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第8章 不屈の男、信秀
12.信秀と言う男【後編】
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信秀は、息子二人の表情を見ながら、ユックリと語り出した。
『言うまでもないが、此度起こった総ての反乱の裏には今川がおる』
『認めるのも、腹ただしいが、この状況を手引きした者は、ワシの・・我らの弱点を良く知っておる』
『奴らは、先ずワシらを内輪で揉めさせ、混乱させ、分裂した状況にし、攻めてくるつもりなのじゃ』
『・・・・・』
『・・・・で、どうするんだ、オヤジ』
信秀の状況判断を、信広は黙って聞いていたが、信長は結論を急ぐ様に口を開いた。
『・・・分が悪い勝負の時には、守らなければならない二つの鉄則がある』
『二つの鉄則?』、信長が信秀の最後の言葉を復唱する
『鉄則とは?』、信広もそれに続く。
『先ずは、先手を取る事じゃ』
『分が悪い勝負になる事が分かったら、とにかく先手を取りにいくしかない』
『分が悪い戦で、いやどんな戦であれ、後手に回ったら、ひっくり返すのには困難じゃ』
『先手、先手を取る事で、相手が後手に回る。一度、先手を取ったら、もう2度と相手には取らせない様に戦うのが戦の鉄則。』
『オヤジ、今のおれ達は、既に相手に先手を取られているんだぜ』
『オヤジの考えだと、もうひっくり返せないって事か・・』
信長が、信秀に問いかけるのではなく、確認する様に聞く。
『このまま、待っていればな・・』
『しかしワシは、待たん!』
『次の先手を取りに行く、奴らが攻め込んでくる前に打って出る!』
『我らはこれから直ぐに、三河松平広忠の居城、岡崎城へ攻め入る』
『・・・そんな、無茶でございます、我らは、いや我らの兵達は、既に一月戦い通しでございます、士気があがりません』
『そんな事分かっておるわい。しかしな、信広、今、兵を解散し、又集めるのも至難の業だ』
『その時、集まった兵達が、今此処に居る者達と比べて、必ずしも士気が高いとは言えまい・・』
『イヤ、ワシは、士気が低くなっていると予想する』
『今この城に残っている兵達は、疲れてはいるだろうが、2つの城の反乱軍を鎮圧し、自信を持っておる』
『士気は決して低くない、勝負をかけるなら、今しかないのじゃ』
『まあ、経験の無い、お主らには、口だけで言っても未だ分るまい、此度のこの我が家の窮地、ワシと共に戦い、ワシのやり方をとくとみてみて学べ』
父信秀のその迷いなき考えと、共に戦い、やり方を学べという言葉に、二人の息子は胸に熱きモノを覚えた。
父の決意を聞いた信長、信広の二人はゴクリと唾をのみ込んだ。
暫くすると、信秀はその場に立ち上がり、信広に命を出す。
『信広!、お主に4千の兵を任せる、我が軍の先陣になって三河岡崎城攻め入るのじゃ』
『直ぐに、その報を知り、駿河の国より今川が救援に来るだろうが、そ奴らまとめて皆殺しにしてやれ』
『我が織田家の命運を握る戦いとなる、お主の名と武勇を松平と今川の奴らに教えてやるのじゃ』
『・・・ハッ、この信広、必ずや岡崎城を落として見せまする』
信秀に頭を下げる信広の顔は、父信秀が自分を信頼している事が分かり、心の底から嬉しそうな顔をしていた。
『ウム、励め!お主の武功を楽しみにしておる・・頼んだぞ!』
『オヤジ、信広兄ぃが先鋒になる事には、異存は無いが、鉄則の内、もう一つは何なんだ?』
『オレも知りたいし、兄ぃも戦前に、知っておきたいだろう』
『・・・・!』
『オウッ、スマヌ、すっかり忘れておった。もう一つのやらなければならない鉄則は・・』
『腹(考え方の意)と覚悟決め、やるべき事を全力でやる、仏に問えるぐらい全力でな』
『仏に問う?、仏に祈るではなく、どういう意味じゃ?』
『仏に祈るというのは、仏の力を借りようとする考え、それは甘えじゃ』
『やるべきことを全力ですれば、祈るよりも先に、問いたくなるものじゃ』
『自分がやった事が、正しかったかどうか、それを仏に問いたくなるまで、全力で己の能力を尽くせ』
『最後に仏に助けてもらおうと、祈る己がいたら、未だ全力を出していなかったという事じゃ』
『良いか!お主ら、此度の戦は、我らが織田家の存続を仏に問う戦いじゃ、その想いを旨に戦い、絶対に勝つぞ!』
信秀は息子達にそう言い、その後何を思ったか、二人の前で一つの舞を踊った。
それは見ている二人にとっては、信秀流の仏への問いかけの儀式を見せられている様な感覚であった。
『人間五十年~、下天の内に比ぶれば』(人間の世界の50年は、仏の世でいえば)
『夢幻のごとくなり~』(夢や幻を見たのではないかと錯覚してしまうぐらいの短さである)
『一度生を享け、滅せぬものはあるべきか』
(その短く、儚い時間の中で、人間は生を受け、必ず死を迎える)
その舞は、後年信長が愛したという幸若舞の敦盛の舞であった。
低い信秀の声が、二人の居る部屋の壁に当たり、響いていく様であった。
(御仏よ!我らの一生は、お主にとって面白き夢か、はたまた美しき幻か、其処で存分に見るが良い、我らの意地を、我らの生き様を!)
ジッと信秀の舞を見つめる信長の耳には、父信秀の心の声が伝わって来るようであった。
父の舞は、力強く、堂々としており、二人の息子達は、自分もこんな男になりたいと心の底から思ったのであった。
こうして、織田信秀軍は、息子織田信広を先鋒に4000の兵を率いて、三河松平家の岡崎城攻略へ向かったのであった。
『言うまでもないが、此度起こった総ての反乱の裏には今川がおる』
『認めるのも、腹ただしいが、この状況を手引きした者は、ワシの・・我らの弱点を良く知っておる』
『奴らは、先ずワシらを内輪で揉めさせ、混乱させ、分裂した状況にし、攻めてくるつもりなのじゃ』
『・・・・・』
『・・・・で、どうするんだ、オヤジ』
信秀の状況判断を、信広は黙って聞いていたが、信長は結論を急ぐ様に口を開いた。
『・・・分が悪い勝負の時には、守らなければならない二つの鉄則がある』
『二つの鉄則?』、信長が信秀の最後の言葉を復唱する
『鉄則とは?』、信広もそれに続く。
『先ずは、先手を取る事じゃ』
『分が悪い勝負になる事が分かったら、とにかく先手を取りにいくしかない』
『分が悪い戦で、いやどんな戦であれ、後手に回ったら、ひっくり返すのには困難じゃ』
『先手、先手を取る事で、相手が後手に回る。一度、先手を取ったら、もう2度と相手には取らせない様に戦うのが戦の鉄則。』
『オヤジ、今のおれ達は、既に相手に先手を取られているんだぜ』
『オヤジの考えだと、もうひっくり返せないって事か・・』
信長が、信秀に問いかけるのではなく、確認する様に聞く。
『このまま、待っていればな・・』
『しかしワシは、待たん!』
『次の先手を取りに行く、奴らが攻め込んでくる前に打って出る!』
『我らはこれから直ぐに、三河松平広忠の居城、岡崎城へ攻め入る』
『・・・そんな、無茶でございます、我らは、いや我らの兵達は、既に一月戦い通しでございます、士気があがりません』
『そんな事分かっておるわい。しかしな、信広、今、兵を解散し、又集めるのも至難の業だ』
『その時、集まった兵達が、今此処に居る者達と比べて、必ずしも士気が高いとは言えまい・・』
『イヤ、ワシは、士気が低くなっていると予想する』
『今この城に残っている兵達は、疲れてはいるだろうが、2つの城の反乱軍を鎮圧し、自信を持っておる』
『士気は決して低くない、勝負をかけるなら、今しかないのじゃ』
『まあ、経験の無い、お主らには、口だけで言っても未だ分るまい、此度のこの我が家の窮地、ワシと共に戦い、ワシのやり方をとくとみてみて学べ』
父信秀のその迷いなき考えと、共に戦い、やり方を学べという言葉に、二人の息子は胸に熱きモノを覚えた。
父の決意を聞いた信長、信広の二人はゴクリと唾をのみ込んだ。
暫くすると、信秀はその場に立ち上がり、信広に命を出す。
『信広!、お主に4千の兵を任せる、我が軍の先陣になって三河岡崎城攻め入るのじゃ』
『直ぐに、その報を知り、駿河の国より今川が救援に来るだろうが、そ奴らまとめて皆殺しにしてやれ』
『我が織田家の命運を握る戦いとなる、お主の名と武勇を松平と今川の奴らに教えてやるのじゃ』
『・・・ハッ、この信広、必ずや岡崎城を落として見せまする』
信秀に頭を下げる信広の顔は、父信秀が自分を信頼している事が分かり、心の底から嬉しそうな顔をしていた。
『ウム、励め!お主の武功を楽しみにしておる・・頼んだぞ!』
『オヤジ、信広兄ぃが先鋒になる事には、異存は無いが、鉄則の内、もう一つは何なんだ?』
『オレも知りたいし、兄ぃも戦前に、知っておきたいだろう』
『・・・・!』
『オウッ、スマヌ、すっかり忘れておった。もう一つのやらなければならない鉄則は・・』
『腹(考え方の意)と覚悟決め、やるべき事を全力でやる、仏に問えるぐらい全力でな』
『仏に問う?、仏に祈るではなく、どういう意味じゃ?』
『仏に祈るというのは、仏の力を借りようとする考え、それは甘えじゃ』
『やるべきことを全力ですれば、祈るよりも先に、問いたくなるものじゃ』
『自分がやった事が、正しかったかどうか、それを仏に問いたくなるまで、全力で己の能力を尽くせ』
『最後に仏に助けてもらおうと、祈る己がいたら、未だ全力を出していなかったという事じゃ』
『良いか!お主ら、此度の戦は、我らが織田家の存続を仏に問う戦いじゃ、その想いを旨に戦い、絶対に勝つぞ!』
信秀は息子達にそう言い、その後何を思ったか、二人の前で一つの舞を踊った。
それは見ている二人にとっては、信秀流の仏への問いかけの儀式を見せられている様な感覚であった。
『人間五十年~、下天の内に比ぶれば』(人間の世界の50年は、仏の世でいえば)
『夢幻のごとくなり~』(夢や幻を見たのではないかと錯覚してしまうぐらいの短さである)
『一度生を享け、滅せぬものはあるべきか』
(その短く、儚い時間の中で、人間は生を受け、必ず死を迎える)
その舞は、後年信長が愛したという幸若舞の敦盛の舞であった。
低い信秀の声が、二人の居る部屋の壁に当たり、響いていく様であった。
(御仏よ!我らの一生は、お主にとって面白き夢か、はたまた美しき幻か、其処で存分に見るが良い、我らの意地を、我らの生き様を!)
ジッと信秀の舞を見つめる信長の耳には、父信秀の心の声が伝わって来るようであった。
父の舞は、力強く、堂々としており、二人の息子達は、自分もこんな男になりたいと心の底から思ったのであった。
こうして、織田信秀軍は、息子織田信広を先鋒に4000の兵を率いて、三河松平家の岡崎城攻略へ向かったのであった。
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