雑用係βとα勇者にΩの呪いがかかった話

星井

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第二話

 俺たちがダンジョンを攻略するのはこれが初めてではない。
 当然何度か入っているし、そのどれも多少の怪我があるにしろ無事陥落させることに成功している。
 ダンジョンとは黒王が魔物を作り出している特殊空間だ。彼の手下が管理している研究所みたいなもので自然進化とは別に強力になった魔物が徘徊し所構わず襲いかかってくる。どうやら黒王は妙な研究に明け暮れているα、というのが最近の見解だが今はそれを置いておこう。
 雑用係である俺は無事で帰りたいだけだし、なんならさっさと離脱したいだけだ。
 ただ黒王は、遊び心を多分に残していくようでダンジョンには大抵考えもしない仕掛けがあったりする。
 以前のダンジョンでは見事に俺を除いた全員が獣化して、出る頃には猛獣使いになった気分になったものだ。救いはダンジョンを出れば効果が切れるのか、三日後には全員無事人間に戻ったことだろう。
 獣化された彼等は、その時の記憶も当然あるので、四つ足で歩く苦痛と言葉が伝わらないもどかしさに非常に腸が煮えくりかえる思いをしたらしく、以前にも増して黒王に真剣に向き合うようになったほどだ。
 思うに黒王はαのなんたるかを知り尽くしている。以前もその前もβである俺にはなんの効果もなかったあたりが、αだけが不利になる条件を敢えて作り、勇者達が挑むダンジョンでその効果を確認しているのではないかと疑うほどに。


「ふざけるな、なんでよりにもよって……!」

 ぐるぐる考えていても仕方が無い。
 俺と勇者は閉じ込められた。
 ぐにゃぐにゃと変化を遂げた空間は、恐らく魔法のせいだ。いつもの勇者ならこんな魔法など簡単に見破るだろうし払いのけることも可能だろう。
 だが、今奴は片膝をついて苦しげに息をしているのだ。

 ここに来るまで、俺たちはつかず離れずの距離で魔物を倒し、先を目指していた。怪しげな薬品や町に出れば暴れ回るだろう魔物を処分するために、いつもの行動で。
 それまでの経験もあって全員警戒していた。魔法で隈なく罠を見破り、慎重に進んでいた。
 俺は彼等に守られるような立ち位置で歩いていた。こうした方が効率がいいと言われ、六人が囲む真ん中で彼等の荷物を持っていた。
 今思えば、それが悪かったのか?
 あからさまに守られている存在。しかも一人だけ種族が違う。

 次に気がついたとき、俺は一人、倒れていた。石造りの冷たい床に頬をつけ、誰もいない空間で。
 あいつらは?
 と首を巡らせて身を起こし、そこが一本道になっていることに気付く。
 訳もわからず、のろのろと、歩いた。なんだか頭がはっきりしない。まるで二日酔いのような、そんな重さだ。
 壁に手をつき、ふらつく身体で歩いていると、前方からも足音が聞こえた。
 身構えたけれど、その足音もどこか鈍い。
 恐る恐る近付くそれに、互いに目を見開いたのは仕方ない。でも俺はほっとしていた。これならすぐに他の奴らと合流できるだろうと。
 前方から現れた勇者アレスの姿は、今の俺にとって救いだった。
 なのに彼は俺を見た途端、驚いたような顔つきで後退り、地に片膝をついたのだ。
 怪我をしているのかと驚いた俺は、ほとんど無意識に駆け寄った。慌てて伸ばした手を、ぱしんと払いのけられる。

「近付くな」

 低い声で言われ、一瞬で心配した自分を呪う。
 確かにこいつはいつでも、俺を蔑むような目で見ていたし、話しかけても無視していた男だ。
 助けられたことなど一度としてなかったし、同行中もこいつの前だと俺はいつもオブジェかなにかになったような気分だった。
 まあいい。勇者のことだ。一人でどうにかするだろう。
 迷いもなくそう思って、俺はそこから分かれ道になっていることに気付いてそちらに向かった。

 そうして歩き出した俺は、数刻遅れて足音が後ろから続いていることに気付いてため息をついた。
 どうせ一本道だ。アレスの様子がおかしいから、早いところ他と合流したい。
 みんな無事なのか? そう思ったところで、一気に空間がぐにゃりと動いて固まった。
 みるみるうちに狭い道が広がり、壁が伸び、天井が低くなる。
 罠、だ。
 気付いたときにはもう手遅れ。
 背後の勇者の吐息を聞きながら、冒頭に戻るってわけ。

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