34 / 75
第4章 誘拐事件
5.見世物小屋(越中富山の薬売り)
しおりを挟む
久之助達4人には、修行用として6尺の棍棒(重量1㎏)と鉄の棒(重量4㎏)の2本が支給された。
稽古が始まって3週間は、棍棒を使って剣技の基本の型を覚えさせられた。
棒を回転させる事から、始めるのだが、見ると簡単にできそうな棒回しが、思ったよりも難しく、持ち方、初期動作が身についた時は、既に季節は夏(7月)になっていた。
久之助は、個人的に思う事が有り、自分の馴染みの刀鍛冶に特注の鉄棒を作らせ、長屋に帰った後も其れを用いて個人で修業をしていた。
彼が特注で作ってもらった鉄の棒は、長さは8尺(約242㎝)、太く重量は10斤(約6㎏)にも達していた。
毎日、長屋に帰り、食事を済ませた後、黙々と習った技を思い出し、特注の鉄棒で素振りを繰り返す久之助の後姿は、まるで武の神に祈りをささげる求道者の様であった。
そんな姿を、見かねた鶴姫が久之助に話しかけた。
『久之助、いい加減にせい、お前、能島の時、いやそれ以上に自分を追い込んで修業をしておるぞ。何のために、其処迄しなければならないのだ。』
『城でも毎日厳しい修業をしておるのだ、家に帰った時ぐらい、ユックリしても罰は当たるまい。何時も言っているが、お勤めだけが人生では無いのだぞ・・・。』
『私は、4人の中で一番才能がありませぬ、その為、皆に差をつけられない為にも、一生懸命やらないと駄目なんです。』と素振りを止めずに久之助が言う。
鶴姫があきれ顔で『そんな事は無い、最初は要領が悪い感じはしたが、とっくに他の3人には並んでおる。それなのに、お前は他の者達の倍ぐらいの時間修業をしておる。休め、休むのじゃ。たまには気晴らしで外で酒でも飲んで来い。』と言った。
『そうですね、もうちょっと、やってから考えてみます。』と鶴姫の考えに賛同する素振りを見せるが、言葉よりもその素振りで、久之助にその気がないのが分かるので鶴姫は腹立たしいのであった。
『久之助、そういえば、最近、城下町に見世物小屋がきておるそうじゃ、お前、気晴らしに見てきたらどうじゃ。』
『私は、もうチラッと見てきたが、口から火を出す男や、見た事のない動物もいたし、楽しそうじゃったぞ!!』
『見世物小屋等、幼き日に一度ぐらいしか行った事しかございません。この齢になると、少し行くのも恥ずかしい気がするのですが・・。』と鶴姫の進めを遠回しに断る久之助であった。
『幼き日、そうそう、そういえば2日前、原三郎も、桐浦殿と一緒に見世物小屋を見に行っておったぞ!。』
『桐浦殿曰く、子供の時には、なるべく多くのモノに触れる事が良いのじゃと、私もあのお方の考えには同感じゃった。』
『しかしな、運悪く、原三郎が昨日から熱をだしてな、今、高松城の他の者達からは、桐浦殿が見世物小屋に連れて行くからじゃと陰口を言われておる。』
『其れを知ってか知らずか、今日、桐浦殿は自分で探したという、越中富山の薬売りの者と一緒に登城し、原三郎にその者の薬を飲ませたのじゃ。そのお蔭もあって、原三郎は回復に向かっておる様子じゃった。私の見方であれば、もう原三郎は大丈夫な筈じゃ。』と鶴姫は、久之助の知らない高松城の事件を教えてくれた。
『偶然ですが、薬売りがちょうどこの町に来ていて良かったですな、桐浦殿も胸を撫でおらしている事でしょう。』と久之助は桐浦の胸の内を察し感想を述べた。
そんな二人の会話を知らない、桐浦久秀であったが、ちょうどその時、世話になった薬売りに原三郎の状況をおしえ、感謝の言葉と共に礼金を渡そうとしていた。
薬売りは、中年の男で人の好さそうな顔をしており、秀久が用意した礼金が多すぎると、半分返そうとした。
『いや、これはワシのほんの気持ちじゃ、受け取ってくだされ。』と秀久も返金を拒む。
『もらって下さらなければ、ワシの気もおさまらぬ、是非にも。』という秀久に、薬売りの男は、『それでは、どうでしょう。今度、私がこの町に来た時、この家に薬を売りに来させて頂ければ、その方が私も気が楽でございます。宜しいですか?』と男は笑顔を見せながら、返金を受け取ってもらう妥協案を提案した。
『そんな事等、お安い御用じゃ。これから、この町に来た時は、ワシの家に来てくれ、家の者達にも其方の事は伝えておくから、ワシが留守でもいつでも来て下され。』と秀久は男の妥協案を快く引き受けたのであった。
『それでは、又何時の日か参りますので、その時は宜しくお願い致します。』と薬売りの男は挨拶をして、秀久の家を出て行ったのである。
秀久は、恩を売りつけない、その薬売りの潔さに好感を持ち、見送ったのであった。
薬売りの男は、その後、2日前に秀久と原三郎が行った見世物小屋に寄り、その後自分の故郷へ戻ったのであった。
しかし、薬売りの故郷は、越中富山ではなく、播磨国の姫路であった。播磨国に戻った男が先ず向かったのが、黒田官兵衛の屋敷であった。
稽古が始まって3週間は、棍棒を使って剣技の基本の型を覚えさせられた。
棒を回転させる事から、始めるのだが、見ると簡単にできそうな棒回しが、思ったよりも難しく、持ち方、初期動作が身についた時は、既に季節は夏(7月)になっていた。
久之助は、個人的に思う事が有り、自分の馴染みの刀鍛冶に特注の鉄棒を作らせ、長屋に帰った後も其れを用いて個人で修業をしていた。
彼が特注で作ってもらった鉄の棒は、長さは8尺(約242㎝)、太く重量は10斤(約6㎏)にも達していた。
毎日、長屋に帰り、食事を済ませた後、黙々と習った技を思い出し、特注の鉄棒で素振りを繰り返す久之助の後姿は、まるで武の神に祈りをささげる求道者の様であった。
そんな姿を、見かねた鶴姫が久之助に話しかけた。
『久之助、いい加減にせい、お前、能島の時、いやそれ以上に自分を追い込んで修業をしておるぞ。何のために、其処迄しなければならないのだ。』
『城でも毎日厳しい修業をしておるのだ、家に帰った時ぐらい、ユックリしても罰は当たるまい。何時も言っているが、お勤めだけが人生では無いのだぞ・・・。』
『私は、4人の中で一番才能がありませぬ、その為、皆に差をつけられない為にも、一生懸命やらないと駄目なんです。』と素振りを止めずに久之助が言う。
鶴姫があきれ顔で『そんな事は無い、最初は要領が悪い感じはしたが、とっくに他の3人には並んでおる。それなのに、お前は他の者達の倍ぐらいの時間修業をしておる。休め、休むのじゃ。たまには気晴らしで外で酒でも飲んで来い。』と言った。
『そうですね、もうちょっと、やってから考えてみます。』と鶴姫の考えに賛同する素振りを見せるが、言葉よりもその素振りで、久之助にその気がないのが分かるので鶴姫は腹立たしいのであった。
『久之助、そういえば、最近、城下町に見世物小屋がきておるそうじゃ、お前、気晴らしに見てきたらどうじゃ。』
『私は、もうチラッと見てきたが、口から火を出す男や、見た事のない動物もいたし、楽しそうじゃったぞ!!』
『見世物小屋等、幼き日に一度ぐらいしか行った事しかございません。この齢になると、少し行くのも恥ずかしい気がするのですが・・。』と鶴姫の進めを遠回しに断る久之助であった。
『幼き日、そうそう、そういえば2日前、原三郎も、桐浦殿と一緒に見世物小屋を見に行っておったぞ!。』
『桐浦殿曰く、子供の時には、なるべく多くのモノに触れる事が良いのじゃと、私もあのお方の考えには同感じゃった。』
『しかしな、運悪く、原三郎が昨日から熱をだしてな、今、高松城の他の者達からは、桐浦殿が見世物小屋に連れて行くからじゃと陰口を言われておる。』
『其れを知ってか知らずか、今日、桐浦殿は自分で探したという、越中富山の薬売りの者と一緒に登城し、原三郎にその者の薬を飲ませたのじゃ。そのお蔭もあって、原三郎は回復に向かっておる様子じゃった。私の見方であれば、もう原三郎は大丈夫な筈じゃ。』と鶴姫は、久之助の知らない高松城の事件を教えてくれた。
『偶然ですが、薬売りがちょうどこの町に来ていて良かったですな、桐浦殿も胸を撫でおらしている事でしょう。』と久之助は桐浦の胸の内を察し感想を述べた。
そんな二人の会話を知らない、桐浦久秀であったが、ちょうどその時、世話になった薬売りに原三郎の状況をおしえ、感謝の言葉と共に礼金を渡そうとしていた。
薬売りは、中年の男で人の好さそうな顔をしており、秀久が用意した礼金が多すぎると、半分返そうとした。
『いや、これはワシのほんの気持ちじゃ、受け取ってくだされ。』と秀久も返金を拒む。
『もらって下さらなければ、ワシの気もおさまらぬ、是非にも。』という秀久に、薬売りの男は、『それでは、どうでしょう。今度、私がこの町に来た時、この家に薬を売りに来させて頂ければ、その方が私も気が楽でございます。宜しいですか?』と男は笑顔を見せながら、返金を受け取ってもらう妥協案を提案した。
『そんな事等、お安い御用じゃ。これから、この町に来た時は、ワシの家に来てくれ、家の者達にも其方の事は伝えておくから、ワシが留守でもいつでも来て下され。』と秀久は男の妥協案を快く引き受けたのであった。
『それでは、又何時の日か参りますので、その時は宜しくお願い致します。』と薬売りの男は挨拶をして、秀久の家を出て行ったのである。
秀久は、恩を売りつけない、その薬売りの潔さに好感を持ち、見送ったのであった。
薬売りの男は、その後、2日前に秀久と原三郎が行った見世物小屋に寄り、その後自分の故郷へ戻ったのであった。
しかし、薬売りの故郷は、越中富山ではなく、播磨国の姫路であった。播磨国に戻った男が先ず向かったのが、黒田官兵衛の屋敷であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる