黒祓いがそれを知るまで

星井

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生きたい身体

51*

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 時折両手が黒ずんで見える気がして、無意識に自分の手を見下ろす事が多くなった。

 人となった真我を躊躇もせず倒したアーシュを陛下は責めなかった。
 あの眼差しから、アーシュが言ったように、生かしておくと言った言葉は建前なのだと確信した。
 最愛の娘を亡くした彼に、そのことについて責める気は起きない。真我を倒す事に疑問は持っていない。
 真我は人だったものの残留思念が勝手に動き出した結果だ。
 意志を持ち、自由を求めて更に被害を増やしていく生態は何の意味があるのかと問うても、そもそも人間だって何の意味を持って生まれているのかと訊かれたら、こたえる事は出来ない。
 生きたいから産まれた。
 どの生物もそれがすべてなのだ。
 それ以上でもそれ以下でもない。その先がどんなに暗く閉ざされている生だとしても。
 始まりは皆、同じ。


「ナツヤ、最近元気ないな」
「んー? そうか?」

 ベッドに転がってごろごろする俺の横で、風呂上がりのエンリィが濡れた金髪をタオルで拭きながら、唐突にそんなことを言う。
 手元の本を広げながら、内容なんかほぼ頭に入っていなかった事に今更気付いて、溜め息を吐いた。
 この部屋にこいつがいるのも大分慣れた。
 エンリィは仕事がない限り俺の部屋にいるし、俺もそれを断らない。たまにアーシュと鉢合わせになるが、彼等の中で何があったのかは分からないが揉める事も起きない。
 そもそもアーシュは忙しいし、大体寝ている時に彼はやってくる。気が付けば隣に横たわり深い眠りにつく彼をエンリィも俺もそっとして部屋を出て行く。
 第二は夜勤が多い。第一と行動を共にしている俺は、中型以上の真我が出ない限り呼び出されることもない。
 それでも真我と対面する時は、俺が真我と会話をして気を引き、その間に彼等は目に留まらぬ速さで真我をなぎ倒していく。
 迷いなく剣をつく彼等には、あの悲鳴は聞こえない。
 そうして何体もの真我の消滅を見ているうちに、身体の中の何かが消えていくような感覚も、最早なくなった。
 こみ上げる悲しみも嘔吐感も、今ではさほど感じない。
 真我が魂を集め人間になることで生を手に入れようとしているのなら、それが間違いなのは確信している。
 人となるために必要なものは、ここにとどまることではない。
 あの日の真我のように、空洞の時を得ても悲しみは癒えないのだから。
 俺の活動は一種の浄化に近いだろう。そう、日本にいた頃も、ここに来てからも切っても切れないこの活動に、自分の使命すら感じている。

「ほら、来いよ」

 鍛え上げられた腹筋を見つめ、透き通るようなその瑞々しい肌に唇を寄せる。
 へその周りに舌を這わせればエンリィがくすぐったそうに身を捩った。

「……昨日もしたのに、大丈夫なのか?」

 頭上に落ちる声はそれでも欲情にまみれ切なげだ。下着一枚の男の姿にその気になっているのはお前もだろうと思いながら微笑む。
 肌を重ねるだけで、この渦巻く感情を忘れられる。エンリィの真っ直ぐな眼差しと無我夢中で俺を抱く腕は、何も考えなくてもいいのだと錯覚しそうになる。

「こんなになっておいて何言ってんだ」

 下着の中で硬くなって膨らむ熱に唇を這わせ、そのまま歯で下着を噛んでずり下ろした。
 半勃ちのそれはそれでも大きく長い。頭と同じ色の下生えの中で主張するそれを躊躇わずに口に含み、舌で愛撫する。
 膨らんでいく亀頭の割れ目を味わうようにしゃぶり唾液で濡らし、震える腰に手を這わせる。

「……っん」

 ベッドに座る俺を見下ろすエンリィと目が合う。見せつけるように含んでいたものを口から出してアイスキャンディーを舐めるように舌を這わせば、彼の頬が徐々に赤くなっていくのが見て取れた。
 口許を緩める俺に、エンリィはぎゅ、と眉を寄せて次には乱暴に押し倒される。
 視界があっという間に天井に変わり、すぐにエンリィの顔が見えて剥ぎ取られていく自分の服を見送った。
 近寄るエンリィの唇を自分のと合わせ、侵入してくる舌を絡め角度を変えて何度も交わる。
 吐息さえも飲み込むようなくちづけに体中が熱に疼いた。
 す、と胸を撫でヘソを降り下腹部に近付くエンリィのてのひらがひどく温かい。興奮で汗ばむ身体は、確かに本物だ。

「……好き」
「ふ……っ」

 甘えるように告げるエンリィの言葉に目を細めて笑う。
 彼は身体を繋げる度に飽きもせず必ずそう告げる。そうして俺の身体をまるで何処かのお姫様のように扱い、優しく舌を這わせていくのだ。

「ぁ……っ」

 その綺麗な顔が俺の下腹部に埋まり、中心がしっとりとした感触に包まれて腰がはねた。俺のものをしゃぶるのに一切の抵抗を見せないエンリィは、その愛撫にも迷いはない。
 じゅぷじゅぷと上下に顔を動かされ、こみ上げる射精感を必死に我慢する。唾液にまみれたその部分を丁寧に、隙間なく舐めていくエンリィに、なすすべもなく快楽に流される。

「ンン……っ、気持ちい……」

 グイと脚を広げられ、腰を浮かされる。みっともないその格好に羞恥が湧くが、快楽には勝らない。
 舌は双球を過ぎて薄い線の道をたどり、奥まった部分を容赦なく襲った。
 一番恥ずかしい部分を舐められて、くすぐったいような焦れた快感が背筋を駆け巡る。しとどに濡れる中心から透明な涎が流れて、腹を濡らした。

「ん、ナツヤのここ……かわいい」
「……ば、か……っ」

 自然に出るエンリィの言葉に最中は驚くばかりだが、本人は至って真面目だから余計に性質が悪い。
 こいつは俺を言葉責めしているつもりは全くないのだろう。

「ンー、やばい、やばい……っえんり、やめて……っ」

 れろれろと動きが速くなる舌に頭を振って悶えるが、構いもせずエンリィは続ける。その舌先がとうとう中を押し広げて入った瞬間、俺は声すら失って身体を震わせた。

「……っ!」

 ぶるぶると太ももを震わせる俺の中心から、勢いよく白濁が飛んでいく。胸を濡らしたその量は昨日の行為もあってか殆ど色がついていない。

「……イったんだ……。ナツヤはお尻ここで凄い感じるんだな……」

 感心したような声で言うエンリィにすら言い返せず、そのままぐちゅりと侵入してきた指にまで感じてしまい嬌声を上げた。

「柔らかい……ねえ、もういい?」

 たまらなくなったのか、エンリィが俺の顔を覗き込んで眉を下げた。
 その切羽詰まったかのような眼差しに息を飲んで、頷く。
 尻のすぐ上の太ももを乱暴に掴まれて窄まりに熱を感じる。

「……ん」
「あ……っ……ナツヤ……っ」

 こじ開けるように入るその熱は、いつものように硬く熱い。どくどくと脈打つ振動まで伝わっている気がして興奮でまたも暴発しそうになった。それを年上のプライドで気付かぬふりをして、エンリィの骨ばった腕を掴む。
 ゆっくりと入るそれは出っ張ったカリが前立腺を擦っていく。焦がれるほど時間をかけてそこを押され、たまらずに腰を揺らした。
 もっとちゃんと揺らして、宛てて欲しい。
 脚を絡めエンリィの尻を踵で圧すと、眉を寄せて結合部を凝視していたエンリィが俺を見て、ふと笑う。
 こんな時、こいつは少し兄貴と同じような表情をする。嗜虐的で余裕さえ伺える、意地悪な顔だ。

「……欲しい?」
「……早く、しろ……っ」

 余裕なんてないくせに、と悪態をつく俺にエンリィが笑いながら覆いかぶさってくる。つい最近まで童貞だったのに、飲み込みの早い男はあれやこれやと吸収しては試してくる。
 若いからこその探求心と折れない心は、容赦なく俺を翻弄するのだ。

「じゃあ、遠慮しないでいいんだな」
「……ンっ……ぁ、ああ───っ!!」

 ぱん、と尻肉を叩くような音がしたと同時にその太く硬いものが内部を強引に広げて侵入してきた。
 背を仰け反らせてその衝撃に堪えれば、間髪入れずに律動が始まる。濡れた音が結合部から聞こえ、耳までも犯すような卑猥さに更に煽られる。
 薄目を開けた視界に口を引き締めて腰を揺らすエンリィの顔を見つめる。
 少し眉間に皺をつけて快楽を覚えているのだろうか、何かを耐えるようなそんな目が繋がった部分をじっと見ている。
 肩先まで伸ばされた髪は飾り気のない紐で括られて、桃紫の瞳は熱に浮かされたように潤んでいる。綺麗な鼻筋と形の良い少し薄めの唇は、それでもその中の舌が熱く情熱にまみれている事を俺は知っていた。

「……えん、り……っ」

 こみ上げる愛しさに腕を伸ばせば、エンリィはすぐに気付いて柔らかく表情を崩した。
 近寄るその小さな頭を抱え込んで耳元に唇を寄せる。

「……ん、ん……っ……エンリィ……っ」

 だけど俺から出る言葉はただの喘ぎ声だけ。
 溢れ出そうな感情は、もう胸底にしまっておく方がいいのだろう。

 ───好きだよ。

 迷いのないその手なら、身を委ねてもいい。
 優しくて賢くて、真っ直ぐなこの男と、信念を貫き未来を見据えるあの男に。

「ナツヤ……っ……中……いいか……?」
「ゥン……、うんっ……、ン……っ!」

 内部で暴れるその欲望を貪欲に欲しがる壁が激しく収縮し、次には律動が止まった。
 温かく濡らすその液体が勢いよく俺の奥深くへ入り込んでくる。その快楽につられるように起立した熱が勝手に跳ねて周辺を濡らした。
 絶頂に震える唇をエンリィが優しくついばむ。時が止まったかのようにしばらく肩で息をして、二人で笑いあった。
 過ぎた快感を噛み締めるように名残惜し気に抱き締め合って、充足感と幸福感に酔い痴れる。


 生きているという実感は、何処までが真実で、何処までが想像なのだろう。
 ぼんやりと自身のてのひらを天井にかざした俺に、エンリィが呟く。

「細い、手だな」
「……悪かったな、ひ弱で」

 多くの魂を掴んで、解放してきたつもりだった。
 エゴだと知りながら、それでも止まる事を恐れて、与えられた使命なのだと解釈して勝手に。

 俺は、誰なのだろう。
 どこからやってきて、誰と生きてきたのだろう。

 既に記憶が曖昧になっている事に気付いたら、もう駄目だった。
 ナツヤ、とエンリィがその名前を呼ぶ度に苦しくなっていく。




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