雑用係βとα勇者にΩの呪いがかかった話

星井

文字の大きさ
3 / 30

第三話

「なんだよこれ……、おい勇者、一体何が起きた?」

 あっという間に一つの部屋になったようなそこを見渡しながら背後の勇者に話しかける。
 なぜなら俺はこれまでの経緯の記憶が一切無い。
 なぜ一人倒れていたのかもわからないし、他の奴らがいないのかもわからない。
 苦しげに息をつくアレスの様子が気にならないわけではないが、こいつを介抱する義務はないのでそのままにする。
 俯いた勇者アレスは、俺の言葉にも無反応だ。
 ハアハアと荒い息が聞こえる。拳を地面について、なにかに耐えているような姿だ。
 毒でも食らったのか。そんな戦闘が、俺のいない間にあったのか?

「……お前は、攫われたんだ……」

 呟くような低い声がして俺は腕組みをしながら壁に背を預けてアレスを見下ろした。
 俺が、攫われた?

「あいつは……俺たちの間を縫って、お前だけを……っ」
「あいだをぬって……?」

 おいおいおい、まてまてまて。
 それって……それって、とんでもなくないか。
 こいつの口振りから、相手が黒王だとはすぐに理解した。まさか追っていた相手がこんなダンジョンに現れるとは驚きだ。
 その上、αだらけの勇者一行の警戒や魔法を躱して、俺を攫っただなんて……。

「……桁違いの相手じゃないか」

 さすがの俺も腕組みを外して立ち尽くした。
 六人の世界最高の戦士達が集まっている一行なのだ。その彼等が歯が立たぬ相手など、一体誰が打ち負かせる。
 青ざめる俺をよそに、アレスは続けた。

「お前こそ、いったいなにをされた……」
「なにも……、ていうか覚えてない」

 確かに起き上がった時は妙な怠さがあったが、今はそうでもない。
 気絶した瞬間に頭でも打ったんだろう。思わず両手で自分の身体をあちこち触って確認するが、痛むところはないし、傷もなさそうだ。
 一体、黒王はなぜ俺を?

「何もされてないだと……、Ωくせえフェロモンぶちまけながら、何もされてないだと……?」
「……は?」

 言われた言葉が理解できず、首を傾げた俺にアレスがゆっくりを顔を上げて視線だけで人を殺しそうな睨みで、俺に言った。

「Ωくせえんだよお前。何を仕込まれた」

 ごくり、と喉を鳴らして俺は理由もなく視線を彷徨わせた。
 アレスが立ち上がる。眉間に皺を寄せながら、ふらつく体で俺から距離を取るように後方へ下がった。

「攫われた瞬間に、全員がお前を追ったせいで見事バラバラになった。元々勝手な奴等だからな、向こうも予想通りだっただろう」

 いや、でもお前は俺を追わなかったせいで一人になったんじゃないのか。
 そうつっこもうと思ったけど、殺されかねない勢いなので黙っておく。
 それにしても。
 そうか、みんな俺を追ってくれたのか。まあ大方、大事な荷物持ってるし下僕みたいなもんだしそういった理由だろうけど。
 それでも。ちょっと、なんか……うれしい。
 今までの俺の苦労が認められたみたいで……。

「なら早いところここを出よう。あいつらを探しに行かないと」

 とはいえ俺は魔法も使えぬ一般人βだ。この世界のαとΩに顎で使われるような、種族。
 見たところ俺にはこの状態から抜け出すことなどできそうにもないし太刀打ちできる方法もない。
 アレスよ、勇者ならどうにかしろ。
 お前の魔法なら一発だろ。
 そう暗に伝えれば、アレスは更に眉間に皺を寄せ、人殺しの目つきのまま続けた。

「ここに来る前に、奴が現れた」
「奴って……黒王のことか」
「あいつが……、βに仕込んだフェロモンを鎮めないとこのダンジョンは閉じられたままだと、そう言ってきた」

 無論アレスはその時、問答無用で魔法を放ったが、気付いたときには奴の姿は消えていた、と。
 アレスはそう言った。
 内容が全然頭に入ってこないけど。

「……は? ふぇろもん??」
「Ωみたいなフェロモンが、お前からずっとしてる。強烈だ、くせえし……クソっ、最悪だ」
「Ω臭い……? まて、俺はβだぞ、そんなはずは……っ」
「だから言っただろ!」

 アレスが自身の腕で鼻元を抑えながら叫んだ。
 怒号に近いそれにビク、と身体が跳ねる。
 αの頂点、勇者の迫力は一般人βである俺には強烈すぎるほどだ。

「お前は気絶してたんだ! 恐らくその時に奴になにかをされた。Ωのフェロモンを醸し出すβなど、聞いたことも見たこともない! 奴は俺たちの弱点を突くために態々お前を攫って……」
「……Ωだって?」

 あの、発情期に子を孕む、Ωだって……?
 そんな馬鹿な。
 思わず俺は自分の匂いを確認した。フェロモンの匂いだとかなんだとか聞いていたけど、すんすん鼻を動かしても、欠片も匂わない。腕や脇は、むしろほんの少し汗臭い嗅ぎ慣れた自分のそれだ。
 まてよ。もしΩになったらαの匂いもわかるはずだ。
 アレスを見る。
 距離があるせいか匂いはしない。
 もっと嗅ごうと一歩踏み出す。だが、次の瞬間アレスが物凄い形相で俺に言った。

「来るな! 来るなよ、くさい匂い垂れ流して、これ以上俺に近付くな!」
「くさい、って」

 あまりの物言いにカっと頭に血が上ったが、ふとアレスの股間部分に目をやって固まった。
 不自然に膨らんだ、その中心。服の上からでも、そこが途轍もなく盛り上がっているのがわかる。
 まさか。
 まさかまさか。

「発情期(ラット)……」

 αは、Ωのフェロモンに当てられると発情期を引き起こす。そうなれば所構わず誰であろうと性交のことしか考えられず、発情期が終わるまで、彼等はそれを実行するのだ。
 どんなαでも例外なく。
感想 4

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

落ちこぼれオオカミ、種族違いのため群れを抜けます

椿
BL
とあるオオカミ獣人の村で、いつも虐げられている落ちこぼれの受けが村を出ようと決意したら、村をあげての一大緊急会議が開催される話。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?