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第三話
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◇
さて、自分の立場にあたふたしていても時は待ってくれない。
今俺がいる世界は、いわゆる世界大戦中だという。
この神殿が懇意にしている国と同盟連合軍の国力と軍事力は、同程度。このまま戦が長引き互いに疲弊し終結に至るか、どちらかが降伏条件を呑むか、我慢比べになっている状態らしい。
「神子様の心痛、お察しいたします。今やどこを歩いても人々からの笑顔は消え、憎き彼の国のものを捕らえたという情報に手を叩いては喜び……、人間とはこれほど恐ろしいものになるんですね」
「……」
「でも、アレイル国は神子に愛されている地であると、民衆は確信しています。神殿は数年前にアレイルの一部になったというのもありますし……」
返事などしなくとも少年の言葉は続く。
なぜなら俺がボロを出さないようになにかと黙りこくっていたので、少年は気を遣って色々話してくれるのだ。それにこの神子は無口なんだと思われてる方が都合がいい。俺のスッカスカな脳みそがバレて打ち首になったら怖いもん。
前までは周りから「お前、黙ってればいいのにな」なんてしみじみ言われてた前科もあるしな。
そうだよ。オタクたるもの、自分の好きなこととなるとやたらと早口になる。推しについて好きなだけ喋っていいと言われたら、一晩はかかるだろうし、黙ってろと言われても脳内は常に妄想で溢れているし、現に今だってそれは変わらない。
つまり、俺はもう限界だった。
そもそも少年曰く、神殿はかつては中立の立場として独立していたが、近くのアレイルという大国から何人も神官を採るうちに利権が発生し、とてもじゃないが中立とは言えなくなったという。
昔からよくある内部から掌握させる手口だろう。
たぶんアレイルはそのつもりで古くから神殿に目をつけていたわけで、今となってはまんまと思い通りに事を運んでいるようだった。
それを良く思っていない少年のような勢もいれば、アレイルに従うべきだと言う勢も勿論いる。
神殿内は今や二極化され、神子の俺は左右に腕を引っ張られている状態だ。
だが待ってほしい。
数世紀に一度しかできない儀式で降り立った神子の俺は、この世界の人間ではない。
頻繁に神子の助言を求めていたあの強面軍団のアレイル国だろうが神殿の意向だろうが、この世界に愛着も恩義もない俺にはまったく関係ないし、極端な話、どちらが戦争に勝とうがどうでもいいわけだ。
というのも、俺は各国の良さや世界の成り立ちをほとんど知らないし少年以外にプレイベートな話をする関係もいない。
俺は孤独だった。
祈れと言われてアレイル国を思って祈ることはなかったし、神子の言葉を話半分で聞いていたアレイルだって、本当に俺に特別な力があると信じていないはずだ。
正直、いきなり見知らぬ世界に来て、この世界の人々を想えって、そんなの無理がある。そりゃ人が傷ついて死ぬ世界を望んじゃいないけど、俺はどこか現実味が湧かないものとして処理していて、それ以上に、慣れない生活に発狂寸前だったんだ。
一月近く監禁されているんだ。自由に外を歩きたかったし、大好きなゲームやアニメを見て推しであるタナロト様の顔を見たかったし、あの狭いアパートに帰ってカップラーメン食べて缶ビール開けて……そういう普通の生活に戻りたかった。
そしてオタクの無限性欲がここに来て問題となってしまった。
男子だもの。
タナロト様を思い出しただけでその日の晩めちゃくちゃリアルな夢を見てしまい(俺がタナロト様に乗っかって腰を振っている夢だった。すんごい気持ちよかった)身体が勝手に疼いて、起きたらしっかり下着が濡れていて、少年と二人、気まずい思いをしたのだ。
ていうか隠す暇もなかった。頼むから同じ部屋で生活するのやめてほしい。
「だ、大丈夫ですよ、これは誰しもに訪れることですから……。神子様も連日の疲労で参っていたのでしょう。気にしなくともいいのです。若いうちは……ある程度付き合わねばならぬことですから」
なんて夢精を慰められたわけだけど、たぶんきみ、俺より全然若いよな。
一体いくつだと思われてるのかすこし怖くなったけど、ここでも俺は余計なことを言うまいと口を噤んだ。
……いや、いい年こいて夢精した事実に消えたい衝動に駆られていたのもあるけど!
とにかく、手元に残っているのはあの日持っていた会社の書類とスマホとひからびたあめ玉、ハンカチにティッシュ、筆記用具に名刺、というここでは役に立たないものばかりで、電池の切れたスマホではタナロト様の写真を拝めることもできず、オナニーのオカズにして手っ取り早く抜くことも不可能で、悶々とした暮らしを送っていたのだ。
当然世話係の少年は常に俺の傍にいるし、俺は人生で一番ムラムラしていた。
セフレと燃えまくったかつてのセックス、タナロトさまが責めてくる妄想、もしくはタナロト様を組み伏せる妄想、そんなのばかり頭をグルグルしていて、ちんこは暴発寸前で(まあ朝に暴発したわけだが)、一刻も早くこの地獄から解放されねば狂い死んでしまうとそう思ったわけです。
さて、自分の立場にあたふたしていても時は待ってくれない。
今俺がいる世界は、いわゆる世界大戦中だという。
この神殿が懇意にしている国と同盟連合軍の国力と軍事力は、同程度。このまま戦が長引き互いに疲弊し終結に至るか、どちらかが降伏条件を呑むか、我慢比べになっている状態らしい。
「神子様の心痛、お察しいたします。今やどこを歩いても人々からの笑顔は消え、憎き彼の国のものを捕らえたという情報に手を叩いては喜び……、人間とはこれほど恐ろしいものになるんですね」
「……」
「でも、アレイル国は神子に愛されている地であると、民衆は確信しています。神殿は数年前にアレイルの一部になったというのもありますし……」
返事などしなくとも少年の言葉は続く。
なぜなら俺がボロを出さないようになにかと黙りこくっていたので、少年は気を遣って色々話してくれるのだ。それにこの神子は無口なんだと思われてる方が都合がいい。俺のスッカスカな脳みそがバレて打ち首になったら怖いもん。
前までは周りから「お前、黙ってればいいのにな」なんてしみじみ言われてた前科もあるしな。
そうだよ。オタクたるもの、自分の好きなこととなるとやたらと早口になる。推しについて好きなだけ喋っていいと言われたら、一晩はかかるだろうし、黙ってろと言われても脳内は常に妄想で溢れているし、現に今だってそれは変わらない。
つまり、俺はもう限界だった。
そもそも少年曰く、神殿はかつては中立の立場として独立していたが、近くのアレイルという大国から何人も神官を採るうちに利権が発生し、とてもじゃないが中立とは言えなくなったという。
昔からよくある内部から掌握させる手口だろう。
たぶんアレイルはそのつもりで古くから神殿に目をつけていたわけで、今となってはまんまと思い通りに事を運んでいるようだった。
それを良く思っていない少年のような勢もいれば、アレイルに従うべきだと言う勢も勿論いる。
神殿内は今や二極化され、神子の俺は左右に腕を引っ張られている状態だ。
だが待ってほしい。
数世紀に一度しかできない儀式で降り立った神子の俺は、この世界の人間ではない。
頻繁に神子の助言を求めていたあの強面軍団のアレイル国だろうが神殿の意向だろうが、この世界に愛着も恩義もない俺にはまったく関係ないし、極端な話、どちらが戦争に勝とうがどうでもいいわけだ。
というのも、俺は各国の良さや世界の成り立ちをほとんど知らないし少年以外にプレイベートな話をする関係もいない。
俺は孤独だった。
祈れと言われてアレイル国を思って祈ることはなかったし、神子の言葉を話半分で聞いていたアレイルだって、本当に俺に特別な力があると信じていないはずだ。
正直、いきなり見知らぬ世界に来て、この世界の人々を想えって、そんなの無理がある。そりゃ人が傷ついて死ぬ世界を望んじゃいないけど、俺はどこか現実味が湧かないものとして処理していて、それ以上に、慣れない生活に発狂寸前だったんだ。
一月近く監禁されているんだ。自由に外を歩きたかったし、大好きなゲームやアニメを見て推しであるタナロト様の顔を見たかったし、あの狭いアパートに帰ってカップラーメン食べて缶ビール開けて……そういう普通の生活に戻りたかった。
そしてオタクの無限性欲がここに来て問題となってしまった。
男子だもの。
タナロト様を思い出しただけでその日の晩めちゃくちゃリアルな夢を見てしまい(俺がタナロト様に乗っかって腰を振っている夢だった。すんごい気持ちよかった)身体が勝手に疼いて、起きたらしっかり下着が濡れていて、少年と二人、気まずい思いをしたのだ。
ていうか隠す暇もなかった。頼むから同じ部屋で生活するのやめてほしい。
「だ、大丈夫ですよ、これは誰しもに訪れることですから……。神子様も連日の疲労で参っていたのでしょう。気にしなくともいいのです。若いうちは……ある程度付き合わねばならぬことですから」
なんて夢精を慰められたわけだけど、たぶんきみ、俺より全然若いよな。
一体いくつだと思われてるのかすこし怖くなったけど、ここでも俺は余計なことを言うまいと口を噤んだ。
……いや、いい年こいて夢精した事実に消えたい衝動に駆られていたのもあるけど!
とにかく、手元に残っているのはあの日持っていた会社の書類とスマホとひからびたあめ玉、ハンカチにティッシュ、筆記用具に名刺、というここでは役に立たないものばかりで、電池の切れたスマホではタナロト様の写真を拝めることもできず、オナニーのオカズにして手っ取り早く抜くことも不可能で、悶々とした暮らしを送っていたのだ。
当然世話係の少年は常に俺の傍にいるし、俺は人生で一番ムラムラしていた。
セフレと燃えまくったかつてのセックス、タナロトさまが責めてくる妄想、もしくはタナロト様を組み伏せる妄想、そんなのばかり頭をグルグルしていて、ちんこは暴発寸前で(まあ朝に暴発したわけだが)、一刻も早くこの地獄から解放されねば狂い死んでしまうとそう思ったわけです。
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