりせず、もっと学問に励め!』
子供の気持ちを察する事ができない父親の、叱咤激励は、義龍にとっては自分への批判に聞こえてしまったのであった。
そんな時である、十兵衛は見かねて声をあげる。
『道三様、何を言われまする。私と義龍様は得意分野が違うだけ』
『義龍様の武芸は、日の本一と言っても良いぐらいの達人』
『学問でも、軍略にかけては私も及びませぬ。道三様は、義龍様に厳しすぎると思われまする』
『十兵衛、ワシに意見を述べるとは、生意気な奴、黙っておれ!』
『義龍は、ワシの嫡男、いずれはこの美濃を継がなければならぬ男、総てにおいてお主の上にならなければいけない男なのじゃ』
道三の声は、怒っている。しかし、その怒りは演技であった。
本心は、十兵衛の言葉が嬉しかったのである。
十兵衛を怒る様にして、嫡男義龍への自分の期待を言葉に出せた事、普段息子に直接言えない恥ずかしい言葉を言える事が父は嬉しかった。
道三は視線を微妙に動かし、義龍の様子をうかがうと、義龍が目を真っ赤にしているのが分かった。
(明智の小童め、学問だけでなく、人の気持ちも察する事ができる奴だな)
(義龍よ、泣いている場合じゃないぞ、お主はこの男を越える男にならなければならぬ)
(勝てなくても良い、この者を付き従わせる度量を、学ばなければならぬ)
道三は内心可愛くて仕方が無い義龍を、心の中でも叱咤激励するのであった。
不器用な人間は存在する。不器用とは、手の器用さではない。
道三は、紛れもない人たらしである。しかし、実の息子義龍に対しては期待が大きすぎる為、又自分の子であれば分かってくれるというワガママな気持ちが、息子との距離を作っていたのであった。
そういう意味で、道三も不器用な父親であった。
息子義龍も又、父から褒められたい、期待に応えようとするのだが褒めてくれない父に疲れ、生来素直な男は、父にだけは弱みをみせれない、素直になれない男であった。
お互い素直になれば、万事うまくいくのに、それができない二人であったのである。
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