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第1章 祝言の日
3.挨拶(虎之助号泣、秀長ドスコイ。)
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秀長と共に長浜城へ着いた4人は、男性チームと女性チームに別れた。
男性チームは、城主秀吉が待つ部屋へ通され、女性チームは秀吉の正妻寧寧の待つ部屋へ案内される事になった。
秀吉の待つ部屋の襖を開けると、秀吉の座っている筈の上座には座布団が一枚あるのみで、誰もおらず、片家、虎之助は一瞬驚いた。
部屋に入ると、襖の影に只でさえ背の低い(140㎝)秀吉が背を丸くして隠れている事に気づいた。
『ばあ~、驚きましたか、片家さまぁ!』
『よう、来て下さった、良く来て下さいました!この秀吉、今日の御恩は一生忘れません!』と言いながら、秀吉はものすごい勢いで、片家の両手を握る。
ダンスをするかのように上座の座布団の席へ連れていく。秀吉の勢いに負け、座布団の上に座ってしまった片家は、慌てて立とうとするのだが、秀吉が片家の両肩を抑え、強引に座らせる。
主君信長に、なぜ禿ネズミと呼ばれている理由が分るような俊敏な動きで、下座に下がり、片家の前で膝をついて頭を下げる秀吉と、気づくとその後ろで同じ動作をする秀長に、自分だけ動きが遅れた事に気づいて、慌てて秀長の後ろで畳に頭を擦りつけた虎之助だった。
何が何だか分からない虎之助の耳に、力強い大きな秀吉の声が聞こえてくる。
『この度は、我が不詳の息子、虎之助にご息女を頂き、恐悦至極でございます。名門山崎家のご息女の名を汚さぬよう、この羽柴秀吉、一族の身命をかけて尽力する事を心から、お誓い申し上げます。』
片家は、織田家中にて自分より格上である秀吉の信じられない行動、物言いに一瞬で度肝を抜かれた。
(この男は、何者だ、只者ではない…。)
片家も人を観る人間である為、一瞬で秀吉の特異性に気が付いた。
片家は、すっと立ち上がり、秀吉が座る下座へ身を移し、その場で畳に頭をつけ、秀吉の様に山崎家を下げる表現をしたうえで、羽柴家の縁を持てた事に対する喜びの挨拶を返した。
片家は、茶道にも通じた武将でもあり、その所作、声の抑揚は、ふと引き込まれる雰囲気を持っていた。
挨拶を交わした後、秀吉は片家に膝をついたまま摺り足で近づき、片家に頭を上げる様に声をかけた。
片家が頭を上げると、今度はわざとらしく秀吉が頭を下げ、片家が言葉に困っていると、人懐っこい笑顔で、顔を上げる。
『堅苦しい挨拶は、ここまでだぎゃ、片家様、羽柴家と縁を持ってくれてホントにありがとう、虎之助は、俺の実の子ではないけど、俺の心の中では子供だと思ってるだぎゃ、今後は、親同士と思って私とも仲良くして下せえ、虎之助は、武士になったばかりで、武士とは何かも分っていないような状態なので山崎様から色々教えて頂ければ助かります。』と言って頭を又下げた。
再び顔を上げた秀吉の目は、キラキラと光っており、初見で既に度肝を抜かれた片家からは、ネズミというより可愛らしいリスの様な目をした清々しい魅力のある武将に見えた。
正に男として、又父親の代理としてこれ以上無い見事な態度であった。
虎之助は、頭を下げながら秀吉と片家のやり取りを聞いていたが、目には涙がこぼれ、声を出さない様に我慢していたが、堪えきれない声を漏らしながら泣いていた。
(俺は、今日からこの人を本当の親父として慕っていこう。)
虎之助はこの時の誓いを終生忘れずに、戦国時代を豊臣家の為に生きていく事になる。
(いち、にぃ、さん、)
片家、虎之助が、感動し高揚している時に、一人冷静に3人のやりとりを見ていた秀長は、秀吉が頭を下げる回数を頭の中で数えていた。
兄秀吉とたまに酒を飲む時がある秀長は、兄が酒に酔うと饒舌になり、語り始める話題を思い出していた。
『身分の高い人は、自分より身分の低い人には頭を絶対に下げない、頭を下げる事が自分の価値を下げる事になると勘違いしているんだぎゃ。本当は逆で、身分の高い人が、身分の低い人に頭を下げるほど自分の価値を上げるんだぎゃ、身分の低いものは、身分の高い人が挨拶してくれるだけで喜ぶ事を身分の高い人達は知らんのよ、稲穂が実をつけ大きくなったら、頭が下がるのと同じ事だぎゃ、農民の出自の俺だけが分る道理だぎゃ』と、言って大好物の菊花饅頭をほお張る時の秀吉の顔を、今秀吉は隠している事を秀長は知っていた。
今日、兄者は3度頭を下げただけで二人の心を手に入れたのだと、人たらしである秀吉の妙技を改めて痛感していた。
号泣している又従弟の虎之助の声を背中に聞きながら、まだまだ甘い、これから頑張れよという代わりに、虎之助にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
『ドスコイ』
男性チームは、城主秀吉が待つ部屋へ通され、女性チームは秀吉の正妻寧寧の待つ部屋へ案内される事になった。
秀吉の待つ部屋の襖を開けると、秀吉の座っている筈の上座には座布団が一枚あるのみで、誰もおらず、片家、虎之助は一瞬驚いた。
部屋に入ると、襖の影に只でさえ背の低い(140㎝)秀吉が背を丸くして隠れている事に気づいた。
『ばあ~、驚きましたか、片家さまぁ!』
『よう、来て下さった、良く来て下さいました!この秀吉、今日の御恩は一生忘れません!』と言いながら、秀吉はものすごい勢いで、片家の両手を握る。
ダンスをするかのように上座の座布団の席へ連れていく。秀吉の勢いに負け、座布団の上に座ってしまった片家は、慌てて立とうとするのだが、秀吉が片家の両肩を抑え、強引に座らせる。
主君信長に、なぜ禿ネズミと呼ばれている理由が分るような俊敏な動きで、下座に下がり、片家の前で膝をついて頭を下げる秀吉と、気づくとその後ろで同じ動作をする秀長に、自分だけ動きが遅れた事に気づいて、慌てて秀長の後ろで畳に頭を擦りつけた虎之助だった。
何が何だか分からない虎之助の耳に、力強い大きな秀吉の声が聞こえてくる。
『この度は、我が不詳の息子、虎之助にご息女を頂き、恐悦至極でございます。名門山崎家のご息女の名を汚さぬよう、この羽柴秀吉、一族の身命をかけて尽力する事を心から、お誓い申し上げます。』
片家は、織田家中にて自分より格上である秀吉の信じられない行動、物言いに一瞬で度肝を抜かれた。
(この男は、何者だ、只者ではない…。)
片家も人を観る人間である為、一瞬で秀吉の特異性に気が付いた。
片家は、すっと立ち上がり、秀吉が座る下座へ身を移し、その場で畳に頭をつけ、秀吉の様に山崎家を下げる表現をしたうえで、羽柴家の縁を持てた事に対する喜びの挨拶を返した。
片家は、茶道にも通じた武将でもあり、その所作、声の抑揚は、ふと引き込まれる雰囲気を持っていた。
挨拶を交わした後、秀吉は片家に膝をついたまま摺り足で近づき、片家に頭を上げる様に声をかけた。
片家が頭を上げると、今度はわざとらしく秀吉が頭を下げ、片家が言葉に困っていると、人懐っこい笑顔で、顔を上げる。
『堅苦しい挨拶は、ここまでだぎゃ、片家様、羽柴家と縁を持ってくれてホントにありがとう、虎之助は、俺の実の子ではないけど、俺の心の中では子供だと思ってるだぎゃ、今後は、親同士と思って私とも仲良くして下せえ、虎之助は、武士になったばかりで、武士とは何かも分っていないような状態なので山崎様から色々教えて頂ければ助かります。』と言って頭を又下げた。
再び顔を上げた秀吉の目は、キラキラと光っており、初見で既に度肝を抜かれた片家からは、ネズミというより可愛らしいリスの様な目をした清々しい魅力のある武将に見えた。
正に男として、又父親の代理としてこれ以上無い見事な態度であった。
虎之助は、頭を下げながら秀吉と片家のやり取りを聞いていたが、目には涙がこぼれ、声を出さない様に我慢していたが、堪えきれない声を漏らしながら泣いていた。
(俺は、今日からこの人を本当の親父として慕っていこう。)
虎之助はこの時の誓いを終生忘れずに、戦国時代を豊臣家の為に生きていく事になる。
(いち、にぃ、さん、)
片家、虎之助が、感動し高揚している時に、一人冷静に3人のやりとりを見ていた秀長は、秀吉が頭を下げる回数を頭の中で数えていた。
兄秀吉とたまに酒を飲む時がある秀長は、兄が酒に酔うと饒舌になり、語り始める話題を思い出していた。
『身分の高い人は、自分より身分の低い人には頭を絶対に下げない、頭を下げる事が自分の価値を下げる事になると勘違いしているんだぎゃ。本当は逆で、身分の高い人が、身分の低い人に頭を下げるほど自分の価値を上げるんだぎゃ、身分の低いものは、身分の高い人が挨拶してくれるだけで喜ぶ事を身分の高い人達は知らんのよ、稲穂が実をつけ大きくなったら、頭が下がるのと同じ事だぎゃ、農民の出自の俺だけが分る道理だぎゃ』と、言って大好物の菊花饅頭をほお張る時の秀吉の顔を、今秀吉は隠している事を秀長は知っていた。
今日、兄者は3度頭を下げただけで二人の心を手に入れたのだと、人たらしである秀吉の妙技を改めて痛感していた。
号泣している又従弟の虎之助の声を背中に聞きながら、まだまだ甘い、これから頑張れよという代わりに、虎之助にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
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