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第2章 特訓
2.信長からの招待状(噛ませ犬)
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虎之助が長浜城へ到着し、小姓部屋へ足を運ぶ。
朝礼では祝言の次の日に、信長の呼出が有り美濃へ行っていた秀吉が今日には戻る予定でである事、その為、何時もより念入りに掃除をする様にとの事だった。
長浜城から美濃まで片道約280km、交通手段が馬しか無かったこの時代、早馬を使っても、1日100km移動できれば上出来というのが常識であったが秀吉は、美濃までの道の途中にいくつかの中継地点を作り、その場に常に馬を待機させ、馬を替える事で、1日150km以上移動できる方法を確立していた。
その為、普通の者が、3日かける道のりを秀吉は2日で走破できたのである。
美濃へ到着しても余分な休憩を取らず、直ぐに城へ直行する為、結果信長の視点では、他の者の半分の時間で来る可愛い部下とみえる。
一夜で、美濃に墨俣城を作った事が彼の代表的な逸話になっているが、この唯一無二の仕事に対する反応の速さ、その時代の常識にとらわれない彼の姿勢を信長から高く評価されていたのである。
今回の秀吉の美濃出張は、往き2日(信長との面談含む)、休息日2日、帰路3日といったところだろうかと、いつもの親父殿(秀吉)の勤勉さに感心しながら、虎次郎は持ち場の清掃をいつも以上に念入りに行った。
お昼過ぎには秀吉が戻り、午後から重臣達の会議が有ったらしいと、虎之助と小姓の同僚達が会議の内容が何だろうかと内容を予想した話題で盛り上がっていると、秀長が小姓部屋に入ってきて、虎之助を呼びに来たのである。
『虎之助、兄者が呼んでいる。ワシと一緒に来い。』
秀長の声に元気はなく、表情は消沈していた。
元気の無い秀長の様子が気になり、その理由を聞きたがったが、小姓部屋には、他の小姓たちもいるので虎之助は素直に従った。
秀吉の部屋へ向かう途中、虎之助は小声で、秀長に呼出の理由を聞いたが、秀長は最初答えようとする素振りを見せたように思われたが、最終的には沈黙し、答えてくれなかった。
秀吉の部屋に到着する少し前に、今度は秀長から虎之助にシノの最近の様子を伺ってきたので、虎之助は元気にやってますとだけ伝えた。
『大事にしてやれよ・・・・。』と秀長は虎之助に、声をかけただけだったが、その声も元気は無かった。
秀吉の部屋の前に到着し、『兄者、虎之助を連れてまいりました。入ります。』と秀長が呼びかけると、 『オウ、待っとた、入れぇ。』と声が聞こえ、秀長が襖を開けると、そこには秀吉と共に、虎之助が初めてみる一人の髭の男が座っていた。
『トラァ―、よう来た、シノ殿とは仲良くやってるダギャ??。』
親戚の青年に、親しみを込めて話す親戚のおじさんという様な雰囲気で秀吉が聞いてきたので、『ハイ、お蔭様で。ただ、シノ殿は名門の出の方なので、私で良いのかと・・・。』と少し、砕けた言葉で虎之助は答えた。
『名門なんか気にしてちゃ良い夫婦になれんぞ、ワシとネネを見ろ、ネネと結婚した時、ワシも同じ様な状況だったが、気にしなかった、先ず、頑張れ!』と温かい言葉を秀吉は虎之助にかけ、本題の話を切り出した。
『ところで…だ、トラ、今日はお前に話を持ってきた。』
『半年後、お前は羽柴軍の代表として、信長様の前で、森長可殿と槍の御前試合を行う事になったぞ!!』
『めでたい、めでたい事じゃ、殿の前で、他家の奴らに、お前の雄姿を見せれるのじゃ~。』
『ワシは、ワシは嬉しくて、嬉しくて、嬉しくてぇ、グェッ~。』と突然泣き出したのである。
虎之助は、御前試合の話には驚いたが、対戦相手の森長可という男を知らなかったので、どんな男だろうかと気にはなっていたのだが、秀吉の言葉を真に受け、秀吉が泣いてくれている事が、大げさだと思いながらも嬉しかった。
『ウゥ~、ウゥ~トラ、死ぬなよ、必ず生きて帰って来いよ、死ぬな、これは命令ぞ~、ウェッ。』
(???・・・・親父殿、いきなり何を言うんだ・・・。)と虎之助は思った。
虎之助は、秀吉の涙の意味が分らなかったのである。
泣いて言葉が続かない、秀吉に代わり、秀長が説明した。
今回の信長からの呼出は、翌年の2月頃に紀伊の国(和歌山県)の雑賀衆に侵攻する旨の重臣会議(話会い)であったが、重臣会議が終わった後、会議の内容とは別に一つの余興として信長から秀吉へ一つの要望があった。
その要望というのが、森長可と虎之助の槍の御前試合である。
信長が、自分の嫡男信忠の世代で、軍団の核と成れる男と見込んでいるのがこの森長可であった。
森長可の長は、主君信長自ら長可へ送った字である。身長は秀吉と同じぐらいの小兵(140cm強)であるが、彼の武勇は凄まじく、又残忍で鬼武蔵の異名を持つ男との事だった。
信長の理想は、他国の者が織田軍を恐怖の対象として、忌避し戦わずして降伏するようにしたく、その象徴としては、長可は正にうってつけの男だったのである。
小兵の長可が、重臣の前で大男の虎之助を倒せば、長可の名前は次代の軍団長として周知の事実となる事を見越して、信長はこの御前試合を企画したのである。
聞くところによると信長は、秀吉の又従弟と山崎片家の娘が祝言を挙げたという情報と共に、小兵の秀吉の又従弟が大男と聞いて大笑いしていたとの事だった。
信長は、虎之助を正に噛ませ犬として指名したのである。
朝礼では祝言の次の日に、信長の呼出が有り美濃へ行っていた秀吉が今日には戻る予定でである事、その為、何時もより念入りに掃除をする様にとの事だった。
長浜城から美濃まで片道約280km、交通手段が馬しか無かったこの時代、早馬を使っても、1日100km移動できれば上出来というのが常識であったが秀吉は、美濃までの道の途中にいくつかの中継地点を作り、その場に常に馬を待機させ、馬を替える事で、1日150km以上移動できる方法を確立していた。
その為、普通の者が、3日かける道のりを秀吉は2日で走破できたのである。
美濃へ到着しても余分な休憩を取らず、直ぐに城へ直行する為、結果信長の視点では、他の者の半分の時間で来る可愛い部下とみえる。
一夜で、美濃に墨俣城を作った事が彼の代表的な逸話になっているが、この唯一無二の仕事に対する反応の速さ、その時代の常識にとらわれない彼の姿勢を信長から高く評価されていたのである。
今回の秀吉の美濃出張は、往き2日(信長との面談含む)、休息日2日、帰路3日といったところだろうかと、いつもの親父殿(秀吉)の勤勉さに感心しながら、虎次郎は持ち場の清掃をいつも以上に念入りに行った。
お昼過ぎには秀吉が戻り、午後から重臣達の会議が有ったらしいと、虎之助と小姓の同僚達が会議の内容が何だろうかと内容を予想した話題で盛り上がっていると、秀長が小姓部屋に入ってきて、虎之助を呼びに来たのである。
『虎之助、兄者が呼んでいる。ワシと一緒に来い。』
秀長の声に元気はなく、表情は消沈していた。
元気の無い秀長の様子が気になり、その理由を聞きたがったが、小姓部屋には、他の小姓たちもいるので虎之助は素直に従った。
秀吉の部屋へ向かう途中、虎之助は小声で、秀長に呼出の理由を聞いたが、秀長は最初答えようとする素振りを見せたように思われたが、最終的には沈黙し、答えてくれなかった。
秀吉の部屋に到着する少し前に、今度は秀長から虎之助にシノの最近の様子を伺ってきたので、虎之助は元気にやってますとだけ伝えた。
『大事にしてやれよ・・・・。』と秀長は虎之助に、声をかけただけだったが、その声も元気は無かった。
秀吉の部屋の前に到着し、『兄者、虎之助を連れてまいりました。入ります。』と秀長が呼びかけると、 『オウ、待っとた、入れぇ。』と声が聞こえ、秀長が襖を開けると、そこには秀吉と共に、虎之助が初めてみる一人の髭の男が座っていた。
『トラァ―、よう来た、シノ殿とは仲良くやってるダギャ??。』
親戚の青年に、親しみを込めて話す親戚のおじさんという様な雰囲気で秀吉が聞いてきたので、『ハイ、お蔭様で。ただ、シノ殿は名門の出の方なので、私で良いのかと・・・。』と少し、砕けた言葉で虎之助は答えた。
『名門なんか気にしてちゃ良い夫婦になれんぞ、ワシとネネを見ろ、ネネと結婚した時、ワシも同じ様な状況だったが、気にしなかった、先ず、頑張れ!』と温かい言葉を秀吉は虎之助にかけ、本題の話を切り出した。
『ところで…だ、トラ、今日はお前に話を持ってきた。』
『半年後、お前は羽柴軍の代表として、信長様の前で、森長可殿と槍の御前試合を行う事になったぞ!!』
『めでたい、めでたい事じゃ、殿の前で、他家の奴らに、お前の雄姿を見せれるのじゃ~。』
『ワシは、ワシは嬉しくて、嬉しくて、嬉しくてぇ、グェッ~。』と突然泣き出したのである。
虎之助は、御前試合の話には驚いたが、対戦相手の森長可という男を知らなかったので、どんな男だろうかと気にはなっていたのだが、秀吉の言葉を真に受け、秀吉が泣いてくれている事が、大げさだと思いながらも嬉しかった。
『ウゥ~、ウゥ~トラ、死ぬなよ、必ず生きて帰って来いよ、死ぬな、これは命令ぞ~、ウェッ。』
(???・・・・親父殿、いきなり何を言うんだ・・・。)と虎之助は思った。
虎之助は、秀吉の涙の意味が分らなかったのである。
泣いて言葉が続かない、秀吉に代わり、秀長が説明した。
今回の信長からの呼出は、翌年の2月頃に紀伊の国(和歌山県)の雑賀衆に侵攻する旨の重臣会議(話会い)であったが、重臣会議が終わった後、会議の内容とは別に一つの余興として信長から秀吉へ一つの要望があった。
その要望というのが、森長可と虎之助の槍の御前試合である。
信長が、自分の嫡男信忠の世代で、軍団の核と成れる男と見込んでいるのがこの森長可であった。
森長可の長は、主君信長自ら長可へ送った字である。身長は秀吉と同じぐらいの小兵(140cm強)であるが、彼の武勇は凄まじく、又残忍で鬼武蔵の異名を持つ男との事だった。
信長の理想は、他国の者が織田軍を恐怖の対象として、忌避し戦わずして降伏するようにしたく、その象徴としては、長可は正にうってつけの男だったのである。
小兵の長可が、重臣の前で大男の虎之助を倒せば、長可の名前は次代の軍団長として周知の事実となる事を見越して、信長はこの御前試合を企画したのである。
聞くところによると信長は、秀吉の又従弟と山崎片家の娘が祝言を挙げたという情報と共に、小兵の秀吉の又従弟が大男と聞いて大笑いしていたとの事だった。
信長は、虎之助を正に噛ませ犬として指名したのである。
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